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一章 純白の鬼

16話

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 ワイバーンとの戦闘が終わり、脅威が去ったことが分かると、隠れていた人々が集まり始める。
 凄まじいブレスと巨体に壊された家屋は、決して少なくない。もともと小さな村だったことを考えても、今回の騒動で村の内部は甚大な被害を被った。
 それでも、村人たちが自主避難を行ったこと。そして村に滞在していた冒険者達が懸命に戦ったこと。様々な努力が重なって、被害は最小限に抑えられていた。
 どうにか倒壊を免れた酒場の中からは、見知った顔が駆け出してきた。受付嬢のパティアだ。
 彼女は顔に煤を付けながら、彼女は涙目で駆け付けた。
 
「おふたりとも~!!」

「パティア! 無事だったか、良かった」

「お陰でどうにか無事でした! 本当にありがとうございます! おふたりはこの村の英雄です!」

 半分泣きながら深々と頭を下げるパティア。
 気付けば村長も傍まで来ており、俺の手をしっかりと握り締めて、頭を下げてきた。

「私からも、お礼を申し上げます。 この村を守っていただき、感謝の言葉もございません。 お二方がこの村に来たのは、神々のお導きに違いありません」

「いや、俺達はただ……。」

 周囲にいた村人たちや冒険者達も拍手や歓声を送ってくれている。
 そしてその視線は一様に村のあちこちにあるワイバーンの死体へ向けられていた。
 最上級の魔物であるワイバーンをアイアン級の冒険者二人が討伐することは、まずありえない。
 なおかつ四頭同時ともなると、英雄譚でもありえない出来事である。
 下手をするとすぐにでも妙な噂は広まってしまうかもしれないが、村人たちを助けられたことに比べれば、変な噂が立つ程度、なんてことはない。

 しかし、素直に喜んでいいのか、迷っていた。
 これは、いわばヨミの力の賜物だ。間接的に言えば、ヨミによってこの村は救われたことになる。
 素直に感謝を受け入れらずにいると、ビャクヤに背中を叩かれる。

「ファルクス! ここは胸を張って、感謝を受け入れるべきだ。 お主はこれを求めていたのだろう?」

 そういわれて、顔を上げる。
 燃え盛る家々に、抉られた大地。被害は決して小さくはないし、復興にも時間を要するだろう。
 しかしそれでも村人たちは生きている。生きているのだ。

「そう、だな。 完全な形ではないけれど。 これが、俺の見たかった光景なんだ」

 完全には納得していない。この光景を自分の力で成し遂げるため、俺は冒険者を目指したのだ。悔しさも残ってはいる。
 しかし村人たちの笑顔や安堵は、本物だ。誰の力だろうと、この村が救われたことに変わりはない。
 そう思うと、少しだけあの冒険者に近づけた気がした。
 だが安堵に見舞われると同時に、疑念もわいてくる。
 周囲を見渡しても、犠牲になったのは冒険者が多い。低い階級だというのに、村を守ろうと善処したのだろう。
 だが、その中にこの周囲で唯一のシルバー級の冒険者パーティ、ハーケインの姿は見て取れない。

「バルロ達はどこに行ったんだ? シルバー級の冒険者が居れば、もっと被害を抑えられたはずだが」

「あの連中のことだ。 飛竜の姿を見て逃げ出したに違いない!」

 なくはない話だ。本来ならばワイバーンはゴールド級以上のパーティが集まり討伐する相手だ。実力不足をさとって身を隠したとしても不思議ではない。。
 だが、憤慨するビャクヤの言葉に、パティアは小さく首を振った。

「それが、分からないんです。 他の冒険者達に聞いても、昨日の朝から見かけていないらしくて」

「つまり、昨日俺達がダンジョンの中で出会ったのを最後に、誰も見ていないということか」

「ダンジョンの中で魔物にやられたのではないか?」

「その可能性は低いだろうな。 例え油断していたとしても、シルバー級の冒険者が四人も同時にやられることはありえない。 それも、ハーケインはあのダンジョンに入るのは初めてじゃないんだよな?」

「はい。 すでに何回も調査に向かっています。 その割には調査は進んでいない様子でしたが」

 シルバー級の冒険者が、何度も潜っているダンジョンで行方不明になるとは考えにくい。
 ギルドの定める冒険者の階級は、実績を伴わなければ上下しない。つまり一定の成果を上げてるからこそ、性格はどうあれバルロ達はシルバー級の冒険者なのだ。
 もちろん冒険者に絶対はない。不慮の事故で命を落とすことはままある。しかしそれが四人同時ともなれば、話は変わってくるだろう。 

 シルバー級の冒険者のパーティが突如として消える。加えてこの不自然なワイバーンの襲撃。明らかに常軌を逸したことが連続して起こっている。
 流石に再びワイバーンが襲ってくるという事は無いだろうが、まだ完全にこの村が安全とは言いきれない。この現象の原因を突き止めるまでは。

「調べてみたいことがあるんだが、付き合ってくれるか?」

「もちろん、付き合うぞ! 我輩はお主の、相棒だからな!」

 ためらいなく、ビャクヤはうなずいた。
 これだけの危険な目にあったというのに、彼女に迷いは無い。
 それだけ俺を信用してくれているのだと、内心では深く感謝していた。
 心強い、真の仲間と呼べる相手に出会った。
 そう感じることのできる、一日だった。
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