愛玩動物(ペット)な人生では終わりません! ~ネコによるネコのためのネコ生改善計画~

蟻と猿の糸つむぎ

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28皿目:直往邁進

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 ――試練の時間である。



 ここで自分がどう振る舞うかで……今後の未来が変わる……は言い過ぎかもしれないが、ここは耐えねばらない時である。

 不知火はごくりと喉を鳴らし、震えだしそうになる体をどうにか抑えながら…………必死に、頭を撫でくり回されていた。


「にゃ、ニャァア――――ン!」


 ……ふふふふ。
 可愛かろう。可愛かろう。


 実家の飼い猫直伝の上目遣いに甘え声である。
 いくらそれをしているのがいい大人な男だとしても…………可愛くない、訳がない。


 ……と、思いたい、不知火であった。




 ――今朝のこと。

 アルジが荷車に肉の塊を山ほど積んでいるのを見て、「ああ、今日は買い出しの日か……」と呑気に思った。

 荷車を押していく時、いつも行きは肉の塊が積まれていて、帰りは果物や野菜、布類や他の細々した物資が積まれて戻ってくる。

 どこかは知らないが、恐らく以前見た事のある集落かなにかで肉を売り、それを元手に必要な物を買ってきているのだろう。

 当然、買い出しに不知火はついて行かないので、この日ものんびりとアルジの腰布拾いをしたりテーブルを拭いてみたりとちょこちょこ動いていたのだが……今日はなぜか、そこに積まれた木箱に自分用の毛布やクッションが敷き詰められていくのを見て…………嫌な予感がした。


 ――思い出すのは、不知火がここに来て怪我に倒れ、目覚めた日の朝の記憶である。


 突然、無理やり入れられた木箱の中……鳴いても叩いても開けてもらえない蓋、地響きを轟かせる化け物達……木箱からヒョイと取り出された時の恐怖、ほとばしる自分の黄色い小便…………。


 ーーあ、ダメだ。木箱でお出かけ、ダメ。絶対。


「……あー、アルジ~~。俺もお出かけすんの?どこ行くの?何するの?そこ入んなきゃダメ?入んないからね絶対。……怖いの、嫌だな~~~??」


 ――ァァ、ォグゴグォゴルア……オオァゥォゴゴォゥォオガゴァォ


 何か宥めるように頭を撫でられたが……いや、入んないよ?


 さすがに不知火だって、化け物の巨大なサイズ感や立てる地響きにもそろそろ慣れてきたのだから、簡単にあんな失態を晒しはしないだろう。
 しないだろう……が。それでも、木箱に閉じ込められ、急に開けられ、知らない化け物にヒョイと摘ままれた日には……いいや、漏らさない。絶対漏らさないけども。


「…………」

 不知火はうーーんと眉を寄せ、アルジの顔を見上げた。

 連れて行こうとしているからには、今日の外出は不知火も行った方が良い外出なのだろう。


 ーー正直、不知火も、外の世界には興味がある。


 不知火の世界はこの家とその周辺のみ。
 さすがにずっと引きこもり生活では、気分だってくさくさしてくる。

 そろそろ外の世界を知っても良いだろう。そう思っていたところだったのだ。


 しかし、ここは化け物の世界。
 いくら自分に超過保護で優しいアルジだって、他の化け物全てから不知火を守り通すことなど…………


「…………あ、そうだ!」


 不知火は良い事を思いつき、タカタカと部屋の奥へ走って行った。

 そして寝床の横、本棚の下に積まれた本の山の中から、あるものを引っ張り出してきた。

 昨日。本棚から苦労して調達しておいた、不知火でも読めそうな本の数々……その中の1つ。動物図鑑である。

「アルジ、これで行こう!これならいける!お前さえいれば、何とかなる!」


 ペラペラとページをめくり、目的の動物を探し出して、不知火はアルジに飛びついた。


 図鑑に載っていたのは、カンガルーに似た動物…………名前は知らないが、肢が異様に大きく凶悪そうな顔をしているので、断じて普通のカンガルーではない、そっくりな何かである。


 子どもの頃、カンガルーに憧れて母親のエプロンに入りたいと思った人、いないだろうか。
 昔の抱っこ紐を見つけてきて、母親に「だっこして~~~」といい年して強請った小学生はいないだろうか。


 普通は、断られる。
 ましてやいい年した成人男性、普通に引かれるレベルである。


 しかし今、不知火はペット。
 ネコがエプロンの袋に入りたがったら……飼い主はきっと、歓喜し舞い上がるレベルで大歓迎する。
 アルジだってきっと、大歓迎してくれる……はず、である。


「問題は、それをこのアルジ様にどうやって伝えるかなんだよな……なあ、アルジ」


 図鑑を手のひらでベシベシと叩き、アルジの腹の毛を引っ張って、頭をグリグリと擦りつける。
 当然、アルジの腹に袋はないので、抱っこ紐でもエプロンでも、つけてもらわなければいけないのだが……いや、エプロンなんてないか。……あれ、抱っこ紐なんて、さらに持ってないか?


「ああー、なんか、袋とかでもいいや!ここに入れるようにしてくれよ、アルジ!ここにね、この子どもみたいに入りたいの。お願いアルジ!ニャアアァァ~~~ン!!」

 一生懸命、繰り返し頭を擦りつけ、「なんでお前、袋ついてないの?」レベルで理不尽に腹を引っ張ったり揺すったりを繰り返す。
 最初はそんな不知火にも構わず、どうにか宥めすかしてヒョーイと木箱に放り入れようとしていたアルジだったが……足を突っぱねてそれは断固拒否し、めげずに一生懸命、図鑑を叩いて腹を攻撃し続けた。


 ーーオゥグァルウォゥゴ、グゥア


 その甲斐あって、アルジはついに不知火の意図を察したようである。
 不知火の頭を撫でて抱き上げ、寝室からごわごわした素材でできた大きな袋を取り出してきてくれた。


「よしよし!伝わった伝わった」


 麻の袋か何かだろう、見た目チクチクして入り心地悪そうなそこに、フワフワした薄い布を入れてもらって、中へと納まる。
 アルジがそれを首から下げると、ふわっとした浮遊感の後、視界が高くなり、不知火の背中側の布がアルジの胸部から腹部に当たって安定した。

 まさに図鑑そのまま、カンガルーの子どものようになった不知火は、背中に当たるアルジの温もりと安心感に満足しながら、家を出発したのだった。





 さっきから不知火の頭を無遠慮に撫でまわしているのは、母親らしき化け物に抱っこされた、子どもと思われる小さな化け物である。
 小さいといっても不知火よりは大きいし、アルジ達同様に体格もムキムキマッチョなのだが……やっている事は本当に無邪気で、どう見ても幼い子どもであった。

 ……なので、多少力加減ができずに首がグリングリン曲がっても、目と鼻の先でガオオだかゴゴオだか叫ばれても、大人の不知火。もちろん怒ったりはしない。

 相手は子ども……そして恐らく、アルジの家族か何かなんだろう、親しい関係の間柄。


 ――アルジの家に居座り続けたい身としては、これはもう頑張って接待して気に入られなければならない、大事なお客様なのである。



「う……ううう、にゃおーーん……まだか…………もうそろそろ……いいかニャ?グリグリ……いいだろ?ゴシゴシ……もう飽きろよ……ニャアオーウ!」


 しっかりサービスしてるのに、お客様はまだまだ満足されないようだ。

 不知火の頭を撫で繰り回しながら、更には不知火を抱えるアルジの腕を引き剥がそうとしたり、不知火の脇に手を入れて引っこ抜こうとしたり……どうにか不知火を奪い取ろうと躍起になっている。


 ――ボガアアァ、オゥグァォグォ!

 ――グゥグ、ググアァゴグゴグゥアゴ

 ――ガガガッ、グゥオ、ォグァォウグググルンォゥグガォガ


 小さい化け物、アルジ、女性の化け物が時折ゴァンゴァンと笑いを交えながら……多分、談笑している。
 その間も不知火はグリグリさわさわと撫で回され、引っ張られ……いい加減ぐったりしてきた頃、ようやく、アルジが小さい子どもの手から逃れて家の奥に歩いて行ってくれた。


 ――グゥア、グォアァォン?


「大丈夫じゃない。ぜんっぜん大丈夫じゃなかったよ。でも、こいつらお前の家族?だろ?俺を飼っちゃダメって言われちゃ困るだろ?だから、しっかりサービスしてやったよ!」


 えらいえらいとばかりに頭を撫でられ、不知火はふんすと鼻を鳴らした。



 アルジの家族(?)の家の2階。連れて行かれたのは、細々とした物の散乱した、アルジの家でいう寝室くらいの大きさの部屋だった。


 子どもの化け物がタタタタと進み出て、あれやこれやと物を放り投げながら何事か地響き語を繰り返している。

 最初訳がわからず見ていた不知火だったが、子どもの手に薄い本らしき物が握られたのを見て、「おおおお!」と身を乗り出した。


 ――グルウォゥゴ?グゥア


「うんうん、アルジ!あれ絵本だよな?あれ見たい!アルジ!」
  

 グイグイ身を乗り出す不知火を床にそっと下ろしてくれたアルジは、不知火が子どもの化け物に駆け寄っていくと、何も言わずにのっそりと不知火の後ろに続いた。

 ――グ?オゥガグゴォゥゴ?グーア

 ーーゴォガウォグァ。ウゥゥアゴ、ゥォル

「うんうん、見せて、それ見せてちびっこ君!」

 子どもの化け物は、不知火に比べると断然ムキムキでマッチョではあるものの、並んで立っても頭ひとつ分大きいだけで、他の化け物に比べて断然圧迫感が少ない。

 だからこそ不知火から躊躇いなく近寄って行けたのだが、近づいたら近づいたで、ちびっこは何か甲高い地響き語……いや、奇声か何かを上げ、不知火に飛び掛かってきた。


 ――ゥォル!ゴゥゥァゥオ

 ――グルゴ。ォォアガル、ボガアアァゥルグ


 後ろにいたアルジがひょいとちびっこを回収してくれたので事なきを得、不知火は今度は慎重に、再びちびっこに近づいた。


「これ絵本だろ?何の絵本?読んでくれねぇかなぁ」


 ――オゥガウォゥ、グーア?ォォオ!


 グイグイと本を引っ張ってちびっこを見つめれば、ちびっこはキラキラした目で不知火を見返し、手を取って並んで座らせ、本を開いてくれた。


「あれ?化け物が服着てる……腰布以上の文化、あるんだ」


 変なところで途切れたり、つっかえたりしているのは、ちびっこがまだ文字を覚えきっていないからだろう。

 しかし内容は、絵を見ていれば分かる。
 川を流されていた化け物の子どもが大人の化け物に拾われ、旅支度をして海に乗り出し、巨大な何か恐ろしい顔をした異形と闘って打ち倒して、一件落着……といったような、よくある冒険譚のようだ。

 ミミズののたくったような字は相変わらず解読不能だが、絵を見ればどんな話の流れなのかが予想しやすく……これは、どう見ても文字の勉強に最適な本である。


 不知火は、ちびっこのたどたどしい絵本の読み聞かせに辛抱強く付き合い…………

 ちびっこが言葉を途切れさせるタイミングを見計らって、「にゃあ!にゃぁーーーーーあああん!!」と精一杯のカワイイを振りまいたのだった。
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