136 / 151
第6章 火薬庫に雨傘を
第20話 位置について
しおりを挟む
東の空が明るむ頃、メラン王国軍と冒険者たちの集まったこの荒野には、俄かに騒々しさが立ち上がる。
「おーい。お前ら、よく眠れたか?」
イリーナがテントの入り口から顔を出す。ここは竜頭龍尾の男子用休眠テント。僕はレナのパーティに所属しているが、今回は彼らと共闘するということで一緒に寝かせてもらっていた。
「ね、眠れるわけないじゃないですか。今日はいよいよ開戦ですよ?もう緊張して全然寝れませんでしたよ……」
そう言ってもぞもぞと立ち上がったのはボブだ。何を言うか、僕は彼のいびきにかなり苦しめられたというのに。
「それは困るな。戦争だからこそ、十分睡眠を取った人にしか背中は預けられないんだけど?」
「いや、それはそうなんすけど……」
あたふたする彼。
「はははっ。安心しろ」
その後ろから白髪の大男、ヴェルトが話しかける。
「お前さん、自分でも気づかないうちに十分寝とったぞ?いびきで他の者の眠りを邪魔しながらな」
「え!まじすか?そ、それはすみません……」
「大丈夫だよ。戦いに支障が出るほどじゃないから」
僕もそう言って彼の肩を叩くと、テントから出て大きく伸びをした。他の冒険者は既に武器の手入れなどをして、日の出の時を待っている。
「それは安心した。さて、見ての通り他からは少し遅れてるからね。さっさと準備して持ち場につくよ」
そう言うとイリーナはそのままテントの中に入っていき。
「痛って!!」「わ!!す、すみませんリーダー!!すぐ起きます……うぅ」
未だ眠っている男たちを文字通り叩き起こしていった。
準備を終えて持ち場へと向かう。後ろからララが駆けてきて隣に並ぶ。
「おはよー、テオン。痛てててて」
彼女は頭を押さえていた。日が昇る前に起きるなんて村では当たり前だったはずなのに、イリーナに叩かれるほど寝坊するとは。夜更かしでもしたのだろうか。
「私たちは中衛だよね。ここら辺?」
ララが立ち止まる。そこには巨大な剣が突き立てられていた。
「大きな剣……僕らの背くらいあるね」
「本当。これを振り回せる人がいるとしたら……」
「ヴェルト、しかいないだろうね。力的にも身長的にも」
勝手な憶測で決めつけていると……。
「その通りじゃ。よく分かったの」
当の本人がやって来た。
「この剣……本当に剣なんですか?」
「ははは。グレートソードは初めて見るか?これはその中でも特に大きくて重い逸品でな。馬に乗った敵をそのままぶった斬れるんじゃ」
「へえ……そんなものを振り回せるなんて凄いですね」
「老兵の意地じゃな。まあ今回は中衛。こっちより魔法を使う方が多そうだがね。振ってみるか?」
彼はさくっと剣を引き抜き、その柄を僕に見せる。よく見れば、この剣を目印にする中衛の面々は、既に辺りに集まっていた。
ずしっ。
「お、重い……。な、何とか持てる程度です」
僕は思いっきり振り上げてみる。身体がみしみしと悲鳴を上げるようだ。力のステータスも随分伸びたつもりだったのだが、まだまだ上があるということだ。
「ははは。初めて持ってそれだけ振れるとは上出来じゃ。わしの後継者にでもなるか?使い慣れればシステムの補助もついて、楽に戦えるようになるぞ?」
「いや、遠慮しておくよ。ちょっとこれを持って走ったりするのは無理そうだ」
振り上げた剣をそーっと下ろしていく。それが一番きつかった。ヴェルトに剣を返す頃には、肩で息をするほどになっていた。
「あらあら、開戦前に力使い果たしたりしないでよ?」
「はあ、大丈夫です。少し落ち着けば……うわっ!」
目を上げると、大きな胸が飛び込んできた。豊満を包み込むぴったりとした黒いコスチュームは、いつも通りおへそを出して凹凸をはっきりと魅せている。
「あ、レン姉さん!今日は一段とセクシーな衣装ですね!!テオン、あんまり見とれてたら怒るよ?」
ララが軽く僕の頭を突く。頷いて視線を落とすと、深いスリットの入ったタイトなロングスカートにまたもや目を奪われる。
「あ!テオンったらまた!!」
「ち、違うって……あれ?その武器は……?」
そのスリットのすぐ横。彼女の腰にぶら下がった得物は、どこかで見たことのあるものだった。
「うふふ。これね。刀って言うんだけど知ってるかしら」
軽く沿った刀身。長剣よりも長くて細い特徴的な形。何より芸術性を重視した鞘は見覚えのあるものだぅた。
「私、見たことある気がします」
「そんなわけないわよ。刀は今やとても珍しいのよ?作れる人、刀匠がもう世界に三人しかいないの」
「ちなみにその刀を打ったのは?」
「えーと、確かジグさんだったかな」
「ジグ!?」
それは僕の父の名だ。
「あら、お知り合いだった?」
「お知り合いっていうか、テオンのお父さんです」
「ええっ!!あなた、ジグさんの息子さんだったの!!これはいいこと聞いちゃったわ。本気で誘惑しちゃおうかしら」
レンはスカートのスリットにそっと細長い指を沿わせ、ちらりと持ち上げるような仕種をする。
「あ、ダメ!!レン姉さん、ダメです!!」
ララが焦って僕を突き飛ばす。
「あらあら?私のせいで開戦前に怪我させちゃうわね。私はもう行くわ。ごめんね、ララちゃん」
レンは前衛だ。あの刀と鞭による波状攻撃は、敵の攻撃を悉く打ち落とせるのだそうだ。
「それにしてもジグさんってそんなに凄い鍛冶師さんだったんだね。知らなかった」
感心するララ。僕も少しむず痒い気がした。
「なあベラ~!出来るだけ近くにいてけろ~」
突如戦場に激しい訛りが聞こえる。
「情けないこと言ってんじゃないよ。ウリ」
ウリ・メロンズ。昨日の作戦会議で初めて挨拶した、人見知りの田舎娘だ。出身はメロン村。つまりそのファミリーネームは僕らと同じように村に因んだものだ。
そして彼女を叱咤激励しているのがベラ・オルニオ。アレクトリデウスの医師だ。オルニオの医師と言えば伝説級の存在だと聞いたことがあるが、まさかこんなところで冒険者として生活していたとは。
「だっておら、中衛だべ?知らん人二人もいる中衛だべ?そんなのおらには無理だぁよ~」
「あんた、本人たちを前にしてよくそんなこと言えたわね」
「え!?」
ウリが振り返る。そばかすに赤茶の髪、黄色いTシャツにジーンズのオーバーオールと、とても戦場とは思えない牧歌的な姿。あれであの服は高い防御を誇る鎧なのだそうだ。
「わっ!!あんたらいつからそこに……。いや、無理というのは別に嫌とかそういうのじゃなくて、おら、苦手で、あの、あた、新しい人が……うぎゃあ!!」
「何言ってんの!!テオンさんララさん、すみません。昨日も言った通りこの子は極度の人見知りなだけで、本当に悪い人ではないんです」
悪い人でないのは分かるのだが、この子と連携とか大丈夫だろうか。
「ウリ、少しずつ慣れていけば良いからの。さて、みんなもう準備は出来ておるか?」
「あ、あたしは後衛に戻るわね。ウリ、ちゃんとみんなと仲良くするのよ?迷惑かけたら命が危なくなるんだからね?」
そう言ってベラはイリーナの元へと走っていった。
「わ、分かっただよ~。うぅ」
口を尖らせる彼女に、ララがにこっと笑って近づく。
「ウリちゃん、私たち怖くないからね。仲良くしてね!」
「ラ、ララさん……。よ、よ、よ、よろしくだべ」
ひきつった笑顔が不安を募らせた。
「ははは。そろそろ日が昇るからな。気を引き締めるのじゃぞ!!」
ヴェルトの言葉通り、王都の中心に聳える巨大な王城と、王都ギルドの象徴『メラン・ファミリア』の塔の間、真っ直ぐに光が差す。
遂に夜が明けた。日の出、開戦だ。ぐっと空気が締まる。もうこれからは何が起こってもおかしくない。戦争が、始まったのだ。
ぷしゅー。そのとき、何処からともなく霧が出始めた。
「な、何だ!?」「気を付けろ!!毒かもしれないぞ!!」
俄かに緊張感が走る。それでもパニックにならない辺りは、皆歴戦の冒険者なのだと感じさせる。霧は僕らの陣取っている場所より少し前、国境の柵のすぐ近くから立ち上っていた。
やがて。
ぴかっ。どこからか光が漏れたかと思うと、突如霧の中に巨大な人の姿が映し出された。
「やあ」
同時に響き渡る声。それは前方の至るところから聞こえた気がした。霧の中の巨人の口が動いている。あれが喋っているのだろうか?
「驚いているね、メラン王国の諸君。安心したまえ、私は巨人などではない。これは空中に映像を投影しているだけだ、といって意味が分かるかは知らぬが、これは宣戦布告のために映し出した映像だ」
巨人……もとい映像の男は淡々とそう話す。オレンジがかった髪に同色のあごひげ。プレートアーマーを着て面頬を上げている。
「私の名前はアウルム帝国将軍ベルトルト・シュレジンガー。此度の戦争におけるアウルム帝国軍第一部隊の指揮官である。お前たちが狙うバルトの土地を守るため、今からお前たちを殲滅する。以上!!」
ベルトルトと名乗った彼は、それだけ一方的に言い放つと、すっと霧の中に消えた。
「な、な、な、今のはなんだべ~!!おっかない巨人が出たべ~!!あんなのに勝てるわけないよぉ~」
「ウリちゃん大丈夫。今のはまやかしだよ。あの霧の中に人の気配はない。あんな巨人はいないからね」
ララがウリを慰めようとするが、彼女はおろおろとするばかりだ。
やがて、国境の向こうに灰色の影が見える。あれは……まさかゴーレムの軍勢?
「ほう。やはりゴーレムを出して来たか。自分の力で戦えないとは、全く帝国の連中は腑抜けばかりじゃのう。ん?アスト、どうしたんじゃ?」
前衛を率いているはずのアストが、こっちまで走ってきた。
「爺さん、ちょっとテオンを借りようと思ってな。いいか?」
「何?アスト」
「度肝を抜かれたままじゃ士気に関わるからな。お前、何か派手にやってくれよ」
唐突な雑な振り。だが確かにそうだ。
「分かった。任せてよ」
僕は右の手をぎゅっと握り締め、にやりとする。
「僕に出来る派手な一発、ぶっ放してみるよ!!」
「おーい。お前ら、よく眠れたか?」
イリーナがテントの入り口から顔を出す。ここは竜頭龍尾の男子用休眠テント。僕はレナのパーティに所属しているが、今回は彼らと共闘するということで一緒に寝かせてもらっていた。
「ね、眠れるわけないじゃないですか。今日はいよいよ開戦ですよ?もう緊張して全然寝れませんでしたよ……」
そう言ってもぞもぞと立ち上がったのはボブだ。何を言うか、僕は彼のいびきにかなり苦しめられたというのに。
「それは困るな。戦争だからこそ、十分睡眠を取った人にしか背中は預けられないんだけど?」
「いや、それはそうなんすけど……」
あたふたする彼。
「はははっ。安心しろ」
その後ろから白髪の大男、ヴェルトが話しかける。
「お前さん、自分でも気づかないうちに十分寝とったぞ?いびきで他の者の眠りを邪魔しながらな」
「え!まじすか?そ、それはすみません……」
「大丈夫だよ。戦いに支障が出るほどじゃないから」
僕もそう言って彼の肩を叩くと、テントから出て大きく伸びをした。他の冒険者は既に武器の手入れなどをして、日の出の時を待っている。
「それは安心した。さて、見ての通り他からは少し遅れてるからね。さっさと準備して持ち場につくよ」
そう言うとイリーナはそのままテントの中に入っていき。
「痛って!!」「わ!!す、すみませんリーダー!!すぐ起きます……うぅ」
未だ眠っている男たちを文字通り叩き起こしていった。
準備を終えて持ち場へと向かう。後ろからララが駆けてきて隣に並ぶ。
「おはよー、テオン。痛てててて」
彼女は頭を押さえていた。日が昇る前に起きるなんて村では当たり前だったはずなのに、イリーナに叩かれるほど寝坊するとは。夜更かしでもしたのだろうか。
「私たちは中衛だよね。ここら辺?」
ララが立ち止まる。そこには巨大な剣が突き立てられていた。
「大きな剣……僕らの背くらいあるね」
「本当。これを振り回せる人がいるとしたら……」
「ヴェルト、しかいないだろうね。力的にも身長的にも」
勝手な憶測で決めつけていると……。
「その通りじゃ。よく分かったの」
当の本人がやって来た。
「この剣……本当に剣なんですか?」
「ははは。グレートソードは初めて見るか?これはその中でも特に大きくて重い逸品でな。馬に乗った敵をそのままぶった斬れるんじゃ」
「へえ……そんなものを振り回せるなんて凄いですね」
「老兵の意地じゃな。まあ今回は中衛。こっちより魔法を使う方が多そうだがね。振ってみるか?」
彼はさくっと剣を引き抜き、その柄を僕に見せる。よく見れば、この剣を目印にする中衛の面々は、既に辺りに集まっていた。
ずしっ。
「お、重い……。な、何とか持てる程度です」
僕は思いっきり振り上げてみる。身体がみしみしと悲鳴を上げるようだ。力のステータスも随分伸びたつもりだったのだが、まだまだ上があるということだ。
「ははは。初めて持ってそれだけ振れるとは上出来じゃ。わしの後継者にでもなるか?使い慣れればシステムの補助もついて、楽に戦えるようになるぞ?」
「いや、遠慮しておくよ。ちょっとこれを持って走ったりするのは無理そうだ」
振り上げた剣をそーっと下ろしていく。それが一番きつかった。ヴェルトに剣を返す頃には、肩で息をするほどになっていた。
「あらあら、開戦前に力使い果たしたりしないでよ?」
「はあ、大丈夫です。少し落ち着けば……うわっ!」
目を上げると、大きな胸が飛び込んできた。豊満を包み込むぴったりとした黒いコスチュームは、いつも通りおへそを出して凹凸をはっきりと魅せている。
「あ、レン姉さん!今日は一段とセクシーな衣装ですね!!テオン、あんまり見とれてたら怒るよ?」
ララが軽く僕の頭を突く。頷いて視線を落とすと、深いスリットの入ったタイトなロングスカートにまたもや目を奪われる。
「あ!テオンったらまた!!」
「ち、違うって……あれ?その武器は……?」
そのスリットのすぐ横。彼女の腰にぶら下がった得物は、どこかで見たことのあるものだった。
「うふふ。これね。刀って言うんだけど知ってるかしら」
軽く沿った刀身。長剣よりも長くて細い特徴的な形。何より芸術性を重視した鞘は見覚えのあるものだぅた。
「私、見たことある気がします」
「そんなわけないわよ。刀は今やとても珍しいのよ?作れる人、刀匠がもう世界に三人しかいないの」
「ちなみにその刀を打ったのは?」
「えーと、確かジグさんだったかな」
「ジグ!?」
それは僕の父の名だ。
「あら、お知り合いだった?」
「お知り合いっていうか、テオンのお父さんです」
「ええっ!!あなた、ジグさんの息子さんだったの!!これはいいこと聞いちゃったわ。本気で誘惑しちゃおうかしら」
レンはスカートのスリットにそっと細長い指を沿わせ、ちらりと持ち上げるような仕種をする。
「あ、ダメ!!レン姉さん、ダメです!!」
ララが焦って僕を突き飛ばす。
「あらあら?私のせいで開戦前に怪我させちゃうわね。私はもう行くわ。ごめんね、ララちゃん」
レンは前衛だ。あの刀と鞭による波状攻撃は、敵の攻撃を悉く打ち落とせるのだそうだ。
「それにしてもジグさんってそんなに凄い鍛冶師さんだったんだね。知らなかった」
感心するララ。僕も少しむず痒い気がした。
「なあベラ~!出来るだけ近くにいてけろ~」
突如戦場に激しい訛りが聞こえる。
「情けないこと言ってんじゃないよ。ウリ」
ウリ・メロンズ。昨日の作戦会議で初めて挨拶した、人見知りの田舎娘だ。出身はメロン村。つまりそのファミリーネームは僕らと同じように村に因んだものだ。
そして彼女を叱咤激励しているのがベラ・オルニオ。アレクトリデウスの医師だ。オルニオの医師と言えば伝説級の存在だと聞いたことがあるが、まさかこんなところで冒険者として生活していたとは。
「だっておら、中衛だべ?知らん人二人もいる中衛だべ?そんなのおらには無理だぁよ~」
「あんた、本人たちを前にしてよくそんなこと言えたわね」
「え!?」
ウリが振り返る。そばかすに赤茶の髪、黄色いTシャツにジーンズのオーバーオールと、とても戦場とは思えない牧歌的な姿。あれであの服は高い防御を誇る鎧なのだそうだ。
「わっ!!あんたらいつからそこに……。いや、無理というのは別に嫌とかそういうのじゃなくて、おら、苦手で、あの、あた、新しい人が……うぎゃあ!!」
「何言ってんの!!テオンさんララさん、すみません。昨日も言った通りこの子は極度の人見知りなだけで、本当に悪い人ではないんです」
悪い人でないのは分かるのだが、この子と連携とか大丈夫だろうか。
「ウリ、少しずつ慣れていけば良いからの。さて、みんなもう準備は出来ておるか?」
「あ、あたしは後衛に戻るわね。ウリ、ちゃんとみんなと仲良くするのよ?迷惑かけたら命が危なくなるんだからね?」
そう言ってベラはイリーナの元へと走っていった。
「わ、分かっただよ~。うぅ」
口を尖らせる彼女に、ララがにこっと笑って近づく。
「ウリちゃん、私たち怖くないからね。仲良くしてね!」
「ラ、ララさん……。よ、よ、よ、よろしくだべ」
ひきつった笑顔が不安を募らせた。
「ははは。そろそろ日が昇るからな。気を引き締めるのじゃぞ!!」
ヴェルトの言葉通り、王都の中心に聳える巨大な王城と、王都ギルドの象徴『メラン・ファミリア』の塔の間、真っ直ぐに光が差す。
遂に夜が明けた。日の出、開戦だ。ぐっと空気が締まる。もうこれからは何が起こってもおかしくない。戦争が、始まったのだ。
ぷしゅー。そのとき、何処からともなく霧が出始めた。
「な、何だ!?」「気を付けろ!!毒かもしれないぞ!!」
俄かに緊張感が走る。それでもパニックにならない辺りは、皆歴戦の冒険者なのだと感じさせる。霧は僕らの陣取っている場所より少し前、国境の柵のすぐ近くから立ち上っていた。
やがて。
ぴかっ。どこからか光が漏れたかと思うと、突如霧の中に巨大な人の姿が映し出された。
「やあ」
同時に響き渡る声。それは前方の至るところから聞こえた気がした。霧の中の巨人の口が動いている。あれが喋っているのだろうか?
「驚いているね、メラン王国の諸君。安心したまえ、私は巨人などではない。これは空中に映像を投影しているだけだ、といって意味が分かるかは知らぬが、これは宣戦布告のために映し出した映像だ」
巨人……もとい映像の男は淡々とそう話す。オレンジがかった髪に同色のあごひげ。プレートアーマーを着て面頬を上げている。
「私の名前はアウルム帝国将軍ベルトルト・シュレジンガー。此度の戦争におけるアウルム帝国軍第一部隊の指揮官である。お前たちが狙うバルトの土地を守るため、今からお前たちを殲滅する。以上!!」
ベルトルトと名乗った彼は、それだけ一方的に言い放つと、すっと霧の中に消えた。
「な、な、な、今のはなんだべ~!!おっかない巨人が出たべ~!!あんなのに勝てるわけないよぉ~」
「ウリちゃん大丈夫。今のはまやかしだよ。あの霧の中に人の気配はない。あんな巨人はいないからね」
ララがウリを慰めようとするが、彼女はおろおろとするばかりだ。
やがて、国境の向こうに灰色の影が見える。あれは……まさかゴーレムの軍勢?
「ほう。やはりゴーレムを出して来たか。自分の力で戦えないとは、全く帝国の連中は腑抜けばかりじゃのう。ん?アスト、どうしたんじゃ?」
前衛を率いているはずのアストが、こっちまで走ってきた。
「爺さん、ちょっとテオンを借りようと思ってな。いいか?」
「何?アスト」
「度肝を抜かれたままじゃ士気に関わるからな。お前、何か派手にやってくれよ」
唐突な雑な振り。だが確かにそうだ。
「分かった。任せてよ」
僕は右の手をぎゅっと握り締め、にやりとする。
「僕に出来る派手な一発、ぶっ放してみるよ!!」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる