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第6章 火薬庫に雨傘を

第13話 パーティルーム

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―――メランギルド

 今日、2度の大騒ぎの渦中にあったこのギルドも、徐々にその興奮を落ち着かせつつあった。

 「ぶぅ~っ!!」

 受付から戻ってきたララはずっとこんな調子である。アストに連れられてギルドに帰ってきた僕らは、イリーナたちと少し話した後、正式に彼らと行動を共にすることになった。

 既にレナのパーティ『フィロソフィア』に所属していた僕は叶わないが、ララはイリーナとアストのパーティ『竜頭龍尾』に入ることになった。もちろん冒険者登録を済ませてから、である。

 ララはそのとき測定してもらったステータスに不平を漏らしていたのだった。

 「テオン、もう一回見せて!!」

 「何度見たって同じだよ……はい」

 彼女にステータスの紙を手渡す。彼女も既にアストに一撃を食らわせたことで、高ステータスを期待されていた。しかし、刻まれた数値はそこまで高くはなく……。

 氏名: ララ・アルタイル
 レベル: 24
 ランク: G
 発行所: メランギルド
 職業(熟練度): 狩人(34)
 職業補正値: 1.2
 HP: 324
 MP: 43
 STR: 42
 VIT: 58
 INT: 31
 AGI: 57 

 「いやいや、その数値で落胆してんなよ!」

 横からボブが野次を入れる。

 「そのステータス、軒並み俺より高いんだからな!!」

 「へえ。ボブはどれくらいなの?」

 「いや、見せねえ」

 「えー、何で?」

 「何でもだ。絶対見せるか!!」

 彼は頑なに胸ポケットを押さえつける。あそこに入ってるのか。今度こそっと見てやろう。

 「ははは!何度も言ってるだろ?ステータスが全てじゃないんだ。アストの身体に一撃浴びせるには少なくともSTR80は必要とされてる。ララちゃんは実質それくらいだと思っておきな。いやあ、良い新人が入ってくれた」

 「えへへ。そう言われると嬉……それでもテオンより低いじゃん!!」

 いてっ!

 ララの拳が僕の左腕に直撃する。今ので僕のSTRも80くらいまで下がったんじゃないかな。

 わはははと笑いが起こる。竜頭龍尾にはいつも笑いが絶えない。いいパーティだと思えた。

 「それでは皆さん、よろしくお願いします!!」

 ララは元気よくお辞儀をする。こうして彼女も冒険者の世界に足を踏み入れたのだった。

 そこへ一人の男が歩いてくる。

 「あー、盛り上がってるとこ悪いな」

 「あ、親父!戻ってたのか」

 ハロルドが反応する。彼の親父さん?がっちりした体つきにTシャツと短パンというシンプルな服を身に付け、その上から仕立ての良いマントに身を包んでいる。少しちぐはぐな男だった。

 「ああ、ついさっきな。ところでそろそろギルドを閉める時間だ。続きはパーティルームでな」

 「もうそんな時間か。分かった……とその前に、ちゃんと紹介しなきゃな」

 イリーナがララとアデル、そして僕を指す。

 「今日僕のパーティに入ってくれた新人君たちだ……って、テオン君はパーティは違ったね。まあ、これから力を貸してくれることには変わりない」

 紹介されて僕らは名を名乗る。

 「そうか。君が騒ぎの元になった高ステータスの新人だな?俺はアーノルド・ガードナー。このギルドのマスターだ」

 ギルドマスター!?あ、言われてみればそんな貫禄も……。

 「君たちのステータスは後で記録を見させてもらうよ。ともかくうちはこれから大変だが、どうか皆を助けてやって欲しい。期待しているぞ」

 彼の差し出したごつごつの手を、僕らは一人ずつ握っていく。随分大きな手だった。

 「それじゃ、僕らはパーティルームに行くよ」

 イリーナはそう言って歩き出す。パーティルームって?首を傾げる僕らに、待ってましたとボブがやって来る。

 「パーティルームってのはパーティメンバーが集まって話し合ったりする部屋のことさ。王都の冒険者は人数が多いからな。普段はギルドに集まるんじゃなくて、そのパーティルームに集まるんだ」

 「そうなのか……って、え?それじゃあ、今日ギルドに集まってた冒険者って、あれで一部だけ!?」

 昼間、ギルドのホールには200人近くの冒険者がいたはずだ。

 「いやいや、今日は特別さ。午前中に全員集められたんだ。数人クエストから戻ってきてなかったりするけど、今日はほぼ全員ホールにいたはずさ」

 「ふうん。じゃあいつもは今みたいにこのホールはがらがらなんだね」とララ。

 「まあな。パーティルームを持ってない小さなパーティが集まってるくらいだ」と後ろからアストが補足する。

 「ところでお前ら、ルーミちゃんが呼んでるぞ?」

 「ルーミが?」

 見ると、マギーやキールたちと一緒にこちらを遠巻きに見ながら、必死に手を振っていた。

 確かに実力者揃いのパーティが集まっていたら、声を掛けづらかったかもしれない。

 「どうしたの、ルーミ?」

 「あ、あの……すみません、お父さんのお仕事が終わるのもそろそろかなと思ったもので……」

 あ、そうか。このあとゼオンと会うという話はララから聞いていた。このままパーティルームに向かうと、抜け出せないかもしれない。

 「分かった。イリーナさんに言って抜けてくるよ」

 僕は彼女に事情を話し、今後の予定については明日話し合うことにして、ララとアデルを連れてルーミの元へ戻ってきた。

 「それじゃ、行こうか。フィリップの工房に戻るんだっけ?」

 こうして僕らは、すっかり静まり返ったギルドを後にしたのだった。




―――クレイス修理店

 「それでね、砂漠でゼルダさんたちに会って、聖都ペトラの復活を目指してるんだって聞いて、私もサーミアさんに会って、出来るなら月の踊りを継承したいなって」

 ルーミは早速ゼオンに旅の話を聞かせていた。彼はその話をうんうんと聞いている。父親らしい、とても優しい表情をしていた。

 ここはクレイス修理店の2階。店に通じる廊下に掛けられた梯子を上った先。狭いながらも程よく飾り付けられ、居心地の良さそうな部屋だった。

 壁際には観葉植物が並び、真ん中にはボードゲームの置かれたテーブル、部屋の奥にはちょっとしたバーカウンターまであった。何でもここは昔、ブレゲ――メリアンの所属していたパーティのパーティルームとして使われていたらしい。

 「そんな大きな目標が出来ていたのか。そういえばサーミアさんについてメリアンさんに聞くのを忘れていたね」

 ゼオンとは丁度店の前で落ち合った。僕らが梯子を上っているとき、突然ルーミが表へ駆けていったかと思うと「お父さん!」と叫んだのだった。

 「メリアンさん?彼女、サーミアさんのこと知ってるの?」

 「サーミアさんは昔、彼女のパーティに入っていたからね」

 「え!?冒険者だったんですか?」

 新たに出てきた新情報に、驚いたルーミの声が部屋に響く。

 「冒険者が一番旅しやすいからね。踊り子も旅芸人も、昔は今以上に冒険者との兼業が多かったんだ。サーミアさんは盗賊としても一流だったよ。まあとっくの昔に引退してるけどね」

 「盗賊……何だかイメージと違うニャ」

 「昔、竜頭龍尾のメリアンとサーミアと言えば、知る人ぞ知る名コンビだったんだよ」

 「ん?竜頭龍尾……?」

 僕は聞き慣れた名前に思わず反応する。

 「あ、言ってなかったっけ?メリアンさんは竜頭龍尾の初代リーダーだよ?」

 「「「ええっ!!」」」

 「そ、それじゃあ、この部屋って……」

 竜頭龍尾のかつてのパーティルームってことか。このちんまりとした部屋に、昼間会った面々が詰め込まれる様子を少し想像する。

 今、この部屋にはルーミ、ゼオンの他、アデル、ララ、キール、マギー、そして僕がいる。ポットとリット、メルーもギルドに来ていたが、彼らは予めゼオンさんが取っておいてくれた宿に向かった。

 小柄なルーミとアデルを含めた7人。それでこの部屋はかなり一杯になっていた。あの大柄なお爺さん、ヴェルトなどはとても入りそうにない。人が増えてパーティルームを変えたのだろうか。
 
 「竜頭龍尾……。メリアンさんが初代リーダーで、サーミアさんも元メンバーで、ハロルドもアストも入っていて、アデルと私も入ることになって……。何だか不思議!そのパーティを中心に、私、色んな人と繋がってるんだ!!」

 ララが興奮して声を上げる。確かにとても不思議な気がした。

 「不思議じゃないさ。類は友を呼ぶって言うだろ?パーティにはそのパーティの気質に合った人が自然と集まる。初代リーダーのブレゲさ――メリアンさんの方がいいのかな?ああいう人の元に集まるべくして集まったのが僕らってことさ」

 アデルがしんみりとしている。

 「だけどテオンとレナだけ仲間外れなんだよな。フィロソフィアだっけ?」

 「そう。多分最初に冒険者になったときから、レナと同じパーティになってたんだろうね。こっちはこっちで何か縁とかあるのかな?」

 僕の何気ない言葉に、ゼオンがくくくっと笑い出す。

 「ああ、失礼しました。きっとテオン君にも面白い縁が巡ってきますよ。レナさんのギルドはまた特別ですから」

 その何か知っていそうな口ぶりに少し引っ掛かった。だがそれよりも、さっきから急に静かになったララが気になる。彼女はじっと窓の外を見ていた。

 「ララ、何か見えるの?」

 窓の向こうは静かに眠る住宅街。最新鋭の設備は、メラン大火の傷跡でもあった。アストの話がふと思い出される。そういえばイグニスはどこのパーティなんだろうか。

 「レナ、どうしてるかなって。あの辺だよね……」

 住宅街の向こうにはメランファミリアの塔も見える。そしてその少し左、今は静かになっている住宅地。ここからでは流石によく見えないが、大体その場所の見当はつく。

 あそこで僕らはレナと別れた。彼女は最後まで何かを叫んでいた。ギルドを出た後、あの場所まで戻ることもできたが、何となく顔を合わせづらくてここまで来てしまった。

 「レナもここに集まることは知っていたニャ」

 「来ていないってことは他に用事が出来たんだろ?大の大人を心配することないぜ」

 マギーとキールもララを励ます。依然心配そうなララの溜め息。ふと奥を見ると、話し疲れたルーミがゼオンの膝で眠っていた。
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