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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第22話 オルガノ対レナ
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「ニャ~~~!!レナ、一体何を話したのニャ!!マギーの疑いが濃くなっちゃったのニャ!!裏切り者ーーっ!!」
「そんなこと思い付かないくらい、昼間のマギーは馬鹿なんですーーっ!!」
広間は今、とんでもない騒ぎになっていた。オルガノの一言がこの状況を作り出したに違いない。
「ねえ、オルガノさん。あなた一体何を言ったのよ?」
オルガノは事も無げに視線だけ寄越し、ふうと息を漏らして答えた。
「別に。ただマーガレット・ガルの身柄を拘束させてもらうと言ったら理由を聞かれたから、仲間を騙して奇跡の花を悪用した可能性が出てきたから、と答えたまでだよ」
仲間を騙して……ですって!?
「さっきの話が何故そうなるの!?」
「何故って当然だろう?寧ろ君たち一行皆が共犯と言う可能性もある。それを彼女一人で目を瞑ろうって言ってるんだ」
呆れた……。
「どうせあたしたち全員を確保するのは面倒だけど、一人を連れていけば皆付いていくから問題ない、とでも考えてるんでしょ?」
「おっと、良いことを言うね?仲間思いは良いことだよ。彼女を一人にしないために、皆ちゃんと刑事局まで付いてきてくれよ?」
手首を縛られたマギーはその場に座らされる。まだ移動させるつもりはないらしい。ルーミが泣きじゃくってもう見ていられない。
「いいわ、この石頭!あんたの代わりにあたしが事件を解決して見せるから」
思わず言い放つ。
「ああ、ちゃんと真犯人を連れてきたら、この容疑者は解放すると約束するよ」
オルガノもその場に座り込み、あろうことか寛ぎ始めた。もう捜査のことを考えるつもりもないと言うことだろうか。そう思っていると……。
「レナさんは被害者が何故ブラコに偽装されていたのか、それが気になると言っていたね?マーガレット・ガルが犯人じゃないのなら、その謎が真犯人に繋がるヒントだと僕も思うよ」
彼がそんなことを言った。今のは……助言?私は目を見開き彼を見た。足を放り出し両手を後ろにつき、およそ考えているようには見えないだらけた姿勢。
私は彼の考えが分からなくなり、そのまま暫く言葉を発せなかった。
「レナさん、私思うんですけど……」
リットが近付いてくる。
「オルガノさん、レナさんに本気で推理させるためにマギーを捕まえたのでは……」
はっとする。まさか、私は彼にまんまと乗せられて……。きっと睨み付けると、ようやく彼がこちらを真っ直ぐ見た。
「頼んだよ、レナさん」
彼は悪戯っぽく笑い、舌をぺろっと出して見せた。
はあ……やられた。だがおかげでルーミもマギーも随分傷ついたのだ。これくらいは言わせてもらおう。
「覚えてなさい、この性悪怠慢刑事!!」
「マギーはレナを焚き付ける道具として縛られたのニャ?酷いニャ……」
「おっと、勘違いされては困るんだけど、僕は本気で君を疑っているんだよ?」
オルガノはマギーを見て厳しい顔つきになる。
「朝温泉に入ったとき、本当は何があったのか……話したくなったらいつでも言ってくれ。言っても言わなくても、どうせ後で分かることだ」
「だ、だからマギーは理由もなく殺人なんてしません!!」
ルーミが即座に反論する。
「理由もなく……かい?人が心の底に何を抱えているかなんて、他の人には分からないものだよ。仲間でも、家族でも、ね」
「第一、遺体の偽装なんて昼間のマギーに考えられるわけ……」
「馬鹿だから、かい?」
「は、はい!」
彼女の元気の良い返事にマギーが項垂れる。
「それも酷いのニャ……。もう少し言葉を選んで欲しいニャ」
そんなマギーをオルガノは見据える。
「本当にそうなのかな。僕はとてもこの娘が馬鹿だとは思えないんだけど」
彼女の顔ががばっと上がり、ぱあっと笑顔になる。
「でしょでしょ?マギーは馬鹿じゃないニャ。ルーミはマギーを馬鹿にしすぎなのニャ!」
ルーミは溜め息をつき、オルガノに再度懇願する。
「ね?マギーはひとつのことしか考えられないんです。マギーが馬鹿じゃなければ奇跡の花を悪用した可能性を認めることになるのに、彼女はこんなに暢気な笑顔なんです!」
「ああ、そういう意味ではかなりお花畑な頭なんだなと思ったよ」
二人して散々な言いようだ。
「マギーの頭はお花畑じゃないニャ!!」
「オルガノさん、どういう意味ではマギーは馬鹿じゃないと言うのですか?」
ルーミは尚もオルガノを攻め続ける。マギーを無視して。
「彼女の話では、夜の間に会ったハニカの匂いが朝はしなかったと言っていたね?つまり昼と夜の彼女は、普通に細かい記憶まで共有しているんだろう。別人格ではないということだ」
彼は自身のマギー観を述べていく。確かに彼女の昼夜の性格の変化は疑問があって当然だろう。
「マーガレット・ガルは昼夜で知能に違いがあるわけではないと僕は睨んでいる。つまり冷静なときに思い付くことは、今の彼女でも思い付くことができる。違うかい?」
マギーはオルガノから視線を逸らす。
「ここでもしマギーが頷いたら、またお花畑って言われるのかニャ?」
つい昨日、マギー自身が言っていた。
『何だと!?レナ、マギーのこと馬鹿にしたニャ!大体夜だって知能は変わらないんだから、どうせ分かったふりして黙ってるだけニャ!』
吊り橋を渡るとき、クイズを解こうとしていたマギーを馬鹿にした私。それに対する反論だった。オルガノの推測は、確かに当たっていたのだ。
「君は昼間でも知性が変わることはない。少し性格が変わるくらいなのだろう。しかし敢えて馬鹿な振りをしている。僕はそう考えているよ。何故かは知らないけどね」
オルガノは尚も続ける。マギーも答えるつもりはないらしく、抱き着いているルーミを縛られた手で撫でている。
「それが、あなたがマギーを疑う一番の理由?」
「いや、それは違うよ。あくまで犯行の機会があった人物として疑っているに過ぎない。でも、仲間の君たちにすら自分の本性を偽っている人物だと、警戒はしている」
彼の視線は一層鋭さを増す。なるほど、少しオルガノの態度に納得がいったような気がした。しかし、マギーの性格を悪く言われたのは気に入らない。
彼女は俯いていてどんな顔をしているのか分からない。だが少しだけ震える肩がどうしようもなく切なくて。
「警戒なんて要らないし、今の話をマギーが気にすることもないわ。普段馬鹿な振りをしていようがそうじゃなかろうが、彼女が良い子なのは間違いないもの」
「レナ……」
マギーははっとした顔で私を見ていた。少し目が潤んでいる。
「って、馬鹿な振りなんてしてないし、元々マギーは馬鹿じゃないニャ!!」
―――ハニカの客室
広間の騒ぎの間、ゼルダたちはハニカの部屋を調べ直していた。カレンに借りた部屋の鍵を使い、中に入る。一度アデルやレナたちが調べているとはいえ、見落としがないとは言えない。例えばこの靴箱の中。
「ねえ、ハニカの靴はなかったのかしら?」
玄関の靴箱には宿のスリッパだけが入っていた。この旅館は客室内も基本的に土足で歩き回れるが、この宿に慣れた者は実はスリッパで歩くこともあるのだ。
ゼルダの話では、シャウラはアレーナのブーツを持っていたはずだという。暗殺者サソリを追っていたオルガノが現場でそれを発見していれば、気付かないわけがない。つまり温泉には履いていかなかったことになる。あるとしたら客室。だがアデルからそれを見つけたという話は聞いていない。
玄関の靴箱には、靴は入っていなかった。
「やはりハニカはシャウラではなかったのでしょうか?」
ゼルダは首を傾げる。
「探そうとしなければ見つからないこともあるわ。中まで探しましょう」
残る可能性は室内にあるということ。私は一番に部屋に入る。あとからゼルダ、ファム、メルーと続く。
「師匠、これもスイーツハンターの仕事なんでしょうか?」
「え?……ああ、あなたそれで付いてきたの?これはただの興味よ。でも細かいところまで気がつく観察力は、スイーツハンターにもこの捜査にも役立つはずよ」
そんな適当なことを言ってメルーを誤魔化しつつ、部屋の様子を全体的に眺める。最低限の荷物だけが纏められた簡素な部屋。ゼルダがすたすたと部屋の奥まで行き、鞄を持ち上げる。
「これがハニカの鞄ですね。広間に運んで中身を確認しましょう。オルガノ刑事の前で」
「ゼルダ様、私がお持ち致します」
すかさずファムが代わる。マールといちゃついていたところばかりを見ていたから、初めて見た護衛っぽい仕種を新鮮に感じてしまう。
「これがアデルたちが言ってたワイングラスね。アデルが言っていたほど匂いを感じないけど……」
「え、そうですか?良いお花の匂いがしますよ?」
……ああ、そうか。ゼルダはライカンスロープ、アデルはアイルーロス。私たちより嗅覚が優れているんだった。
「これも下に持っていった方がいいかしらね。あとはそこのコート。本当にこれだけ?」
がらんとした室内は、逆に見落としようのなさを物語っていた。
「残っているのはこの布団の下とかですかね?」
押し入れの布団をメルーが無造作に引っ張って広げる。そういえばハニカは布団を使わなかったのだろうか。すべて押し入れの中に入っていたのは妙だ。
すとん。
布団の中から何か出てきた。茶色の毛皮の塊。
「こ、これは?」
「間違いありません、アレーナのブーツです!」
ゼルダがぱっと駆け寄り、すぐに暗い顔になる。
「メルー、お手柄だよ。これでお前ももう立派なスイーツハンターだね」
「本当ですか!えへへ」
メルーは照れ臭そうにしながらブーツを持ち上げる。
「これは私が広間まで持っていきます。私の手柄ですからね!」
広間に戻ると、マギーが縄で縛られ座らされている。オルガノの奴、もう逮捕でもしようとしていたのか?このブーツが出てくるまでハニカがシャウラだとは断定できなかったろうに。そのとき。
ぱーん!!
レナがオルガノにビンタした。
「何する気よ!マギーを眠らせる必要なんて無いでしょ!!」
「そんなこと思い付かないくらい、昼間のマギーは馬鹿なんですーーっ!!」
広間は今、とんでもない騒ぎになっていた。オルガノの一言がこの状況を作り出したに違いない。
「ねえ、オルガノさん。あなた一体何を言ったのよ?」
オルガノは事も無げに視線だけ寄越し、ふうと息を漏らして答えた。
「別に。ただマーガレット・ガルの身柄を拘束させてもらうと言ったら理由を聞かれたから、仲間を騙して奇跡の花を悪用した可能性が出てきたから、と答えたまでだよ」
仲間を騙して……ですって!?
「さっきの話が何故そうなるの!?」
「何故って当然だろう?寧ろ君たち一行皆が共犯と言う可能性もある。それを彼女一人で目を瞑ろうって言ってるんだ」
呆れた……。
「どうせあたしたち全員を確保するのは面倒だけど、一人を連れていけば皆付いていくから問題ない、とでも考えてるんでしょ?」
「おっと、良いことを言うね?仲間思いは良いことだよ。彼女を一人にしないために、皆ちゃんと刑事局まで付いてきてくれよ?」
手首を縛られたマギーはその場に座らされる。まだ移動させるつもりはないらしい。ルーミが泣きじゃくってもう見ていられない。
「いいわ、この石頭!あんたの代わりにあたしが事件を解決して見せるから」
思わず言い放つ。
「ああ、ちゃんと真犯人を連れてきたら、この容疑者は解放すると約束するよ」
オルガノもその場に座り込み、あろうことか寛ぎ始めた。もう捜査のことを考えるつもりもないと言うことだろうか。そう思っていると……。
「レナさんは被害者が何故ブラコに偽装されていたのか、それが気になると言っていたね?マーガレット・ガルが犯人じゃないのなら、その謎が真犯人に繋がるヒントだと僕も思うよ」
彼がそんなことを言った。今のは……助言?私は目を見開き彼を見た。足を放り出し両手を後ろにつき、およそ考えているようには見えないだらけた姿勢。
私は彼の考えが分からなくなり、そのまま暫く言葉を発せなかった。
「レナさん、私思うんですけど……」
リットが近付いてくる。
「オルガノさん、レナさんに本気で推理させるためにマギーを捕まえたのでは……」
はっとする。まさか、私は彼にまんまと乗せられて……。きっと睨み付けると、ようやく彼がこちらを真っ直ぐ見た。
「頼んだよ、レナさん」
彼は悪戯っぽく笑い、舌をぺろっと出して見せた。
はあ……やられた。だがおかげでルーミもマギーも随分傷ついたのだ。これくらいは言わせてもらおう。
「覚えてなさい、この性悪怠慢刑事!!」
「マギーはレナを焚き付ける道具として縛られたのニャ?酷いニャ……」
「おっと、勘違いされては困るんだけど、僕は本気で君を疑っているんだよ?」
オルガノはマギーを見て厳しい顔つきになる。
「朝温泉に入ったとき、本当は何があったのか……話したくなったらいつでも言ってくれ。言っても言わなくても、どうせ後で分かることだ」
「だ、だからマギーは理由もなく殺人なんてしません!!」
ルーミが即座に反論する。
「理由もなく……かい?人が心の底に何を抱えているかなんて、他の人には分からないものだよ。仲間でも、家族でも、ね」
「第一、遺体の偽装なんて昼間のマギーに考えられるわけ……」
「馬鹿だから、かい?」
「は、はい!」
彼女の元気の良い返事にマギーが項垂れる。
「それも酷いのニャ……。もう少し言葉を選んで欲しいニャ」
そんなマギーをオルガノは見据える。
「本当にそうなのかな。僕はとてもこの娘が馬鹿だとは思えないんだけど」
彼女の顔ががばっと上がり、ぱあっと笑顔になる。
「でしょでしょ?マギーは馬鹿じゃないニャ。ルーミはマギーを馬鹿にしすぎなのニャ!」
ルーミは溜め息をつき、オルガノに再度懇願する。
「ね?マギーはひとつのことしか考えられないんです。マギーが馬鹿じゃなければ奇跡の花を悪用した可能性を認めることになるのに、彼女はこんなに暢気な笑顔なんです!」
「ああ、そういう意味ではかなりお花畑な頭なんだなと思ったよ」
二人して散々な言いようだ。
「マギーの頭はお花畑じゃないニャ!!」
「オルガノさん、どういう意味ではマギーは馬鹿じゃないと言うのですか?」
ルーミは尚もオルガノを攻め続ける。マギーを無視して。
「彼女の話では、夜の間に会ったハニカの匂いが朝はしなかったと言っていたね?つまり昼と夜の彼女は、普通に細かい記憶まで共有しているんだろう。別人格ではないということだ」
彼は自身のマギー観を述べていく。確かに彼女の昼夜の性格の変化は疑問があって当然だろう。
「マーガレット・ガルは昼夜で知能に違いがあるわけではないと僕は睨んでいる。つまり冷静なときに思い付くことは、今の彼女でも思い付くことができる。違うかい?」
マギーはオルガノから視線を逸らす。
「ここでもしマギーが頷いたら、またお花畑って言われるのかニャ?」
つい昨日、マギー自身が言っていた。
『何だと!?レナ、マギーのこと馬鹿にしたニャ!大体夜だって知能は変わらないんだから、どうせ分かったふりして黙ってるだけニャ!』
吊り橋を渡るとき、クイズを解こうとしていたマギーを馬鹿にした私。それに対する反論だった。オルガノの推測は、確かに当たっていたのだ。
「君は昼間でも知性が変わることはない。少し性格が変わるくらいなのだろう。しかし敢えて馬鹿な振りをしている。僕はそう考えているよ。何故かは知らないけどね」
オルガノは尚も続ける。マギーも答えるつもりはないらしく、抱き着いているルーミを縛られた手で撫でている。
「それが、あなたがマギーを疑う一番の理由?」
「いや、それは違うよ。あくまで犯行の機会があった人物として疑っているに過ぎない。でも、仲間の君たちにすら自分の本性を偽っている人物だと、警戒はしている」
彼の視線は一層鋭さを増す。なるほど、少しオルガノの態度に納得がいったような気がした。しかし、マギーの性格を悪く言われたのは気に入らない。
彼女は俯いていてどんな顔をしているのか分からない。だが少しだけ震える肩がどうしようもなく切なくて。
「警戒なんて要らないし、今の話をマギーが気にすることもないわ。普段馬鹿な振りをしていようがそうじゃなかろうが、彼女が良い子なのは間違いないもの」
「レナ……」
マギーははっとした顔で私を見ていた。少し目が潤んでいる。
「って、馬鹿な振りなんてしてないし、元々マギーは馬鹿じゃないニャ!!」
―――ハニカの客室
広間の騒ぎの間、ゼルダたちはハニカの部屋を調べ直していた。カレンに借りた部屋の鍵を使い、中に入る。一度アデルやレナたちが調べているとはいえ、見落としがないとは言えない。例えばこの靴箱の中。
「ねえ、ハニカの靴はなかったのかしら?」
玄関の靴箱には宿のスリッパだけが入っていた。この旅館は客室内も基本的に土足で歩き回れるが、この宿に慣れた者は実はスリッパで歩くこともあるのだ。
ゼルダの話では、シャウラはアレーナのブーツを持っていたはずだという。暗殺者サソリを追っていたオルガノが現場でそれを発見していれば、気付かないわけがない。つまり温泉には履いていかなかったことになる。あるとしたら客室。だがアデルからそれを見つけたという話は聞いていない。
玄関の靴箱には、靴は入っていなかった。
「やはりハニカはシャウラではなかったのでしょうか?」
ゼルダは首を傾げる。
「探そうとしなければ見つからないこともあるわ。中まで探しましょう」
残る可能性は室内にあるということ。私は一番に部屋に入る。あとからゼルダ、ファム、メルーと続く。
「師匠、これもスイーツハンターの仕事なんでしょうか?」
「え?……ああ、あなたそれで付いてきたの?これはただの興味よ。でも細かいところまで気がつく観察力は、スイーツハンターにもこの捜査にも役立つはずよ」
そんな適当なことを言ってメルーを誤魔化しつつ、部屋の様子を全体的に眺める。最低限の荷物だけが纏められた簡素な部屋。ゼルダがすたすたと部屋の奥まで行き、鞄を持ち上げる。
「これがハニカの鞄ですね。広間に運んで中身を確認しましょう。オルガノ刑事の前で」
「ゼルダ様、私がお持ち致します」
すかさずファムが代わる。マールといちゃついていたところばかりを見ていたから、初めて見た護衛っぽい仕種を新鮮に感じてしまう。
「これがアデルたちが言ってたワイングラスね。アデルが言っていたほど匂いを感じないけど……」
「え、そうですか?良いお花の匂いがしますよ?」
……ああ、そうか。ゼルダはライカンスロープ、アデルはアイルーロス。私たちより嗅覚が優れているんだった。
「これも下に持っていった方がいいかしらね。あとはそこのコート。本当にこれだけ?」
がらんとした室内は、逆に見落としようのなさを物語っていた。
「残っているのはこの布団の下とかですかね?」
押し入れの布団をメルーが無造作に引っ張って広げる。そういえばハニカは布団を使わなかったのだろうか。すべて押し入れの中に入っていたのは妙だ。
すとん。
布団の中から何か出てきた。茶色の毛皮の塊。
「こ、これは?」
「間違いありません、アレーナのブーツです!」
ゼルダがぱっと駆け寄り、すぐに暗い顔になる。
「メルー、お手柄だよ。これでお前ももう立派なスイーツハンターだね」
「本当ですか!えへへ」
メルーは照れ臭そうにしながらブーツを持ち上げる。
「これは私が広間まで持っていきます。私の手柄ですからね!」
広間に戻ると、マギーが縄で縛られ座らされている。オルガノの奴、もう逮捕でもしようとしていたのか?このブーツが出てくるまでハニカがシャウラだとは断定できなかったろうに。そのとき。
ぱーん!!
レナがオルガノにビンタした。
「何する気よ!マギーを眠らせる必要なんて無いでしょ!!」
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