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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第17話 魔力残滓
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「ブラコ・ピンクニー。キール君の財布を盗った窃盗犯だそうだ」
オルガノは神妙な顔つきでそう話す。アデルは不思議そうに首を傾げる。
「皆が驚くというのは、キール君たちが実は被害者と面識があったから……そういうことかい?」
そう推測するアデルにゼルダが歩み寄り、ブラコとの顛末を一通り話す。
「何だって?窃盗犯は昨日の午後にキラーザの関所に預けた?じゃあ彼は今もそこの牢獄に入っている筈なのかい?」
「ええ、だから驚いているのです。昨日の夜のうちに脱獄して宿に逃げてきて、女湯に忍び込んだところを殺された……ということも考えられなくはありませんが」
「うーん、それよりも本当に被害者の身元がブラコなのかを疑った方が良さそうだ。オルガノ刑事、被害者がブラコだと断定された根拠を頼めるかい?」
オルガノは当然だと頷き、ポケットの中から2つの物を取り出した。2つとも透明な袋に入っている。鍵とカードのようだ。そのうち鍵の方を見せ、オルガノは話し出す。
「まずこれは被害者の手首に巻かれていた鍵だ。フバさん、これはこの旅館の湯殿のロッカーの鍵で間違いないですね?」
「え?ええ、間違いなくうちの鍵です」
彼女は突然尋ねられて狼狽えながらもはっきりと答えた。オルガノは頷いて続ける。
「そしてこの鍵で開いたロッカーの中には、財布がひとつ入っていた。これはその中に入っていた冒険者カードだよ」
彼はもう1つの証拠品を見せる。僕が持っているものと同じデザインの冒険者カードだった。
「名前はブラコ・ピンクニー、Cランクの冒険者だ」
そう言いながらブラコは鍵を再びポケットに仕舞い、次に鞄から何かしらの機械を取り出す。それは冒険者登録をしたときに見た物に似ていた。
「それは簡易魔力測定器ですね?」
レナが尋ねる。
「ご名答。これは冒険者ギルドで使われているものと同じ方式の魔力測定器。遺体は死後24時間以内であれば魔力の残滓を測定することができるからね。この機械で冒険者カードに登録された魔力と照合したんだよ」
「そして一致したと?」
「そうだ。通常ならそれだけで身元の確認は取れるんだけど、皆さんは彼と面識があるとのことだからね。念のためにもうひとつ」
今度は1枚の写真を取り出す。写真と言えば撮影するのに時間が掛かるため、前世では滅多に使われることのない代物だが、こちらでは違うのだろうか。
「これはマジカメという魔道具で撮影した被害者の顔だよ。本物そっくりに写っていると思っていい。キール君、どうだい?」
キールはその写真を覗き込み、ふっと暗い顔をする。
「ああ、間違いねえ。こいつは俺の財布を盗みやがったブラコその人だ。あれだけ顔をまじまじと見てやったからな。間違えようはねえよ。まさか……あれから1日も経たずにこんなことになるなんてな……」
彼は見るからに落ち込んでしまった。激昂するときは激しく怒りを露にするが、悲しむときは、ついこの間まで怒っていた相手のためにここまで落ち込めるのか。彼は感情の波自体が激しいようだ。
「レナさんとテオン君も、どうですか?」
僕も覗き込み、レナと顔を見合わせ、そしてオルガノに向かって首を縦に振る。間違いなくサンゲーン茶屋で会った、あのお調子者の泥棒だった。
「以上が被害者の身元をブラコ・ピンクニーと断定した根拠だ。何か異論は?」
アデルは少し考え込み、やがて口を開いた。
「ああ、間違いなくその被害者はブラコで間違いないのだろう……通常ならね。だけど今回はそこにひとつ、大きな疑問が残っている。彼は本当にキラーザの関所の牢屋を抜け出してここまで来たのか……。その疑問を確認する簡単な手段がある、そうだろう?」
アデルはオルガノを見返す。
「まさか、関所に確認しに行くつもりかい?」
「それが一番手っ取り早い。足の速いものでさっと確認して来ればすぐだろう。まあ事件があった手前、簡単に人を現場から離れさせるわけにはいかないのだろうけどね。そこは君が僕に委譲した権限を再び使わせてもらうよ」
「ああ、確かにその方が早いかもしれないな。じゃあアデル君、頼めるかい?」
「もちろんさ。キール君も付いてきてくれるかな?もしブラコが入れ替わりによって脱獄していたら、僕では見分けられないかもしれないからね」
「なるほど、いいぜ。でもよ、関所が何らかの襲撃に遭って破壊されたってんならどうするよ」
「そうか、それもあるね。じゃあもうひとり強い人について来て貰おうかな。バウアー君とか」
そこでキールはアデルを制止し、僕を引っ張った。
「いや、それならテオンの方がいいだろ」
「ふむ、バウアー君よりもテオン君の方が強いのかい?」
アデルの言葉にバウアーが頷く。
「テオンは多分この中で一番強い。おれたちが保証しよう」
「へえ、人は見かけによらないもんだなあ。僕が言うのもおかしいけど」
そういってアデルは笑う。最早この頼もしさで歳を疑うことはないが、彼の見た目はゼルダと同じ、10歳前後の少年のそれだ。
「じゃあ僕らはささっと関所に確認してくるよ。すぐに戻る。何事もなければね」
先陣を切って出ていくアデル。キールもそれに続き、僕も歩き出そうとしたとき、後ろからララに服を引っ張られた。
「テオン……気を付けてね。嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?」
「うん。この事件、何かおかしなことが起こってる。あのね……ブラコさんはまだ関所にいるよ」
テオンたちはキラーザの関所に向けて駆け出していった。残された私たちは、先程のララの発言について問い質していた。
「ねえララちゃん、どういうことなの?」
「レナさん、やっぱり説明しなくちゃダメですか?」
「当たり前じゃない。関所にブラコがいるのなら、今皆で確認したこの写真の人は誰なのよ」
ララは人差し指で頬を掻きながら、力なく笑った。
「私は皆みたいな難しい話は苦手だから、どうやって言ったら良いのかよく分からないんだけど、その人は私たちが茶屋で会ったブラコさんじゃないと思うんです」
彼女の言葉を受け、オルガノが首を傾げる。
「ふむ、それは何故なんだい?」
「何故、と言われても、そう思うから……なんですが」
ララの答えはいまいちはっきりしない。
「私はオルガノさんと同じく気配察知のスキルを持っています。だから目で見なくても誰がどこにいるかが気配で分かるんです。この気配で誰が誰だか判断できるんですけど、それってその人の魔力を見ているんだと思ってたんです」
そこでララはひとつ、深呼吸をした。
「その人、ブラコさんで間違いないんですよね?実際その冒険者カードから感じる気配は、私が会ったブラコさんのもので間違いないんです。だけど……」
「だけど?」
私も思わず先を促してしまう。ララから感じるのは戸惑い。恐らく彼女も、自分の直感を信じきれていないのだろう。
「私がお風呂で感じたその人の気配は……ブラコさんの変装をした別の人の気配……って感じだったんです」
ブラコさんの……変装をした気配?
「ちょっと待ってくれ、ララさん。君は気配察知で変装をしている気配が分かるのかい?」
オルガノが尋ねる。同じ気配察知持ちとして引っ掛かっているのだろう。
「いえ、普通の変装ならそもそも気配は変わらないので関係ないんです。だからこんな感覚は初めてだったんですけど」
それを聞き、オルガノの表情は柔らかくなる。
「そうだよね?変装をしたってその人の魔力パターンは変わらない。それに全身裸で変装なんてあり得ない。君が感じたのが何なのかは分からないけど、僕はそんなもの感じなかった。気のせいだったんじゃないかな?」
彼は軽く流してしまう。ララはしゅんとなり俯く。震える拳は悔しさの表れだろうか。大人になりたてのこの歳の子は繊細だ。
大人になったとはいえ15、6の少年少女、分別が備わるのはまさにこれからというところ。色々間違えて、大人に窘められたり揉まれたりして、徐々に自分の分というものを学ぶのだ……そう、私のように。
だが、今のこの子の訴えは単なる気のせいなのか。同じスキルを使い、経験で勝るオルガノの言うことが常に正しいのか。本当にそうなのか?
ララの気配察知は既に一流の域にある。それは私が保証する。ブルムの森で見た察知の早さと正確さ。エリモ砂漠では魔道具の補助で潜伏している魔物を察知し、その属性まで見極めた。
いや、あの魔道具が補助するのはあくまで気配察知の範囲のみ。属性を見極めたのはララの本来の力だ。元々ごく至近距離でなら出来ていたことのはずだ。彼女にその自覚はなかったようだが……。
そしてあの茶屋だ。収納魔法で隠蔽された魔物の気配を、あの子は感じ取った。勿論、それは魔道具の効果なんかではない。ララ自身の力によるものだ。
あの子の気配察知はまさに今も成長中。魔法やスキルによる隠蔽をも破る極上の気配察知。それは最早、現在発見されている気配察知の性能を上回る、未発見の上位スキルにまで到達しているのではないだろうか。
ウフフフフ…………。
ララをテオンと一緒に連れてきたのは本当に正解だった。これで王都の魔法研究は1歩も2歩も前に進むことになる。
私は溢れそうな喜びを必死に抑えながら、オルガノにひとつ提案をすることに決めた。
「次はレナさんだね。昨日の夜からのあなたの行動を教えてもらえるかい?」
彼は既にアリバイ確認に移っていた。だがララの直感をこのまま無かったことになんてさせない。
「その前にいいかしら?私もスキル鑑定士としてこの捜査に協力させて貰いたいのだけれど」
「え?まあ協力して貰えるのは有り難い話だけど……何をするつもりだい?」
「今、王都では新たな魔法の可能性が検討されているの。自分の魔力パターンを偽装できる魔法よ」
「何だって!?」
勿論こんなのは出鱈目だ。だが今はこれでいくしかない。
「被害者の遺体の魔力残滓……もう一度、私に詳しく調べさせて貰えないかしら?」
オルガノは神妙な顔つきでそう話す。アデルは不思議そうに首を傾げる。
「皆が驚くというのは、キール君たちが実は被害者と面識があったから……そういうことかい?」
そう推測するアデルにゼルダが歩み寄り、ブラコとの顛末を一通り話す。
「何だって?窃盗犯は昨日の午後にキラーザの関所に預けた?じゃあ彼は今もそこの牢獄に入っている筈なのかい?」
「ええ、だから驚いているのです。昨日の夜のうちに脱獄して宿に逃げてきて、女湯に忍び込んだところを殺された……ということも考えられなくはありませんが」
「うーん、それよりも本当に被害者の身元がブラコなのかを疑った方が良さそうだ。オルガノ刑事、被害者がブラコだと断定された根拠を頼めるかい?」
オルガノは当然だと頷き、ポケットの中から2つの物を取り出した。2つとも透明な袋に入っている。鍵とカードのようだ。そのうち鍵の方を見せ、オルガノは話し出す。
「まずこれは被害者の手首に巻かれていた鍵だ。フバさん、これはこの旅館の湯殿のロッカーの鍵で間違いないですね?」
「え?ええ、間違いなくうちの鍵です」
彼女は突然尋ねられて狼狽えながらもはっきりと答えた。オルガノは頷いて続ける。
「そしてこの鍵で開いたロッカーの中には、財布がひとつ入っていた。これはその中に入っていた冒険者カードだよ」
彼はもう1つの証拠品を見せる。僕が持っているものと同じデザインの冒険者カードだった。
「名前はブラコ・ピンクニー、Cランクの冒険者だ」
そう言いながらブラコは鍵を再びポケットに仕舞い、次に鞄から何かしらの機械を取り出す。それは冒険者登録をしたときに見た物に似ていた。
「それは簡易魔力測定器ですね?」
レナが尋ねる。
「ご名答。これは冒険者ギルドで使われているものと同じ方式の魔力測定器。遺体は死後24時間以内であれば魔力の残滓を測定することができるからね。この機械で冒険者カードに登録された魔力と照合したんだよ」
「そして一致したと?」
「そうだ。通常ならそれだけで身元の確認は取れるんだけど、皆さんは彼と面識があるとのことだからね。念のためにもうひとつ」
今度は1枚の写真を取り出す。写真と言えば撮影するのに時間が掛かるため、前世では滅多に使われることのない代物だが、こちらでは違うのだろうか。
「これはマジカメという魔道具で撮影した被害者の顔だよ。本物そっくりに写っていると思っていい。キール君、どうだい?」
キールはその写真を覗き込み、ふっと暗い顔をする。
「ああ、間違いねえ。こいつは俺の財布を盗みやがったブラコその人だ。あれだけ顔をまじまじと見てやったからな。間違えようはねえよ。まさか……あれから1日も経たずにこんなことになるなんてな……」
彼は見るからに落ち込んでしまった。激昂するときは激しく怒りを露にするが、悲しむときは、ついこの間まで怒っていた相手のためにここまで落ち込めるのか。彼は感情の波自体が激しいようだ。
「レナさんとテオン君も、どうですか?」
僕も覗き込み、レナと顔を見合わせ、そしてオルガノに向かって首を縦に振る。間違いなくサンゲーン茶屋で会った、あのお調子者の泥棒だった。
「以上が被害者の身元をブラコ・ピンクニーと断定した根拠だ。何か異論は?」
アデルは少し考え込み、やがて口を開いた。
「ああ、間違いなくその被害者はブラコで間違いないのだろう……通常ならね。だけど今回はそこにひとつ、大きな疑問が残っている。彼は本当にキラーザの関所の牢屋を抜け出してここまで来たのか……。その疑問を確認する簡単な手段がある、そうだろう?」
アデルはオルガノを見返す。
「まさか、関所に確認しに行くつもりかい?」
「それが一番手っ取り早い。足の速いものでさっと確認して来ればすぐだろう。まあ事件があった手前、簡単に人を現場から離れさせるわけにはいかないのだろうけどね。そこは君が僕に委譲した権限を再び使わせてもらうよ」
「ああ、確かにその方が早いかもしれないな。じゃあアデル君、頼めるかい?」
「もちろんさ。キール君も付いてきてくれるかな?もしブラコが入れ替わりによって脱獄していたら、僕では見分けられないかもしれないからね」
「なるほど、いいぜ。でもよ、関所が何らかの襲撃に遭って破壊されたってんならどうするよ」
「そうか、それもあるね。じゃあもうひとり強い人について来て貰おうかな。バウアー君とか」
そこでキールはアデルを制止し、僕を引っ張った。
「いや、それならテオンの方がいいだろ」
「ふむ、バウアー君よりもテオン君の方が強いのかい?」
アデルの言葉にバウアーが頷く。
「テオンは多分この中で一番強い。おれたちが保証しよう」
「へえ、人は見かけによらないもんだなあ。僕が言うのもおかしいけど」
そういってアデルは笑う。最早この頼もしさで歳を疑うことはないが、彼の見た目はゼルダと同じ、10歳前後の少年のそれだ。
「じゃあ僕らはささっと関所に確認してくるよ。すぐに戻る。何事もなければね」
先陣を切って出ていくアデル。キールもそれに続き、僕も歩き出そうとしたとき、後ろからララに服を引っ張られた。
「テオン……気を付けてね。嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?」
「うん。この事件、何かおかしなことが起こってる。あのね……ブラコさんはまだ関所にいるよ」
テオンたちはキラーザの関所に向けて駆け出していった。残された私たちは、先程のララの発言について問い質していた。
「ねえララちゃん、どういうことなの?」
「レナさん、やっぱり説明しなくちゃダメですか?」
「当たり前じゃない。関所にブラコがいるのなら、今皆で確認したこの写真の人は誰なのよ」
ララは人差し指で頬を掻きながら、力なく笑った。
「私は皆みたいな難しい話は苦手だから、どうやって言ったら良いのかよく分からないんだけど、その人は私たちが茶屋で会ったブラコさんじゃないと思うんです」
彼女の言葉を受け、オルガノが首を傾げる。
「ふむ、それは何故なんだい?」
「何故、と言われても、そう思うから……なんですが」
ララの答えはいまいちはっきりしない。
「私はオルガノさんと同じく気配察知のスキルを持っています。だから目で見なくても誰がどこにいるかが気配で分かるんです。この気配で誰が誰だか判断できるんですけど、それってその人の魔力を見ているんだと思ってたんです」
そこでララはひとつ、深呼吸をした。
「その人、ブラコさんで間違いないんですよね?実際その冒険者カードから感じる気配は、私が会ったブラコさんのもので間違いないんです。だけど……」
「だけど?」
私も思わず先を促してしまう。ララから感じるのは戸惑い。恐らく彼女も、自分の直感を信じきれていないのだろう。
「私がお風呂で感じたその人の気配は……ブラコさんの変装をした別の人の気配……って感じだったんです」
ブラコさんの……変装をした気配?
「ちょっと待ってくれ、ララさん。君は気配察知で変装をしている気配が分かるのかい?」
オルガノが尋ねる。同じ気配察知持ちとして引っ掛かっているのだろう。
「いえ、普通の変装ならそもそも気配は変わらないので関係ないんです。だからこんな感覚は初めてだったんですけど」
それを聞き、オルガノの表情は柔らかくなる。
「そうだよね?変装をしたってその人の魔力パターンは変わらない。それに全身裸で変装なんてあり得ない。君が感じたのが何なのかは分からないけど、僕はそんなもの感じなかった。気のせいだったんじゃないかな?」
彼は軽く流してしまう。ララはしゅんとなり俯く。震える拳は悔しさの表れだろうか。大人になりたてのこの歳の子は繊細だ。
大人になったとはいえ15、6の少年少女、分別が備わるのはまさにこれからというところ。色々間違えて、大人に窘められたり揉まれたりして、徐々に自分の分というものを学ぶのだ……そう、私のように。
だが、今のこの子の訴えは単なる気のせいなのか。同じスキルを使い、経験で勝るオルガノの言うことが常に正しいのか。本当にそうなのか?
ララの気配察知は既に一流の域にある。それは私が保証する。ブルムの森で見た察知の早さと正確さ。エリモ砂漠では魔道具の補助で潜伏している魔物を察知し、その属性まで見極めた。
いや、あの魔道具が補助するのはあくまで気配察知の範囲のみ。属性を見極めたのはララの本来の力だ。元々ごく至近距離でなら出来ていたことのはずだ。彼女にその自覚はなかったようだが……。
そしてあの茶屋だ。収納魔法で隠蔽された魔物の気配を、あの子は感じ取った。勿論、それは魔道具の効果なんかではない。ララ自身の力によるものだ。
あの子の気配察知はまさに今も成長中。魔法やスキルによる隠蔽をも破る極上の気配察知。それは最早、現在発見されている気配察知の性能を上回る、未発見の上位スキルにまで到達しているのではないだろうか。
ウフフフフ…………。
ララをテオンと一緒に連れてきたのは本当に正解だった。これで王都の魔法研究は1歩も2歩も前に進むことになる。
私は溢れそうな喜びを必死に抑えながら、オルガノにひとつ提案をすることに決めた。
「次はレナさんだね。昨日の夜からのあなたの行動を教えてもらえるかい?」
彼は既にアリバイ確認に移っていた。だがララの直感をこのまま無かったことになんてさせない。
「その前にいいかしら?私もスキル鑑定士としてこの捜査に協力させて貰いたいのだけれど」
「え?まあ協力して貰えるのは有り難い話だけど……何をするつもりだい?」
「今、王都では新たな魔法の可能性が検討されているの。自分の魔力パターンを偽装できる魔法よ」
「何だって!?」
勿論こんなのは出鱈目だ。だが今はこれでいくしかない。
「被害者の遺体の魔力残滓……もう一度、私に詳しく調べさせて貰えないかしら?」
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