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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第5話 泥棒猫に御用心
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「う、嘘でしょー!!」
レナの絶叫がサンゲーン茶屋に響く。
「お待たせしました。まずこちらあん団子ですね。いちご大福、ういろう、そして鬼饅頭になります。他のものも順番にお持ちしますねー!」
店員が満面の笑みでお皿を並べていく。
「ふふ。頼れる財布はとことん頼る。それがスイーツハンターの嗜みよ!」
ユカリがそう言い放つ。熟々スイーツハンターとははた迷惑な職業だ。
「ね、ねえユカリちゃん?あなた、あれだけ食べていくらぐらいだったの?」
「んー、いくらかなあ。15,000Lくらい?まだ会計済ませてないからよく分からないけど」
ユカリの机に積み重ねられたお皿を数えてみると、ざっと30枚近くあった。メニューに視線を移す。安いものだと300Lだが、高いものでは1000Lを越えるものまである。スイーツハンターはお金の見積もりも甘口らしい。
「すみませんねえ、レナさん。スイーツハンターとして稼げるようになったら必ずお返ししますので」
「ね、ねえユカリちゃん?スイーツハンターが稼げるようになるのはいつくらい?というか稼ぎになるの?」
「んー、食べたスイーツの書評を旅先で売ったりはしてるけど、あまり期待はできないよね。そのまま旅先で日雇いの仕事受けて、お金が貯まったらまた旅に出る、その繰り返しよ」
つまり稼業というよりは趣味の範疇だな。メルーには他の働き口が見つかって欲しいものだ。彼はユカリの話を気にした様子もなく、黙々とスイーツを味わっていく。
「……はあ、すまねえレナさん。俺も手伝うから大目に見てやってくれ」
バートンが呆れながら頭を下げる。彼はお菓子を頼まずお茶だけ飲んでいた。
「バートンさん、あたしの味方はあなただけよ……うっ」
この茶屋は席についてお茶を飲むだけで料金が発生すると書いてあったが、今は黙っておこう。レナにそっとハンカチを差し出す。
「ところでマギーとルーミちゃんはお金持ってないの?」
ふと思い立ってレナが尋ねる。確かにポエトロの町から出てきた二人は財布を持っているかもしれないが。
「へ?マギーはお金持っちゃいけないらしいのニャ」
マギーが当然のように胸を張る。ルーミも首を横に振る。
「私はお母さんが持たせてくれませんでした。レナさんがいるんだから大丈夫だって。お母さん、レナさんのことを毛皮セレブって呼んでましたけど何のことですか?」
毛皮?まさかムーンハウンド……リュカの仲間たちの毛皮か?そういえばあれを売ったお金はどうしたんだろう。デミはあれでポエトロ一の大商人の嫁だ。そういう耳は早いのかもしれない。
「え!?いや、それは……」
レナは分かりやすく口ごもる。お金の心配はそれほどいらないのなもしれない。
それにしてもえげつないな。ポエトロの町を出た時点で、一行の出費のすべてをレナが肩代わりすることが確定していたようだ。
「今度ポエトロに寄ったらデミさんだからって容赦しないんだから!」
「ニャはははは!」
マギーがお気楽に笑い飛ばす。18歳にして財布を持つことを許されない彼女は、もう少し気にすべきだと思う。
「お次はカスタードプリン、カステラ、季節のシャーベット、そして栗金飩よ」
店員が次のお菓子を持ってくる。
「わあ……!お団子以外もどれも美味しそう!!メルーさん、私も少し貰っていい?」
ララが目を輝かせる。本当に村にいては見ることもできない珍しいものばかりだ。ミミやマギーも期待の眼差しを送る。
「折角ですからね。どうぞどうぞ!」
メルーがぽんとお腹を叩く。娘たちはやったとばかりに手を伸ばす。ルーミやゼルダ、マールも一口もらっていた。
「もう、あたしのお金だからね!!はあ……王都まで頑張ってね、あたしのお財布……」
「これで最後よ。ポン菓子に抹茶ティラミス、モンブランに八ッ橋もどきね」
もどき……って何だろう。八ッ橋というお菓子がどこかの国にあるのだろうか。
「お茶を飲みすぎたニャ。ちょっとトイレに行ってくるニャ」
マギーが席を立つ。おかわりのポットも何度か頼んでいた。
「それにしてもこんなにお菓子ばっかり食べたの初めて!幸せ~」
「ええ本当に。スイーツハンター、なんと素晴らしい仕事なのでしょう!!」
「分かってくれて嬉しいわ!それにしても、あなたたち随分戦いに巻き込まれてるのね。厄介事にはあまり首を突っ込むものじゃないわよ」
「そうよね。でもゼルダちゃんたちのことは依頼として引き受けちゃってるし、仕方ないわ」
「レナさん、それは私たちが疫病神だと?」
ゼルダがちらっと恨めしそうな目を向ける。
「レナさん、それは酷いですよ。アルタイルに酷い目に遭わされているゼルダさんたちを、あのまま放っておくなんて出来ません」
「そうね……。確かに放置してミミちゃんたちだけ連れてくるのは気が引けるわ。でも、テオン君意外と正義感強いのね」
「意外ですか?」
「そういえばポエトロの町でも一人で突っ走ってたわね。テオン君こそ疫病神なのかも」
「え!?そんな……ひどいです、レナさん」
口を尖らせる僕。どっと笑い声が起こる。さっきからこちらを見ていたカウンターの男もくすくすと笑っている。
最初は全種類のお菓子が運ばれていくのを珍しそうに見ていた彼も、今ではこちらの話を聞いて楽しんでいるようだ。笑いながらお茶に手を伸ばす。
「ふう、スッキリしたニャー」
マギーがトイレから出てきた。そのとき。
ぱりーん!ばしゃ!!
男が手を滑らせて湯呑みを落とし、床にお茶をこぼしてしまった。
「おっと!!すまねえ、嬢ちゃん掛かっちゃいないか?店員さん、悪いが雑巾あるか?」
「いえいえ、私が片付けますからどうぞそのままで」
店員は雑巾と袋を持ってくると、お茶にさっと雑巾を被せて割れた湯呑みを片付け始める。
「ビックリしたニャ。マギーも手伝うニャ」
マギーはしゃがみこみ、店員が被せた雑巾で床を拭き始める。
「あ、お客さんいいのに。でも助かります。ありがとう!」
「いっぱい美味しいお菓子を食べさせてもらったお礼ニャ。気にしなくていいのニャ」
マギーがニコッと笑いかける。
「ふうん、優しいアイルーロスもいるんだな」
通路の反対側に座っていた3人組の冒険者も、マギーを見て感心する。
「何だケイン。まださっきのこと根に持ってるのか?」
「そりゃ根に持つだろ。目の前で獲物を横取りされたんだぞ?くそ、あの泥棒猫だけは絶対許さねえ」
「仕方ないだろう?偶々同じ森で狩りをして、同じ獲物を狙ってしまったんだ。そして、あいつの技が止めを刺した。その獲物をおれたちが取ったらそれこそ泥棒だ」
「いいや、俺とキールの技が当たって隙が出来たんじゃねえか。先に攻撃を当てた俺らの獲物に、奴が手を出したとも言えるだろ」
どうやら彼らも何かあったらしい。冒険者の世界のルールはよく知らないが、ああして言い合っている冒険者を見ていると前世のことを思い出す。どこの世界でも荒くれ者たちは変わらず生きているんだな。
「まったく、落ち着くために茶屋に入ったってのに、思い出す度にそう熱くなってたんじゃ意味ないな。切り替えて次の獲物に向かおうぜ」
「そうだよケイン。俺たちにはバウアーの索敵がある。今日中にまた見つけられるって。冒険者にも譲り合い、だぜ」
「てめえ、人の団子取っといて譲り合いとはよく言えたもんだな」
「それはおめえ……ちまちま食べてんのが悪い」
「まあまあ、いい加減に落ち着けよ。てか何の話だよ!さて、床の片付けが終わったら俺たちは出発しよう。今のうちに会計をまとめておこうぜ」
彼らはメニューを見ながらお金を用意する。僕らもメルーが食べ終わったら出発だな。彼は既に最後のお皿に手をつけ始めている。
「はあ、お会計。憂鬱だわ……」
レナが分かりやすく溜め息をつく。ごちになります。
「おいキール!何してんだよ、早くしろよ」
「急かすなよケイン。今財布探してるんだよ。確かに上着のポケットに入れていたと思うんだけど」
「はあ。また財布忘れた演技で俺たちに出させようって腹か?生憎おれは余裕ねえから、今日は貸してやれねえぞ?」
「いやいや、本当に無いんだって!持ってきてねえはずはねえんだよ。茶屋に入るときに所持金確認したんだからよ。おっかしいな……」
どうやら冒険者の卓も会計のことで揉めそうな雰囲気だ。お金の問題はどんな仲良しグループでも崩壊のきっかけになりうる。前世でも、トラブルを起こした冒険者たちをよく取り押さえにいったものだ。
「はい、店員さん。床はキレイに拭いたのニャ。お兄さん、ちゃんと前向いてお茶飲まなきゃダメニャよ!」
「すまんすまん、あんたたちの話が面白くってついな。こんなたくさんの可愛い娘たちに囲まれて、あの男たちが羨ましいったらねえぜ」
「可愛いだニャんて、お兄さん正直者だニャあ!お礼に1曲披露しちゃおうかニャ?」
「へえ、嬢ちゃん歌を歌うのか!いや、でもそろそろ俺も旅を続けなきゃ、町に着く前に日が暮れちまうよ。また会ったらそのときにな。店員のお姉さん、お勘定頼む!!」
カウンターの男が立ち上がる。
「はーい。何だかお客さんみんな同時に会計の準備なんてしちゃって……。一気に愛想つかされちゃうとあたし寂しいわあ」
男はポケットからさっと銀貨を取り出す。銀貨は確か1000Lだったっけ。
「これで足りるかい?」
「ええ、ちょいとお待ちを。今お釣り出しますね」
そのとき、冒険者の男が不意に大声になる。
「いや、おかしい。まじでねえぞ!盗まれた!!誰だ、俺の財布盗ったやつは!!」
男が茶屋を見渡す。店内には僕らの一行のほかに冒険者仲間の彼らとカウンターの男、そして店員くらいしかいない。その容疑はもちろんその中の誰かに向けられ……。
「お前か!この泥棒猫!!」
男はマギーの腕を掴み、そう怒鳴ったのだった。
レナの絶叫がサンゲーン茶屋に響く。
「お待たせしました。まずこちらあん団子ですね。いちご大福、ういろう、そして鬼饅頭になります。他のものも順番にお持ちしますねー!」
店員が満面の笑みでお皿を並べていく。
「ふふ。頼れる財布はとことん頼る。それがスイーツハンターの嗜みよ!」
ユカリがそう言い放つ。熟々スイーツハンターとははた迷惑な職業だ。
「ね、ねえユカリちゃん?あなた、あれだけ食べていくらぐらいだったの?」
「んー、いくらかなあ。15,000Lくらい?まだ会計済ませてないからよく分からないけど」
ユカリの机に積み重ねられたお皿を数えてみると、ざっと30枚近くあった。メニューに視線を移す。安いものだと300Lだが、高いものでは1000Lを越えるものまである。スイーツハンターはお金の見積もりも甘口らしい。
「すみませんねえ、レナさん。スイーツハンターとして稼げるようになったら必ずお返ししますので」
「ね、ねえユカリちゃん?スイーツハンターが稼げるようになるのはいつくらい?というか稼ぎになるの?」
「んー、食べたスイーツの書評を旅先で売ったりはしてるけど、あまり期待はできないよね。そのまま旅先で日雇いの仕事受けて、お金が貯まったらまた旅に出る、その繰り返しよ」
つまり稼業というよりは趣味の範疇だな。メルーには他の働き口が見つかって欲しいものだ。彼はユカリの話を気にした様子もなく、黙々とスイーツを味わっていく。
「……はあ、すまねえレナさん。俺も手伝うから大目に見てやってくれ」
バートンが呆れながら頭を下げる。彼はお菓子を頼まずお茶だけ飲んでいた。
「バートンさん、あたしの味方はあなただけよ……うっ」
この茶屋は席についてお茶を飲むだけで料金が発生すると書いてあったが、今は黙っておこう。レナにそっとハンカチを差し出す。
「ところでマギーとルーミちゃんはお金持ってないの?」
ふと思い立ってレナが尋ねる。確かにポエトロの町から出てきた二人は財布を持っているかもしれないが。
「へ?マギーはお金持っちゃいけないらしいのニャ」
マギーが当然のように胸を張る。ルーミも首を横に振る。
「私はお母さんが持たせてくれませんでした。レナさんがいるんだから大丈夫だって。お母さん、レナさんのことを毛皮セレブって呼んでましたけど何のことですか?」
毛皮?まさかムーンハウンド……リュカの仲間たちの毛皮か?そういえばあれを売ったお金はどうしたんだろう。デミはあれでポエトロ一の大商人の嫁だ。そういう耳は早いのかもしれない。
「え!?いや、それは……」
レナは分かりやすく口ごもる。お金の心配はそれほどいらないのなもしれない。
それにしてもえげつないな。ポエトロの町を出た時点で、一行の出費のすべてをレナが肩代わりすることが確定していたようだ。
「今度ポエトロに寄ったらデミさんだからって容赦しないんだから!」
「ニャはははは!」
マギーがお気楽に笑い飛ばす。18歳にして財布を持つことを許されない彼女は、もう少し気にすべきだと思う。
「お次はカスタードプリン、カステラ、季節のシャーベット、そして栗金飩よ」
店員が次のお菓子を持ってくる。
「わあ……!お団子以外もどれも美味しそう!!メルーさん、私も少し貰っていい?」
ララが目を輝かせる。本当に村にいては見ることもできない珍しいものばかりだ。ミミやマギーも期待の眼差しを送る。
「折角ですからね。どうぞどうぞ!」
メルーがぽんとお腹を叩く。娘たちはやったとばかりに手を伸ばす。ルーミやゼルダ、マールも一口もらっていた。
「もう、あたしのお金だからね!!はあ……王都まで頑張ってね、あたしのお財布……」
「これで最後よ。ポン菓子に抹茶ティラミス、モンブランに八ッ橋もどきね」
もどき……って何だろう。八ッ橋というお菓子がどこかの国にあるのだろうか。
「お茶を飲みすぎたニャ。ちょっとトイレに行ってくるニャ」
マギーが席を立つ。おかわりのポットも何度か頼んでいた。
「それにしてもこんなにお菓子ばっかり食べたの初めて!幸せ~」
「ええ本当に。スイーツハンター、なんと素晴らしい仕事なのでしょう!!」
「分かってくれて嬉しいわ!それにしても、あなたたち随分戦いに巻き込まれてるのね。厄介事にはあまり首を突っ込むものじゃないわよ」
「そうよね。でもゼルダちゃんたちのことは依頼として引き受けちゃってるし、仕方ないわ」
「レナさん、それは私たちが疫病神だと?」
ゼルダがちらっと恨めしそうな目を向ける。
「レナさん、それは酷いですよ。アルタイルに酷い目に遭わされているゼルダさんたちを、あのまま放っておくなんて出来ません」
「そうね……。確かに放置してミミちゃんたちだけ連れてくるのは気が引けるわ。でも、テオン君意外と正義感強いのね」
「意外ですか?」
「そういえばポエトロの町でも一人で突っ走ってたわね。テオン君こそ疫病神なのかも」
「え!?そんな……ひどいです、レナさん」
口を尖らせる僕。どっと笑い声が起こる。さっきからこちらを見ていたカウンターの男もくすくすと笑っている。
最初は全種類のお菓子が運ばれていくのを珍しそうに見ていた彼も、今ではこちらの話を聞いて楽しんでいるようだ。笑いながらお茶に手を伸ばす。
「ふう、スッキリしたニャー」
マギーがトイレから出てきた。そのとき。
ぱりーん!ばしゃ!!
男が手を滑らせて湯呑みを落とし、床にお茶をこぼしてしまった。
「おっと!!すまねえ、嬢ちゃん掛かっちゃいないか?店員さん、悪いが雑巾あるか?」
「いえいえ、私が片付けますからどうぞそのままで」
店員は雑巾と袋を持ってくると、お茶にさっと雑巾を被せて割れた湯呑みを片付け始める。
「ビックリしたニャ。マギーも手伝うニャ」
マギーはしゃがみこみ、店員が被せた雑巾で床を拭き始める。
「あ、お客さんいいのに。でも助かります。ありがとう!」
「いっぱい美味しいお菓子を食べさせてもらったお礼ニャ。気にしなくていいのニャ」
マギーがニコッと笑いかける。
「ふうん、優しいアイルーロスもいるんだな」
通路の反対側に座っていた3人組の冒険者も、マギーを見て感心する。
「何だケイン。まださっきのこと根に持ってるのか?」
「そりゃ根に持つだろ。目の前で獲物を横取りされたんだぞ?くそ、あの泥棒猫だけは絶対許さねえ」
「仕方ないだろう?偶々同じ森で狩りをして、同じ獲物を狙ってしまったんだ。そして、あいつの技が止めを刺した。その獲物をおれたちが取ったらそれこそ泥棒だ」
「いいや、俺とキールの技が当たって隙が出来たんじゃねえか。先に攻撃を当てた俺らの獲物に、奴が手を出したとも言えるだろ」
どうやら彼らも何かあったらしい。冒険者の世界のルールはよく知らないが、ああして言い合っている冒険者を見ていると前世のことを思い出す。どこの世界でも荒くれ者たちは変わらず生きているんだな。
「まったく、落ち着くために茶屋に入ったってのに、思い出す度にそう熱くなってたんじゃ意味ないな。切り替えて次の獲物に向かおうぜ」
「そうだよケイン。俺たちにはバウアーの索敵がある。今日中にまた見つけられるって。冒険者にも譲り合い、だぜ」
「てめえ、人の団子取っといて譲り合いとはよく言えたもんだな」
「それはおめえ……ちまちま食べてんのが悪い」
「まあまあ、いい加減に落ち着けよ。てか何の話だよ!さて、床の片付けが終わったら俺たちは出発しよう。今のうちに会計をまとめておこうぜ」
彼らはメニューを見ながらお金を用意する。僕らもメルーが食べ終わったら出発だな。彼は既に最後のお皿に手をつけ始めている。
「はあ、お会計。憂鬱だわ……」
レナが分かりやすく溜め息をつく。ごちになります。
「おいキール!何してんだよ、早くしろよ」
「急かすなよケイン。今財布探してるんだよ。確かに上着のポケットに入れていたと思うんだけど」
「はあ。また財布忘れた演技で俺たちに出させようって腹か?生憎おれは余裕ねえから、今日は貸してやれねえぞ?」
「いやいや、本当に無いんだって!持ってきてねえはずはねえんだよ。茶屋に入るときに所持金確認したんだからよ。おっかしいな……」
どうやら冒険者の卓も会計のことで揉めそうな雰囲気だ。お金の問題はどんな仲良しグループでも崩壊のきっかけになりうる。前世でも、トラブルを起こした冒険者たちをよく取り押さえにいったものだ。
「はい、店員さん。床はキレイに拭いたのニャ。お兄さん、ちゃんと前向いてお茶飲まなきゃダメニャよ!」
「すまんすまん、あんたたちの話が面白くってついな。こんなたくさんの可愛い娘たちに囲まれて、あの男たちが羨ましいったらねえぜ」
「可愛いだニャんて、お兄さん正直者だニャあ!お礼に1曲披露しちゃおうかニャ?」
「へえ、嬢ちゃん歌を歌うのか!いや、でもそろそろ俺も旅を続けなきゃ、町に着く前に日が暮れちまうよ。また会ったらそのときにな。店員のお姉さん、お勘定頼む!!」
カウンターの男が立ち上がる。
「はーい。何だかお客さんみんな同時に会計の準備なんてしちゃって……。一気に愛想つかされちゃうとあたし寂しいわあ」
男はポケットからさっと銀貨を取り出す。銀貨は確か1000Lだったっけ。
「これで足りるかい?」
「ええ、ちょいとお待ちを。今お釣り出しますね」
そのとき、冒険者の男が不意に大声になる。
「いや、おかしい。まじでねえぞ!盗まれた!!誰だ、俺の財布盗ったやつは!!」
男が茶屋を見渡す。店内には僕らの一行のほかに冒険者仲間の彼らとカウンターの男、そして店員くらいしかいない。その容疑はもちろんその中の誰かに向けられ……。
「お前か!この泥棒猫!!」
男はマギーの腕を掴み、そう怒鳴ったのだった。
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