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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第4話 呼ばれて飛び出てユカリちゃん
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「見落とさなければ、このクイズはもう少し簡単になるのよ!」
レナはルーミにウインクしながらそう言い切る。レナは紙を取り出してクイズの解説をしていた。書いてくれたら少し分かりやすくなったが、正直理解できたかと言えばてんで分からない。紙も使わずここまで辿り着いたルーミは、僕から見たらかなり凄い。
「ひょえー、そうやって考えると大変だねー」
ミミが耳をぺたんと倒して紙とにらめっこをしている。
「答えが分かったミミよりも、ルーミの方が賢かったってことかニャ?やっぱりルーミはすごいのニャ!どーだ!!」
マギーがまるで自分のことのように彼女を誇る。
「でも見落としがあるんですよね。レナさん、どうしたら犯人がモエギになるんですか?」
「ふふ。いい?嘘っていうのはね、正しくないことを言うだけじゃないのよ。知らないことを知っているように言うのも嘘なの」
「知らないことを……?」
「そう。容疑者はみんな振り返らないで橋を渡ったの。自分より前に渡った人の順番は橋を渡り出すのを見てれば分かるけれど、後に渡った人の順番は、みんな渡りきる前に振り返らなきゃ分からないのよ」
「あっ!!振り返らないと後ろの様子見えない!ポットが言ってた」
僕は思わず声を上げる。確かルーミの様子を見るためにポットが振り返り、そのあとミミが「分かった」と叫んだのだった。
「よく覚えてたな、そんなの。自分で言ったのに今の今まで忘れてたよ」
「えっと……つまりそうなるとおかしくなるのは……?」
今度はミミが得意気に解説を引き継ぐ。
「そう、モエギがアカネより先に渡っていたら、彼女の言ったことの前半は必ず嘘になるの!」
モエギの発言は『アカネはアオイより後、私より前に渡った』だ。彼女がアカネより先に渡っていたら、彼女はアカネがアオイより後だとは知り得なかった……。あれ……?
「それは違うんじゃないかニャ?」
「負け惜しみを言うでない。私は正解してるのよ?」
食って掛かるマギーにミミは余裕の態度で応じて見せる。
「そうね、流石にそこまで簡単じゃないわよ?」
「先に渡ったモエギよりも前にアオイがいたら、モエギはアオイがアカネより先に渡ったと分かるニャ」
マギーは冷静に指摘する。あれ、まだお昼だよね?
「あ……」
「ほーら、やっぱりミミは分かってなかったニャ!」
マギーは大笑いして耳をからかう。うん、お昼だ。
「うー、答えが合ってるんだから良いじゃんー」
「そうですね、一応アオイの発言と比べればすぐにその可能性は消えるのですが、完全に見落としていたのなら減点です」
「そんなぁ」
「えっと、その場合はアオイの後ろにモエギ、アカネ、ユカリの3人がいるからアオイは3番目ではないけど、モエギが最初でもない。だからモエギはアカネより後。アオイは3番目でミドリも犯人じゃないからモエギが犯人……。おお、私にも出来ました!!」
ゼルダがさらっと解説を仕上げる。改めて考えると簡単ではないと思うが、こういうのは聞いていると簡単に思えてしまうから不思議だ。
見ると彼女の団子は既に無くなっている。しばらく黙っていたと思ったら甘味に夢中だったのか。
「うう。分かったと思ったのに、悔しいー!!そもそも仲間が吊り橋から落ちて何で振り向かないの?」
ミミが文句を言いながらどら焼にかじりつく。あれも美味しそうだ。
「ユカリは声が出なかったのです。悲鳴をあげれず気付いて貰えなかったのでしょう」
「何だか可哀想ですね。誰にも気付いてもらえないまま橋から落とされるなんて……。モエギはどうしてユカリを?」
「え?さ、さあ……?ただの推理クイズなので動機なんて考えたことありませんでしたわ」
「もう!黙って突き落とされたユカリが悪い!!」
ミミが大声で叫ぶ。
「理不尽ニャ!物言わぬ被害者に罪を着せるニャ!ユカリを殺したモエギが悪いに決まってるのニャ!!」
「しーっ!お店の中ですよ、マギー、ミミさん!たかがクイズで本気で喧嘩しないでください!!」
ルーミに叱られてしゅんとする二人。するとそこへ……。
「あたしが殺された?黙ってたあたしが悪い?いきなり何なのよ、あなたたち」
隣で静かに団子を食べてた女の子が話しかけてきたのだった。
「あはははっ!!なんだただのクイズだったの!いきなり悪かったわね。あたしはユカリ、旅のスイーツハンターよ。ユカリちゃんって呼んで?」
そう名乗った少女はにかっと笑う。こんがりと焼けた肌に白い歯がまばゆく輝く。背はララより少し低いくらい。肩までの長さで揺れる黒髪は若干青みを帯びていた。大きな瞳が僕らを順番に見ていく。
「まさか私が出したクイズの登場人物と同じ名前の人が隣にいたなんて、驚かせてすみませんでした」
リットが頭を下げる。彼女から順番に自己紹介をしていく。
「こんな大人数で砂漠からねー。大変だったでしょ?ここのお茶は美味しいだけじゃなく疲れを癒す効果があるのよ。ゆっくりしていくと良いわ」
「へー、それでミミがこんなに騒がしくなっちゃったのニャ」
「ぶー、マギーほどじゃないよーだ」
「いつまで喧嘩してるの!恥ずかしいからやめてください」
またルーミに叱られる。
「あら、お嬢さん小さいのにしっかりしてるのね。偉いねー。そちらのお嬢さんもお行儀よくて」
ユカリはルーミを誉めた後ゼルダを見る。やっぱりその二人は同い年くらいに見えますよね。
「いえ、私は……」「何を無礼な!?この方はこう見えて聖都ペトラの長老、私よりも、恐らくあなたよりも歳上なのですよ!!」
穏やかに否定しようとしたゼルダに被さるように、ファムが強く否定する。彼は彼女のこととなると少し冷静を欠くところがあるのだった。
「へえー、聖都ペトラの!あ、確かペトラって5年前に……。いつか行ってみたいと思っていたのよね。マジカルデーツを使った砂漠ならではのスイーツ、まだ食べたことなかったのに」
どうやらペトラ滅亡の話は知れ渡っているようだ。マジカルデーツ……エリモ砂漠の特産でクレーネの商店でも見かけた、砂漠の栄養食として重宝される木の実だ。
砂漠ならでは……とはつまり、彼女にとっては否応なく故郷を思い出してしまうものなのだろう。ゼルダは途端に寂しげな顔になる。
「そうですね、私の目標は聖都の復活です。いつかあのお菓子も復活させて見せます」
「へー、都をひとつ復興させるなんて立派な志ね!お嬢さんなんて呼んだこと、謝るわ」
少し重くなった空気を変えようと、今度はレナが口を開いた。
「ところでユカリさん、スイーツハンターって……」「ユカリちゃん」
「ユカリさ……」「ユカリちゃん」
どうやらユカリはちゃん付けに深いこだわりがあるようだ。
「ユカリ……ちゃん?あの、スイーツハンターって何?」
それは僕も気になっていた。初めて聞く名称だ。ただの職業だろうか、それともジョブなのだろうか。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!!スイーツハンター、それはどこの世界でも人の心を満たし続ける神秘、スイーツを探し求めて世界中を練り歩く、夢と希望に溢れたハンターよ」
彼女は急に声のトーンを上げて叫ぶ。
「それは……ジョブなの?」
「そんなわけないでしょ?スイーツを探すのにレベルシステムの補助なんて要らないわよ。必要なのは飽くなき好奇心と、困難を乗り越える強い意思だけよ。人生懸ける覚悟があれば、誰だってスイーツハンターなのよ!!」
大音声が茶屋中に響く。店の奥で店員が苦笑いしている。
「そんな職業があるのですか!?スイーツハンター。ああ、なんと甘美な響き……」
恍惚とした顔になっているのはメルーだ。他の面々はみな戸惑いを顔に張り付けて固まっている。
「私も甘いものには目がなくてですね。帝国にいた頃からなけなしの給金をつぎ込んできましたとも」
メルーの話では帝国の奴隷はある程度の自由が保証されているらしい。労働に見合った給金が渡され、奴隷たちはその中で自由に衣食住を満たしていく。聞けば聞くほど普通の労働者のようだった。
そこから逃げてきたメルーとバートンはいわば無職。旅をしながらこの国でどんな仕事に就けるかを考えたいと言っていた。メルーとユカリの出会いは、ある意味運命的とも言えるのかもしれない。
「……いらっしゃいませー!どうぞごゆっくり!!」
店員がいつも通りの声を上げる。新しいお客さんがやってきたようだ。
「おじさんもスイーツハンター目指してみる?甘いものに囲まれて幸せよ!だけどなるのは甘くないわ。その覚悟がおあり?」
ユカリとメルーはすっかり意気投合している。
ぞろぞろとやって来た新規客は3人組の男だった。剣使い、斧使い、そして槍使い。三者三様の武器を携え、魔物の毛皮で作った衣服に身を包む。前世でもよく見た典型的な冒険者稼業の出で立ちだ。
3人は僕らの反対側の座敷へ上がった。だんだん店の中が手狭になっていく。僕らはそろそろお暇した方がいいかもしれない。皆の前には既に空になったお皿が並んでいる。
「皆食べ終わったしそろそろ……」「ではスイーツハンターメルーとしての初仕事いきますよ!店員のお姉さん、このお店のお菓子、全種類ください!!」
……は!?
メルーはユカリに言われるままメニューを嬉しそうに眺めている。それにしても全種類だと?ふと見てみると、ユカリが座っていた机には空の皿がいくつも並んでいる。あれをすべて一人で……。
「スイーツハンターたるもの、出会ったスイーツはすべて頂く。妥協をしたらそれまでよ!!」
スイーツハンター、とんでもない修羅道じゃないか!!
「ちょっとメルーさん?お金は足りるの?」
「え?あ、いや……すみません、こちらの通貨はリブラでしたよね。私リブラは持っていないんです。レナさん、お願いしますね」
「う……嘘でしょ?」
はっとして皆を見回すレナ。
「お金、持ってる人……?」
誰も手を上げない。村から来た僕とララも、帝国から逃げてきた面々も。
「う、嘘でしょー!!」
レナはルーミにウインクしながらそう言い切る。レナは紙を取り出してクイズの解説をしていた。書いてくれたら少し分かりやすくなったが、正直理解できたかと言えばてんで分からない。紙も使わずここまで辿り着いたルーミは、僕から見たらかなり凄い。
「ひょえー、そうやって考えると大変だねー」
ミミが耳をぺたんと倒して紙とにらめっこをしている。
「答えが分かったミミよりも、ルーミの方が賢かったってことかニャ?やっぱりルーミはすごいのニャ!どーだ!!」
マギーがまるで自分のことのように彼女を誇る。
「でも見落としがあるんですよね。レナさん、どうしたら犯人がモエギになるんですか?」
「ふふ。いい?嘘っていうのはね、正しくないことを言うだけじゃないのよ。知らないことを知っているように言うのも嘘なの」
「知らないことを……?」
「そう。容疑者はみんな振り返らないで橋を渡ったの。自分より前に渡った人の順番は橋を渡り出すのを見てれば分かるけれど、後に渡った人の順番は、みんな渡りきる前に振り返らなきゃ分からないのよ」
「あっ!!振り返らないと後ろの様子見えない!ポットが言ってた」
僕は思わず声を上げる。確かルーミの様子を見るためにポットが振り返り、そのあとミミが「分かった」と叫んだのだった。
「よく覚えてたな、そんなの。自分で言ったのに今の今まで忘れてたよ」
「えっと……つまりそうなるとおかしくなるのは……?」
今度はミミが得意気に解説を引き継ぐ。
「そう、モエギがアカネより先に渡っていたら、彼女の言ったことの前半は必ず嘘になるの!」
モエギの発言は『アカネはアオイより後、私より前に渡った』だ。彼女がアカネより先に渡っていたら、彼女はアカネがアオイより後だとは知り得なかった……。あれ……?
「それは違うんじゃないかニャ?」
「負け惜しみを言うでない。私は正解してるのよ?」
食って掛かるマギーにミミは余裕の態度で応じて見せる。
「そうね、流石にそこまで簡単じゃないわよ?」
「先に渡ったモエギよりも前にアオイがいたら、モエギはアオイがアカネより先に渡ったと分かるニャ」
マギーは冷静に指摘する。あれ、まだお昼だよね?
「あ……」
「ほーら、やっぱりミミは分かってなかったニャ!」
マギーは大笑いして耳をからかう。うん、お昼だ。
「うー、答えが合ってるんだから良いじゃんー」
「そうですね、一応アオイの発言と比べればすぐにその可能性は消えるのですが、完全に見落としていたのなら減点です」
「そんなぁ」
「えっと、その場合はアオイの後ろにモエギ、アカネ、ユカリの3人がいるからアオイは3番目ではないけど、モエギが最初でもない。だからモエギはアカネより後。アオイは3番目でミドリも犯人じゃないからモエギが犯人……。おお、私にも出来ました!!」
ゼルダがさらっと解説を仕上げる。改めて考えると簡単ではないと思うが、こういうのは聞いていると簡単に思えてしまうから不思議だ。
見ると彼女の団子は既に無くなっている。しばらく黙っていたと思ったら甘味に夢中だったのか。
「うう。分かったと思ったのに、悔しいー!!そもそも仲間が吊り橋から落ちて何で振り向かないの?」
ミミが文句を言いながらどら焼にかじりつく。あれも美味しそうだ。
「ユカリは声が出なかったのです。悲鳴をあげれず気付いて貰えなかったのでしょう」
「何だか可哀想ですね。誰にも気付いてもらえないまま橋から落とされるなんて……。モエギはどうしてユカリを?」
「え?さ、さあ……?ただの推理クイズなので動機なんて考えたことありませんでしたわ」
「もう!黙って突き落とされたユカリが悪い!!」
ミミが大声で叫ぶ。
「理不尽ニャ!物言わぬ被害者に罪を着せるニャ!ユカリを殺したモエギが悪いに決まってるのニャ!!」
「しーっ!お店の中ですよ、マギー、ミミさん!たかがクイズで本気で喧嘩しないでください!!」
ルーミに叱られてしゅんとする二人。するとそこへ……。
「あたしが殺された?黙ってたあたしが悪い?いきなり何なのよ、あなたたち」
隣で静かに団子を食べてた女の子が話しかけてきたのだった。
「あはははっ!!なんだただのクイズだったの!いきなり悪かったわね。あたしはユカリ、旅のスイーツハンターよ。ユカリちゃんって呼んで?」
そう名乗った少女はにかっと笑う。こんがりと焼けた肌に白い歯がまばゆく輝く。背はララより少し低いくらい。肩までの長さで揺れる黒髪は若干青みを帯びていた。大きな瞳が僕らを順番に見ていく。
「まさか私が出したクイズの登場人物と同じ名前の人が隣にいたなんて、驚かせてすみませんでした」
リットが頭を下げる。彼女から順番に自己紹介をしていく。
「こんな大人数で砂漠からねー。大変だったでしょ?ここのお茶は美味しいだけじゃなく疲れを癒す効果があるのよ。ゆっくりしていくと良いわ」
「へー、それでミミがこんなに騒がしくなっちゃったのニャ」
「ぶー、マギーほどじゃないよーだ」
「いつまで喧嘩してるの!恥ずかしいからやめてください」
またルーミに叱られる。
「あら、お嬢さん小さいのにしっかりしてるのね。偉いねー。そちらのお嬢さんもお行儀よくて」
ユカリはルーミを誉めた後ゼルダを見る。やっぱりその二人は同い年くらいに見えますよね。
「いえ、私は……」「何を無礼な!?この方はこう見えて聖都ペトラの長老、私よりも、恐らくあなたよりも歳上なのですよ!!」
穏やかに否定しようとしたゼルダに被さるように、ファムが強く否定する。彼は彼女のこととなると少し冷静を欠くところがあるのだった。
「へえー、聖都ペトラの!あ、確かペトラって5年前に……。いつか行ってみたいと思っていたのよね。マジカルデーツを使った砂漠ならではのスイーツ、まだ食べたことなかったのに」
どうやらペトラ滅亡の話は知れ渡っているようだ。マジカルデーツ……エリモ砂漠の特産でクレーネの商店でも見かけた、砂漠の栄養食として重宝される木の実だ。
砂漠ならでは……とはつまり、彼女にとっては否応なく故郷を思い出してしまうものなのだろう。ゼルダは途端に寂しげな顔になる。
「そうですね、私の目標は聖都の復活です。いつかあのお菓子も復活させて見せます」
「へー、都をひとつ復興させるなんて立派な志ね!お嬢さんなんて呼んだこと、謝るわ」
少し重くなった空気を変えようと、今度はレナが口を開いた。
「ところでユカリさん、スイーツハンターって……」「ユカリちゃん」
「ユカリさ……」「ユカリちゃん」
どうやらユカリはちゃん付けに深いこだわりがあるようだ。
「ユカリ……ちゃん?あの、スイーツハンターって何?」
それは僕も気になっていた。初めて聞く名称だ。ただの職業だろうか、それともジョブなのだろうか。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!!スイーツハンター、それはどこの世界でも人の心を満たし続ける神秘、スイーツを探し求めて世界中を練り歩く、夢と希望に溢れたハンターよ」
彼女は急に声のトーンを上げて叫ぶ。
「それは……ジョブなの?」
「そんなわけないでしょ?スイーツを探すのにレベルシステムの補助なんて要らないわよ。必要なのは飽くなき好奇心と、困難を乗り越える強い意思だけよ。人生懸ける覚悟があれば、誰だってスイーツハンターなのよ!!」
大音声が茶屋中に響く。店の奥で店員が苦笑いしている。
「そんな職業があるのですか!?スイーツハンター。ああ、なんと甘美な響き……」
恍惚とした顔になっているのはメルーだ。他の面々はみな戸惑いを顔に張り付けて固まっている。
「私も甘いものには目がなくてですね。帝国にいた頃からなけなしの給金をつぎ込んできましたとも」
メルーの話では帝国の奴隷はある程度の自由が保証されているらしい。労働に見合った給金が渡され、奴隷たちはその中で自由に衣食住を満たしていく。聞けば聞くほど普通の労働者のようだった。
そこから逃げてきたメルーとバートンはいわば無職。旅をしながらこの国でどんな仕事に就けるかを考えたいと言っていた。メルーとユカリの出会いは、ある意味運命的とも言えるのかもしれない。
「……いらっしゃいませー!どうぞごゆっくり!!」
店員がいつも通りの声を上げる。新しいお客さんがやってきたようだ。
「おじさんもスイーツハンター目指してみる?甘いものに囲まれて幸せよ!だけどなるのは甘くないわ。その覚悟がおあり?」
ユカリとメルーはすっかり意気投合している。
ぞろぞろとやって来た新規客は3人組の男だった。剣使い、斧使い、そして槍使い。三者三様の武器を携え、魔物の毛皮で作った衣服に身を包む。前世でもよく見た典型的な冒険者稼業の出で立ちだ。
3人は僕らの反対側の座敷へ上がった。だんだん店の中が手狭になっていく。僕らはそろそろお暇した方がいいかもしれない。皆の前には既に空になったお皿が並んでいる。
「皆食べ終わったしそろそろ……」「ではスイーツハンターメルーとしての初仕事いきますよ!店員のお姉さん、このお店のお菓子、全種類ください!!」
……は!?
メルーはユカリに言われるままメニューを嬉しそうに眺めている。それにしても全種類だと?ふと見てみると、ユカリが座っていた机には空の皿がいくつも並んでいる。あれをすべて一人で……。
「スイーツハンターたるもの、出会ったスイーツはすべて頂く。妥協をしたらそれまでよ!!」
スイーツハンター、とんでもない修羅道じゃないか!!
「ちょっとメルーさん?お金は足りるの?」
「え?あ、いや……すみません、こちらの通貨はリブラでしたよね。私リブラは持っていないんです。レナさん、お願いしますね」
「う……嘘でしょ?」
はっとして皆を見回すレナ。
「お金、持ってる人……?」
誰も手を上げない。村から来た僕とララも、帝国から逃げてきた面々も。
「う、嘘でしょー!!」
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