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第1章 アルト村の新英雄
第13話 アルト村へようこそ!
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―――8年前
俺は流れの冒険者だ。今はポエトロって町を根城にしている。このところ犬型の魔物、ハウンドが増えてきたってんで、早速東の草原まで狩りに来てるんだが……。
「くそっ!何て数だ……」
周りには……ざっと15匹くらいのハウンド。絶体絶命だぜ。俺は手にした槍をグッと構えて警戒する。さっき噛みつかれた右足の傷がどくどくと痛む。
「よう、兄ちゃん。助太刀するぜ」
声と同時に後ろのハウンドが突然弾けとんだ。なんて強い救援だ。
「怪我はなかったかい?」
助けに来てくれた人は鮮やかな剣捌きであっという間に全滅させた。手にしてる武器はショートソードの類いだと思うが、俺ならナイフだってあんな速度じゃ振れないだろう。思わず見とれちまった。
「ああ、ありがとう。だがこの通り足をやられちまって。兄さん、この辺りに住んでる人か?」
「おう、この近くのアルト村だ。怪我を治せるやつもいるから来なよ。一人で歩けるか?」
「ああ、何とか大丈夫だ。お言葉に甘えて寄らせてもらうよ」
俺は槍を杖がわりにして男に付いていった。アルト村か……。新しい村との出会いに、わくわくした。
「これで大丈夫さね。まあしばらくは安静が必要だから、この村でゆっくりしていきな」
アルト村にやって来た俺は、まず村長の家に連れていかれた。流石にいきなり余所者を好きに歩かせるわけにはいかないらしい。村長に挨拶してる間にこのおかみさん、クラがさっと治療してくれた。
「ありがとう、クラ姉さん。こりゃいい腕してるな」
町の医院や冒険者の治癒魔法士に世話になったこともあるが、この人の治療は迅速かつ丁寧だった。
「うちの村の自慢の治癒士さ。普段は客も来ない宿屋でのんびりしてるけどな」
軽口を叩いてクラにひっぱたかれてるのは、さっき俺を助けてくれたハイルだ。村一番の狩人らしい。
「ハイル兄さんもありがとう。兄さんが来てくれなきゃ、あそこでお陀仏だった。あんたは恩人だ」
「いいってことよ!よし、今から俺が村を案内してやろう……と思ったが俺はあの大量の犬っころ解体しなきゃなんねえんだ。どうしたものか……お、テオンいいところに!今俺の客が村に来てるんだ。案内してやってくれないか?」
ハイルが家の外に声をかける。なるほど、俺を案内してくれるのはテオンって子か。間を開けずにテオンの元気な返事が聞こえてきた。
「今忙しいからやだー!!」
ごつんっ!!
村長の屋敷の前は広場になっていた。子供たちが木に登って遊んでいる。村の外周は高い木製の柵で囲われていて、村の形はここからでも丸分かりだ。まるで瓢箪のような形だった。ここはその真ん中の括れにあたる場所だ。村の中心ということなのだろう。
「坊主、忙しいって言ってなかったか?」
「え?な、なんのことー?」
さっきハイルに作られた頭のたんこぶを撫でながらとぼけて見せる。嘘の下手な子だ。
「それじゃ、何して遊ぶ?」
「案内じゃねえのかよ」
「あはは!じょーだんだよ!はい、まずここが僕のうちね」
最初に連れてこられたのは鍛冶屋だった。広場に程近い柵沿いに建っていた。木造の平屋に石造りの工房が併設され、歪な形だった。
「父ちゃーん、お客さん!」
「おい、テオン!仕事中は危ないから入ってくんな!」
中では真っ赤な石窯が火の粉を撒き散らしている。金床の上には金属の棒が乗せられている。
「親父さん、邪魔して悪い。俺はさっきハウンドに襲われてたところをハイルさんに助けてもらった者で。彼の使ってたショートソード、あれは親父さんが?」
「ん?村の金属製の武器は殆ど俺が作った。俺はジグだ、よろしく」
「ジグ!?あんたがジグか!町でもあんたの剣は見かけるぜ!ああすまん、俺は普段ポエトロって町にいるんだ。ジグの剣はここいらじゃ一番の品だって評判だよ!」
「ん……。そうかい」
「あー!父ちゃん照れてるー!」
「うっせえぞ、あっち行ってろ!」
「なあテオン、ここにいると親父さんの邪魔だ。次のとこ、連れてってくれねえか?」
「わかった!じゃあ父ちゃん頑張ってね」
まさか名工ジグがこんなところに住んでたとは。本当に会えて光栄だ。俺の槍も打ってくれないかな。
「ここはね、僕たちの学校なんだ」
次にやって来たのは大きな木の根元だ。丈20Mはあろうかという木の幹の回りに、木製の椅子と机が並べてある。一番前にある大きな机は先生のものだろう。黒板らしきものは見当たらないな。
「朝からお昼までね、ここで先生が色んな話をしてくれるんだよ!それからみんなで文字を書いたり計算したりするの!」
こんな村でもちゃんと文字は教えているのか。教育面では下手な貴族の治める土地よりましかもしれない。
「生徒は何人くらいなんだ?」
「えっとねー、僕、アム、ディンにララにハナ姉に、最近エナナって子が新しく来たんだよ!」
全部で6人?えらい少ないな。
「あら?テオン君、その人はお友だち?」
後ろから声がして振り向くと、そこには女の子が二人、手を繋いで立っていた。
「ハナ姉!ララ!この人ね、ハイルのお客さんのお兄ちゃん!」
「ハイルさんのお客さん?」
受け答えをしているお姉さんの方がハナちゃんだろうか。幼い顔だがすらりとしていて長い黒髪が綺麗だった。ララちゃんは妹だろうか。不安そうにハナちゃんの後ろに隠れている。テオンよりは背が大きそうだが、人見知りだろうか。
俺は手短に自己紹介して、ちょっと手品を見せてあげる。袖口から花を出すだけの簡単なものだ。
「このお花は妹ちゃんにあげよう!」
にこっと必殺スマイルを浮かべてみる。
「あ、ララはハナ姉の妹じゃないよ!アムの妹だよ!」
「私、知らない人から物は貰いません」
間違えた上に拒絶されてしまった。手を繋いでいるし二人とも珍しい黒髪だったからてっきり姉妹なのだと思ってしまった。
「あの、この花私が貰っていいですか?赤い花、好きなんです」
落ち込んでいる僕の手を取って、ハナちゃんがお花をねだる。
「うん、どうぞ」
今度こそ満面の笑みで花を髪に差してあげた。うん、似合う。ハナちゃんはえへへ、と笑ってララちゃんに自慢して見せた。ああ、天使……!!
次にやって来たのは兵士の詰め所だった。大男が木の人形を槍で突いている。一目で強者だと分かった。眺めていると茶髪の若者が修練場に入ってきた。彼はさっき村に入るときに見た門番だ。
「トウ兄ちゃんだよ!この間せーじんして門番になったんだ」
成人したばかりと言うことは15歳か。そうは見えないほど落ち着いている。
「トウ兄ちゃんはおーとから来たんだって。びょーまから逃げてきたっていってた」
びょーま??あ、病魔かな。王都では8年前の夏、流行り病に襲われた。大勢の感染者が満足な治療も受けられず、王都から追い出されたと聞く。そのときトウは……6、7歳か。辛い思いをしたのだろう。
トウは先にいた大男と少し話すと、詰め所の中に入っていった。そこで大男がこちらに気付き、手を振るテオンに応えながら近づいてきた。
「ハイルが連れてきた旅人ってあんたか?俺はユズキだ。よろしく!」
「そういえばユズキ兄、来週誕生日だね!」
「おっ!テオンよく覚えてたな。ありがとな。何かプレゼントしてくれるのか?」
「うーん、来週まで覚えてたらあげるね!」
「なんだそりゃ!そうだ旅の人。あんたポエトロの町を拠点にしてるんだろ?アストとかデミの噂、知らないか?二人ともこの村の出身なんだが……」
「アストにデミ……。え!?長剣使いのアストさんに『幻のアイドル』デミさん?」
「ま、幻のアイドル!?」
「幻のアイドル」デミとはポエトロの町に突如現れた踊り子で、野性味溢れる衣装に激しく華麗なダンス、精密なナイフ捌きによるパフォーマンスで一躍人気者になった。子供を授かって1年足らずで引退したんだが、今でも気が向いたときに踊り、その希少性から幻と呼ばれてる。
「デミのやつ子供生まれたのか!それ、ハイルに教えてやれよ。あいつ喜ぶぞ!」
「えっ!デミさん、ハイルさんの娘さんか何かなんで?」
「そう思うだろ?だが驚くなかれ、ハイルの初弟子にして、元嫁だ!二人の間には子供もいるんだぞ」
「えっ!!でもデミさん、めっちゃ若いっすよ?」
「そりゃ19歳差の夫婦だったからな。見た目的には違和感なかったけど」
「さすがハイルさん」
「あっ!その二人の子供がディンだよね!」
「そうだよ。よく分かったな。二人とも狩人としては天才だからな。ディンの将来も楽しみだ」
「あれ?でも今デミさん別の旦那さんいるんじゃ?」
「まあ、それはそういうことだ。別れてから行商に来た男に持っていかれたのさ」
「なんか色々複雑な事情がありそうだな」
「聞きたいか?でも子供の前じゃ話しづらいな」
「えー?僕もじじょー聞きたいー!」
「あ、じゃあ俺たちはこれで失礼するんで、またの機会にでも!」
「おう!」
「ぶー!!!!」
あ、そういえばアストについて聞くの忘れてたな。そう思ってテオンに聞いてみた。
アストは去年までポエトロにいた冒険者だ。俺も少し見かけたことがある。長身細身の美丈夫で、流れるように長剣を振るう姿は最早芸術だ。多くの画家が彼の狩りに同行してはその姿を収めていった。もちろん強さも抜群で、町の近くに現れた巨大熊――テラグリズリーを単身討伐して他の町に名前が知れ渡った。
「アスト兄はユズキ兄の弟だよ!」
「なんだって!!もっとアストさんの話すればよかった……。何であの人弟の話よりデミさんの話を聞きたがったんだよ。もしかして女好き?」
「あははは!ユズキ兄は女好きー!」
まあまた話す機会もあるか。そのときに昔話とか聞かせてもらおう。強さの秘訣が分かるかもしれない。
「次はどこにいこうかなー」
そう言いながらもテオンはすたすた歩いていく。まだ日は高い。さっきから意外と有名人多いし、実力者も多そうだ。次はどんな人に会えるのか、楽しみだ。
俺は流れの冒険者だ。今はポエトロって町を根城にしている。このところ犬型の魔物、ハウンドが増えてきたってんで、早速東の草原まで狩りに来てるんだが……。
「くそっ!何て数だ……」
周りには……ざっと15匹くらいのハウンド。絶体絶命だぜ。俺は手にした槍をグッと構えて警戒する。さっき噛みつかれた右足の傷がどくどくと痛む。
「よう、兄ちゃん。助太刀するぜ」
声と同時に後ろのハウンドが突然弾けとんだ。なんて強い救援だ。
「怪我はなかったかい?」
助けに来てくれた人は鮮やかな剣捌きであっという間に全滅させた。手にしてる武器はショートソードの類いだと思うが、俺ならナイフだってあんな速度じゃ振れないだろう。思わず見とれちまった。
「ああ、ありがとう。だがこの通り足をやられちまって。兄さん、この辺りに住んでる人か?」
「おう、この近くのアルト村だ。怪我を治せるやつもいるから来なよ。一人で歩けるか?」
「ああ、何とか大丈夫だ。お言葉に甘えて寄らせてもらうよ」
俺は槍を杖がわりにして男に付いていった。アルト村か……。新しい村との出会いに、わくわくした。
「これで大丈夫さね。まあしばらくは安静が必要だから、この村でゆっくりしていきな」
アルト村にやって来た俺は、まず村長の家に連れていかれた。流石にいきなり余所者を好きに歩かせるわけにはいかないらしい。村長に挨拶してる間にこのおかみさん、クラがさっと治療してくれた。
「ありがとう、クラ姉さん。こりゃいい腕してるな」
町の医院や冒険者の治癒魔法士に世話になったこともあるが、この人の治療は迅速かつ丁寧だった。
「うちの村の自慢の治癒士さ。普段は客も来ない宿屋でのんびりしてるけどな」
軽口を叩いてクラにひっぱたかれてるのは、さっき俺を助けてくれたハイルだ。村一番の狩人らしい。
「ハイル兄さんもありがとう。兄さんが来てくれなきゃ、あそこでお陀仏だった。あんたは恩人だ」
「いいってことよ!よし、今から俺が村を案内してやろう……と思ったが俺はあの大量の犬っころ解体しなきゃなんねえんだ。どうしたものか……お、テオンいいところに!今俺の客が村に来てるんだ。案内してやってくれないか?」
ハイルが家の外に声をかける。なるほど、俺を案内してくれるのはテオンって子か。間を開けずにテオンの元気な返事が聞こえてきた。
「今忙しいからやだー!!」
ごつんっ!!
村長の屋敷の前は広場になっていた。子供たちが木に登って遊んでいる。村の外周は高い木製の柵で囲われていて、村の形はここからでも丸分かりだ。まるで瓢箪のような形だった。ここはその真ん中の括れにあたる場所だ。村の中心ということなのだろう。
「坊主、忙しいって言ってなかったか?」
「え?な、なんのことー?」
さっきハイルに作られた頭のたんこぶを撫でながらとぼけて見せる。嘘の下手な子だ。
「それじゃ、何して遊ぶ?」
「案内じゃねえのかよ」
「あはは!じょーだんだよ!はい、まずここが僕のうちね」
最初に連れてこられたのは鍛冶屋だった。広場に程近い柵沿いに建っていた。木造の平屋に石造りの工房が併設され、歪な形だった。
「父ちゃーん、お客さん!」
「おい、テオン!仕事中は危ないから入ってくんな!」
中では真っ赤な石窯が火の粉を撒き散らしている。金床の上には金属の棒が乗せられている。
「親父さん、邪魔して悪い。俺はさっきハウンドに襲われてたところをハイルさんに助けてもらった者で。彼の使ってたショートソード、あれは親父さんが?」
「ん?村の金属製の武器は殆ど俺が作った。俺はジグだ、よろしく」
「ジグ!?あんたがジグか!町でもあんたの剣は見かけるぜ!ああすまん、俺は普段ポエトロって町にいるんだ。ジグの剣はここいらじゃ一番の品だって評判だよ!」
「ん……。そうかい」
「あー!父ちゃん照れてるー!」
「うっせえぞ、あっち行ってろ!」
「なあテオン、ここにいると親父さんの邪魔だ。次のとこ、連れてってくれねえか?」
「わかった!じゃあ父ちゃん頑張ってね」
まさか名工ジグがこんなところに住んでたとは。本当に会えて光栄だ。俺の槍も打ってくれないかな。
「ここはね、僕たちの学校なんだ」
次にやって来たのは大きな木の根元だ。丈20Mはあろうかという木の幹の回りに、木製の椅子と机が並べてある。一番前にある大きな机は先生のものだろう。黒板らしきものは見当たらないな。
「朝からお昼までね、ここで先生が色んな話をしてくれるんだよ!それからみんなで文字を書いたり計算したりするの!」
こんな村でもちゃんと文字は教えているのか。教育面では下手な貴族の治める土地よりましかもしれない。
「生徒は何人くらいなんだ?」
「えっとねー、僕、アム、ディンにララにハナ姉に、最近エナナって子が新しく来たんだよ!」
全部で6人?えらい少ないな。
「あら?テオン君、その人はお友だち?」
後ろから声がして振り向くと、そこには女の子が二人、手を繋いで立っていた。
「ハナ姉!ララ!この人ね、ハイルのお客さんのお兄ちゃん!」
「ハイルさんのお客さん?」
受け答えをしているお姉さんの方がハナちゃんだろうか。幼い顔だがすらりとしていて長い黒髪が綺麗だった。ララちゃんは妹だろうか。不安そうにハナちゃんの後ろに隠れている。テオンよりは背が大きそうだが、人見知りだろうか。
俺は手短に自己紹介して、ちょっと手品を見せてあげる。袖口から花を出すだけの簡単なものだ。
「このお花は妹ちゃんにあげよう!」
にこっと必殺スマイルを浮かべてみる。
「あ、ララはハナ姉の妹じゃないよ!アムの妹だよ!」
「私、知らない人から物は貰いません」
間違えた上に拒絶されてしまった。手を繋いでいるし二人とも珍しい黒髪だったからてっきり姉妹なのだと思ってしまった。
「あの、この花私が貰っていいですか?赤い花、好きなんです」
落ち込んでいる僕の手を取って、ハナちゃんがお花をねだる。
「うん、どうぞ」
今度こそ満面の笑みで花を髪に差してあげた。うん、似合う。ハナちゃんはえへへ、と笑ってララちゃんに自慢して見せた。ああ、天使……!!
次にやって来たのは兵士の詰め所だった。大男が木の人形を槍で突いている。一目で強者だと分かった。眺めていると茶髪の若者が修練場に入ってきた。彼はさっき村に入るときに見た門番だ。
「トウ兄ちゃんだよ!この間せーじんして門番になったんだ」
成人したばかりと言うことは15歳か。そうは見えないほど落ち着いている。
「トウ兄ちゃんはおーとから来たんだって。びょーまから逃げてきたっていってた」
びょーま??あ、病魔かな。王都では8年前の夏、流行り病に襲われた。大勢の感染者が満足な治療も受けられず、王都から追い出されたと聞く。そのときトウは……6、7歳か。辛い思いをしたのだろう。
トウは先にいた大男と少し話すと、詰め所の中に入っていった。そこで大男がこちらに気付き、手を振るテオンに応えながら近づいてきた。
「ハイルが連れてきた旅人ってあんたか?俺はユズキだ。よろしく!」
「そういえばユズキ兄、来週誕生日だね!」
「おっ!テオンよく覚えてたな。ありがとな。何かプレゼントしてくれるのか?」
「うーん、来週まで覚えてたらあげるね!」
「なんだそりゃ!そうだ旅の人。あんたポエトロの町を拠点にしてるんだろ?アストとかデミの噂、知らないか?二人ともこの村の出身なんだが……」
「アストにデミ……。え!?長剣使いのアストさんに『幻のアイドル』デミさん?」
「ま、幻のアイドル!?」
「幻のアイドル」デミとはポエトロの町に突如現れた踊り子で、野性味溢れる衣装に激しく華麗なダンス、精密なナイフ捌きによるパフォーマンスで一躍人気者になった。子供を授かって1年足らずで引退したんだが、今でも気が向いたときに踊り、その希少性から幻と呼ばれてる。
「デミのやつ子供生まれたのか!それ、ハイルに教えてやれよ。あいつ喜ぶぞ!」
「えっ!デミさん、ハイルさんの娘さんか何かなんで?」
「そう思うだろ?だが驚くなかれ、ハイルの初弟子にして、元嫁だ!二人の間には子供もいるんだぞ」
「えっ!!でもデミさん、めっちゃ若いっすよ?」
「そりゃ19歳差の夫婦だったからな。見た目的には違和感なかったけど」
「さすがハイルさん」
「あっ!その二人の子供がディンだよね!」
「そうだよ。よく分かったな。二人とも狩人としては天才だからな。ディンの将来も楽しみだ」
「あれ?でも今デミさん別の旦那さんいるんじゃ?」
「まあ、それはそういうことだ。別れてから行商に来た男に持っていかれたのさ」
「なんか色々複雑な事情がありそうだな」
「聞きたいか?でも子供の前じゃ話しづらいな」
「えー?僕もじじょー聞きたいー!」
「あ、じゃあ俺たちはこれで失礼するんで、またの機会にでも!」
「おう!」
「ぶー!!!!」
あ、そういえばアストについて聞くの忘れてたな。そう思ってテオンに聞いてみた。
アストは去年までポエトロにいた冒険者だ。俺も少し見かけたことがある。長身細身の美丈夫で、流れるように長剣を振るう姿は最早芸術だ。多くの画家が彼の狩りに同行してはその姿を収めていった。もちろん強さも抜群で、町の近くに現れた巨大熊――テラグリズリーを単身討伐して他の町に名前が知れ渡った。
「アスト兄はユズキ兄の弟だよ!」
「なんだって!!もっとアストさんの話すればよかった……。何であの人弟の話よりデミさんの話を聞きたがったんだよ。もしかして女好き?」
「あははは!ユズキ兄は女好きー!」
まあまた話す機会もあるか。そのときに昔話とか聞かせてもらおう。強さの秘訣が分かるかもしれない。
「次はどこにいこうかなー」
そう言いながらもテオンはすたすた歩いていく。まだ日は高い。さっきから意外と有名人多いし、実力者も多そうだ。次はどんな人に会えるのか、楽しみだ。
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