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どうしようもなくかわいい

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学校に入学してから1年と半分くらい、冬の日。僕は年季の入った校舎と同じくらいの付き合いの友達と、寒空の下を歩いていた。その日はそこそこ寒かったから、そいつと僕はマフラーをしていた。彼、山崎は僕の紫色のマフラーを
「色エグww」
なんて言ってきた。言わせてもらうけど、お前のマフラーもなかなかにエグイぞ。クリスマスじゃないんだから赤と緑はやめとけよ。なんて、なんでかわからないけど声には出せなかった。


 帰り道、山崎と2人でもほかの友達がいても、僕たちは別れるちょっと前のところでしゃべることがある。場所的にはた迷惑なのはわかってるけど、なるべく長くそこに留まっていたい。いつだって帰ろうよと促すのは山崎だけど、僕はいつも名残惜しさを感じている。その日は山崎と2人きりだったけれど、僕は心なしかいつもより楽しかった。別に他の友達が嫌いとかじゃないけれど、山崎と2人きりだとなぜだか嬉しい。でもやっぱり山崎は早く帰ろうよなんて言い出すから少し寂しかった。ここでもっと喋っていたいなんて言えたらよかったんだけど、喉に何かがつかえて出てこない感じがして言えなかった。
ふと、いつも別れの挨拶などしていなかったことに気づいた。思いついた試しに山崎へ向かって
「バイバイ~」
と言ってみた。正直返事が返ってくることは期待してないので、さっさと振り向いて帰る。帰ろうとした。そしたら
「ん、ばいばい」
後ろを向きかけていたからなのか、小さめの声で。あまりに驚いて振り返ってみれば、山崎が手を振っていた。とっさに振り返したが彼はもう振り返って歩き始めていた。かわいい。あれ?

おかしい。なぜ心臓はこんなにも早鐘を打っているのだろうか。なんでこんなに山崎がかわいく思えるのか。鏡がなくとも自分の顔が赤くなっているのが分かった。かわいい。かわいくて仕方がない。ああ、今すぐにでも叫びだしたい気分だ! 嫌でもわかった。僕は今、自分より身長が高くて頭もいい、同性の、男に。恋に落ちてしまったんだ。


 家に着くまでの帰り道、僕の脳内はそれはもうてんやわんやだった。2人きりだと嬉しかったのは、喉につかえて出てこないこの感情の正体がなんだったのか。考えれば考えるほど糸が絡まっていくような、ほどけていくような。ストンと落ちた気がするけれど、納得していない自分もいる。今まで付き合っていた人は何人かいるが、これが初恋かもしれない。歴代彼女といってもほんの少しだが、彼女らには抱けなかった欲がひしひしと湧いてくるのが分かった。手をつなぎたい、キスをしたい、組み敷いてみたいなんて思ってしまった。グチャグチャにして、自分しか見えないようにしてやりたい。そんな欲望が芽を出したところで、家に着いた。



 次の日、そんなに優等生でもない僕はいつも通り遅刻5分前くらいに教室にたどり着いた。自分の席の近くに山崎の席はあるから、そちらをちら、と確認してみる。 いた。昨日と何ら変わりない様子で彼の友人と話している。ああ、そいつの前で笑わないでほしい。……いや僕は何を考えた?昏い感情が成長する。僕に山崎の行動を制限する権利はないのに。でも。 どうしてもそいつと話してほしくない。僕だけのものであってほしい。……自分が嫌になる。こんなこと、思いたくないのに。恋というのは厄介だ。これからもこの感情と向き合うなら、これを隠し通さなければいけない。
僕はこれからも山崎のいい友人でありたいから。
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