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モエラの大森林の最深部

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魔物同盟が締結されてから一ヶ月が経とうとしていた。
これまでを掻い摘んで振り返ると。
まず俺はオーガ、オーク、コボルト全員に加護を与えた。
全員進化したと言っても過言はないだろう。
オーガに関しては角さえなければ、もはや人と変わらない。
魔人と言われても納得できてしまう。
もしかして魔人はオーガの進化した姿なのだろうか?
それは今は良いとして。

ゴブリンの村を発展させつつも、魔物同盟国の建設が本格的に始まった。
とても慌ただしかった。
俺達の役割はこれまでとあまり変わらない。

建設に関しては俺とギル。
狩りはノン。
料理はエル。
魔法教室及び風紀委員長はゴンだ。

そして連日、読み書き計算教室をゴンとギルが受け持っている。
後、備品の製作や服飾に関して、鍛冶仕事に関しては俺がちょくちょく指導を行っている。
ゴブコもゴブスケもとても頼りになる。

魔物達はとても仕事熱心だ。
たまにサボる者もいるが、目聡いゴンに見つかって叱られている。
しょっちゅうゴブオクンがゴンに叱られているのを見かけるのだが。
全く懲りない奴だ。
手を変え、品を変えサボろうとしている。
その情熱を違う事に使いなさいっての。
どうしてゴンはあんなにサボっている者を見つけるのが上手いのだろうか?
何かしらコツがあるのかもしれないな。

既に上下水道の引き込みは完成し、浄化池と排水の浄化池も完成している。
今は家屋の建設を急いでいる段階で、魔物総勢二百人態勢で取り掛かっている。
人海戦術とは上手く言ったもので、まさにその通りだ。
人が波の様に押し寄せてきては、どんどんと家が建設されていく。
ランドールさんのところの大工達も形無しだ。

知力を得た魔物達は覚えが早く、又、パワフルだ。
重機など無くても充分に力を発揮してくれている。
そして魔法の適正を持っている者も多い。
土魔法を取得している大工達が結構いた。
その所為もあってか、上下水道も早く設置することができた。

俺とギルは極力手は貸さずに、監督することだけを心掛けた。
その理由は、自分達がこの街を造ったんだという、達成感を得て欲しかったからだ。
島野様ご一行に造って貰ったでは意味が無い。
自分達が自らの手で造るからこそ、愛着も沸くだろうし、誇りに思えるものだろう。
俺達はあくまでアドバイザーに徹した。

それに俺達はここに居続ける訳にはいかない。
離れることを想うと、名残惜しさがあるが、俺達には成さなければいけないことがある。
北半球に来た目的を忘れてはいない。
だが今はこいつらを全力でサポートしようと思う。
魔物とはいっても、俺からみれば案外可愛いものだ。

今では小さな子供達でさえ、
「島野様だ!」
と駆け寄ってくる。

因みに子供からの人気者はギルとノンだ。
ギルは相変わらず子供が大好きで、ノンもよく子供と遊んでいるのを見かける。
ギルはたまに獣スタイルになって、子供達を乗せて空を飛んでいる。
ちょっと冷や冷やするが、たぶん大丈夫だろう。
それを真似てか、ノンも獣スタイルになって子供達を乗せて、走り周っていた。
埃が舞ってちょっと迷惑だが、まあいいだろう。

俺は建設現場をギルに任せて、今では船の建設に勤しんでいることが多い。
船の建設となると、クルーザーはお手の物だが、木製の船となると案外うまくいかない。
それでも思考錯誤しながら、コルボスと船の建設を行っており。
先日やっと最初の船が完成した。

そして魔物は泳げるか問題についてだが、ほぼ全員が難なく泳ぐことができた。
一部を除いては・・・
なぜかゴブオクンは泳げなかった。
なんでこいつだけ?
理由は分からん、もしかして悪魔の実でも食べてしまったのだろうか?
おっと、止めておこう。

そして潜水式を済ませ、今は漁に出ている。
俺は一通りの漁の方法をコボルト達に教えて、船に同行している。
コルボスがマグロを捕獲すると息を撒いている。
マグロは無理だと思うのだが・・・
案外ビギナーズラックというのもあり得るのか?

まずは簡単な地引網から始めた。
流石にマグロは掛からなかったが、大漁となった。
特にアジや平目、海老がよく捕れた。
これまで誰も漁をしてこなかった所為か、素晴らしい漁場となっている。
これは幸先がいい。
今日は旨い海産物が晩飯に並ぶことだろう。
コルボスの興奮が止まらない。

「島野様!やりました!大漁です!」
と大騒ぎしていた。
やれやれだ。

翌日には二艘目の船の建設に取り掛かり、今後は追い込み漁を行えるように指導していくつもりだ。
そうなればマグロも夢ではない。
コルボス船長は鼻が高くなっていた。
昨日は外の首領陣達に褒められていたからな。
今後も頑張って欲しい。



そして遂に魔物同盟国の象徴とも言える建設物が完成した。
その名も『魔物同盟国記念館』だ。
ネーミングはさておき、この建物の意味は実に奥深い。
今後のことを考えて、様々な部屋が取り揃えてある。

まずは来賓室。
これは今後魔物以外の者達が訪れることを想定しての部屋だ。
国を謳うのなら、来賓を迎え入れる部屋は必須だ。
最低限のおもてなしを行うことを目的としている。

そして会食場だ。
ここも用途としては国賓を迎え入れる為の部屋となる。
とは言っても、それ以外の用途として、宴会場も兼ねているのだが・・・
こいつらは本当に飲み食いが好きだからな。

更に会議室や、ゲストの寝所等。
備品保管庫や今後の事を考えて図書館なども造った。
そしてメインとなる事務所も兼ねている。
事務所に関してはゴンが口を挟んできた。
ゴンは事務のスペシャリストだから文句はあるまい。
ゴンの意見をふんだんに付け加えた。

そして料理についてだが、圧倒的に足りない要素があった。
それは牛と鶏であった。
要は牛乳と、卵である。
何度かエルからどうにかならないかと言われてはいた。

しかし、プルゴブやソバルに聞いても牛や鶏に関しては、魔獣化したジャイアントチキンとジャイアントブルしか知らないということだった。
そこで俺は興味本位であることを試すことにした。

魔獣化したジャイアントチキンとジャイアントブルを、通常化したら飼育できるのだろうか?ということだった。
俺は連日ノンの狩りに同行した。
何とかしてジャイアントチキンとジャイアントブルを捕獲したかったのだ。
でも連日ハズレを引いてしまった。

ほとんどが魔獣化したジャイアントピッグとジャイアントラットばかりだった。
こいつらを通常化させても意味はない。
飼育出来たとしても、そもそも潰すことが俺には出来ない。
魔物達ならできるだろうか?
メッサーラの魔獣の森に行くことも考えてはみたが、止めておいた。

そこで意を決して、オーガでも踏み込まないという、大森林の最新部に俺とノンは向かうことにした。
俺とノンの二人なら間違っても殺られることはないだろう。
島野一家の最高戦力の二人だからね。

俺はノンと鼻歌混じりに最深部へと向かっていった。
途中何度もノンに甘えられた。
何度も頭を撫でてやった。
久しぶりのモフモフが気持ちいい。
相変わらず誰もいない処ではノンは甘えん坊さんだ。
そして俺達は不思議な出会いを果たすことになった。



これは・・・蜘蛛かな?
俺よりも大きな蜘蛛が俺達と対峙していた。
まかさ蜘蛛に見下されることになろうとは・・・

なんとなくだが、意思の疎通が可能の様な気がした。
相手からも殺気や敵対心をまったく感じない。
そこで俺は一先ず話し掛けることにした。

「やあ、蜘蛛君、いや蜘蛛さんかな?俺は島野だ、俺の言葉が分かるかな?」

「僕はノンだよー」
そう尋ねると、蜘蛛は前足を挙げた。
おお?分かるみたいだ。

「喋れるか?」
挙がった手が左右に振れた。
出来ないなと。
どうしようか?
とりあえず確認だけはしておこう。

「一応尋ねたいことがある、いいかな?」
下がった前足が再び挙がった。

「敵意はあるのか?」
前足が左右に振られた。
敵意はないと。

「ここに住んでいるのか?」
また前足が挙がった。
住んでるなと。

「俺達はジャイアントブルとジャイアントチキンを探しているのだが、この付近の森には生息しているか?」
前足が少し挙がった。
これは・・・どちらかは居るということなんだろう。

「ジャイアントブルが居るのか?」
前足が左右に振られた。

「じゃあジャイアントチキンが居るのか?」
前足が挙がった。

「そうかありがとう、魔獣化したジャイアントチキンを捕獲したいのだがいいかな?」
前足が挙がった。
意思の疎通がイエスとノーだけでは煩わしな。
どうにかならないかな?
そうだ。

「なあ、もし俺の加護を与えたらお前は喋ることが出来るようになるのか?」
顔の前で前足を左右に振っていた。
これは分からないということだろう。

「そうか・・・どうしようか?俺の加護を欲しいか?」
ここまで知力があるなら加護を与えても、無害だろう。
前足がこれまで以上に上に挙がっていた。
相当欲しいのね。
では、差し上げましょう。
安易すぎるかな?
まあいいか。

「そうだな、お前の名前はクモマルだ」
そう言うと、俺から神気がクモマルに流れ出した。
あれ?
何時もよりも結構な量が流れた様な・・・
するとクモマルが神気に包まれて、急激に変化した。
下半身は蜘蛛だが、上半身が人の様な姿になっている。

よかった、男性だった。
おっぱいが無い。
性別を考えずに名付けてしまったからな。
今になってやってしまったのかと思ってしまった。
にしても、なんだこれは?・・・
ちょとした怪物だな。

「島野様、ありがとうございます。私はアラクネに進化しました」
おお!流暢に話しているぞ!
よしよし!

「そうか、よかったな」

「こんな名誉なことはありません、今後あなた様にお仕えさせて頂きます!」

「いや、それはいい。足りている」
俺は即答した。
クモマルはこれでもかというぐらい、落ち込んでいた。
これが漫画ならガーン!!!という吹き出しがついているだろう。
それにしても、いろいろと聞かなければならないが、まずはこの姿は中途半端過ぎるな。
人化魔法を覚えさせようかな?

「クモマル、人化は出来るか?」

「人化でございますか?これ以上は出来ません」

「じゃあ、ノン教えてやってくれないか」

「いいよー」
とノンは言うと人化した。

「なんと・・・ノン様・・・これはいったい?」

「人化の魔法だよ、やってごらん、人になることをイメージするんだよ」

「イメージでございますか?」

「うん、そうだよ」
ここからノンの人化魔法講座がおよそ一時間行われた。
案外ノンも魔法を教えるのが上手なのかもしれない。
クモマルが人化に成功していた。
マッパだけど・・・

そして意外な真実を知ってしまった。
クモマルは男性でも女性でもなかった。
シンボルが無かったのだ。
蜘蛛ってそんな生態だったか?
異世界だからか?
まあいいや。

それにしても結構なイケメンだ。
ノンに教わった所為か、銀髪だった。
クモマルは自分の腕から蜘蛛の糸を撒きだして、服を作製しだした。
俺の着ている服装を参考に作っていた。
おお!これは凄い。
あっと言う間にクモマルが衣服を纏っていた。

「クモマル、凄いじゃないか!」

「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
まんとまあ、難しい言葉を使えるようになったことだ。
そうではないか。
もともと知性はあったみたいだから、ただ単に声帯が無かっただけかな?

「クモマル、お前はここでずっと暮らしているのか?」

「そうでございます」

「魔物の国に加わる気はあるか?」

「私の様な者がよろしいので?」

「紹介してやるよ」

「そんな・・・嬉しいです・・・・」
クモマルは泣きだしてしまった。
落ち着いたクモマルに話を聞いたところ、この森の最深部で、ほとんど一人でこれまで暮らしていたらしく。
たまに訪れるオーガやオーク達も、交流を持つことなく、クモマルを見ると、逃げ帰っててしまっていたらしい。
自分の家族だけで暮らしていて、寂しかったみたいだ。
その家族も全員巣立ってしまったらしい。

「クモマル、どうする?家族を集めてから魔物の国に行くか、それともお前ひとりでいくか。どうしたい?」

「そうですね・・・今ではこの姿を得ましたので、いつでも魔物の国に訪れることは可能かと愚考します、その為まずは家族を纏めてから訪れさせて貰おうかと思います」

「そうか、因みにその家族達の居所は分かるのか?」

「大まかには存じております」

「そうか、協力してやろうか?」

「よろしいのですか?」

「ああ、魔獣化したジャアントチキンとジャアントブルを探す次いでだ」

「ありがとうございます」
クモマルは仰々しくお辞儀をした。
俺は大体の位置をクモマルに教えて貰い。
『探索』を駆使して、狩りの次いでにクモマルの家族を探した。

魔獣化したジャイアントチキンはクモマルの協力のお陰で捕獲は簡単だった。
クモマルの糸はかなり高性能だ。
頑丈な上に解くことは容易ではない。
ゴブリン達では太刀打ちできないだろう。

魔獣化したジャイアントチキンは煩いので、神気を流して、魔獣化を解いておいた。
三匹ほど捕獲した時に運ぶのがめんどくさくなって、俺は一度ジャイアントチキンを持って魔物の国に転移で帰った。

既に指示してあった鶏小屋は出来上がっていた為、ジャイアントチキンを放逐した。
デカい鶏が、エサを啄んでいる。
俺はソバルを呼び出した。

「ソバル、後でゲストを連れてくるから、紹介させてくれ」

「ゲストでございますか?」

「ああ、森の最深部で出会ったんだ。今はアラクネという種族らしい」

「アラクネでございますか?・・・何と・・・」
ソバルは恐れ慄いていた。

「もしかして島野様・・・エンペラースパイダーを手懐けてしまったのでございましょうか?」

「たぶんな、クモマルは良い奴だぞ。今では人化も出来るようになったぞ」
ソバルは首を振っていいた。

「・・・すいません・・・ついていけませぬ・・・」

「まあ、よろしく頼む、じゃあ急いでいるから後でな」
俺はノンとクモマルの元に転移した。
去り際にソバルの困った顔を見てしまった。
何を困っているのだか。



「すまんな、待たせたな」

「ねえ、主お腹減ったよ」

「そうか・・・そうだな、何か取ってこようか?」

「じゃあ犬飯がいい」

「ノン、それ以外は?」

「何でもいいよ」

「そうはいかんだろう、クモマルは食べたい物はあるのか?」

「食べたい物でございますか?」

「そうだ」

「私は何でも食べられますが・・・」

「でも好みとかがあるだろ?」

「好みでございますか?・・・強いていうなら甘い物が好きでございます」

「そうか、ちょっと待ってろよ」
俺はサウナ島のスーパー銭湯の調理場に転移した。
いきなり俺が現れても、こいつらはビクともしない。
もはや慣れっこのようだ。

察しのいいメルルからは、
「何がいるんですか?」
と言われてしまう始末だ。
よくできた従業員です。

俺は適当に見繕って『収納』に食べ物を入れて、ノンとクモマルの元に戻ってきた。

「待たせたな」

「主、はやく出して」
ノンに催促されてしまった。
ノンには味噌汁とご飯、とんかつとエビフライを渡してやった。
クモマルにはアイスクリームとパンケーキとクレープを渡してやった。
これで腹が膨れるのだろうか?

念のため、ミックスサンドを二人前準備している。
俺はミックスサンドを食べることにした。
ノンは相変わらず犬飯にして、ガツガツ食べていた。
問題はクモマルだ。

「あり得ない!」

「これは神の食事だ!」

「甘みの先に草原が見える!」
と大騒ぎしていた。
どんな食レポだよ。
そうとう口に合ったみたいだ。

よかったな、クモマル。
クモマルは感動で打ち震えていた。
大袈裟過ぎないか?



その後、俺は『浮遊』し『念動』でノンとクモマルを連れて、クモマルの家族の捜索をおこなった。
この方法なら直ぐに見つかるだろう。
ちょっと力業が過ぎるかな?
まぁいっか。

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