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アンジェリっちと正八角形
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俺達は一時間の散歩を終え、美容室に帰ってきた。
まだ閉店作業中であったのか、
「島野さん、ごめんね、もうちょっと待って貰えるかしら?」
とアンジェリ様も片付け作業を忙しそうにしていた。
「ええ、お構いなく」
と俺も言葉を返す。
「お姉ちゃんまだー」
とマイペースなオリビアさん。
数分の後、
「ふう、お待たせ。とりあえず奥に入って貰えるかしら?」
と奥に誘導された。
「晩御飯はまだよね?」
と気づかってくれるアンジェリ様。
「ええ、ですがもしよければ、俺達で準備させて貰いますけど・・・」
「準備って・・・どういうことなの?」
「お姉ちゃん、ここは守さんに任せたほうがいいわよ」
と知ったかぶりのオリビアさん。
「実は俺『収納』持ちなので・・・」
と言うと俺は『収納』から、晩御飯用に前もって準備しておいた、弁当とお重とワインを取り出した。
「弁当ですがどうですか?ワインもありますよ」
唖然とした顔で俺を見るアンジェリ様。
俺は人数分の皿と箸とフォークを取り出した。
「『収納』持ちなんて久しぶりに見るわね、それにこのお弁当なんて豪華なの・・・」
アンジェリ様は弁当とお重を覗き込んでいる。
「へへ、お姉ちゃん凄いでしょう」
と何故かどや顔のオリビアさん。
「あと、お土産でワインを神様達に差し上げてますが、赤か白のどちらが好みですか?」
「そんな・・・ワインなんて贅沢品貰っていいの?」
「はい、これまでも出会ってきた神様達には渡してきてますので、気にしないでください」
「じゃあ、白で・・・」
白ワインを三本取り出し、アンジェリ様に手渡した。
アンジェイ様は嬉しそうにワインを受け取ってくれた。
「頂きましょうよ」
と既に自分の皿におかずを取り分けているオリビアさん。
「「いただきます!」」
と合唱した。
からあげを口にしたアンジェリ様は
「なにこれ、美味しい」
とご満悦な表情を浮かべていた。
「ありがとうございます」
お褒めに預かり光栄です。
「それで、まずは話を聞いた方がよさそうね」
表情を引き締めるアンジェリ様。
「では、アンジェリ様、お言葉に甘えてお話させていただきます」
「様は要らないわ、妹がお世話になっている人に様付で呼ばれるなんて、私はそこまで傲慢になれないわ」
「では、アンジェリさんで」
頷くアンジェリさん。
「先ほどお話した通り、ギルはドラゴンです。そして俺はギルの父親です」
「父親?」
「はい、俺は人間ではありますが、神気の操作ができますし、様々な能力を持っています」
俺は手に神気を集めて見せてみた。
「守さんは凄いのよ、お姉ちゃん」
と口を挟むオリビアさん。
ちょっと黙っててもらえませんかね?
「あなたは神ではないの?」
「神ではありません、ステータスを見る限り人間です。ただ出来ればここだけの話にして欲しいのですが、厳密には神様の修業中なんです」
「修業中ね・・・今までに聞いたことがないわね」
「まあ、そんな感じで神様に会いに行く行脚を続けています」
「それでこの村に訪れたということね」
「はい、それ以外にも理由があって、サウナ島に今南半球の神様達が集まる施設を造りましたので、まずはそこにご招待したいと考えています」
「はあ?そんな施設があるの?嘘でしょ?」
「ほんとよお姉ちゃん、私もしょっちゅう入り浸ってるわ」
なぜにそんなに誇らしげなんですか?オリビアさん・・・
「よかったら後で行きませんか?」
「そんな、ここを空けてそんな遠方までなんて、いくらなんでも止めとくわ」
滅相も無いと顔の前で手を振るアンジェリさん。
「ああ、すいません話を焦ってしまったようです、まずはこちらをご覧ください」
と言って『収納』から転移扉を取り出した。
「島野さん、これは何の扉かしら?」
「これは転移扉といって、転移の能力が付与してある扉です。この扉がサウナ島に繋がっています」
「はあ?転移って・・・上級神様の能力じゃないの・・・」
「そうなんですか?」
知らなかった・・・上級神の能力なんだ・・・まあいっか。
「ええ、私の知る限り転移の能力持ちは、上級神様しか知らないわよ」
「ちなみにその上級神様ってどなたですか?」
「それは・・・言わないでおくわ・・・」
アンジェリさんは、一瞬オリビアさんに目を向けた。
出会ってまだ間もないから、そんなことは言えないか・・・よくよく考えたら個人情報だしな。
いけない、いけない。
「この転移扉を使えば、一瞬でサウナ島に行けますので、よかったら使ってみてください。使い勝手なんかはオリビアさんがよくご存じですので」
「お姉ちゃん、後で教えてあげる~」
と言いながら、弁当をがっついているオリビアさん。
「ふう、なんだかとんでも無いことになって来たわね。久ぶりにオリビアが帰ってきたと思ったら、とんでも無い客を連れてくるんだから・・・」
とんでも無い客ですいません。
「あと、この村のことも知りたいと思っています。得に特産品とかを中心に」
「ちょっと待って島野さん、まずは状況を整理させて頂戴」
オリビアさんとは違い、冷静に努めようとするアンジェリさん、しっかり者のお姉ちゃんと天真爛漫な妹といったところか。
「はい」
「この村を訪れたのは、オリビアを送るついでと、島野さんとギル君の神様行脚、そして転移扉を神様に配ってる、って事でいいのかしら?」
「そうなります、後は俺自身見聞を広めたいということもあります。特にこのエルフの村はこれまで見て来た村とは一味も二味も違います」
「そうなのね・・・まあこちらとしても大助かりなことは間違いなさそうね」
「といいますと?」
「島野さん達がどうやってこのエルフの村まで移動してきたのかは分からないけど、この村は僻地にあるから、行商人が来ることは滅多にないわ、その所為で外との交流があまりに少ないのよ」
「交流そのものは拒んでは、いないんですよね?」
「そうよ、まあ自給自足が出来る環境にあるから、生活に困ることはないけど、世界から取り残されるってのも考えものよ」
「そうですね」
「このエルフの村は、昔ながらの伝統を重んじる村だけど、決して新しいものを拒んでいる訳ではないのよ、ただ新しいものに出会う切掛けが無いだけなのよ」
温故知新という事だな。
「それであれば、転移扉はうってつけですね」
「そうなるわね、でもこちらにはメリットがあるけど、島野さん達にはどうなの?」
「もちろんありますよ」
「それはなに?」
「まずは、転移扉の利用方法として、単にこのエルフの村とサウナ島を繋げるだけではなく、サウナ島から転移扉で繋がっている、外の国や街に一瞬で移動することが出来ます」
「・・・」
「それは逆もしかりで、他の国や村からこのエルフの村に一瞬で移動が可能です、商人なんかは、新たな販路が出来ると喜ぶことでしょう、それにサウナ島には移動に伴うお金を支払うことになってます」
「そんな利用方法があるのね・・・画期的だわ」
アンジェリ様は髪をかき上げている。
なんとも色っぽい。
「それにこの村の特産品を売りに出すことも可能です」
「この村の特産品ね・・・特に思いつか無いけど・・・」
「えっ!無いんですか?」
アンジェリさん、何で分かってないのかな?特産品だらけなんだけどな・・・
「無いと思うわよ・・・オリビアこの村の特産品って何だと思う?」
「知らない」
この人は全く、考えずに答えるなよ・・・
「あんた、人の話聞いてないでしょ?」
流石にツッコむアンジェリさん。
「聞いてるよ~」
と言いながらまだ弁当をがっついている。
駄目だ、まともに話を聞いてない。
「あのアンジェリさん、この村の特産品は充分過ぎるほどありますよ」
「えっ!本当に?」
「はい」
「何?何があるっていうの?」
あ!この人本当に分ってないんだ・・・他との交流がない弊害なんだろうな。
余りにもったいない。
「アンジェリさん、この村には美容を中心とした文化が、他の街や国よりも格段に進歩しているんです」
「そうなの?」
「はい、まずは化粧です。俺は実は異世界人なんですが、この世界に来て化粧をしている人を見たのは、このエルフの村に来て初めてなんですよ」
「ほんと?」
「はい、それに今日ちらっと見ましたが、美容室の技術は恐らく他の街では無いものと思います」
「・・・」
「このエルフの村の美容に関する文化は、他の国や村の文化を大きく変えることになると思います」
「そんなになの?」
「はい、まず間違いなく」
女性の美に対する執着は、測り知れないものであることを俺は知っている。
「この村には他との交流を行う必要があると俺は思います」
「そうなのね・・・」
「はい、ぜひ前向きに検討してみてください」
「それにしても・・・あなた一体何者なの?」
「何者と言われましても・・・」
「まあいいわ、悪い人ではないことは分かるわ、オリビアが懐くぐらいだからね、にしても凄いじゃん、あんた明日ちょっと時間を貰える?」
いきなり砕けてますけど・・・何?認められた?
「大丈夫ですが・・・」
アンジェリさんが不敵にほほ笑んだ。
「イメチェンしてあげる」
イメチェン?はて?
「はあ・・・お任せします・・・」
と答えてはいけなかったのだが、この時の俺は知る由もなかった。
結局アンジェリさんはこの日はサウナ島に来ることはなかった、オリビアさんとの姉妹談義に盛り上がっていた。
姉妹水入らずを邪魔するのも引けるので、俺とギルは早々に退散した。
アンジェリさんに渡した転移扉を使って、サウナ島に帰ることにした。
まだ、アンジェリさんのことはよく分からないが、オリビアさんとは違ってしっかり者だという印象がある。
色っぽくて、カッコいい女神様だ。
エルフの村は、他との交流が少なく、この南半球の中では孤立していると言えるのが分かった。
これを機に他との交流が始まることを期待したい。
それにエルフの村のもつ独特な文化が、この世界に広まれば、何かが変わってくるのかもしれない。
エルフの古き良き伝統を俺も学びたいと思う。
まだまだこの世界には、知るべきこと、学ぶべきことが多いということなんだろう。
じっくりとやっていこうと思う。
翌日、ギルを連れてエルフの村を再び訪れた。
アンジェリさんのお店に顔を出すと、オリビアさんが受付をしていた。
「守さん、おはよう」
「おはようございます」
「ギル君もおはよう」
「おはようございます」
「なんでオリビアさんが受付をしているんですか?」
「特にすることがないから、お姉ちゃんが手伝えって」
「そうですか」
声が聞こえたんだろう、アンジェリさんが奥から現れた。
「島野さん、おはよう」
「おはようございます」
「ギル君もおはよう」
「おはようございます」
「さて、じゃあ始めようか?」
「何をですか?」
「昨日話したじゃん、イメチェンよ、イメチェン」
「ああ、そうでしたね」
「二人ともここに座って」
とカット台に座らされた。
どうやら髪を切ってくれるようだ。
「じゃあ、髪を切るけどお任せでいいわよね?」
「ええ」
と答えると、布を首に巻かれた、切った髪が服に付かないようにしてくれいてるのだろう。
ギルには違うスタッフが付き、同じ様に首に布を巻かれていた。
ちょうど、そろそろ日本に帰って髪を切ってこようかと思っていたので助かる。
変身の能力で髪の長さを変えることはできるが、俺は自分の美的センスにはあまり自信がないので、その道のプロにお任せするようにしている。
ギルの髪はよくエルが散髪していたのだが、こういう形で髪を切られるのは初めてだからだろうか、ギルが緊張しているのが分かる。
「じゃあ始めるわよ」
「お願いします」
アンジェリさんはカット用のハサミを構えて、俺の髪を切り出した。
本当は神気の件とお地蔵さんの話がしたかったのだか、この店にはスタッフが三名ほどいる為、止めておくことにした。
神様以外の者がいる場で話すことではないだろう。
「そういえば、アンジェリさん、そのハサミは何処で造ったんですか?」
「これはね、若い頃に旅をしたことがあってね、鍛冶の街の神様に造ってもらったのよ」
「えっ!ゴンガス様ですか?」
「そうよ、よく知ってるわね」
「そりゃあ、あのおじさんはしょっちゅうサウナ島に来てますから、親しくさせて貰ってますよ」
「そう、そういえば、そろそろこのハサミも研がないといけないから、転移扉を使わせてもらおうかしら?」
「ぜひ使ってください」
と会話しつつも、アンジェリさんのハサミは止まること無く動き続けている。
ハサミの奏でるリズムが心地いい。
これぞプロの仕事だ。
少しうとうとしてきたように感じた。
ふう、気持ちよくなってきた。
目を閉じてしまいたくなる。
首が横を向かない様にしないと・・・
どうやら眠ってしまっていたようだ。
目を開けるとイーゼル型の鏡に映っている俺がいた。
んん?
横を見ると気持ちよさそうにギルも眠っていた。
あれ?
頭に、何か塗られているのを感じる。
なんだろう?
独特な草の匂い・・・薬草?
「やっと起きたのね、お寝坊さん」
とアンジェリさんが声を掛けて来た。
「じゃあ、こちらに来てくれる?」
とシャンプー台に誘導された。
シャンプー台に頭を突っ込むと、水魔法でアンジェリさんが、俺の頭を洗い出した。
おお、気持ちいい。
それにこのシャンプーはスーパー銭湯の物とは違って、独特な香りがする。
何の香りだろう・・・いい香りだ。
さらにトリートメントを髪に塗り込んでいる。
トリートメントか・・・スーパー銭湯に欲しいな。
更に髪を洗い流す。
「はい、お疲れ様。席に戻りますよ」
と誘導される。
俺は鏡を見て固まってしまった。
どうして・・・金髪?
齢六十二にしてまさかの金髪!
イメチェンとは言っていたが・・・まさかこんなことになろうとは・・・
寝てしまった俺が悪いのだが・・・
これは・・・サウナ島の皆に笑われるな。
「いいね、島野さん似合ってるじゃん!」
似合ってるじゃんって・・・
「ほんとーだ、似合っている。流石お姉ちゃん」
オリビアさんも同意のようだ。
「に、似合ってます?」
「ええ、とても」
万遍の笑みのアンジェリさん。
「ハハハ・・・」
笑うしかなかった。
それに髪形もツーブロックになっており、見た目の印象としては、ちょっとお洒落な大学生の様に見えた。
正直恥ずかしい。
やっちまったというより、やられてしまったな・・・
まあ、どうにも否になったら、変身で変えてしまおう。
やれやれだ。
結局イメチェンしたのは俺だけで、ギルは普通に散髪して貰っていた。
「それで、アンジェリさんはサウナ島に来られるのですか?」
「昨日あの後、オリビアから散々自慢されたじゃんね、行くしかないっしょ」
それにしても、随分話し方がフレンドリーになったな、もはや警戒はされていないということなんだろう。
外のと交流が薄いともなると、そうなるんだろうな、始めは警戒して当たり前ということだろう。
「それで、守さん今日はお土産ないの?」
オリビアさんの遠慮の無い一言だ。
そんなことだろうと準備してありますよ、まったく。
「今日はミックスサンドを準備してます、後で皆さんと食べましょう」
「やった!」
オリビアさんがはしゃいでいる。
「今日もお土産持って来てくれたの?島野さん、オリビアに甘過ぎでしょ?」
「そうですか?もはや慣れっこですよ」
「あらら、島野さんも大変ねー」
「ハハハ」
甘やかし過ぎなんだろうか?
でも今さら変えられんよな。
アンジェリさんは風魔法で、髪を乾かしてくれている。
「アンジェリさん、折り入って話したいことがあるんですけど、食後に時間を貰えますか?」
「いいわよ」
「よろしくお願いします」
その後、俺とギル、オリビアさんとアンジェリさん、スタッフの方三名の計七名での昼食となった。
ミックスサンドは朝のうちに、迎賓館のスタッフに作って貰っていた。
『収納』からミックスサンド十五人前を取り出した。
「どうぞ、皆さん食べてください。これはサウナ島の迎賓館で提供しているミックスサンドです」
「へえ、こんなに柔らかいパンは始めてみるわね」
とアンジェリさんは関心していた。
「お姉ちゃん、これで驚いてたら、サウナ島に行ったら大変よ。サウナ島のご飯は何を食べても美味しいんだから」
「昨日のお弁当も無茶苦茶美味しかったもんね」
オリビアさんはどや顔をしていた。
だからあなたの島ではないのだが・・・
「なにこれ?旨!」
「うっそ!」
「パンがフワフワ!」
とスタッフさん達にも好評のようだ。
「そういえば、アンジェリさん、先ほど髪を染めた薬液なんですが、何を使ってるんですか?」
「気になる?」
アンジェリさんは小悪魔的な笑顔を浮かべた。
「ええ、とても」
「あれわね、ハーブを混ぜん込んだ私の特別な一品じゃんね、そこに私の能力の『着色』を付与した物なの」
『着色』か、マリアさんの能力の類似能力なのか?
「私はね、髪色はどんな色でも染めることができるじゃんね、それに『形状記憶』の能力もあるから、パーマもできるのよ」
「おお!それは凄い!」
「『形状記憶』に関してはまつ毛も可能じゃんね。なんならやってみる」
「いえいえ、結構です」
もう充分ですって。
これ以上のイメチェンは必要ありませんよ。
「あと、シャンプーですが、独特な臭いがしましたが、何を加えているんですか?」
「それわね、ローズマリーとかよ」
そうか・・・花か・・・これは盲点だ、今まで椿以外考えて来なかった。
ということは、シャンプー開発ももっと改良が出来るということだ。
というより、ここから仕入れてもいい。
参考になるな・・・
「島野さん、随分食いついてくるわね、どういうこと?」
「いえ、スーパー銭湯でシャンプーを提供しているんですが、ここまでの完成度に至っていなかったなと思いまして」
「島野さんもシャンプーを造れるの?」
「はい、俺もシャンプーを造れる能力がありますので」
「へえー、いろいろ話がしたいわね」
「そうですね」
お互いの利点が合致したようだ。
このようにして俺達は昼食を楽しんだ。
さて、そろそろ本題に入らなければいけない。
食事を済ませたスタッフ達は受付の方に向かった。
「アンジェリさん、さっそくですが神気が薄くなっていることは感じていますか?」
「ええ、それはもう充分にね」
「この原因に何か思いあたることはありませんか?」
「・・・」
随分と考え込んでいるな。
「ごめんね、分からないわ・・・」
そうなのか・・・この間はなんだったんだろうか・・・
「そうですか、まずはこれを見て欲しいんですが」
と俺は『収納』からお地蔵さんを取り出した。
「これは何?」
「これはお地蔵さんと言いまして、祈ることで神気を放出してくれる代物なんです」
「嘘でしょ?」
「いいえ、嘘ではないです。まずはこれを村の街道筋なんかに置いて頂けないかと思いまして」
「ちょっと待って、これは創造神様なの?」
「はい、そうです」
「なんで創造神様と言い切れるの?」
「俺は、会ったことがありますので」
「はい?」
アンジェリさんは唖然としていた。
「島野さん、あんたって人は・・・」
何だか申し訳ない気がしてきた。
でも事実だし・・・
「それで、私にどうしろと?」
「まずはお地蔵さんを村に配置して貰うことと、この村に教会はありますか?」
「教会はないけど、大樹の麓に創造神様の石像は祭ってあるわよ」
「その石像を俺に改修せさてください」
「改修って・・・この仕上がりを見る限り、任せるしかなさそうね・・・」
「ありがとうございます、少しでもこの世界の神気不足を解消したいのでご協力いただけると助かります」
「分かったわ・・・」
お地蔵さんは納まりが良いからと、正八角形の枠の角に配置され、大樹の創造神像は俺の手で改修させて貰った。
特に創造神様に祈る習慣は、このエルフの村にはないとのことだったが、少しでも神気不足に役立ってくれるのなら助かるというものだ。
そして、俺はなんともいえない違和感を感じていた。
なんだろうか・・・お地蔵さんを設置し終えた途端に感じた充足感は・・・
あれ?・・・神気が満ちてきているような・・・
なぜだろうか・・・神気が満ち足りているような気がする・・・
あれ?なんだろう・・・
これはどういうことなんだろうか・・・この空間が神気に満ちた空間になっているような気がする・・・どういうことだ・・・空気が上手い・・・
そうか・・・そうなのか・・・この配置に意味があったのか・・・この配置がある意味結界の役割を担っているということか・・・そこまでに意味があったのか・・・正八角形・・・深すぎる・・・ということは・・・神様ズを集める必要があるな。
アンジェリさんが俺の横に並び、この奇跡に涙を流していた。
「島野さん・・・どういうこと・・・神気が満ち出しているわよ」
「ええ、俺もびっくりしてます。まさかこんなことになるとは・・・」
「これは奇跡ね・・・」
「ですね・・・」
この出来事にオリビアさんとギルも変化を感じ取ったのか、こちらに走ってきた。
「パパ、どういうこと?」
「ああ、分からないが、おそらくこの大樹とお地蔵さんの配置に意味があるんだと思う」
「神気が満ち出してるわ・・・」
オリビアさんも涙を流していた。
まさかこんな解決方法があったとは・・・
美容室の営業が終わると、アンジェリさんを連れてサウナ島に帰ることにした。
「凄いわね、なにここ・・・」
サウナ島の入島受付を出て、サウナ島を見渡してアンジェリさんが呟いた。
「だから言ったでしょお姉ちゃん、サウナ島は凄いんだって」
「ええ、なんなのここは・・・」
「サウナ島へようこそ!」
ギルが嬉しそうに言った。
サウナ島が褒められて嬉しいのだろう。気持ちはよく分かる。
「どうします?まずは風呂にします?飯にします?」
って新婚さんかよ。
「そうね、お風呂からにしたいわ」
「では、オリビアさん、アンジェリさんのことお任せしますね」
「了解よ」
二人はスーパー銭湯に入っていった。
さて、エルフの村で起こった現象について検証をしなければならない。
まずは、お地蔵さんを八体準備して、正八角形に配置してみた。
俺はその中央に立ってみる。
・・・
特に神気が満ちている感じはしない。
あの大樹が必要ということなんだろうか?
オリビアさんもそのような事を言っていたな。
中央に創造神様の石像を置いてみたらどうだろうか?
正八角形の中心に想像神様の石像を置いてみた。
・・・
特に変化無し。
やはりあの大樹が必要ということなんだろうか・・・
世界樹はどうだろうか?
世界樹はこの島の中心にあるといってもいい位置にある。
おれは転移を繰り返し、世界樹を中心とした正八角形になる位置にお地蔵さんを配置した。
すると、じきに神気が満ちてくるのを俺は感じた。
ああ、これが正解なのか・・・
となると、横展開は難しいか・・・
でもひとまずは神気減少問題に発展があった。
まずはこれでいいとしよう。
神様ズの意見も聞いてみたい。
その後ことある事に神様ズから
「何が起こった?」
「お前さん、どういうことだ?」
「島野、おめえ今度は何やった?」
「何やらかしたのよ、で、なんで金髪なの?」
と詰め寄られてしまった。
ちなみに金髪は何故か好評だった。
辛口のロンメルですら。
「旦那似合ってるな」
と褒めていた。
俺は正直ほっとしている。
「今度皆さんを集めて説明しますから」
と神様ズの対応に追われた。
結局アンジェリさんはサウナ島を気に入ってくれたようで、さっそくゴンガス様にハサミの研ぎを依頼していた。
ただアンジェリさんには相談事があるらしく、後日、時間を作ってくれと言われている。
その為、今は社長室でアンジェリさんを待っている。
オリビアさんはというと、メルラドに戻り、今まで道りメルラドでの仕事をしているとのことだったが、実際あの人が何をやっているのかはよく分からない。
「ごめんね、島野っち時間を貰って」
とアンジェリさんが現れた。
いつのまにか俺は島野さんから、島野っちに昇格?していた。
「大丈夫ですよ、どうぞ座ってください」
「悪いわね」
ゴンが飲み物を尋ねに現れた。
「俺はアイスコーヒーを、アンジェリさんは何にしますか?」
「そうね、紅茶をお願い」
「畏まりました」
と飲み物を準備しにゴンは去っていった。
「それで、どうしましたか?」
「ちょっと、話づらい話なんだけど・・・」
「ええ、遠慮なくどうぞ」
「この島の魅力はよく分かったし、転移扉の重要性もよく理解できたわ、でもね・・・先立つ物がエルフの村にはあまりないのよ・・・」
「お金ですか?」
「そうよ・・・」
これまで他との交流が無いのだからそうなるのだろう。
仮にお金を持っていても、エルフの村では利用価値がないということだろう。
自給自足が出来ていると言っていたからな。
「エルフの村の美容室では、お金を貰ってないのですか?」
「それは、食材とかを貰うようにしてるのよ」
自給自足が出来る村、ならではということか・・・
「お金に関しては、解決方法があります」
「そうなの?」
「はい、まずはアンジェリさんの美容室で使っている、シャンプーとトリートメントをスーパー銭湯で扱わせて欲しいんです」
「扱うとは?」
「はい、卸して欲しいんです。スーパー銭湯で使いたいんですよ」
「それは嬉しいわね」
アンジェリさんはニンマリしていた。
「そこからまずは利益を得て欲しいと思います、相当数の発注を行うことになると思いますので、何人かそれ用に人を雇う必要があると思いますよ」
「そうなるわね、ちなみにどれぐらい?」
「厳密には分かりませんが、平均してスーパー銭湯の利用客は一日に四百人ぐらいです」
「そうなの・・・分かったわ」
と考え込んでいるアンジェリさん、頭の中で計算しているのだろう。
「あと、このサウナ島で美容室を開きませんか?」
「えっ!どういうこと?」
「支店を作りませんか?ということです」
アンジェリさんは更に考え込んでいる。
腕を組んで眉間に皺を寄せている。
その顔すらも色っぽい。
「あと、エルフの村には特産品が無いと言ってましたけど、俺がいろいろと見させて貰って気になった物があるんです」
ここでゴンが飲み物を持って現れた。
会話が一時中断される。
「それは何かしら?」
「薬草です、エルフの村では様々な薬草があり、傷薬等他では見たことが無い物があります」
「薬草ね・・・これはエルフの村に伝わる、伝統の薬草作りによって作られている物じゃんね。門外不出よ」
「それは作成方法がということですよね?」
「そうよ」
「であれば販売はできるんじゃないでしょうか?」
「確かに・・・販売はこれまでも少数だけど行っていたわ」
「今は俺の思いつくところはそれぐらいですが、エルフの村に伝わる伝統をお金に換えることは出来ると俺は考えています」
「流石は島野っちね・・・これまで外との交流が無かったから考えもしなかったわ」
「なので、エルフの村の技術や文化をこのサウナ島から発信すれば、おのずとエルフの村にもお金が集まってくると思うんです」
アンジェリさんの目が輝いている。
「分かったわ、美容室アンジェリの支店、やるわよ!」
よし!これで更にサウナ島の満足度が上がるぞ!
「ありがとうございます!」
「なに言ってるの?島野っち?こちらがありがとうよ」
「ハハハ!」
「それで、具体的にはどうするの?」
「はい、まずお店は俺の方で造らせて貰います、もちろん意見は聞きますし、内装や外装も相談させて頂きます」
「それで?」
「営業が始まったら、月に一度、売上の十パーセントを賃貸料として納めてくれればいいです」
「それで?」
「それだけです」
「はい?それだけ?」
「ええ、それだけで十分です」
俺の構想としてはそれだけでも充分な物になる、先行投資の費用としては掛かるかもしれないが、投資回収にはそこまで時間が掛かるとは思えない。
スーパー銭湯の投資回収とまではいかないが、営業に関する必要経費は、向うが持つのだから、ある意味権利収入になるとも言える。
それに先行投資するだけの費用は充分に足りている。
問題は大工の街の職人がメッサーラの学校建設に当たっている為、人が少ないということだが、これは俺が頑張れば済むことだ。
「分かったわ、私は何を準備すればいい?」
「まずは、店の中に何が必要なのかを纏めといて貰えると助かります、その後打ち合わせを重ねていって、図面を造りましょう」
「OK!楽しくなってきたわね!」
「あと、同時に薬草を販売するブースをスーパー銭湯内に設けますので、そこで働く人選と販売する物を纏めておいてください」
「忙しくなるわね、島野っち」
「そうですよ、アンジェリっち」
勢いで言ってしまった。
「あ!それいい!今後もそうやって読んでね」
うっ!・・・まあいいだろう。言ってしまったからな・・・
それよりも楽しくなってきたぞ・・・
しめしめ・・・
翌日、更に計画を拡大すべく、リチャードさんを呼び出した。
「リチャードさん、呼び出してすいません」
「いえいえ、島野様の呼び出しとあらば、いつ何時でも駆けつけますよ」
重いって・・・
「それでどうされましたか?」
「前々から相談されていた、服飾のブースの件なんですが、いっそのこと、お店を構えませんか?」
「ええ!よろしいので?」
「はい、実は美容室を作ることになりまして、せっかくだからメルラドの服飾の店も並びで造ってはどうかと思いまして」
「おお!それはありがたいです」
「美容に関して興味がある人達が集まりますので、自然と服飾にも目が向くかと思いますが、いかがでしょうか?」
「素晴らしい考えです!」
「それで、具合的な話としては、お店は俺の方で造りますので、営業が始まったら、月に一度売上の十パーセントを賃貸料として納めるという方法でどうでしょうか?」
つまり売歩ね。
「なるほど、それは良心的ですね。売上からのパーセントとなれば、売上不振に陥っても、経費としては大きくはないということですね」
「その通りです、こちらとしても長く経営して貰えることが一番ですので」
「なるほど」
「ただ、あくまでメルラドの国営店舗として経営してください」
ここが重要な所だ。
「それはどうしてでしょうか?」
「ここで商売をしたがる商人が多いので、個人としては出店出来ないことをアピールする為です」
「そういうことですね、畏まりました、その様にさせて頂きます」
「では、外装や内装など要望があったら教えてください」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらにも理のある話ですので、お互い様ですよ」
「いやいやまったく、島野様には頭が上がりませんよ」
気にしないでくださいな。
これで、更にサウナ島が大きく発展していくぞ。
まだまだ手は緩めませんからね。
フフフ・・・
その後、アンジェリっちと、リチャードさんとは、喧々諤々打ち合わせを重ね、遂に着工の日を迎えた。
建設には、マークとランドも協力してくれることになった。
なんでも、もはや彼らがいなくとも仕事が充分に周るようになっており、体が訛ると彼らから申し入れがあったぐらいだ。
当然俺は許可し、久しぶりの旧大工班での建築作業となった。
勝手知ったる仲ということもあり、建設作業は着々と進んでいった。
これまでの建築技術が集まった、最高のテナントとなった。
アンジェリっちとリチャードさんは、気になって仕方がないのだろう、何度も現場視察に現れた。
遂に外装ができあがり、まずは内見を行うことになった。
リチャードさんからは特にこれといった意見はなかったが、アンジェリっちからはやはり拘りの意見が多く出され、美容室の建設がいかに大変なものであるのかを思い知らされた。
お客様への気遣い、スタッフの動線、作業のし易さなど、その要望は多岐に渡った。
また、これまでのお店とは違い、シャンプーは水洗式となる為、慎重にことは進められていった。
シャンプー台の場所はあえて薄暗くなるようにし、カット台の場所は明るく髪色がしっかりと分かる様にと、注文は多い。
しかし、それを全てクリアしていくことは、お客様満足度に直結する為、妥協は許されない。
俺はマーク達と、試行錯誤を繰り返しながらも内装を仕上げていった。
最後にマリアさんに発注し、内外装のデザインを完成させた。
マリアさんのひと手間が入るだけで、グッと完成度が増したのは言うまでもない。
アンジェリっちも納得の、美容室が出来上がっていた。
サウナ島に新たな息吹が芽生えつつあった。
まだ閉店作業中であったのか、
「島野さん、ごめんね、もうちょっと待って貰えるかしら?」
とアンジェリ様も片付け作業を忙しそうにしていた。
「ええ、お構いなく」
と俺も言葉を返す。
「お姉ちゃんまだー」
とマイペースなオリビアさん。
数分の後、
「ふう、お待たせ。とりあえず奥に入って貰えるかしら?」
と奥に誘導された。
「晩御飯はまだよね?」
と気づかってくれるアンジェリ様。
「ええ、ですがもしよければ、俺達で準備させて貰いますけど・・・」
「準備って・・・どういうことなの?」
「お姉ちゃん、ここは守さんに任せたほうがいいわよ」
と知ったかぶりのオリビアさん。
「実は俺『収納』持ちなので・・・」
と言うと俺は『収納』から、晩御飯用に前もって準備しておいた、弁当とお重とワインを取り出した。
「弁当ですがどうですか?ワインもありますよ」
唖然とした顔で俺を見るアンジェリ様。
俺は人数分の皿と箸とフォークを取り出した。
「『収納』持ちなんて久しぶりに見るわね、それにこのお弁当なんて豪華なの・・・」
アンジェリ様は弁当とお重を覗き込んでいる。
「へへ、お姉ちゃん凄いでしょう」
と何故かどや顔のオリビアさん。
「あと、お土産でワインを神様達に差し上げてますが、赤か白のどちらが好みですか?」
「そんな・・・ワインなんて贅沢品貰っていいの?」
「はい、これまでも出会ってきた神様達には渡してきてますので、気にしないでください」
「じゃあ、白で・・・」
白ワインを三本取り出し、アンジェリ様に手渡した。
アンジェイ様は嬉しそうにワインを受け取ってくれた。
「頂きましょうよ」
と既に自分の皿におかずを取り分けているオリビアさん。
「「いただきます!」」
と合唱した。
からあげを口にしたアンジェリ様は
「なにこれ、美味しい」
とご満悦な表情を浮かべていた。
「ありがとうございます」
お褒めに預かり光栄です。
「それで、まずは話を聞いた方がよさそうね」
表情を引き締めるアンジェリ様。
「では、アンジェリ様、お言葉に甘えてお話させていただきます」
「様は要らないわ、妹がお世話になっている人に様付で呼ばれるなんて、私はそこまで傲慢になれないわ」
「では、アンジェリさんで」
頷くアンジェリさん。
「先ほどお話した通り、ギルはドラゴンです。そして俺はギルの父親です」
「父親?」
「はい、俺は人間ではありますが、神気の操作ができますし、様々な能力を持っています」
俺は手に神気を集めて見せてみた。
「守さんは凄いのよ、お姉ちゃん」
と口を挟むオリビアさん。
ちょっと黙っててもらえませんかね?
「あなたは神ではないの?」
「神ではありません、ステータスを見る限り人間です。ただ出来ればここだけの話にして欲しいのですが、厳密には神様の修業中なんです」
「修業中ね・・・今までに聞いたことがないわね」
「まあ、そんな感じで神様に会いに行く行脚を続けています」
「それでこの村に訪れたということね」
「はい、それ以外にも理由があって、サウナ島に今南半球の神様達が集まる施設を造りましたので、まずはそこにご招待したいと考えています」
「はあ?そんな施設があるの?嘘でしょ?」
「ほんとよお姉ちゃん、私もしょっちゅう入り浸ってるわ」
なぜにそんなに誇らしげなんですか?オリビアさん・・・
「よかったら後で行きませんか?」
「そんな、ここを空けてそんな遠方までなんて、いくらなんでも止めとくわ」
滅相も無いと顔の前で手を振るアンジェリさん。
「ああ、すいません話を焦ってしまったようです、まずはこちらをご覧ください」
と言って『収納』から転移扉を取り出した。
「島野さん、これは何の扉かしら?」
「これは転移扉といって、転移の能力が付与してある扉です。この扉がサウナ島に繋がっています」
「はあ?転移って・・・上級神様の能力じゃないの・・・」
「そうなんですか?」
知らなかった・・・上級神の能力なんだ・・・まあいっか。
「ええ、私の知る限り転移の能力持ちは、上級神様しか知らないわよ」
「ちなみにその上級神様ってどなたですか?」
「それは・・・言わないでおくわ・・・」
アンジェリさんは、一瞬オリビアさんに目を向けた。
出会ってまだ間もないから、そんなことは言えないか・・・よくよく考えたら個人情報だしな。
いけない、いけない。
「この転移扉を使えば、一瞬でサウナ島に行けますので、よかったら使ってみてください。使い勝手なんかはオリビアさんがよくご存じですので」
「お姉ちゃん、後で教えてあげる~」
と言いながら、弁当をがっついているオリビアさん。
「ふう、なんだかとんでも無いことになって来たわね。久ぶりにオリビアが帰ってきたと思ったら、とんでも無い客を連れてくるんだから・・・」
とんでも無い客ですいません。
「あと、この村のことも知りたいと思っています。得に特産品とかを中心に」
「ちょっと待って島野さん、まずは状況を整理させて頂戴」
オリビアさんとは違い、冷静に努めようとするアンジェリさん、しっかり者のお姉ちゃんと天真爛漫な妹といったところか。
「はい」
「この村を訪れたのは、オリビアを送るついでと、島野さんとギル君の神様行脚、そして転移扉を神様に配ってる、って事でいいのかしら?」
「そうなります、後は俺自身見聞を広めたいということもあります。特にこのエルフの村はこれまで見て来た村とは一味も二味も違います」
「そうなのね・・・まあこちらとしても大助かりなことは間違いなさそうね」
「といいますと?」
「島野さん達がどうやってこのエルフの村まで移動してきたのかは分からないけど、この村は僻地にあるから、行商人が来ることは滅多にないわ、その所為で外との交流があまりに少ないのよ」
「交流そのものは拒んでは、いないんですよね?」
「そうよ、まあ自給自足が出来る環境にあるから、生活に困ることはないけど、世界から取り残されるってのも考えものよ」
「そうですね」
「このエルフの村は、昔ながらの伝統を重んじる村だけど、決して新しいものを拒んでいる訳ではないのよ、ただ新しいものに出会う切掛けが無いだけなのよ」
温故知新という事だな。
「それであれば、転移扉はうってつけですね」
「そうなるわね、でもこちらにはメリットがあるけど、島野さん達にはどうなの?」
「もちろんありますよ」
「それはなに?」
「まずは、転移扉の利用方法として、単にこのエルフの村とサウナ島を繋げるだけではなく、サウナ島から転移扉で繋がっている、外の国や街に一瞬で移動することが出来ます」
「・・・」
「それは逆もしかりで、他の国や村からこのエルフの村に一瞬で移動が可能です、商人なんかは、新たな販路が出来ると喜ぶことでしょう、それにサウナ島には移動に伴うお金を支払うことになってます」
「そんな利用方法があるのね・・・画期的だわ」
アンジェリ様は髪をかき上げている。
なんとも色っぽい。
「それにこの村の特産品を売りに出すことも可能です」
「この村の特産品ね・・・特に思いつか無いけど・・・」
「えっ!無いんですか?」
アンジェリさん、何で分かってないのかな?特産品だらけなんだけどな・・・
「無いと思うわよ・・・オリビアこの村の特産品って何だと思う?」
「知らない」
この人は全く、考えずに答えるなよ・・・
「あんた、人の話聞いてないでしょ?」
流石にツッコむアンジェリさん。
「聞いてるよ~」
と言いながらまだ弁当をがっついている。
駄目だ、まともに話を聞いてない。
「あのアンジェリさん、この村の特産品は充分過ぎるほどありますよ」
「えっ!本当に?」
「はい」
「何?何があるっていうの?」
あ!この人本当に分ってないんだ・・・他との交流がない弊害なんだろうな。
余りにもったいない。
「アンジェリさん、この村には美容を中心とした文化が、他の街や国よりも格段に進歩しているんです」
「そうなの?」
「はい、まずは化粧です。俺は実は異世界人なんですが、この世界に来て化粧をしている人を見たのは、このエルフの村に来て初めてなんですよ」
「ほんと?」
「はい、それに今日ちらっと見ましたが、美容室の技術は恐らく他の街では無いものと思います」
「・・・」
「このエルフの村の美容に関する文化は、他の国や村の文化を大きく変えることになると思います」
「そんなになの?」
「はい、まず間違いなく」
女性の美に対する執着は、測り知れないものであることを俺は知っている。
「この村には他との交流を行う必要があると俺は思います」
「そうなのね・・・」
「はい、ぜひ前向きに検討してみてください」
「それにしても・・・あなた一体何者なの?」
「何者と言われましても・・・」
「まあいいわ、悪い人ではないことは分かるわ、オリビアが懐くぐらいだからね、にしても凄いじゃん、あんた明日ちょっと時間を貰える?」
いきなり砕けてますけど・・・何?認められた?
「大丈夫ですが・・・」
アンジェリさんが不敵にほほ笑んだ。
「イメチェンしてあげる」
イメチェン?はて?
「はあ・・・お任せします・・・」
と答えてはいけなかったのだが、この時の俺は知る由もなかった。
結局アンジェリさんはこの日はサウナ島に来ることはなかった、オリビアさんとの姉妹談義に盛り上がっていた。
姉妹水入らずを邪魔するのも引けるので、俺とギルは早々に退散した。
アンジェリさんに渡した転移扉を使って、サウナ島に帰ることにした。
まだ、アンジェリさんのことはよく分からないが、オリビアさんとは違ってしっかり者だという印象がある。
色っぽくて、カッコいい女神様だ。
エルフの村は、他との交流が少なく、この南半球の中では孤立していると言えるのが分かった。
これを機に他との交流が始まることを期待したい。
それにエルフの村のもつ独特な文化が、この世界に広まれば、何かが変わってくるのかもしれない。
エルフの古き良き伝統を俺も学びたいと思う。
まだまだこの世界には、知るべきこと、学ぶべきことが多いということなんだろう。
じっくりとやっていこうと思う。
翌日、ギルを連れてエルフの村を再び訪れた。
アンジェリさんのお店に顔を出すと、オリビアさんが受付をしていた。
「守さん、おはよう」
「おはようございます」
「ギル君もおはよう」
「おはようございます」
「なんでオリビアさんが受付をしているんですか?」
「特にすることがないから、お姉ちゃんが手伝えって」
「そうですか」
声が聞こえたんだろう、アンジェリさんが奥から現れた。
「島野さん、おはよう」
「おはようございます」
「ギル君もおはよう」
「おはようございます」
「さて、じゃあ始めようか?」
「何をですか?」
「昨日話したじゃん、イメチェンよ、イメチェン」
「ああ、そうでしたね」
「二人ともここに座って」
とカット台に座らされた。
どうやら髪を切ってくれるようだ。
「じゃあ、髪を切るけどお任せでいいわよね?」
「ええ」
と答えると、布を首に巻かれた、切った髪が服に付かないようにしてくれいてるのだろう。
ギルには違うスタッフが付き、同じ様に首に布を巻かれていた。
ちょうど、そろそろ日本に帰って髪を切ってこようかと思っていたので助かる。
変身の能力で髪の長さを変えることはできるが、俺は自分の美的センスにはあまり自信がないので、その道のプロにお任せするようにしている。
ギルの髪はよくエルが散髪していたのだが、こういう形で髪を切られるのは初めてだからだろうか、ギルが緊張しているのが分かる。
「じゃあ始めるわよ」
「お願いします」
アンジェリさんはカット用のハサミを構えて、俺の髪を切り出した。
本当は神気の件とお地蔵さんの話がしたかったのだか、この店にはスタッフが三名ほどいる為、止めておくことにした。
神様以外の者がいる場で話すことではないだろう。
「そういえば、アンジェリさん、そのハサミは何処で造ったんですか?」
「これはね、若い頃に旅をしたことがあってね、鍛冶の街の神様に造ってもらったのよ」
「えっ!ゴンガス様ですか?」
「そうよ、よく知ってるわね」
「そりゃあ、あのおじさんはしょっちゅうサウナ島に来てますから、親しくさせて貰ってますよ」
「そう、そういえば、そろそろこのハサミも研がないといけないから、転移扉を使わせてもらおうかしら?」
「ぜひ使ってください」
と会話しつつも、アンジェリさんのハサミは止まること無く動き続けている。
ハサミの奏でるリズムが心地いい。
これぞプロの仕事だ。
少しうとうとしてきたように感じた。
ふう、気持ちよくなってきた。
目を閉じてしまいたくなる。
首が横を向かない様にしないと・・・
どうやら眠ってしまっていたようだ。
目を開けるとイーゼル型の鏡に映っている俺がいた。
んん?
横を見ると気持ちよさそうにギルも眠っていた。
あれ?
頭に、何か塗られているのを感じる。
なんだろう?
独特な草の匂い・・・薬草?
「やっと起きたのね、お寝坊さん」
とアンジェリさんが声を掛けて来た。
「じゃあ、こちらに来てくれる?」
とシャンプー台に誘導された。
シャンプー台に頭を突っ込むと、水魔法でアンジェリさんが、俺の頭を洗い出した。
おお、気持ちいい。
それにこのシャンプーはスーパー銭湯の物とは違って、独特な香りがする。
何の香りだろう・・・いい香りだ。
さらにトリートメントを髪に塗り込んでいる。
トリートメントか・・・スーパー銭湯に欲しいな。
更に髪を洗い流す。
「はい、お疲れ様。席に戻りますよ」
と誘導される。
俺は鏡を見て固まってしまった。
どうして・・・金髪?
齢六十二にしてまさかの金髪!
イメチェンとは言っていたが・・・まさかこんなことになろうとは・・・
寝てしまった俺が悪いのだが・・・
これは・・・サウナ島の皆に笑われるな。
「いいね、島野さん似合ってるじゃん!」
似合ってるじゃんって・・・
「ほんとーだ、似合っている。流石お姉ちゃん」
オリビアさんも同意のようだ。
「に、似合ってます?」
「ええ、とても」
万遍の笑みのアンジェリさん。
「ハハハ・・・」
笑うしかなかった。
それに髪形もツーブロックになっており、見た目の印象としては、ちょっとお洒落な大学生の様に見えた。
正直恥ずかしい。
やっちまったというより、やられてしまったな・・・
まあ、どうにも否になったら、変身で変えてしまおう。
やれやれだ。
結局イメチェンしたのは俺だけで、ギルは普通に散髪して貰っていた。
「それで、アンジェリさんはサウナ島に来られるのですか?」
「昨日あの後、オリビアから散々自慢されたじゃんね、行くしかないっしょ」
それにしても、随分話し方がフレンドリーになったな、もはや警戒はされていないということなんだろう。
外のと交流が薄いともなると、そうなるんだろうな、始めは警戒して当たり前ということだろう。
「それで、守さん今日はお土産ないの?」
オリビアさんの遠慮の無い一言だ。
そんなことだろうと準備してありますよ、まったく。
「今日はミックスサンドを準備してます、後で皆さんと食べましょう」
「やった!」
オリビアさんがはしゃいでいる。
「今日もお土産持って来てくれたの?島野さん、オリビアに甘過ぎでしょ?」
「そうですか?もはや慣れっこですよ」
「あらら、島野さんも大変ねー」
「ハハハ」
甘やかし過ぎなんだろうか?
でも今さら変えられんよな。
アンジェリさんは風魔法で、髪を乾かしてくれている。
「アンジェリさん、折り入って話したいことがあるんですけど、食後に時間を貰えますか?」
「いいわよ」
「よろしくお願いします」
その後、俺とギル、オリビアさんとアンジェリさん、スタッフの方三名の計七名での昼食となった。
ミックスサンドは朝のうちに、迎賓館のスタッフに作って貰っていた。
『収納』からミックスサンド十五人前を取り出した。
「どうぞ、皆さん食べてください。これはサウナ島の迎賓館で提供しているミックスサンドです」
「へえ、こんなに柔らかいパンは始めてみるわね」
とアンジェリさんは関心していた。
「お姉ちゃん、これで驚いてたら、サウナ島に行ったら大変よ。サウナ島のご飯は何を食べても美味しいんだから」
「昨日のお弁当も無茶苦茶美味しかったもんね」
オリビアさんはどや顔をしていた。
だからあなたの島ではないのだが・・・
「なにこれ?旨!」
「うっそ!」
「パンがフワフワ!」
とスタッフさん達にも好評のようだ。
「そういえば、アンジェリさん、先ほど髪を染めた薬液なんですが、何を使ってるんですか?」
「気になる?」
アンジェリさんは小悪魔的な笑顔を浮かべた。
「ええ、とても」
「あれわね、ハーブを混ぜん込んだ私の特別な一品じゃんね、そこに私の能力の『着色』を付与した物なの」
『着色』か、マリアさんの能力の類似能力なのか?
「私はね、髪色はどんな色でも染めることができるじゃんね、それに『形状記憶』の能力もあるから、パーマもできるのよ」
「おお!それは凄い!」
「『形状記憶』に関してはまつ毛も可能じゃんね。なんならやってみる」
「いえいえ、結構です」
もう充分ですって。
これ以上のイメチェンは必要ありませんよ。
「あと、シャンプーですが、独特な臭いがしましたが、何を加えているんですか?」
「それわね、ローズマリーとかよ」
そうか・・・花か・・・これは盲点だ、今まで椿以外考えて来なかった。
ということは、シャンプー開発ももっと改良が出来るということだ。
というより、ここから仕入れてもいい。
参考になるな・・・
「島野さん、随分食いついてくるわね、どういうこと?」
「いえ、スーパー銭湯でシャンプーを提供しているんですが、ここまでの完成度に至っていなかったなと思いまして」
「島野さんもシャンプーを造れるの?」
「はい、俺もシャンプーを造れる能力がありますので」
「へえー、いろいろ話がしたいわね」
「そうですね」
お互いの利点が合致したようだ。
このようにして俺達は昼食を楽しんだ。
さて、そろそろ本題に入らなければいけない。
食事を済ませたスタッフ達は受付の方に向かった。
「アンジェリさん、さっそくですが神気が薄くなっていることは感じていますか?」
「ええ、それはもう充分にね」
「この原因に何か思いあたることはありませんか?」
「・・・」
随分と考え込んでいるな。
「ごめんね、分からないわ・・・」
そうなのか・・・この間はなんだったんだろうか・・・
「そうですか、まずはこれを見て欲しいんですが」
と俺は『収納』からお地蔵さんを取り出した。
「これは何?」
「これはお地蔵さんと言いまして、祈ることで神気を放出してくれる代物なんです」
「嘘でしょ?」
「いいえ、嘘ではないです。まずはこれを村の街道筋なんかに置いて頂けないかと思いまして」
「ちょっと待って、これは創造神様なの?」
「はい、そうです」
「なんで創造神様と言い切れるの?」
「俺は、会ったことがありますので」
「はい?」
アンジェリさんは唖然としていた。
「島野さん、あんたって人は・・・」
何だか申し訳ない気がしてきた。
でも事実だし・・・
「それで、私にどうしろと?」
「まずはお地蔵さんを村に配置して貰うことと、この村に教会はありますか?」
「教会はないけど、大樹の麓に創造神様の石像は祭ってあるわよ」
「その石像を俺に改修せさてください」
「改修って・・・この仕上がりを見る限り、任せるしかなさそうね・・・」
「ありがとうございます、少しでもこの世界の神気不足を解消したいのでご協力いただけると助かります」
「分かったわ・・・」
お地蔵さんは納まりが良いからと、正八角形の枠の角に配置され、大樹の創造神像は俺の手で改修させて貰った。
特に創造神様に祈る習慣は、このエルフの村にはないとのことだったが、少しでも神気不足に役立ってくれるのなら助かるというものだ。
そして、俺はなんともいえない違和感を感じていた。
なんだろうか・・・お地蔵さんを設置し終えた途端に感じた充足感は・・・
あれ?・・・神気が満ちてきているような・・・
なぜだろうか・・・神気が満ち足りているような気がする・・・
あれ?なんだろう・・・
これはどういうことなんだろうか・・・この空間が神気に満ちた空間になっているような気がする・・・どういうことだ・・・空気が上手い・・・
そうか・・・そうなのか・・・この配置に意味があったのか・・・この配置がある意味結界の役割を担っているということか・・・そこまでに意味があったのか・・・正八角形・・・深すぎる・・・ということは・・・神様ズを集める必要があるな。
アンジェリさんが俺の横に並び、この奇跡に涙を流していた。
「島野さん・・・どういうこと・・・神気が満ち出しているわよ」
「ええ、俺もびっくりしてます。まさかこんなことになるとは・・・」
「これは奇跡ね・・・」
「ですね・・・」
この出来事にオリビアさんとギルも変化を感じ取ったのか、こちらに走ってきた。
「パパ、どういうこと?」
「ああ、分からないが、おそらくこの大樹とお地蔵さんの配置に意味があるんだと思う」
「神気が満ち出してるわ・・・」
オリビアさんも涙を流していた。
まさかこんな解決方法があったとは・・・
美容室の営業が終わると、アンジェリさんを連れてサウナ島に帰ることにした。
「凄いわね、なにここ・・・」
サウナ島の入島受付を出て、サウナ島を見渡してアンジェリさんが呟いた。
「だから言ったでしょお姉ちゃん、サウナ島は凄いんだって」
「ええ、なんなのここは・・・」
「サウナ島へようこそ!」
ギルが嬉しそうに言った。
サウナ島が褒められて嬉しいのだろう。気持ちはよく分かる。
「どうします?まずは風呂にします?飯にします?」
って新婚さんかよ。
「そうね、お風呂からにしたいわ」
「では、オリビアさん、アンジェリさんのことお任せしますね」
「了解よ」
二人はスーパー銭湯に入っていった。
さて、エルフの村で起こった現象について検証をしなければならない。
まずは、お地蔵さんを八体準備して、正八角形に配置してみた。
俺はその中央に立ってみる。
・・・
特に神気が満ちている感じはしない。
あの大樹が必要ということなんだろうか?
オリビアさんもそのような事を言っていたな。
中央に創造神様の石像を置いてみたらどうだろうか?
正八角形の中心に想像神様の石像を置いてみた。
・・・
特に変化無し。
やはりあの大樹が必要ということなんだろうか・・・
世界樹はどうだろうか?
世界樹はこの島の中心にあるといってもいい位置にある。
おれは転移を繰り返し、世界樹を中心とした正八角形になる位置にお地蔵さんを配置した。
すると、じきに神気が満ちてくるのを俺は感じた。
ああ、これが正解なのか・・・
となると、横展開は難しいか・・・
でもひとまずは神気減少問題に発展があった。
まずはこれでいいとしよう。
神様ズの意見も聞いてみたい。
その後ことある事に神様ズから
「何が起こった?」
「お前さん、どういうことだ?」
「島野、おめえ今度は何やった?」
「何やらかしたのよ、で、なんで金髪なの?」
と詰め寄られてしまった。
ちなみに金髪は何故か好評だった。
辛口のロンメルですら。
「旦那似合ってるな」
と褒めていた。
俺は正直ほっとしている。
「今度皆さんを集めて説明しますから」
と神様ズの対応に追われた。
結局アンジェリさんはサウナ島を気に入ってくれたようで、さっそくゴンガス様にハサミの研ぎを依頼していた。
ただアンジェリさんには相談事があるらしく、後日、時間を作ってくれと言われている。
その為、今は社長室でアンジェリさんを待っている。
オリビアさんはというと、メルラドに戻り、今まで道りメルラドでの仕事をしているとのことだったが、実際あの人が何をやっているのかはよく分からない。
「ごめんね、島野っち時間を貰って」
とアンジェリさんが現れた。
いつのまにか俺は島野さんから、島野っちに昇格?していた。
「大丈夫ですよ、どうぞ座ってください」
「悪いわね」
ゴンが飲み物を尋ねに現れた。
「俺はアイスコーヒーを、アンジェリさんは何にしますか?」
「そうね、紅茶をお願い」
「畏まりました」
と飲み物を準備しにゴンは去っていった。
「それで、どうしましたか?」
「ちょっと、話づらい話なんだけど・・・」
「ええ、遠慮なくどうぞ」
「この島の魅力はよく分かったし、転移扉の重要性もよく理解できたわ、でもね・・・先立つ物がエルフの村にはあまりないのよ・・・」
「お金ですか?」
「そうよ・・・」
これまで他との交流が無いのだからそうなるのだろう。
仮にお金を持っていても、エルフの村では利用価値がないということだろう。
自給自足が出来ていると言っていたからな。
「エルフの村の美容室では、お金を貰ってないのですか?」
「それは、食材とかを貰うようにしてるのよ」
自給自足が出来る村、ならではということか・・・
「お金に関しては、解決方法があります」
「そうなの?」
「はい、まずはアンジェリさんの美容室で使っている、シャンプーとトリートメントをスーパー銭湯で扱わせて欲しいんです」
「扱うとは?」
「はい、卸して欲しいんです。スーパー銭湯で使いたいんですよ」
「それは嬉しいわね」
アンジェリさんはニンマリしていた。
「そこからまずは利益を得て欲しいと思います、相当数の発注を行うことになると思いますので、何人かそれ用に人を雇う必要があると思いますよ」
「そうなるわね、ちなみにどれぐらい?」
「厳密には分かりませんが、平均してスーパー銭湯の利用客は一日に四百人ぐらいです」
「そうなの・・・分かったわ」
と考え込んでいるアンジェリさん、頭の中で計算しているのだろう。
「あと、このサウナ島で美容室を開きませんか?」
「えっ!どういうこと?」
「支店を作りませんか?ということです」
アンジェリさんは更に考え込んでいる。
腕を組んで眉間に皺を寄せている。
その顔すらも色っぽい。
「あと、エルフの村には特産品が無いと言ってましたけど、俺がいろいろと見させて貰って気になった物があるんです」
ここでゴンが飲み物を持って現れた。
会話が一時中断される。
「それは何かしら?」
「薬草です、エルフの村では様々な薬草があり、傷薬等他では見たことが無い物があります」
「薬草ね・・・これはエルフの村に伝わる、伝統の薬草作りによって作られている物じゃんね。門外不出よ」
「それは作成方法がということですよね?」
「そうよ」
「であれば販売はできるんじゃないでしょうか?」
「確かに・・・販売はこれまでも少数だけど行っていたわ」
「今は俺の思いつくところはそれぐらいですが、エルフの村に伝わる伝統をお金に換えることは出来ると俺は考えています」
「流石は島野っちね・・・これまで外との交流が無かったから考えもしなかったわ」
「なので、エルフの村の技術や文化をこのサウナ島から発信すれば、おのずとエルフの村にもお金が集まってくると思うんです」
アンジェリさんの目が輝いている。
「分かったわ、美容室アンジェリの支店、やるわよ!」
よし!これで更にサウナ島の満足度が上がるぞ!
「ありがとうございます!」
「なに言ってるの?島野っち?こちらがありがとうよ」
「ハハハ!」
「それで、具体的にはどうするの?」
「はい、まずお店は俺の方で造らせて貰います、もちろん意見は聞きますし、内装や外装も相談させて頂きます」
「それで?」
「営業が始まったら、月に一度、売上の十パーセントを賃貸料として納めてくれればいいです」
「それで?」
「それだけです」
「はい?それだけ?」
「ええ、それだけで十分です」
俺の構想としてはそれだけでも充分な物になる、先行投資の費用としては掛かるかもしれないが、投資回収にはそこまで時間が掛かるとは思えない。
スーパー銭湯の投資回収とまではいかないが、営業に関する必要経費は、向うが持つのだから、ある意味権利収入になるとも言える。
それに先行投資するだけの費用は充分に足りている。
問題は大工の街の職人がメッサーラの学校建設に当たっている為、人が少ないということだが、これは俺が頑張れば済むことだ。
「分かったわ、私は何を準備すればいい?」
「まずは、店の中に何が必要なのかを纏めといて貰えると助かります、その後打ち合わせを重ねていって、図面を造りましょう」
「OK!楽しくなってきたわね!」
「あと、同時に薬草を販売するブースをスーパー銭湯内に設けますので、そこで働く人選と販売する物を纏めておいてください」
「忙しくなるわね、島野っち」
「そうですよ、アンジェリっち」
勢いで言ってしまった。
「あ!それいい!今後もそうやって読んでね」
うっ!・・・まあいいだろう。言ってしまったからな・・・
それよりも楽しくなってきたぞ・・・
しめしめ・・・
翌日、更に計画を拡大すべく、リチャードさんを呼び出した。
「リチャードさん、呼び出してすいません」
「いえいえ、島野様の呼び出しとあらば、いつ何時でも駆けつけますよ」
重いって・・・
「それでどうされましたか?」
「前々から相談されていた、服飾のブースの件なんですが、いっそのこと、お店を構えませんか?」
「ええ!よろしいので?」
「はい、実は美容室を作ることになりまして、せっかくだからメルラドの服飾の店も並びで造ってはどうかと思いまして」
「おお!それはありがたいです」
「美容に関して興味がある人達が集まりますので、自然と服飾にも目が向くかと思いますが、いかがでしょうか?」
「素晴らしい考えです!」
「それで、具合的な話としては、お店は俺の方で造りますので、営業が始まったら、月に一度売上の十パーセントを賃貸料として納めるという方法でどうでしょうか?」
つまり売歩ね。
「なるほど、それは良心的ですね。売上からのパーセントとなれば、売上不振に陥っても、経費としては大きくはないということですね」
「その通りです、こちらとしても長く経営して貰えることが一番ですので」
「なるほど」
「ただ、あくまでメルラドの国営店舗として経営してください」
ここが重要な所だ。
「それはどうしてでしょうか?」
「ここで商売をしたがる商人が多いので、個人としては出店出来ないことをアピールする為です」
「そういうことですね、畏まりました、その様にさせて頂きます」
「では、外装や内装など要望があったら教えてください」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらにも理のある話ですので、お互い様ですよ」
「いやいやまったく、島野様には頭が上がりませんよ」
気にしないでくださいな。
これで、更にサウナ島が大きく発展していくぞ。
まだまだ手は緩めませんからね。
フフフ・・・
その後、アンジェリっちと、リチャードさんとは、喧々諤々打ち合わせを重ね、遂に着工の日を迎えた。
建設には、マークとランドも協力してくれることになった。
なんでも、もはや彼らがいなくとも仕事が充分に周るようになっており、体が訛ると彼らから申し入れがあったぐらいだ。
当然俺は許可し、久しぶりの旧大工班での建築作業となった。
勝手知ったる仲ということもあり、建設作業は着々と進んでいった。
これまでの建築技術が集まった、最高のテナントとなった。
アンジェリっちとリチャードさんは、気になって仕方がないのだろう、何度も現場視察に現れた。
遂に外装ができあがり、まずは内見を行うことになった。
リチャードさんからは特にこれといった意見はなかったが、アンジェリっちからはやはり拘りの意見が多く出され、美容室の建設がいかに大変なものであるのかを思い知らされた。
お客様への気遣い、スタッフの動線、作業のし易さなど、その要望は多岐に渡った。
また、これまでのお店とは違い、シャンプーは水洗式となる為、慎重にことは進められていった。
シャンプー台の場所はあえて薄暗くなるようにし、カット台の場所は明るく髪色がしっかりと分かる様にと、注文は多い。
しかし、それを全てクリアしていくことは、お客様満足度に直結する為、妥協は許されない。
俺はマーク達と、試行錯誤を繰り返しながらも内装を仕上げていった。
最後にマリアさんに発注し、内外装のデザインを完成させた。
マリアさんのひと手間が入るだけで、グッと完成度が増したのは言うまでもない。
アンジェリっちも納得の、美容室が出来上がっていた。
サウナ島に新たな息吹が芽生えつつあった。
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