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大工の街ボルン

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護岸工事を指示してからおよそ三週間が過ぎているころ。
護岸工事もいよいよ大詰めを迎えている。
万能鉱石でコンクリートを使って作るのもありだが、マーク達に完全に任せていたので、それは行わなかった。
大小さまざまな岩や石を積み上げて、簡単な船着き場が出来つつあった。
凄い労力なのだが、やはりこいつ等は頼もしい。

船の横腹が傷つかないように、ゴムをタイヤ状にした物を『合成』で護岸に張り付けていく。
歩きやすいように『合成』をおこない、石の隙間を無くしていく、どうしても塞がらないところは、モルタルで埋めていった。
最後に、船が着岸した際に、ロープを括りつける様に、準備しておいた。キノコの様な形の鉄の塊を『合成』で二か所設置した。
これにて完成となった。

「お疲れさん、お前達」

「ありがとうございます」

「いやあ、はやく大工の街に行きたかったんで、気合入れてやりましたよ。これで故郷に凱旋できるな」
ランドが自慢げに言った。
なんとも頼もしい。
早速船を着けることにした。

「ロンメル、船を着けてみてくれ」

「了解」
ロンメルが、船を帆の角度を調整し、ゆっくりと船を進めて行く。

「もうちょっとだ」

「そろそろロープを準備してくれ」
指示に従いレケとギルが、ロープを取りに行った。
あと一メールぐらいで、着岸しそうだ。

「そろそろいいんじゃないか?」

「分かった」
というと、船頭からレケがロープをこちらに投げた。
ロープを受け取り、キノコ状の鉄の塊に括りつける。
船尾ではロープを持ったギルが、マークにロープを投げていた。
マークがこれも同じ様に、鉄の塊に括りつけている。

「よし、着岸完了!」
ロンメルが宣言した。

「「よっしゃー!」」
レケと、ギルが騒いでいる。
俺達は拍手で迎えた。
初めての着岸に、皆が沸いていた。

うん、いいじゃないか、これで船の劣化もおさえられるだろう。
それにしても、これだけの物を一ヶ月も掛からずに造るなんて、マークとランドには感謝だな。
ありがたいことです。
ということで、今晩は宴会だな。
多分レケがまた何かしら、やらかすだろうな。

「よし、じゃあ風呂でも行くか」

「そうしましょう」

「サウナで整いましょう」
皆で風呂に向かった。



『魔力回復薬』もその後、何度も打ち合わせを行い、全体的な概要が決まりつつある。概ね当初の計画道りといったころか。

計画の実行予定日は、ゴンとリンちゃんが卒業してからの為、まだ先のこと。
但し前さばきは必要であるし、後になってバタバタしたくは無い。
なので、出来る限りのことを前倒しに行う様に、打ち合わせを重ねているのである。

ゴンとリンちゃんとルイ君は、今はメッサーラの方で、何かと準備に奔走しているようだ。
これはこれで楽しみである。

これが、実行されると、島野商事に、またたくさんの利益をもたらすことになるが、唯一心配なのは、人手不足だった。
この島の暮らしのコンセプトの一つとして、ゆとりのある生活を送ることを掲げている。
それは何も金銭的なゆとりだけのことでは無く、時間のゆとりも重要な要素である。

今回の件は、需要があり過ぎることが予想されるので、そこを考えるとあと最低でも三人は欲しいと考えている。
どこかに信頼のおける者がいないだろうか?
実は考えている人選がいるにはいるが、こちらから声を掛けるのはちょっとどうなのか?という相手の為、今は静観している。
まあ、なんとかなるだろう。
人との出会いは、縁の問題だからな。
然るべきタイミングで、人が集まってくるだろう。
そうあって欲しいものだ。



大工の街に向かうことが決定した。
大工の街は『温泉街ゴロウ』から、空路で二日ほどのかかるのではとのことだった。
広大な高原を抜ける必要があるらしい。

そこで俺はズルをすることにした。
目に見える景色に『転移』で移動する、これを何度か繰り返すことで、距離と時間を稼ぐことにした。
要は『瞬間移動』を何度も繰り返すということ。
ランドとマークは転移酔いと言えばいいのだろうか、車酔いのような状態になり、何度か休憩を挟みながらの移動になった。
これにより、ものの半日で『大工の街ボルン』に到着した。
メンバーは俺とギル、マークとランドの四人だ。

街が見えてからは、歩いて移動した。
さすがに大っぴらに能力を見せるのは良くない。と考えたからだ。
歩きながら『大工の街ボルン』を眺めてみると、タイロンやメッサーラと違い、大きな石垣の門は無く。
簡単な木の柵が設けてあるだけの入口だった。
よく見ると、ところどころに獣よけの先の尖った木のある箇所もあり、ある程度の安全は担保されている様に伺える。

街の入口でチェックが入る。
マークとランドが先に入口に向かった。
警備員がどうやらマーク達の知り合いだったようだ。

「マーク久しぶりだな、お前ハンターは続けてるのか?」

「おお、久しぶり、いや今はハンターは止めたよ」

「そうか、おお!ランドも居やがるじゃないか?」

「ああ、久しぶりだな」

「相変わらずでかいな」

「そりゃあ身長は変わらんだろ?」

「間違いねえ」

「街の皆は元気か?」

「ああ、たいして変わったことも特に無いな」

「そうか、またよろしく頼むな」

「こっちこそ」
等と話していた。
当然の様に俺達は顔パスとなった。

入口を抜け、ボルンの街に入って行った。
中に入ると俺は目を奪われた。
見事としか、言い表せない家の数々。
そして、これはどんな家なのかを俺は知っている。
そう、日本にある家の造りだった。

「これは宮造りか?」

「あれ、島野さん宮造りを知ってるんですか?」

「知ってるも何も、俺の故郷の技術だぞ」

「そうなんですね」
釘を一本も使わない、木と瓦、そして畳で造られている家。そして所々に意匠がこらされている。
この家を見ると、不思議と心が落ち着く。
なんでも、宮大工は鉋一つとっても、何十種類も使うとか聞いたことがある。
でもここの神様の名前は、日本人の名前の響きとは違ったはず・・・どういうことなんだろうか?
とにかく宮造りの立派な家が多い。
ほとんどが平屋だが、柱も太く、家自体の存在感が重厚に感じる。

「どうします?飯にでもします?」

「そうだな、そろそろギルの腹の音がしそうだ、飯にしよう」
隣で歩いている、ギルを見た。

「そうそう、そろそろ鳴るよ」
といってお腹を擦り、ギルがお道化ている。

「「ハハハ!」」
お茶目な奴だ。

マークに促されるが儘に、後を付いていった。
屋根がからぶき屋根の家の前に来た。どうやら食堂らしい。

食堂に入り奥に行くと、畳の部屋があった。
久しぶりの畳の匂いに癒された。
メニュー表を見ると、どうやらここは蕎麦屋のようだった。

「マーク、この街には蕎麦があるんだな」

「ええ、結構いけますよ、頼んでみます?」

「ああ、そうしよう」

「じゃあ、僕もそれで」

「では俺も」
久しぶりの蕎麦、もちろんザルを選択。
流石に麺つゆは無かったので塩で頂く。
うん、これはこれでいいな。

ギルが一五枚も平らげていた。
流石は島野一家のフードファイターだ。
食事を終え、俺達は神様の所に向うことにした。



大工の神ランドールは、これぞ親方という感じではまったく無かった。
細身の偉丈夫といった感じだが、顔立ちは西洋人のそれであり、彫が深い。
そして瞳の色は青かった。髪の色も金髪で、長髪を後ろで束ねている。
いわゆるイケメンだ。否、超イケメンだ。
そこらじゅうから、黄色い声が上がっている。
その声を片手を挙げて受け止めている。
恰好は大工の格好で、靴も足袋を履いていた。
超イケメンの大工ってなんだよ・・・羨ましいじゃないか・・・それに黄色い歓声が凄いな。

マークに紹介された。
「ランドール様、お久しぶりです。マークです、紹介させてください。俺とランドがいま世話になっている。島野さんです」

「おお、マークにランド、久しぶりだな。そして、島野さんだったね、始めまして」
といって右手を指し出してきた。
握り返して、握手を交わした。
握手しただけで分かる、この手の質感、武骨な職人の手だ、間違いなく仕事が出来る人の手だ。
堅くて、ごつごつしているが、包み込むような感触もある。

「どうも始めまして島野と申します。よろしくお願いいたします。そして、こちらが息子のギルです」
ギルの背中を押して前に出させる。

「始めましてギルです、よろしくお願いいたします」
ランドール様はフレンドリーな方のようだ、ギルとも握手を交わしていた。

「実は、訳あって、神様に合う旅をしています」

「ほう、その訳とは?」
興味があるのか、少し表情が変わった。
俺達は座ることを勧められ、椅子に腰かけた。

「今は人化していますので、人間に見えますが、ギルは神獣のドラゴンなんです」

「へえー、そうなのか?」
ギルをまじまじと見ている。

「はい、僕は今はドラゴンキッズですが、大きくなればドラゴンになります」
おっ!ちゃんとドラゴンキッズと言っているな、普段は言わないくせに。
どうしたんだ?

「ギルの為になるのではと、神様巡りをさせて頂いています、ドラゴンの役目とかを教えて貰えればなと思いまして」

「そうなのか、あまり力にはなれないかもしれないな」
ランドール様は、すまなそうな表情をしていた。
でも協力的な神様のようだ。
ならば、後でお地蔵さんの件もお願いしよう。

「と、いいますと?」

「現存する神様の中でも、私は若い方なんだよ、まだ神になって五十年も経ってないんだ、だからあまり神としての、経験も知識も薄いほうでね」
ランドール様は頭を掻いていた。

「そうなんですね」
俺は『収納』からワインを三本取り出した。
まずはご挨拶がてら、こちらの印象を良くしましょうかね。

「よかったらこれ、お近づきの標にどうぞ」

「おお!ワインか、久しぶりにみるな、ありがとう、遠慮なくいただくよ。私はワインが好きでね」
受け取ると、後ろに控えていた弟子と思われる人に、ワインを渡していた。

「ギル君はドラゴンということだが、島野さんもドラゴンなのか?」

「いえ、俺は人間です」
驚いた様子。

「人間なのにドラゴンの親なのか?」

「はい、そうです。ギルを卵から孵したのは俺なので」

「えっ!人間がドラゴンの卵を孵したってのか?」
そうなんです、神気でちょちょっとね。

「はい、俺はその、ちょっと訳ありで・・・」

空気を読み取ってくれたのか、
「あまり立ち入らない方がいいようだね」
と言って視線を外してくれた。

「そうして頂けると助かります」
それにしても、言葉遣いといい、丁寧な対応をしてくれる神様だな。それでいて超イケメンって、文句のつけどころがないぞ。この人。

「そういえば、気になってたんですが、この街の家は宮造りですよね?」

「そうだが」

「どう見てもランドール様は、日本人には見えないんですが?」
ランドール様は目を見開いていた。

「日本人か・・・久しぶりに聞いたな、君は日本人なのか?」

「はい、そうです。転移者です」

「そうなのか・・・私は日本人ではないよ・・・日本人は私の師匠だった人だよ・・・死んでしまったけどね」
うつむき加減で、表情ははっきりとは見えなかったが、悲しんでいるようだった。

「そうなんですね」

「ああ、本当は私が神になることは、無いはずだったんだよ」

「と、いいますと?」

「実は私の師匠はリョウイチ・カトウといって、日本人なんだよ」
加藤良一さんってところかな?亮一?僚一?まあいいや。
間違いなく日本人だな。

「リョウイチ・カトウって思いっきり日本人の名前ですね」

「ああ、そのリョウイチ・カトウが、この宮造りを私に教え、ボルンの街に、広めた人なんだよ」

「なるほど」

「だか、あの人は酒にだらしがない人で、とにかく酒を手場離せない人だったんだ。ひどいときは仕事中でもこっそりと飲んでたよ、でも大工としての腕は一流で、宮大工の技術はあの人が広めたんだ。本当はあの人が神になるはずだったんだが、あの人は、俺は神になんかならねえ、死ねない身体なんていらねえとか言って、神になることを拒否したんですよ」
神になることを拒否したのか・・・なるほど・・・

「そんな人が居たんですね」

「ああ、結局酒の飲み過ぎで、血を吐いて死んでしまったよ」
価値観はその人次第ということか。
これで転移者は俺が知っているのは三名、全員日本人だ。
日本人多くないか?他の国の皆さんは何処へ?というより転移者はまず少ないと思うがどうなんだろう?

「あと、ランドール様、ちょっと聞きたいことが、あるんですが?」

「どうしたんだい?」
ご協力いただきましょうかね。

「この世界の神気が薄くなっていることを、知ってますか?」

「そうなのか?」
あれ?知らない?

「そうなんです、どうやら百年前ぐらいから、徐々に減っていってるらしいんですよ」

「百年前か・・・そこまで前だと分からないな」
そうかランドール様は、神になってまだ五十年ぐらいだって言ってたから、それより前の、充分に神気に満ちている状態を知らないのか。

「でも逆に、最近多少濃くなった様に、私は感じてるけどね」

「はい、実はいろいろ神気不足に取り組んでまして、出来れば協力して欲しいことがあるんです」
と言って『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「これなんですけど」
と言って、ランドール様の目の前にお地蔵さんを置いた。

「おお!凄いな、君は石膏大工なのか?」

「いえ、そういう訳ではありません」

「なんという仕上がり、この街にピッタリじゃないか」
お地蔵さんをまじまじと見つめている。
目の色が変わり、大工のそれになっていた。
お地蔵さんに触れて、肌触りを確認している。

「実はこのお地蔵さんを数体持ってまして、街角や、街道筋に置いて貰えないかと思いまして」

「本当か?ありがとう!それは素晴らしい!」
興奮冷めやらぬ様子で、両手を掴まれて、ブンブンと振られた。
協力どころか、喜ばれてしまったよ、ハハハ。

「あと、この街に教会はありますか?」

「教会?教会は無いけど神社には、創造神様が祭ってあるよ」
へえ、神社ですか、いいですね。

「その像を改修させていただけませんかね?」

「おお!是非そうしてくれ、作業しているところを見学してもいいかい?」
目を輝かせていた。
職人魂に火がついてしまったかな?

「どうぞ・・・あまり参考にはならないと思いますが・・・」

「何を謙虚にしている、このお地蔵さんの仕上がりは、私が知る石膏大工の中でも一番の出来だよ、ハハハ」
褒めて貰ってなんですが、なんかすんません、一瞬で終わるんですけど・・・

「じゃあひとまず、お地蔵さんを五体寄贈させていただきます」
『収納』から残り四体のお地蔵さんを取り出した。

「島野さんは面白い人だね」
顔をぐいっと寄せられた。
なんだかいい匂いがしたのは気のせいか?
ていうか、顔近くない?

「いやいや、それほどでも」

「いや、島野さんは本当に面白いですよ」
マークが横やりを入れる。

「間違いないね」
ランドもお済付きをする。

「ハハハ、そうだろう、そうだろう」
やっと顔が離れた。
ふう、近くでみても超イケメンだな。女の子ならドキッとしたんだろうな。
あらやだ、なんつって。

「俺の事は置いといて、このお地蔵さんに祈りを捧げると、神気が放出されるんですよ『聖者の祈り』と言うんですが」

「そうなのか?」

「はい、神社に神主様はいらっしゃいますか?」

「ああ、居るよ」

「では神主様に後で祈って貰いましょう」

「分かった」
と言って、ランドール様は立ち上がった。

「じゃあさっそく、神社に向かいますか?島野さん」
マークが尋ねてくる。

「ランドール様がよろしければ」
と言いつつ俺も立ち上がる。

「行こう行こう、早く見て見たいものだ」

「では」
とマークが誘導する。

神社に向かうまでの途中でも、ランドール様への黄色い声は止まらなかった。
どこにいてもこの超イケメンに、女性陣はメロメロになっている。
いやはやこんな神様も居たんだね、やれやれ。

俺の若い頃は・・・特に何もなかったな・・・でも童貞ではないよ、決して・・・嘘じゃありません、三十歳の時には結婚を考えた方もいましたからね・・・結婚できなかったけど・・・
などとどうでもいいことを考えていると、神社に到着した。

これまた立派な宮造りの神社だった。
歴史的文化財レベルだ。
所々に施されている意匠が、巧の技がなせるものだった。
境内に植わっている樹木も、太く年季を感じさせる。
とても落ち着く雰囲気だ。
ここにいるだけで、神気を取り込めるような気分になる。
やっぱり日本人には教会よりも、神社の方がしっくりくるようだ。

さっそく、ご神体として祭られている、創造神様の石像へと向かった。
途中で、ランドール様が神主様を連れて来ていた。
石像の状態は、今まで見てみた物の中では、まだ益しな方だった。
ただ益しというだけで、全然創造神様とは似ていない、顔の造りが荒く、経年劣化のせいかところどころぼやけていた。

「それじゃあ、改修してよろしいですか?」

「頼むよ、道具は使わないのかい?」
職人の目で見つめられている。

「ええ、必要無いです」
では、さっそく。
『加工』の能力で、石像を改修した。

「な!どういうことだ?」

「なな、なんと!」
ランドール様と神主様がビックリしている。

「島野さん、君は何をしたんだ?」
怪訝そうな顔をしていた。

「俺の能力で石像を改修しました」

「能力?」
隣で、神主様が石像を拝みだした。

「ええ、それよりも」
と言って、神主様と石像に目を向けた。

「おいおい、本当に神気を放出してるじゃないか!」
まだ驚きは止まらないようだ。

「そういうことです、お地蔵さんでも同じことが起こりますよ」

「そうなのか?これは・・・何とも凄いな。私達神にとってはありがたいことだ」

「これで、少しでも神気不足を補えればと、皆に感謝です」
ボルンの街の皆さま、ご協力お願いします。

「そうだな、皆に感謝だな」

「おお!創造神様に見守られているようです。ああ・・・」
神主さんは周りの目を憚ることも無く、泣いていた。
隣に控える巫女さんも、感動して泣きだしてしまった。

「それにしても、島野さんは神じゃないのかい?」
片方の眉が挙がっている。

「厳密には人間です、ただ・・・訳ありで」

「そうだったな、詮索はしまいよ」

「そう言ってくださると助かります」

「でも先ほどの能力だが、あれはいったい何なんだい?」
やっぱり食いついてきたな。

「あれは、俺の能力の一つで『加工』という能力です」

「『加工』?」

「はい、そうです。頭の中でイメージした通りに加工できる能力です」
難しい顔をしているな。

「イメージか・・・」
ちょっと踏み込んでみるか。

「はい、ランドール様は大工の神様なんですよね?」

「ああ、そうだ」

「大工の能力を持っているということですよね?」

「そうだ、だが先ほど島野さんが行ったような能力とは、ちょっと違うな」

「どう違うんですか?」

「私の能力は、大工作業と製図や測量等に特化している。大工作業については、道具を使うことは出来るし、木材を運んだりも出来る」
概ね俺の想像道りだな。

「であれば、開発出来るんじゃないでしょうか?」

「開発?」
やはり、能力を開発しようと考える神様は少ないようだ。

「ええ、能力の開発です」

「能力の開発なんてできるのか?」
にしても食いつきが、半端ないな。

「可能と俺は考えています、現に俺は様々な能力を開発してますし」

「それはどうやって開発するんだ?」
これは本当は自分で考えて欲しいけど、ヒントは与えておこう。

「俺の場合はイメージを固めて、神気を流してみたりと、いろいろ試行錯誤して行っていますが、ランドール様なら、先ほど俺が行った『加工』なんかは類似性があるから、案外出来るんじゃないでしょうか?」

「類似性か・・・なるほど」
と顎のあたりを撫でながら考え込んでいる。

神様の昇進メカニズムについての、俺の意見は言わないことにした。
違う可能性もあるので、安易な発言は控えたい。
そんな会話をしていると、後ろに気配を感じ、振り向いたら。
神主様が何を勘違いしたのか、俺を拝もうとしだしたので、早々に退散した。
メタンだけで充分ですって。
足りてますから。ほんとうに充分です、勘弁してください。
はあ、まったく。



ランドール様とは別れ、俺達は温泉に向かった。
その温泉は、受付と、脱衣所、トイレと温泉といった。大変質素なものだった。
俺は受付で料金を払った、一人銀貨二十枚掛かった。
ちょっとお高くありません?
脱衣所へ向かう。
衣服を脱ぎ、いざ温泉にゴー!
洗い場が無かった為、掛け湯をしてから温泉に入った。
ちょっと複雑な気分。
うう、体が洗いたい。
湯舟の汚れは大丈夫なのか?
気にせず入ろう、郷に入ればなんとやらだ。
意を決して温泉に入った。

「ふうー」
思わず声が漏れる。
先程までの気分は吹き飛んでいた。
温泉って不思議だね。

「いやー、久しぶりにここの温泉に入りましたよ。気持ちいいですね」
ランドが話しかけて来た。

「よくこの温泉には、入りに来てたのか?」

「いやいや、本当に時たまですよ、なにせ家族五人で金貨一枚は、庶民には高いですよ」

「そうだよな、ちょっと高いよな」

「まあでも、ここの売上が、この街の公共事業に使われる資金になってますので、今となっては、文句はいいませんがね」

「なるほどな」

「でもここに住んでたころは、高い高いって、文句ばかり言ってましたけどね」

「そうか、今じゃあ島では毎日タダで入れるから、大助かりだな」

「ほんとです、島の暮らしは、俺やマーク達にとっては、夢のような生活です」

「言い過ぎだって」

「島野さんは言い過ぎだってよく言いますけど、本心から俺達は想ってますからね」
そう言って貰えると、嬉しくなるじゃないか、ハハハ。

「そういやあ、ランドール様は凄いな」
話を振ってみた。

「何がですか?」
不思議そうな表情のランド。

「超イケメンで、丁寧な対応で、人気もあって、仕事も出来るって、パーフェクト超人だな」

「パーフェクト超人ってのは、よく分かりませんが、確かに仕事は出来て、尊敬できる人ですがね、こっちの方が・・・」
といって小指を立てていた。

「もう酷いもんですよあれは、節操がないです」
あらー、それは残念ですねえ、それはいかがなもんでしょう・・・けどちょっと良かったと思う俺は小市民だな。
人の欠点を知ってそう思うなんて・・・まだまだ神への道は遠いですな、ハハハ。

「島野さん、ちょっといいですか?」
マークが割り込んできた。

「どうしたマーク?」

「少し長くなりますが、一週間ぐらいこの街に滞在してもいいですか?」

「ほう、それはどうしてだ?」

「今日訪れた神社なんですか、島に建ててみたいなと思いまして」

「島に神社をか?」

「はい、そうです」
これはまたメタンが発狂しそうな話だな。
大丈夫かな?

「俺としては構わんが、どうしてそう思うんだ?」

「ええ、島の俺達のコミュニティーは、規模は小さくとも既に村になっていると思うんです」

「そうだな、俺も村だと考えている」
現に村でしょ?違ったかな?規模小さい?

「であれば、神社の一つもあった方が、良いんじゃないでしょうか?」
なるほどな、こういう考え方は好きだな、流石はマークだ。
またこいつらに、任せてみようかな。

「そうだな、でもメタンが興奮して大変なことになるんじゃないか?」

「ハハハ、でしょうね。まあそれは気にせんでもいいでしょう。ハハハ!確かに!」
豪快に笑っている。

「それでせっかく造るなら、宮造りの格式あるものにしたいので、勉強したいと思いまして」
宮造りの神社か、五郎さんも驚くだろうな。
儂の温泉街にも造ってくれって、言いそうだな。

「いいじゃないか、任せるよ、でも一週間で足りるのか?」

「ひとまずは一週間で頑張ってみます、もしかしたらもうちょっと掛かるかもしれませんが・・・」

「ああ、好きなだけ時間をかければいいさ、せっかく造るんだ、納得のいく物を造ろうじゃないか」

「ありがとうございます」

「島野さんならそう言ってくれると思ってましたよ」
こいつらは本当に頼れる奴らだな。
ありがたいのはこっちの方だよ、まったく。
隣を見るとギルが考えこんでいる様子だった。

「どうした?ギル」

「ん?ああ、ごめんパパ、これまでいろいろな神様に会ってきたけど、結局僕はまだ何をしたらいいか、分からないなと思って」
当然の疑問だろうな。

「焦る必要はないさ、ゆっくりのんびりやっていこう」
そう、ゆっくりのんびりとね。

「そうだね、そうしよう」
ちょっとギルを真面目に育て過ぎたかな?
でもこれもこいつの良いところなんだよな。
このままのびのびと育って欲しいものです。

「そろそろ出るか?」

「そうしましょう」
俺達は温泉を後にした。



露天風呂を出て、ひとまず晩飯を取ることにした。
ここもマークとランドにお任せした。

「島野さん、簡単な定食屋でどうでしょう?」

「ああ、任せるよ」
マーク達に着いて行く。
定食屋に入ると、ランドール様が居た。二人の女性を引き連れて。
ランドール様は、鼻の下を伸ばし、下卑た口元をしていた。
あれが、あの超イケメンなのか?
引くほど下品な顔をしているぞ。
挨拶をしたが、下心見え見えの表情を隠そうともしなかった。
これが、彼の本当の姿なのかもしれないな・・・多分そうだろう。
おお、なんだか見てはいけない物を見てしまった気分だ。
話には聞いてはいたが、ランドール様の株が急降下してしまっているぞ。

椅子に腰かけ、メニュー表を見る。
「さて、何にしようかな?」

「おれは、鮭定食で」
マークがさっそく決めている。

「お!鮭があるのか?」

「ええ、この時期に限りますが、街から少し降った川で採れるんですよ」

「それはいいな、帰りに鮭を売っている所を教えてくれないか?」

「わかりました」

「じゃあ俺も鮭定食」

「僕も」

「じゃあ俺も」
よしよし、鮭が捕れるのなら、また食の幅が広がるぞ。
何を作ろうか?
楽しみだな。

鮭定食は、切り身の鮭にお米と、すまし汁だった。
お米とすまし汁の味が物足りないが、しょうがない。
島の食事に慣れ過ぎているからね。

「あ、そうそう、二人とも、大工道具とか必要な物があったら買っておいてくれるか?もちろん島のお金でな」

「いいんですか?」
マークが答えた。

「ああ、後でお金は渡しておくよ、宮大工となると、今の島の道具だけでは無理だろう?それに個人で買うのも有りだけど、島の為の施設を造るんだからさ」

「ありがとうございます。確かに、鉋だけでも何個か欲しいと思ってました」

「それに、わざわざ道具を造るのもいいけど、買って済むなら、それはそれでいいんじゃないか?」
面倒なだけなんですけどね。
まあ、時間の節約ということで勘弁してくださいな。

「そうですね」

「どれぐらい要りそうだ?」
俺は大工道具の値段は流石に分らんからね。

「ちょっと、検討が付かないですね」

「じゃあ、とりあえず金貨百枚ほど渡しておくよ、足りなかったら悪いけど立て替えてくれるか?」
検討つかないか、ピンキリなんだろうな。

「分かりました」

「ちょっといいですか?」
ランドが間に入ってきた。

「どうした?」

「この街で手に入れるのもいいんですが、鍛冶の街ならもっといい物が手に入るかもしれないですよ」
鍛冶の街?なんか聞き覚えがあるような気がするな。

「そうなのか?」

「はい、やっぱり鍛冶仕事となると、ドワーフが造った物が、丈夫で長持ちしますからね」
出ましたドワーフ!酒好きのちっさいおじさん達だな。

「そうか、まあとりあえずここでしか手に入らない物もあるだろうから、そういった物を中心に購入しておいてくれ、鍛冶の街はまた後日行ってみよう」

「そうしましょう」

珍しいことに、ギルが話に割り込んできた。
「ねえパパ、話は変わるけど、さっきランドール様を見たけど、昼の時とは大違いの顔をしてたよ、何あれ?」

「もしかしたら、あれが彼の本当の姿かもしれないな」

「間違いないな」
ランドも賛成のようだ。

「ちょっと、ショックだよ、カッコいい神さまだと思ったのに」
それであの対応だった訳ね。

「まあ、そう言ってやるなよギル、あれでいて仕事の腕は本物なんだから」
マークがフォローしている。

「誰でもなにかしら欠点はあるもんなんだよ」

「そんなもんなのかな?」

「そんなもんだ」
やれやれ、憧れの先輩が、実はただのスケベな兄ちゃんだったなんて、ショックだよな。
たのんますよ、ランドールパイセン。

その後、鮭を十匹購入し、島に帰ることにした。
島の皆は、気に入ると同じ食事を催促されるので、多めに購入した。
翌日の朝には、鮭定食をお披露目した。
そこからは鮭メニューのオンパレードが続く、鮭のムニエル、鮭とシメジとバターの炊き込みご飯、鮭とキノコのガーリック醤油炒め、鮭の味噌マヨ蒸し、等々。
結局三日後には、すべての鮭が無くなっていた。
また買いにいかないとね。
残念ながら、いくらは無かった。
ちょっと時期が早すぎたのかな?

魚が苦手なノンもたくさん食べていた。
苦手な理由は簡単だ、骨があるからだ。
なんとも贅沢な話だ。
調理前に骨を丁寧にとってくれた、料理番の皆さんに感謝しなさい。
ほんとにあいつは・・・

島に季節はないが、久しぶりの秋の味覚を堪能できました。
御馳走様でした。

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