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五郎が島にやってきた

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『魔法国メッサーラ』で購入した、魔道具は、非常に役に立っている。
メルルは、料理の火付けに火の魔道具を使い。水の魔道具は食器洗いに使っている。
照明の魔道具は、寮と俺の家で各自二つずつ使っており、もう一つは外での食事の時に使っている。
筆の魔道具は勉強会で使用している。
魔道具はとても役立っている。

魔道具は、島の持ち物なので、保管場所は徹底され、各自使用後は保管場所に戻すことが義務付けされている。
借りパクは許さんよといったところだ。

便利になったと、皆な喜んでいる。
今度はどんな魔道具を買うか、皆の意見を聞いてみようと思う。

俺は、魔道具を使えないので、能力の開発を行った。
『照明』は電球の原理、電熱線に電気を流すことをイメージし、難なく獲得できた。

手の平を上に向け、その上に電熱線があるところをイメージし、そこに自然操作の雷を微量発生させる。
大事なことは、流す電気に電熱線が抵抗して、光が発生するということ。
なので、流す電気に対して抵抗を強くイメージする。
手の平に神気を集めて出来上がり。
といった感じだった。

火と水は自然操作でできるから、必要ない。
筆に関しては、既に作成済であり、炭から墨汁を作ってあるので問題ない。
ただ、魔法筆の様に消すことはできないが、それは出来なくてもいいと考えている。

あれから一ヶ月経つが、ゴンとルイ君は元気にやっているのだろうか?
今度様子を見に行ってやろうと思う。



俺とギルは納品を終え、五郎さんの執務室にいる。
最近では、納品後に執務室に通され、世間話をすることが多い。
『温泉街ゴロウ』はとても賑わっており、売上もうなぎ上りとのこと。
旅館によっては予約が三ヶ月先まで埋まっているところもあるらしい。
五郎さん曰く、空前の大ブームだ、洒落になんねえ。ということだった。

それに加えてなんちゃて冷蔵庫の販売も順調で、毎週発注をいただいている。
俺達は『温泉街ゴロウ』に貢献できているようだ、なんだか俺も嬉しい気分になる。

突然扉が空けられた。

「五郎さん、元気にしてた」
席を立ちあがり、五郎さんに駆け寄るギル。

「おお、ギル坊元気にしてるぞ」

「お前はどうでえ」
ギルの頭を撫でる五郎さん。

「うん、僕も元気にしてるよ」
ギルは五郎さんが大好きだ。五郎さんもギルを可愛がってくれている。
まるで祖父と孫といった関係に見えてしまう。

「五郎さん頂いています」
俺はお茶の入ったグラスを掴み、上に挙げた。

「おお、なかなか相手出来なくてすまねえな」

「いえいえ、お忙しそうでなによりです」

「本当だな、忙しくてなによりだ、だがちっと忙しすぎるな」

「そんなになんですか?」

「なにいってやがる、おめえの影響でこうなっちまってるんじゃねえか」

「俺の?」

「ああそうさ、考えてもみろよ、野菜が変わっちまって、料理に手を加えなきゃなんねえし、お地蔵さんは管理しなきゃなんねえ、味噌と醤油がまた料理を変えちまって、挙句の果てにはなんちゃって冷蔵庫なんていう発明品まで現れちまった。忙しくなるにきまってらあ」
ハハハ、それ全部俺案件ですね。
なんだかすいません。

「分かるってもんだろうが、まったく」

「すいませんね、でも五郎さんも儲かってるんでしょ?」

「ああ、お陰さんで儲かってる。そこは感謝している、にしてもここまで立て続けだと疲れちまう」

「五郎さんマッサージしてあげる」
ギルが五郎さんの肩を揉みだした。

「おっ、ギル坊うめえじゃねえか。気持ちいいぞ」

「ほんとう?やった!」

「ギル、力加減を間違えるなよ」

「分かってるよ」
ギルが楽しそうだ。

「そういえば、五郎さん、いつ島に来てくれるの?僕、楽しみに待ってるんだけど?」

「ああ、悪い悪い。いま言ったようにちと忙しくてな」

「ええー、そうなのー」

「だが、それももう少しで何とかなりそうだ」

「本当?やったー!」

「五郎さん何とかなるって、どうしてですか?」

「ああ、人を増やしたんだ」

「いいですね」
羨ましいなー、俺も人を増やしたいなー。

「ああ、噂を聞きつけて雇って欲しいって奴が随分現れてな。あと、修業に出してた奴なんかも帰って来てな。ありがてえ話だ」

「そうなんですね」

「ああ、人は財産だ。大事にしなきゃなんねえ」

「分かります」
そういえば、五郎さんが来るとして、どこに泊まってもらおうか?
ほどんどの部屋が埋まってるな。
この際だ、新しく作るか。
この後、世間話を終え島に帰ることになった。



島に帰ると、マークと、ランドに新たに家を作る指示をした。
イメージとしては、ロッジ、五人ぐらいが寛げるサイズだ。
五郎さんの為に造るというのではなく、休日に気分を変える様に、皆に使って貰うのもいいかと考えた。
あとは、メルルとアイリスさんは、他の男性陣と一緒に寮で暮らしているので、この際だからこっちに移ってもらうものありかなと。

丁度、遊戯場が完成間じかの為、タイミングもちょうどいい。
マークとランドには申し訳ないが、引き続き頑張ってもらおう。



それからだいたい二ヶ月後、再び五郎さんの執務室に俺とギルはいた。

「五郎さん、相変わらず忙しいですか?」

「おお、まあな」

「まだ、来れないの?」
ギルが尋ねた。

「それだがな、来週あたりどうかと思ってな」

「本当?やった!」
ギルが喜んでいる。

「いい加減、島野がいうサウナってやつも体験してえしな」
五郎さんがギルの頭を撫でている。

「サウナはいいですよ、是非堪能してください」

「ああ、そうさせてもらうさ」

「パパ、その日はさ、ピザ作ってくれるよね」

「ピザか、そうしようかな」

「ピザってなんでえ?」

「お楽しみということで」

「おお、これは楽しみが増えたようだな」

「ピザわねー、すごく美味しいんだよ」

「そうか、それはいいな」

「ギルの大好物だもんな」

「ギル坊が食べたいだけじゃねえのか?」
五郎さんにはお見通しのようだ。

「そうだけど、五郎さんに食べて欲しいんだよ」

「そうか、ハハハ!」
五郎さんは豪快に笑っていた。

「そういやあ、島野二人ほど連れていっていいか?」

「二人ですか?」

「ああ、儂のお付きみたいなもんだ、一人はおめえも知ってる奴だぞ」

「誰ですか?」

「『漁師の街ゴルゴラド』で屋台で寿司を出してた奴さ」

「あの大将ですか?」

「ああ、今はこの街に帰ってきて、儂の下で働いてる」

「そうなんですね」

「ああ、もう修業はお終めえだな。うち一番の戦力よ」

「そんな人を連れてって大丈夫なんですか?」

「だからこそ連れていくんだ」

「何でですか?」

「どうせお前の島なんてビックリ箱みたいなもんだろう?奴にとってもいい勉強になるんじゃねえかと思ってな」
ビックリ箱って、五郎さんにとって、俺達の島はどんな印象なんだ?
笑うしかないな。

「ハハハ」

「ビックリ箱って何?」
ギルが不思議そうな表情をしている。

「ギル坊知らねえのか?こう箱の中からな、ビヨーンと飛び出してくるんだ」
五郎さんが手を動かして説明している。

「それが僕たちの島なの?」
ギルは分かっていない様子。

「ギル、一つの例えだよ。島が面白いところってことだよ」

「へえ、そうなんだ」

「で、五郎さんもう一人は」

「ああ、もう一人はちょっとな、今は言えねえな」

「え?身元は確かな人物なんですか?」

「それは間違えねえ、儂が保証する」
なんか嫌な予感がするな。

「五郎さん、騙し討ちは止めてくださいよ」

「お!察しがいいな。とは言っても大丈夫だ、儂を信じてくれや」
なんだかなー、気になるな。

「まあ、五郎さんがそこまで言うなら信じますよ」

「すまねえな島野、よろしく頼む」

「そうだ、五郎さん、前もって言っておきますけど、島のサウナと水風呂ですが、男女共用ですので、水着を着用しますが、持ってますか?」

「水着か?大丈夫だ」

「他の二人にも伝えといてくださいね」

「ああ、分かった」
なんだかな、大丈夫なのか?
やれやれだ。



島に帰ってきた。
ロッジはほぼ完成していた。
マークとランドに感謝だ。

今は最後の仕上げを行っている。
『合成』で隙間を埋めていく。
ほどんど隙間は無いのだが、念の為の処置。

他の皆は、前もって作っておいた家具を運んでいる。
ベットや、タンス、椅子やテーブル等。
一応キッチンもあるので、食器なども運びこんでいる。
メルルが鼻歌を歌いながらカーテンを設置していた。

「メルル、ご機嫌だな」

「ええ、新し家ってなんだかワクワクします」

「そうだな、試しにここで住んでみるか?」

「試しにですか?」

「ああ、例しに住んでみて、使いずらいところや、改善した方がいいところが無いか確認してみて欲しいんだ」

「なるほど、実際に住んでみて、使い勝手などを見てみるということですね?」

「ああ、五郎さんが来週あたりに島に来れるみたいなんだ。せっかくだから、ちゃんともてなしたいからさ」

「そうですか、私一人ですか?」

「いや、アイリスさんにもお願いしようと考えててる」

「女性二人ってことですね」

「五郎さんが来てる時は、今の寮に戻ってもらうが、その後は何なら、ここに二人には住んでもらってもいいと思っている」

「ちょ、ちょっと待ってください。贅沢すぎますよ」

「そうか?よく考えたら、いくらハンター仲間とはいえ、同じ家に男女が住むのはどうかと思ってな」

「それは、嬉しい気遣いですが、でも・・・」

「まあ、無理にとは言わない、考えておいてくれ」

「わかりました、試しに住む件ですが、女性二人だけですか?もっといろいろな目でみた方がよいのでは?」

「ありがたい意見だが、女性二人がいいんだ。こういうのは女性の方が、気がつくもんだからな」

「そうですか」

「あとは、他の皆を信じて無いわけじゃないが、ガサツに扱われて傷が付いたら嫌だろ。五郎さんには最高のもてなしがしたいからさ」

「確かに、レケとかうちの男性陣はガサツなのが多いですからね」

「だろう、だからさ」

「いつから住みましょうか?」

「備品が全部揃うのは明日になりそうだから、明日からでどうだ?」

「分かりました」
メルルはカーテンを掛け終え、次の作業に向かっていった。



細かな打ち合わせが行われていく。
まずはノンとギル、エルには五郎さん達がいる間は『黄金の整い』は行わないように指示した。
サウナ自体に入ることは構わない、というと三人とも胸を撫で降ろしていた。
こいつら、そうとうサウナにはまってんな。

メルルからは、実際に住んでみての改善点が、マークとランドに伝えられていく。
それを踏まえてマークと、ランドが微調整をおこなっている。

時折俺にも注文が入る。主に備品について
調理具や食器に関しての注文が多い。
そつなくこなしていく。

ちなみに五郎さんのことは、俺とギル、ノン、エル、メタン以外は、直接会ったことはない。
ただ『ロックアップ』の皆は、五郎さんに直接会ったことは無いが『温泉街ゴロウ』へは行ったことがあるらしい。
屋台寿司の大将は、レケ以外の皆は屋台を利用しているので、おそらく面識はあるだろう。
レケに関してはよく分からない。

にしても、帯同するもう一人が誰なのかが気になる。
五郎さんは顔が広いから、まったく想像がつかないが。
困ったもんだ。

晩御飯時に、当日のメニューについての打ち合わせが始まった。
ちなみに本日の晩御飯のメニューはカレーだ。
パン派とご飯派両方に答えれるようにどちらも用意されている。
俺の本日の気分はパンだ。

「ピザは確定だよね、パパ」
ギルが喜々として言っている。

「ああ、そうだな、五郎さんとも約束したからな」

「それは、晩御飯ですか?」
メルルが尋ねてきた。

「そうだな、そうしよう」

「なにピザですの?」

「エルはなにピザが良いと思う?」

「私はマルゲリータが好きですの」

「マルゲリータは鉄板だな、他はどうだ皆」

「俺はシーフードが好きだな」
ロンメルが口にした。

「今食べているカレーも良いんじゃないか?」
ランドはカレー押しのようだ。

「カレーピザもいいな」

「はい、はい、はーい!味噌汁ピザ!」

「あれは上手いな」
ロンメルが後押しをする。

「分かった、分かった、絶対言うと思ったよ」

「えへへ」
何故か照れるノン。

「私は、ホワイトソースのベーコンが乗ったピザが好きですな」

「俺もあれ好きだな」
メタンとマークはホワイトソース押しのようだ。

「そうか、まあだいたいピザにする時にするトッピングでいこうかな」

「賛成!」
ギルは本当にピザが好きだな。

「あと、昼飯だが何がいいと思う?この島ならではの物ってなんだと思う」

「やっぱり、ツナマヨ丼では?」
アイリスさんが言った。

「実はツナマヨ丼は翌日の朝に、小サイズでと考えていたんですよ」

「なるほど、小サイズならありですね」
メルルが答えた。

「ボス、俺あれが好きだな。鉄板焼き」

「鉄板焼きかー、悪くないな。五郎さんは知ってるかな?」

「どっちのこと?」
この島では、肉のコース料理と焼きそばやお好み焼きのことを、鉄板焼きとしている。

「ああ、お好み焼きのほうだ、時代的にはどうなのか?」

「俺達が『温泉街ゴロウ』に行ったときには、見かけなかったですよ」
マークが言った。

「私も見かけませんでしたな」

「そうか、まあ今では鉄板屋台も二台あるし、両方ってものありだな」

「無茶苦茶豪勢だな、旦那」

「やっぱ、そうなるよな」

「でも五郎さんにはお世話になってますから、良いのでは?」
流石はアイリスさん、大人の意見だ。

「よし、せっかくだから豪勢に行こう。」

「「「おお!」」」
皆が盛り上がっている。
そりゃそうだろう、こいつらも食べるんだからな。

「そうだ、レケ、ロンメル『漁師町ゴルゴラド』では伊勢海老は手に入るのか?」

「伊勢エビってなんだ?」

「こんなサイズの海老だよ」
俺は、手でサイズを見せて説明した。

「ああ、それなら手に入るはずだ」
ロンメルが頷いている。

「そうか、今度買い付けにいこう」

「わかったぜ、ボス」

「あと皆、当日は俺とギルが五郎さん達に島を案内するから、いつも通りに仕事をしてくれていいからな」

「「「了解!」」」

「料理番のメルルとエル、ギルは大変だろうがよろしく頼む」

「分かりました」

「任せてくださいですの」

「OK」
こうして、一通りの打ち合わせは終わった。
さて、おもてなしさせていただきましょうかね。



五郎さんの所に迎えにきた。
いつもの執務室で五郎さん達を待ってる。
お迎えは俺とギル、ギルは朝からウキウキで、ずっとそわそわしている。

ドアがノックされた。
ドンドン!

「どうぞ」

「失礼します」
大将が入ってきた。

「大将、お久ぶりです」
俺は立ち上がって、大将に近づいた。
右手を差し出した。

「島野さん、こちらこそお久しぶりです」
握手を交わした。

「ゴルゴラド以来ですね」

「ええ、あの後急いで『温泉街ゴロウ』に戻ったんですよ、今ではここの料理長をやらせてもらってます」

「もう屋台は引かないんですか?」

「ええ、師匠から修業はお終いだと、戻ってこいといわれまして」

「そうなんですね、おめでとうございます」

「ありがとうございます、でもまだまだです、醤油に加えて味噌まで加わってから、料理の幅が広がってしまいまして、やることだらけです」
なんだかすいません。

「今回は勉強の為に同行しろと、師匠にいわれまして、島野さんの島にはこれまで以上の料理が眠ってるはずだと、仰ってました」
ハハハ、また五郎さんからいろいろ言われるんだろうな。

「そうかもしれないですね・・・」

「こちらは?」
ギルの方を見ていた。

「ああ、すいません紹介します。ギルです」
ギルが立ち上がる。

「ギルです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、確か屋台に来てくれていたね」

「はい、大将の寿司は美味しかったです」

「そうかい、それは良かった」

「でも、パパのピザほどじゃなかったけどね」

「ギル、おまえ何言ってるんだ」

「ピザとは?」
ああ、もうほんとにまだまだ子供だな。

「ええ、晩御飯で出しますので、楽しみにしててください。俺には大将の寿司の方が美味しいと思いますよ」

「いやいや、子供の舌は正直です。勉強させていただきます」
真面目な人だな。なんだかごめんなさい。

ドアが開かれた。
五郎さんと、もう一人が入室してきた。

デカい魔人がいた、引き締まった体をしている。
ランドの様に角が頭に二つあるが、牛の獣人のそれとは違う。
鋭い眼つきに、きっちりと刈上げられた髪、そしてなぜか甚平を着ており、靴は下駄をはいていた。

「島野、紹介させてくれや、ガードナーだ、警護の神をやってる。よろしく頼む」
警護の神?たしかタイロンの神様だったな。

「島野さん、始めまして、ガードナーです」
野太い声をしていた。

「私が五郎さんに無理を言って、付いてこさせて貰いました」

「こいつがな、例の件のお礼がどうしてもしたいと言って、きかなくてな」

「はい、タイロンの街を、いや国を救っていただきありがとうございました」
ガードナー様は深く、お辞儀をした。

「いやいや、ガードナー様止めてくださいよ。顔を上げてください。ハンターとしての義務に従っただけなんですから」
ガードナー様は顔を上げた。

「そう言って貰えると助かります。私のことはガードナーとお呼びください。本当は国を挙げて感謝の意を、伝えたいところなのですが、五郎さんが、島野さんはそういうのは嫌がるから辞めとけと、今回もハノイ王も連れてこようと考えたのですが、これも嫌がるから辞めろと言われまして」
五郎さんナイス、いい仕事してくれてます。
王様なんてめんどくさいの嫌だよ。

「五郎さん、ありがとうございます。助かります」
五郎さんがガードナーさんの方を向いた。

「な、ガードナー、言った通りだろ、こいつは目立つのは嫌がるんだ」

「そのようですね、真の勇者ですね」
勇者って、この人も何か勘違いしてそうで、怖いんですけど。

「まあ、ここで立ち話もなんですので、さっそく行きませんか」

「そうだよ五郎さん、いろいろ準備したんだからね」

「そうか、ギル坊。そりゃあ楽しみだ!」

「じゃあいいですか、行きますよ」

ヒュン!



島に到着した。

「こっ、これはいったい」

「これは強烈だな、聞いちゃあいたが・・・」

「何が起こって」

『転移』でいきなり島にやってきたことに驚いているようだ。

「五郎さん、島にようこそ」

「おお、久しぶりにビビったぞ、ここがお前えの島か」
徐々に落ち着きだしている一同。

「へえ、これが島野さんの島か」
大将が景色に見入っている。

「なんと、この様な島があるとは」
ガードナーさんはまだ少し上の空だ。

「島野、良い島じゃねか」

「ありがとうございます、ひとまず荷物を置きにいきませんか?」

「ああ、そうさせてもらうぜ」
三人は周りをきょろきょろしながら、後を付いてきた。
ロッジに荷物を置きに行った。

「島野、立派な家じゃねえか」

「ありがとうございます、優秀な大工がいますからね」

「そうなのか?これはスカウトしねえとな」

「勘弁してくださいよ、内の大事な戦力なんですから」

「ハハハ、冗談だ」

「でも実際、こういう家もいいもんですね」
大将が家の中を見回しながら言った。

「ロッジというものなんですが、広々として好きなんですよね」
実はこのロッジは、大きなスペースを意識して、天井高も高く作ってある。
メッサーラの家をみて、この造りを取り入れる様に、マーク達には注文した。
高い天井は、それだけで家の中を広く感じる印象を与える。

「樹の匂いが気持ちいいですね」
ガードナーさんもロッジを褒めている。

「じゃあまずは、この島の自慢の畑から見てもらいましょうか」

「おお、見させて貰おう」

「勉強させていただきます」
俺達は五郎さん達を伴って畑に向かった。
畑の向かうと、既に午前中の畑作業が終わったのだろうか、アイリスさん以外は居なかった。
アイリスさんに五郎さん達を紹介する。

「あんたが、アイリスさんかい?」

「ええ、アイリスです、よろしくお願いいたします」

「かあー、ギル坊から聞いちゃいたが、えらい別嬪さんじゃねえか」

「あら、お上手な方」
ギルがニコニコしている。

「あっ、そうだ、アイリスさんとやら、あんた内の饅頭のお得意さんなんだって?」

「ええ、美味しく頂いております」

「そうかい」
五郎さんは『収納』から饅頭を取り出した。

「よかったら貰ってくれないか、いつもお世話になってる、お礼みてえなもんだ」

「まあ、よろしいのですか?」

「ああ、貰ってくれ」
アイリスさんは五郎さんから饅頭を受け取り、軽くお辞儀をしていた。

「ありがたく頂きますわ、ごちそう様です」

「島野さん、立派な畑ですね、凄いです」

「この畑はアリスさんが管理してくれているから、上手くいっているんですよ、アイリスさんが居なければ、ここまでのレベルは保てないです」

「流石だな、これはプロの仕事だな、すげえよアイリスさん」
五郎さんが褒めている。
やはり分かる人には分かるものなのだな。

「いいえ、私は畑が大好きなんです。作物が育っていくこと、そしてそれを皆さんが美味しく頂いてくれることが、私には嬉しくて、本当はもっと拡張して欲しいですわ」
だからこれ以上は無理ですって。

「アイリスさん、勘弁してくださいよ」

「どうやら島野でも、アイリスさんには適わねえようだな」

「ほんとですよ、じゃあ次行きましょうか」
これ以上いると、アイリスさんが何を言い出すか分からない。
はい、次!



農業用倉庫を拡張しているマーク達のところに来た。

「マーク、ランド、ちょっといいか、五郎さんだ」
マーク達は作業を止め、俺達のところにやってきた。

「紹介します、建設部門のマークとランドです」

「初めましてマークです」

「ランドです」
二人は汗を拭うと一礼した。

「おお、ごついあんちゃん達じゃねえか、儂は五郎だ、よろしく頼む」

「こちらこそ、あれ?寿司屋の大将?」

「ああ、二人とも食いに来てくれていたな、よろしく」

「私は、ガードナーだ、よろしく」

「えっ、ガードナーって警護の神様の?」
マークはガードナーを知っていたようだ。

「ああ、縁あって来させていただいている」

「そうですか・・・」
マークが俺に意味ありげに視線を送ってきた。
んん?何だろう?
あとで聞いてみるか。

「では、島野さん仕事に戻ります」

「ああ、よろしく頼む」
マーク達のところを離れた。



次に向かったのは養殖場だった。
前もってギルに指示し、ロンメルとレケには伝えてある。
岸に着くと、ロンメルが船を準備して待っていた。

「ロンメル、待たせたか?」

「いや、今丁度帰ってきたところだ」

「そうか、紹介するよ」

「儂が五郎だ、よろしく頼む」

「俺はロンメルだ」

「俺はレケだ、あんたが五郎さんか、待ってたぜ」

「私はガードナーだ、よろしく頼む」

「俺は」

「あれ?寿司屋の大将?」
大将の言葉を遮ってロンメルが言った。
結局大将の名前って聞いたことがないよな・・・

「ああ、あんたも屋台に食いに来てくれていたな。よろしく頼む」

「大将の寿司は上手かったぜ、また食いてえな」

「そう言って貰えると助かる」

「今日は養殖場を見せればいいんだよな?旦那?」

「ああ、そうしてくれ」
船に乗り込む一行。

すると獣化したギルが
「五郎さん、僕の背中に乗ってよ」
と言い出した。

「おっ!ギル坊、儂を乗せてくれるってか、そりゃあいい、おい島野、儂はギル坊に乗っていくぞ」

「ご自由にどうぞ」
ギルは五郎さんを背中に乗せたかったんだろうな、嬉しそうにしている。

「じゃあ、いくぜ」
というと帆を扱いだしたロンメル。
俺は帆に自然操作で風を当ててやる。
船が推進力を得て、進みだす。

ギルはというと、五郎さんを背に上空にホバリングしている。
俺は『念話』でギルに
「ほどほどにしろよギル、ゆっくりな」
と伝えた。

「分かってるよ」
と返事が返ってくる。

船に追随するように、ギルは上空を進んでいた。
五郎さんも楽しんでいるようだった。



養殖場に着いた。

今では二十匹近いマグロが養殖場にはいる。
二メートル以下のマグロを捕まえて、二メートル半以上になったら出荷する。
そうやって養殖場は運営されている。
もちろん出荷先は五郎さんのところ、今のところ順調にいっている。

村の皆はツナが大好きなので、こちらでも消費はある。
ツナをパンに挟んで食べたり、おにぎりの具にも使用している。

「なるほど、こうやってマグロを養殖しているんですね」
大将が関心している。

「ええ、始めは試行錯誤しましたが、今ではだいぶ落ち着いてきました」

「それは苦労したんでしょうね」

「そんなことはないぜ、ボスが出来ねえことなんてねえからな」
レケが有頂天になっている。頑張りが認められて嬉しいのだろう。

「じゃあ、そろそろ島に帰って昼飯にしましょうか?」

「そうですね、お世話になります」
俺は『念話』でギルに島に帰ることを伝えた。



鉄板用屋台に皆が集まっている。

「さて、お待ちかねの昼飯としましょうか」

「おっ!何を食わせてくれるんだ?」

「それはお楽しみだよ」
ギルが俺の横に並んで、五郎さんの目の前に位置どった。

「じゃあ始めようか」
俺とギルの鉄板では、コース料理が作られていく。
メルルとエルの鉄板では、お好み焼きと焼きそばが作られる。
皆な喜々としてその様子を眺めている。

炒めた野菜に軽く塩を降って、五郎さん達の皿に振り分けられていく。
「うん、上手いです」
ガードナーが頬を緩めていた。
その隣でギルは、肉を焼いていく。

「五郎さん、これからが見せ所だよ」

「ほう、何を見せてくれるんだい」

「行くよ」
ギルがフランベを行ったが、勢いよくアルコールを入れ過ぎた。

「熱っちい!」
五郎さんが叫んでいる。

「ごめん、大丈夫」
ギルが心配そうにしている。

「ビックリした!ああ、大丈夫だ、何ともねえ」

「ごめん、力が入り過ぎた」

「いやあ、参った。大迫力だな、ガハハハ!」
何ともなかったようで、五郎さんは豪快に笑い飛ばしている。

「ギル、五郎さんの前だからって、恰好つけすぎ」
ノンにツッコまれていた。

「いや、ギル坊気にすることはねえ、驚いちまっただけさ」

「ありがとう」

「「「ハハハ」」」
笑いが起こっていた。
ギルは肉を切り分けて、提供していく。

「うめえ、ギル坊最高じゃねえか!」

「本当?よかった」
その横では俺が伊勢海老の仕上げに掛かっている。
真っ二つにし、マヨネーズをかける、最後に自然操作の火で表面を焼き上げる。

「伊勢海老とは贅沢じゃねえか」

「五郎さんにはお世話になってますので」

「しかし師匠、こういった料理の見せ方もあるんですね」

「ああ、そうだな。寿司も握るのを見せることが、味を更に上手くする秘訣だ、これも同じだな。肉や伊勢海老でやるとは感心するぜ、まったく」
大将はまだまだ勉強モードの様子。

「こちらも出来ましたの」
エルがこちらの屋台に声を掛けている。

「おお、あっちのも頂こうじゃねえか」

「そうしましょう」

「んん?これは・・・どんどん焼きか?」

「ええ、今ではお好み焼きといって、大衆食として日本では食べられています」

「かあ、懐かしいじゃねえか、どれ一つ貰おうじゃねえか」
エルが切り分けて、五郎さんの皿に乗せた。

「どれどれ、これに付けるのか?」

「ええ、この島ではそうしてます。日本ではソースが一般的だと思いますが」

「おお、こりゃあ上手え、日本人の舌にはもってこいだな」

「本当だ、この付けたタレは、醤油と何かを混ぜたものですか?」

「はい、マヨネーズという調味料を混ぜてあります」

「マヨネーズ?」

「はい、これです」
『収納』からマヨネーズを取り出し、大将と五郎さんの皿に乗せた。
箸の先に付けて味見にする二人。

「これはいけるな」

「ええ、そうですね、また料理革命が始まりますね」
料理革命って大げさな。

「すいません、私にも一口いいでしょうか」
ガードナーがすまなさそうに皿を持ち上げた。
皿にマヨネーズを付けてやる。

「おお!これがマヨネーズ、これだけでも上手いです。ずっと食べられそうだ」
太るから辞めておきなさい。

「島野、分かってるな?」

「はいはい、マヨネーズも卸しますよ。ただ消費期限が分からないので、使う前に『鑑定』してくださいよ」

「ああ、分かった」
五郎さんが物思いに耽っている。
多分何にかけようか考えているんだと思う。
その隣では、大将がなにかぶつぶつ呟いている。
似たもの同士の子弟だな。

こうして、いろいろありつつも、昼飯は終了した。



皆で、和気あいあいと話が弾み、そろそろいい時間を迎えようとしていた。

そういえば、大将の名前が判明した。
大将の名前はダンだった。
ダンさんと呼ぶべきか、大将と呼ぶべきか悩み処だ。

「さて、そろそろ風呂とサウナの時間にしましょうか?」

「おっ!いよいよか」
手ぐすね引いて待ってた、と言わんばかりの五郎さん。

「行こう、行こう」
五郎さんの手を引っ張るギル。
俺達は風呂場へと向かった。
準備を済ませ、露天風呂へと向かう。

「島野、良い解放感だな、この眺めは」

「ええ、そうでしょ?自慢の光景ですよ」
海を眺めながらの露天風呂、最高です。
掛け湯を済まして、露天風呂に浸かった。

「ふう」
思わず漏れる声。

「どうですか?五郎さん」

「ああ、最高だな、ちょっと待ってろよ」
というとお湯に手を翳した。

「うん、良い泉質だ。温泉ほどじゃねえが、風呂としてはまずまずだな」

「五郎さんは、泉質が分かるんですか?」

「ああそうだ、儂の能力の一つだ『水質鑑定』っていうんだがな」
というと、目を閉じて集中し出した。
にやり顔の五郎さん。

「島野、今回のお礼といっちゃあなんだが、吉報だ」

「なんですか?」

「この島には泉源があるぞ」

「嘘でしょ!」

「本当だ、儂の能力『泉源探索』に反応があった。こりゃあ明日にでも見に行こうじゃねえか」

「やった、温泉ゲット!」
俺はガッツポーズを決めていた。

「「「ハハハ」」」
笑いが起きていた。
女子風呂の方から騒めきが聞こえた。
騒いでしまってすいません。
だって、温泉ですよ!

「お前え、つくづく引きが強えな、感心するぞ」

「ありがとうございます、嬉しいー!」

「ハハハ、いいってことよ」

露天風呂を出て、塩サウナへと向かった。
塩サウナのやり方を教えて、実践中。

「これは、部屋の密閉が重要そうですね」
ガードナーさんが話しだした。

「おっ、ガードナーさん目の付け所がいいですね」

「ありがとうございます、しかし、私は素人ですけど、この塩はとても純度が高いのでは?」

「ええ、その通りです」

「これは、海水から作ってますか?」
大将、ダンさん、ああもう、どっちでもいいや、が疑問を口にした。

「そうです、俺の能力で作ってます」

「島野、これもだな」

「わかりました、次回の納品に持っていきます」
なんだか、島の食材の品評会みたいになってないか?

「じゃあ出ましょうか?」

「おう」
塩サウナを出て、体の塩を洗い流した。
そしてサウナへ向かった。



蒸されている、五郎さんが蒸されている。
大将も、ガードナーさんも蒸されている。
おじさん達が蒸されている。

「これは強力だな」

「ええ、じんわりときますね」

「なんだか、食材になった気分です」

「もう少し、頑張りましょう」

「まだか?」

「ええ、もう少しです。この先が大事なんです」

「そうか、もう汗びっしょりだぞ」

「あと少しです」

「なかなか忍耐力を試されますね」

「よし、じゃあ行きましょうか」
皆我先にと、一斉にサウナ室を飛び出した。
水風呂に入る前に、掛け水をすることを指導した。
水風呂に飛びこむおじさん達。

「ああ、冷たいけど気持ちいい」

「おお、体が引き締まる」

「何も考えられない」
等と口々に感想を述べている。

「さあ出ましょう」
インフィニティーチェアーへと誘導した。
気持ちよさそうに横になるおじさん達。
各自余韻を楽しんでいるようだ。
解放感と爽快感に包まれているおじさん達。
多幸感を満喫している。

サウナっていいね。
最高!

「島野、いい経験をさせて貰った」

「ええ、こんな解放感があるとは知りませんでした」

「島野さん、これ以上ない満足感です」
各自、想い想いを口にしている。

「島野、これはあれだな。ご褒美だな。儂らに許された、最高のご褒美だ」
五郎さん語りますねえ。

「ええ、俺が人生を駆けているのも分かって貰えたようですね。ここから後二セットいきますよ、もっと整いますよ」

「まだ行くのか?」

「お供いたします」

「喜んで!」
そこからサウナを二セットを行い。更におじさん達は整っていった。
サウナジャンキーがまた増えたようだ。



夕食の時間を迎えた。
五郎さんにとっては、ギルから先刻された時間。

「ギル坊、遂にってことなのか?」

「五郎さん、いよいよだよ」

「そうか、いよいよか、楽しみにしてるぜ」

俺は集中している、既にある程度のトッピングを終え、ピザ釜の温度の調整に入っている。
島の皆は、ここからは俺に話掛けるのは厳禁と分かっている。
その緊張が伝わったのか、島に訪れたおじさん達も口を噤んでいる。
釜の温度を確かめ、マルゲリータを釜に入れる。
状態を確認しながら、ピザを回していく。

あえて焼きムラを意識しながら。特性のピザの下にある網を回していく。
既に身体強化でいつでもどの様な動きでもできる状態にしてある。

今だ!
時計周りにピザを回し仕上げを確認する。

「メルル、あとは頼む」

「はい!」
テーブルの上にピザが運ばれてくる。
それをメルルが、ピザカッターで八等分に切り分けていく。
それを尻目に俺は、次のピザに集中する。

二枚目はホワイトソースのベーコンピザ。
ホワイトソースは改良を重ね、今では、トマトソースに次ぐ最高の仕上がりをみせている。
更にこのホワイトソースは、ピザのみならず、グラタンにも応用が出来る一品となっている。
まさに至極の一品と言っても、過言では無いと俺は自負してる。

ピザを仕上げていく。
俺は何枚ものピザを作っていった。

「島野、儂は舐めていたかもしれねえ」

「ええ、これは格別です」

「この複雑な味、表現に困る」
評判はいいようだ。

「島野このトマトソースも卸してくれるか?」

「すいません五郎さん、これだけは門外不出なんです。五郎さんの頼みでもこればっかりは卸せないです」

「そうか、残念だな、まあしょうがねえな」

「このピザは、この島でしか食べれないんだよ」
偉そうにギルが語った。

「そのようだな。いいなあギル坊は、こんな上手い飯が、しょっちゅう食えて」

「へへへ」



ここで騒ぎが起こった。
マークとロンメル、ランドとメタンがガードナーを囲んでいる。

「ガードナーさんよ、これまでは旦那を立てて、黙っていたが、何であんたがこの島にいるんだ?」
ロンメルが喧嘩口調で詰め寄っている。

「ああ、そうだ、聞かせて貰おうじゃないか」
マークまで食って掛かっている。
慌てて五郎さんが止めに入った。

「ちょっと、待てあんちゃん達、何だってんだ?」

「五郎さん、すまないがどいてくれないか。こいつは『鑑定』のガードナーなんて言われている奴なんだ。なんでこの島にいるのか知らないが、島野さんに仇なすってんなら、相手が神様だろうが、俺達は引けないな」
ランドがいきり立っている。

「その通りですな」
頷くメタン。

「まあ、待てちょっと話を聞け」
と四人を押しやる五郎さん。

「これには理由があるんだ」

俺も割って入る。
「お前達、俺の為にしていくれていることはよく分かってるが、ちゃんと話を聞こうじゃないか」
後ろに下がるロンメル達。

「旦那がそういうなら話ぐらい聞くが、ことの次第によっては許さねえからな」

「まあ、そういきり立つんじゃねえよ、な、あんちゃん達よ」
五郎さんが宥める。

「いいか、そもそもガードナーがここにいる理由は二つだ。まずはタイロンを救ってくれた島野にお礼を伝えることだ、もう一つが」
ここでガードナーさんが割って入る。

「五郎さん、ここは私が話します」
そうかとガードナーさんを見つめ返す五郎さん。

「もう一つの理由は、島野さんに謝罪することです。どう切り出そうか、ずっと悩んでいましたが、良いきっかけを頂けたようです」
どういうことだ?

「島野さんがタイロンに来られた時に、失礼を働いてしまいました。申し訳ございません」
と頭を下げるガードナーさん。

「ん?失礼とは?」

「島野さんが、野菜の販売をしている時に、私の部下が『鑑定』をしてしまいました、申し訳ございませんでした」

「ああ、そんなこともあったな」

「実は一部の部下に鑑定の魔道具を持たせています。ただ、滅多にそれを使用することはありません。あの時は島野さんが初見であったことと、ものの数分で長蛇の列を作っていることに、異常さを感じた部下が疑ってしまい『鑑定』を行ってしまったのです」
確かに、タイロンでの屋台の販売は凄かったな。
とんでもない勢いで売れてたからな、疑われて当然か。

「なあ、ガードナーこの際だから、話してもいいんじゃねえか?」

「そうですね、誤解を解くいい機会です。君達、よく聞いて欲しい。私は『鑑定』の能力は持ってはいない」

「はあ?」

「嘘だろ」

「事実です、今ここで『鑑定』を受けてもかまいません」

「いや、そこまでする必要はないだろう」
俺は割って入った。

「あんちゃん達、儂は実際にこいつを『鑑定』したことがあるが『鑑定』の能力は持っちゃいなかったぞ」
五郎さんが保証した。

「はあ?じゃあなんで『鑑定』のガードナーなんて噂がたってるんだよ?」

「それは、私がその噂を広める様に、部下に指示したからです」
怪訝そうな表情を浮かべているマーク達。

「なんでそんなことを?」

「それは抑止力になると考えたからです。タイロンは大国です、毎日たくさんの人々が出入国します。その中には好まれない者達も多くいます。そういった者達の入国を減らすにはこの方法が良いと考えたからです」

「マジか?」
と頭を抱えるロンメル。

「そういうことか、そんな噂が広まれば、悪事を考える者達は近づかなくなるってことか」

「そういうことです、行き違いがありましたが、島野さん、謝罪を受け入れて頂けないでしょうか?」
目立ち過ぎた俺が悪いという気もするが・・・

「ああ、もちろんだ。お前達もなにか言った方がよくないか?」
俺はマーク達を見た。

「すまなかった」

「申し訳ありませんでした」

「早とちりでした。すいませんでした」

「これは悪いことをしましたな」
マーク達は、ガードナーに頭を下げた。

「いや、疑われて当然のことです。それよりも、私に向かってくる者がいるとは・・・島野さん、素晴らしい仲間達ですね。どうか、この者達を叱らないでください」

「ああ、分かってるよ、ガードナーさん」

「いえいえ、いいんです」
誤解が解けて何よりです。

でも、タイロンに対しての違和感が変わらないのはどうなんだろうか・・・
まだ何か引っかかるものを感じる。
今は考えることでは無いのかもかしれないな。
俺は考える事を止めることにした。
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