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1 自分は関係ない。そう思っていた時期が私にもありました

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『さあ、あなたも新しい自分を見つけよう!!
Another World Online!!
~第二陣はもうすぐ~』

画面の向こう側で冒険者の格好をした女の子がこちらに手を差し伸べている。
これは今話題のVRMMOゲームのテレビCMだ。
日に何回も見ているからゲームの類に疎い私でも知っている。

Another World Online 
通称AWOは少し前に配信されたVRゲームだ。プレイするには専用のヘッドギアが必要で、五感はもちろん、痛覚や空腹まで感じることができるという時代の最先端を行くゲームである。
そして何よりの売りは、多種多様な戦闘方法。人の数だけ戦闘方法があるといっても過言でないほど、人によって形が様々なのだ。
第一陣はすでに始まっていて、もうじき第二陣もスタートする。

まあ、私には関係ないんだけどね!
そりゃあ機会があったらやってみたいとは思うけど、ゲームなんて滅多にやらないからなあ。

そんなことを思いながらぼうっとテレビを眺めていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

「宅急便でーす!」

「あ、はーい!
今行きまーす!」

ハンコを押して荷物を受け取る。
宛名の欄には“天草あまくさ 大空そら様”と私の名前が書いてあった。差出人は“天草あまくさ 大海かい”、別居中の双子の弟からだった。
大海の高校と私が通う高校は距離がだいぶ離れているため、私はお母さんと一緒に高校近くのマンションで暮らしている。
それでも兄弟仲は良好で毎日電話し、休みの時に会うほどだ。

そんな大海から荷物が届くこと自体は珍しいことではない。けれど、いつも事前に連絡が来ていた。


「何が入っているんだろう.......。
とりあえず開けてみようかな」

頭にはてなマークを浮かべながら荷物を開ければ、そこには先ほどまでテレビで目にしていた新品のAWO専用のヘッドギアが入っていた。

「うえええええええっ!!」

大海は抽選でβテスターに選ばれた上に、第一陣でプレイしているとは聞いていた。今まで述べた情報も全部彼から教えてもらったものだ。

「……大海に電話しよう」

混乱した私は、とりあえず弟に電話をかけるのだった。




――side 大海――

「もうそろそろ届くころかな」

昼休み、学校の屋上で昼飯のパンを食べながら隣に座っている男に話しかける。

「ああ。
今日か明日辺りに到着予定とは書いてあった」

スマホから顔を上げることなく答えた彼は俺の、正確に言えば俺たちの幼馴染である尾崎怜おざきれい。西洋人である母親の血を強く受け継いで金髪にエメラルドの目と大層日本人離れした顔立ちをしている。
別に、大空に“怜ちゃんの瞳は宝石みたいで綺麗だね!”とか言われて羨ましいとか思ってないからな。

そもそも今日は土曜日で、本来だったら大空に会いに行く予定だった。なのに特進コースだけ特別課外?ふざけんじゃねえよ。

俺が教師陣に沸々と怒りを沸かせていた時、着信をしらせる音楽が流れた。
多くの着信音がデフォルト設定のままの中、音だけでわかるよう曲を変えたただひとつの連絡先。
俺はすぐさま通話ボタンを押した。

「もしもし、大空?」

『ごめん、今日学校だった?』

声の主は俺の愛してやまない双子の姉。
電話に出た瞬間チャイムが鳴ったせいで大空に気を遣わせてしまったが、画面の向こうで、スマホを耳にあてながら申し訳なさそうな顔をしているであろう表情豊かな姉を想像して、つい笑みが零れる。
俺は極力優しい声で答えた。

「まだ昼休みだから大丈夫だよ。
もしかしてヘッドギア届いた?」

『うん。どうしたの、これ?』

「βテストのときに、怜が重要なバグを見つけてさ、その謝礼に運営からもらった。俺も怜ももう持っているから大空に、って。第一陣は流石に無理だったけど第二陣から始められるよ」

本当は俺が大空にプレゼントしたかったのに、怜の野郎……!

『そうなんだ。じゃあ、怜ちゃんにお礼の電話しとかないとね』

「俺がこの後伝えておくからいいよ」

『うーん。でもお礼は私の口から言いたいから』

「それが、怜の奴携帯の充電が切れたまま失くしたらしくてさ。
向こうの世界でも会えるから、そのとき言いな」

『あはは、怜ちゃんもおっちょこちょいだねえ。
わかった!とりあえず伝えておいてね。バイバイ』

「了解。じゃあね」

名残惜しく思いながら通話を切ると、怜が眉をひそめて俺の方を見ていた。

「誰の、何が、なくなったって?」

「盗み聞きとか人としてどうかと思う」

「隣で話しといて盗み聞きもへったくれもねえよ!」

怜は顔に似合わず口が悪い。まあ、外面は王子そのものでニコニコとしてるがな。

「はいはい、悪かった悪かった。チャイムもなったし教室戻るぞ」

「ったく反省の色すら見えねえ。
ま、今に始まったことじゃないけどな。」

二人で並んで教室に戻る。執拗に話しかけてくる女どもを怜に押し付け、俺はもうじきくる大空とのゲームに思いを馳せるのだった。
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