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これは夢?
しおりを挟む「いやっ、結衣さん、やめて!」
思うように身体が動かない中、必死に抵抗したけれど。
簡単に腕を押さえつけられ、布で両手を縛られた。
「お願い、助けて!」
「美穂さん、暴れないで。すぐに気持ちよくしてあげるから」
朦朧とした意識の中で、わたしはひどい罪悪感と戦っていた。
今まで感じたことのない痺れるような快感が全身を襲う。
嫌悪する一方で、快楽を求めている自分を畏れた。
なめらかにうごめく細く冷たい指。
執拗に攻めたてる温かな舌。
羽根のようなものに敏感な先端をくすぐられて、思わず声がもれた。
激しくせまる快感の渦に巻き込まれ、逃れられなくなる。
すでに抵抗することは不可能になっていた。
バイブレーションの音がして、快感は頂点に達する。
自《みずか》ら快感を求めてうねりの中に身を投じていた。
結衣さんと陽菜さんの喘ぐような声が聞こえた。
「美穂さん、とってもステキよ。私たちこれからも仲良くしましょうね」
何度も快感の絶頂を迎え、わたしはぐったりとして深い眠りに落ちていった。
どれくらい眠ったのだろう。
ぼんやりと目がさめカーテンをめくると、外は暗くなっていた。
目隠しは外され、ちゃんと借りたパジャマを身につけていた。
ぐっすり眠れたのに疲れはあまり取れてない。
気だるさを感じながら起き上がる。
もしかして、あれは夢だったのではと思う。
頭はしっかり覚醒しているのに、金縛りになって身体が動かないことがあった。
そんな金縛り状態のときに見た夢は、とてもリアルで鮮明だった。
それと似ていた。
それにしても、なんてひどい夢だったのだろう。
だけど、、
今でもなめらかな指の動きと、ねっとりとした舌の感触を覚えていた。
夢とはいえ、あまりの記憶に嫌悪を覚え、思わず自分の頭をたたいた。
わたしはひどく淫乱で、欲求不満なのだろうか。
なんだか、また自分が嫌いになる。
サイドテーブルの上に、わたしの洋服が畳んで置かれていた。
気だるく重い頭で起き上がり、服に着替えた。
ドアを開け寝室から出ると、結衣さんと陽菜さんがキッチンに並んで立っているのが見えた。
おしゃべりしながら仲良くお料理をしていた。
「あ、あの、、ごめんなさい。わたし、すっかり熟睡してしまって」
「あら、美穂さん。よかったわ、ぐっすり眠れて。よほど疲れていたのね」
何を作っているのか、キッチンからとてもいい匂いがただよっていた。
「美穂さん、お腹がすいたでしょう? もうすぐ夕食できそうよ」
陽菜さんがクスクス笑いながら盛り付けたお料理をダイニングテーブルに運んだ。
彩りよく、美容と健康に良さげな海鮮サラダ。
「陽菜とふたりで肉じゃがも作ってみたの。美穂さん、味見をしてくださらない?」
結衣さんが小皿によそったものを差し出した。
「あ、は、はい」
小皿にすくった煮汁を飲むと、味わい深く、よく味のしみた美味しい肉じゃがだった。
「とっても美味しいです。わたしが作るのよりも美味しいわ」
こんなに美味しく作れるのに、なぜ呼ばれたのか不思議なくらいだ。
「そう? よかったわ。陽菜は私よりお料理が上手だから。お魚ももうすぐ焼けそうよ。昨日釧路の実家から送られてきた魚なの」
結衣さんはそう言いながらグリルを開けた。
「わぁ、美味しそうに焼けてる! キンキの干物なんだけど、美穂さん食べられる?」
「え、、ええ。好き嫌いはないので大丈夫です」
そんな高級魚は食べたことがない。美味しいに決まってる。
焼き魚以外にもテーブルには毛ガニなど、ご実家から送られてきたというご馳走がたくさん並べられていた。
「さあ、いただきましょう!」
結衣さんがエプロンをはずしてイスに腰をおろした。
「美穂さん、ここに座って」
陽菜さんがやさしく微笑んでイスを引いてくれた。
「ありがとうございます。なにもお手伝いしないでごめんなさい」
向かい側に座った二人にぺこりと頭を下げた。
「いいのよ。美穂さんとお友達になれただけで嬉しいわ。じゃあ、乾杯しましょう。和食にはちょっと合わないけど、このシャンペンもとっても美味しいの」
結衣さんは慣れた手つきでシャンペンの栓を抜いた。
パン! プシュッ!!
軽快な音がして、泡が吹きこぼれた。
結衣さんがシュワッとはじける液体をグラスに注いでくれた。
「フフフッ、じゃあ、美穂さんとの出会いにカンパーイ!!」
天真爛漫な陽菜さんが、持ち上げたわたしのグラスにカチッと自分のグラスを当ててウインクをした。
華やかな世界に暮らす人たち。
わたしについて行けるだろうか。
“ えー、もう帰っちゃうの? もっとおしゃべりしましようよ ”
結衣さんと陽菜さんは引き止めてくれたけれど、
"明日も仕事で、朝早いので ”
と、やんわり断り、そそくさとマンションを後にした。
二人とも明るく親切で楽しい人たちなのだけど、同年代の女の子たちとの会話には慣れてなくて、聞いているだけでも疲れてしまう。
なんでも挑戦して頑張ろうという気持ちはあっても、会話について行けず、いつも取り残されているような、場をしらけさせているような感覚に襲われる。
もっと図々しさが必要なのだろうか。
二人の会話から学ぶことは沢山あるけれど、そんな会話のknow-how以前に、怖気づいている自分の気持ちを変えていかなければいけない。
わたし自身が楽しく感じなければ、二人にも気持ちは伝わってしまうだろう。
ずっと苦手だったことなのだ。
すぐに上手く付き合えるはずもない。
そんな風に前向きに気持ちを切り替えて、自分を納得させた。
駅から徒歩17分もかかる家は本当に不便だ。
途中、いつも立ち寄るスーパーで生活必需品を買う。
手に持てるだけしか買えないので、食べ物はすぐになくなる。大根一本、キャベツ一玉の重さは、仕事で疲れた身体には結構な負担だ。
でも、そんな生活もあと1ヶ月で終わるのだ。
嬉しい反面、やはり母のことが心配で仕方がない。
あの家が売れたと決まったのだから、母が次に住むアパートも決めないといけない。
スーパーが近い、利便性のよいところを探してあげよう。
当面、お金の心配はいらないので、家が売れたのは本当にありがたいことだ。
お引越しのシーズンだから、良いところは即決ですぐに決めないと。
自宅に着いたのは夜の八時前だった。
「ただいま。お母さん、夕ご飯なにを食べたの?」
「冷蔵庫の残りもので済ませたわ」
やっぱり。
常備菜はいつも用意してあるけれど。
「焼けばいいだけのお魚やお肉があったでしょ」
昨日、家を出る前にちゃんと伝えておいたのに。
「作ってまでして食べたいとは思わないわ。いいじゃない別に」
つまらないバラエティ番組を見つめながら、母はしらけたように呟く。
「ちゃんとタンパク質を取らないと、筋肉がどんどん減っちゃうよ。筋肉がなくなると、膝や腰に負担が来て、」
「あなたはどうしてそんなにお節介なの?自分の心配は自分でするから結構よ!」
聞く耳を持たない母には、なにを言ってもムダなのだろう。
確かに母には母の考え方がある。
わたしは自分の価値観を、押しつけ過ぎているかも知れない。
入浴は結衣さんのところで済ませてきたけれど、なんとなく身体がベタついているのが気になる。
ベタついてると気になって眠れないので、シャワーだけでも浴びようと思った。
古めかしい、所々タイルが剥がれた浴室はとても寒かった。
熱いシャワーを浴び、身体が温まったところで、スポンジにボディソープのポンプを押しつけた。
浴室の鏡に映った自分の裸にショックを受ける。
これって?!
胸の部分に二ヶ所赤黒い痣があった。
どこかにぶつけた覚えはない。
こ、、これはあきらかにキスマークだ。
やっぱり、そうだった。
夢なんかじゃない。
わたしは自分に嘘をついていた。
あの忌まわしい記憶を夢にしてしまいたかったのだ。
今でも鮮明に覚えている。
あのなめらかな指づかい。這いまわる舌。
わたしは嫌悪を感じるどころか、快感に身をゆだねていた。
どうすればいい?
こんなこと、、聡太くんになんて言ったらいいの!
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