六華 snow crystal 8

なごみ

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衝撃的な再会

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*茉理*


じゃあ、明日お掃除に行くね、と言って車を降りた。


運転席の窓から見送る先生に手を振り、アパートへ向かう。



ヤッターーーー!! 


と、声に出さずにガッツポーズを決める。


家事代行のバイトをゲット~~~


茉理にもやっと運がまわってきたのかな?


フフッ。


うーーれしっ!!


大好きなJ-Popを口ずさみながら、アパートの入り口へ向かっていたら、停まっていた黒い車のドアが突然あいた。


「茉理!」


現れたのはクラブで仕事をしているはずのママだった。



「ママ! どうしたの?  仕事は?」


高級車なんかに乗って、新しいパトロンでも出来たのだろうか?


「あなたをずっと待ってたのよ。こんな遅くまで何してたの? 電話をしても出ないし」


いつも放任のくせに、私のことを心配してたってわけ?


「母親みたいなこと言わないで。ママには似合わないから」


しらけたように嫌味を言ってやった。


「可愛げのない子ね。とにかく、早く車に乗って」


ママは紫色のゴージャスなドレスを翻し、車に乗るように指図した。


また新しいドレスを新調したんだ。


そんなものにばかりお金を使って、私の稼いだバイト代なんて焼け石に水じゃない。


「こんな時間に車に乗って、どこへ行くっていうのよ?」


年齢をごまかして、私をクラブで働かせる気なんだ。


「いいから、早く!」


なぜか焦ったように急かせるママ。



「イヤよ!  ママと同じ仕事はしないって言ったでしょ!」


「いいから、早く乗りなさいったら」


苛立ったママが私の手首をつかんだ。


「イヤだったら! 私は行かない!」


ママと揉めていたら、車の後部ドアが開き、


「ヤア、茉理!」


と言って降りてきたのは、、


彫刻みたいに端正な顔立ちのレオン!!



えーーーっ、、


また日本へやって来たの?


と、驚いていたところへ、まさかまさかの人物まで登場。


ゲッ、、 ゲオルク!!!




「キャーーーーーーッ!!」


思わず悲鳴をあげた。


こんなバケモノに遭遇して、叫ばずにおれるものがあろうか。


ーーこの世で最もおぞましい生き物。


100匹のゴキブリがいる部屋で寝たほうがまだマシだ。


「マ、、ママ?  これってどういうことなの? な、なんでここにゲオルクがいるのよっ!! 」


後ずさりしながらママの後ろに隠れる。


「茉理、、ゲオルクさんに失礼なこと言わないで」


「ヤア、茉理。アイタカッタ。僕ヘノ歓迎ノ叫ビニ、ゾクゾクシマシタ」


下卑た薄笑いを浮かべているゲオルクの言葉に背すじが凍りつく。



やっぱりこの人は、救いようのない変態だ。


「マ、ママ、、どういうこと?  また私をこの人に売るつもりなの?」


あまりの恐怖と不安で涙が出そうになる。


「だから、こんなところで説明なんかできないでしょ。早く車に乗って!」


「イヤッ! 離してよ!」


つかまれた手を振りほどこうと、恐怖に慄《おのの》いている私に、ママはウンザリしたように呟く。


「茉理、あなたは理解してないだけ。生きるってことの現実が何にもわかってないの」


人生の何もかもを悟ったかのようにママは言う。


「現実ってなによ?  現実がわかればこの変態と仲良くなれるって言いたいの?」


ママは一体いつからお金がすべてになったの?



「言葉を慎みなさい! ゲオルクさんは日本語がわかるのよ。わざわざドイツから出向いてくれたっていうのに。とにかく早く車に乗りなさいったら!」


「イヤッ!  ママひとりでドイツに帰って!  茉理のことはもう放っておいて」


骨細の華奢なママだけど、握った手の力はとても強くて、振りほどくことが難しかった。


「いい? 茉理。愛だの恋だので人は暮らしてなんかいけないの。この一ヶ月の暮らしで思い知ったでしょ。高校にさえ行けなくなって、、貧乏はね、惨めで人格まで変えてしまうのよ」


「それはママが余計な浪費をしたからじゃない。慎ましく暮らしていれば、いくらだって普通の暮らしができるんだよ。茉理はそんな暮らしがしたいだけなの。贅沢なんていらない。お願い、ママ、茉理を自由にして!」


ママには母親としての愛情が少しもないの?


茉理をこんなバケモノの餌食にして本当に平気なの?


藁にもすがるような思いでママの目を見た。


「ダメよ! あなたはまだ未成年なの。勝手なマネは許しません。レオン、早くこの子を車に乗せて」


非情にもママは、一瞬も迷うことなくピシャリと私の要求を撥ねつけた。


「嫌っ! 何をするのよ! 離して!!」


必死に抵抗してレオンとママの手からは逃れたけれど、今度はゲオルクに行手を阻まれた。






まるで意地悪ないじめっ子みたいに、ヘラヘラ笑いながら両手を広げて通せんぼされた。


「茉理、アナタハ嘘ヲツキマシタネ? 妊娠シタトカ、結婚スルトカ。裏切ラレテ僕ガドンナニ傷ツイタカ、分カッテマスカ?」


「あなたと婚約した覚えなんかないわ。ど、、どいてよっ!!」


震える声で叫んだけれど、、


恐怖で膝がガクガクした。


「茉理、脅《おび》エテイル顔ガ一番カワイイデス!!」


あまりの悍《おぞ》ましさに、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなり、ヘナヘナと地べたにへたり込んだ。


「茉理っ!!」


車道に停まっていた車から先生の叫ぶ声がした。


「せ、先生!!」






 

 









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