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新しい職場で
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有紀
4月8日
発寒駅から徒歩五分のところに、1DKの賃貸アパートを借りた。
市街から離れているだけあって安く、家賃は5万七千円。それでも、まだ築2年だからきれいだ。
少し狭いけれど、子供も出来ていないのに、余計な部屋は入らない。
今は貯金のほうが大事だと気づいた。
遼介も四月から宅配の仕事を始めた。
タクシー運転手よりは展望がありそうと言っていたけれど、どうなんだろう。
仕事が終わるのが遅く、早くても9時過ぎでなければ帰らない。朝だって遅いわけでもないのに、体の方が心配になる。
早く、放射線技師の仕事が見つかると良いのだけれど……。
有紀
4月22日
市街から少し離れた病院だけど、この病院に来られてよかったと思う。
3月末に病院がオープンして、バタバタとした不慣れな慌ただしさがなくなり、この頃やっと本来の業務の流れになったような気がする。
高級ホテルのようにきれいで、最新設備の整った病院は、働く側もなんとなくウキウキとした気分にさせられる。
私はやっぱり以前と同じ脳外科病棟に配属された。
看護師長も、主任も、指導力のある適任者と言える人材がきちんと配置されていると思う。
看護スタッフだけは、選りすぐりというわけにはいかず、一癖ありそうな個性的な人が多く見受けられた。気の合う人が良いには決まっているけれど、色々な人がいるのはそれはそれで結構楽しい。
面倒な人や問題を起こす人には手を焼くこともあるけれど、彼らはドラマ以上に面白いリアルな日常を見せてくれるから。
薬局の谷さんともまた、普通に話が出来るようになって嬉しい。
だけど、いつまでも友達以上、恋人未満のような関係って、どうなんだろう。
自分の気持ちがよくわからない。
私は谷さんに何を求めているのだろう。亜美さん以上に我儘で欲張りな女のような気がしてくる。
先月、スーパーで彩矢と子供の後ろ姿を悲しそうに見送っていた遼介を見ていたら、私たちやっぱり別れた方がいいのかも、という気がして来た。
彩矢と悠李くんに遼介を返してあげた方がいいのだろうか……。
有紀
3月25日
今朝、アパートをを出たらほおに暖かい陽射しを感じた。北海道にもやっと春がやって来たような気がする。
市街や国道などにはもう雪などないけれど、日陰の狭い路地などには、まだ溶けていない雪が残っている。
アパートから出たこの辺りの道は、グシャグシャして汚く、歩きにくい。
新しくオープンした病院に勤めて、早くも一年が過ぎようとしている。
先週、人事の移動などがあって、私はまた同じ脳外科病棟だったけれど、なぜか主任に抜擢された。
えっ、私が?
いくらなんでも早過ぎでしょ。
まだ、二十六歳だよ、私。
他にもベテランのおばちゃまナースだって沢山いるのに。
思っても見ない昇進に戸惑い、自信もなくて辞退したけれど、満場一致で決まったと言う。
看護師長からも懇願され、承諾したものの、本当に私で大丈夫かな?
とは言うものの、主任手当など、昇給の話で気分は一気に盛り上がった。
家に帰るころにはちょっとしたウキウキ気分になっていた。
夜の十時を過ぎて、ぐったりした顔で帰宅した遼介に、このビッグニュースを伝えた。
「ねぇ、私、この四月から病棟の主任になっちゃった。昇給の他に、主任手当が2万3千円もつくのよ。すごいと思わない?」
一緒に喜んでくれるとばかり思っていた遼介は、返事もせずに不機嫌な顔をした。
用意していた晩御飯も食べずに、バスルームへ行ってしまった。
4月8日
発寒駅から徒歩五分のところに、1DKの賃貸アパートを借りた。
市街から離れているだけあって安く、家賃は5万七千円。それでも、まだ築2年だからきれいだ。
少し狭いけれど、子供も出来ていないのに、余計な部屋は入らない。
今は貯金のほうが大事だと気づいた。
遼介も四月から宅配の仕事を始めた。
タクシー運転手よりは展望がありそうと言っていたけれど、どうなんだろう。
仕事が終わるのが遅く、早くても9時過ぎでなければ帰らない。朝だって遅いわけでもないのに、体の方が心配になる。
早く、放射線技師の仕事が見つかると良いのだけれど……。
有紀
4月22日
市街から少し離れた病院だけど、この病院に来られてよかったと思う。
3月末に病院がオープンして、バタバタとした不慣れな慌ただしさがなくなり、この頃やっと本来の業務の流れになったような気がする。
高級ホテルのようにきれいで、最新設備の整った病院は、働く側もなんとなくウキウキとした気分にさせられる。
私はやっぱり以前と同じ脳外科病棟に配属された。
看護師長も、主任も、指導力のある適任者と言える人材がきちんと配置されていると思う。
看護スタッフだけは、選りすぐりというわけにはいかず、一癖ありそうな個性的な人が多く見受けられた。気の合う人が良いには決まっているけれど、色々な人がいるのはそれはそれで結構楽しい。
面倒な人や問題を起こす人には手を焼くこともあるけれど、彼らはドラマ以上に面白いリアルな日常を見せてくれるから。
薬局の谷さんともまた、普通に話が出来るようになって嬉しい。
だけど、いつまでも友達以上、恋人未満のような関係って、どうなんだろう。
自分の気持ちがよくわからない。
私は谷さんに何を求めているのだろう。亜美さん以上に我儘で欲張りな女のような気がしてくる。
先月、スーパーで彩矢と子供の後ろ姿を悲しそうに見送っていた遼介を見ていたら、私たちやっぱり別れた方がいいのかも、という気がして来た。
彩矢と悠李くんに遼介を返してあげた方がいいのだろうか……。
有紀
3月25日
今朝、アパートをを出たらほおに暖かい陽射しを感じた。北海道にもやっと春がやって来たような気がする。
市街や国道などにはもう雪などないけれど、日陰の狭い路地などには、まだ溶けていない雪が残っている。
アパートから出たこの辺りの道は、グシャグシャして汚く、歩きにくい。
新しくオープンした病院に勤めて、早くも一年が過ぎようとしている。
先週、人事の移動などがあって、私はまた同じ脳外科病棟だったけれど、なぜか主任に抜擢された。
えっ、私が?
いくらなんでも早過ぎでしょ。
まだ、二十六歳だよ、私。
他にもベテランのおばちゃまナースだって沢山いるのに。
思っても見ない昇進に戸惑い、自信もなくて辞退したけれど、満場一致で決まったと言う。
看護師長からも懇願され、承諾したものの、本当に私で大丈夫かな?
とは言うものの、主任手当など、昇給の話で気分は一気に盛り上がった。
家に帰るころにはちょっとしたウキウキ気分になっていた。
夜の十時を過ぎて、ぐったりした顔で帰宅した遼介に、このビッグニュースを伝えた。
「ねぇ、私、この四月から病棟の主任になっちゃった。昇給の他に、主任手当が2万3千円もつくのよ。すごいと思わない?」
一緒に喜んでくれるとばかり思っていた遼介は、返事もせずに不機嫌な顔をした。
用意していた晩御飯も食べずに、バスルームへ行ってしまった。
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