六華 snow crystal 2

なごみ

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二人の秘密

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有紀
12月26日

忘年会のあの日以来、谷さんをさけて、一階には出来るだけ行かないようにしていた。


顔を合わせるのが怖くて、一階に用があって降りると、そわそわして落ち着かない気分になる。


あの日は二人とも酔っていたのだ。


お酒のせいにすれば、なんでも許されるというものではないけれど、変に意識する方がお互いに気まずくなる。


何ごともなかったようにいつもと同じように接するのが一番いい。


谷さんもあんな事はもう忘れているかも知れないし。


夜勤者へ申し送りをすませ、ロッカールームで着替えてから職員通路を歩いていたら、後ろから声をかけられた。


「有紀ちゃん!」


谷さんの声だったので、とっさに身構えた。


動揺していることを悟られないように、自然な笑顔で振り返ったつもりだった。


「あ、谷さん……」


うまく笑えずにうつむく。


「今日はもう帰る?  有紀ちゃん、……ちょっとでいいから、話しできないかな?」


谷さんもいつもと違って、なんとなく落ちつきのない緊張感が伝わった。


「話って、……今ここで話せないこと?」


私に何を言いたいの?   谷さんの顔を見ることができない。


「この間のこと、怒ってるのかなって思って……」


「この間のことって、忘年会の帰りのこと?   私、ひどく酔っぱらっちゃって、あまり覚えてないの。谷さんが送ってくれたのはなんとなく覚えてるんだけど……迷惑かけちゃってごめんなさい」


すべてお酒による失態ということにしたかった。


「僕をさけてるよね。有紀ちゃんの立場も考えないで悪いことをしたと思ってるよ。だけど、軽い気持ちでしたわけじゃないんだ」


谷さんの熱い視線にどう対応すべきなのかがわからず、うなだれる。


「あ、あの日は私が悪かったの。谷さんは気にしないで。ちょっと誰かに絡みたくなっちゃって。だ、誰でもよかったの、八つ当たりなんかして本当にごめんなさい!」


「亜美との婚約を解消した」


真剣な眼差しでつぶやかれ、言葉を失う。


「た、谷さん!」



いくら亜美さんとの婚約をよく思っていなかったとしても、私のせいで婚約を解消したなんて言われても困る……。


ーーどうすればいいの。


「婚約解消って、谷さん、どうして?  もしかして私のせいなの?」


「まだ僕にチャンスがあるなら有紀ちゃんを待っていたくて……ダメかな?」


「こ、困ります! 私、離婚するつもりなんてないし、、誤解させるようなこと言ってしまって、本当にごめんなさい!」


そう言って頭を下げ、谷さんの前から逃げた。


離婚なんて出来るわけがない。


まだ遼介を愛してるし、遼介だって私を愛してくれている。


想定外のことが次々と起こって、私たちの生活は混乱しているけれど、乗り越えていけないわけではない。


どうして谷さんにあんなことを言ってしまったんだろう。




ーー私は亜美さんに嫉妬したんだ。




12月29日

病院の年末年始のお休みが明日から始まるが、病棟勤務のナースには関係がない。私は今日はお休みで明日は夜勤。


遼介は有給が余っていても取れずに、今日最後の仕事に行った。


遼介がいないうちに、大掃除をしておこうと思い、重い腰をあげる。


午前中はキッチンとバスルームを磨いた。


新居に引っ越してきて、まだ半年なのでさほど汚れてはいない。


普段は拭かないテレビの奥や、狭い隙間の埃をふき取る。


リビングの掃除も意外と早く終わり、あとは寝室と、あまり使っていない物置部屋。


すぐに子供が生まれることを想定したのと、夫婦でも一人になりたい時もあるような気がして、2LDKにしたのだけれど、この部屋は遼介もあまり使っていない。なので、いつの間にか物置部屋になってしまったのだ。


雑然と置かれたものを、少しでもまとめて整理しよう。


引っ越した時のまま、まだ開封されていないダンボールもいくつかある。


半年も使われないまま放置されているものなど、もはや必要がないような気もするけれど、開けてみればやはり捨てることは出来ない物なのだった。


結局、さほど捨てるものも見つけられず、物をコンパクトにまとめたくらいで、あまり片付いたようには感じられないが仕方がない。


クローゼットの上の棚に紙袋がいくつか置いてあったので、それも袋から出してひとつにまとめようと取り出す。


実家の母から貰ったタオルのギフトや、お歳暮の焼き海苔、椎茸などの他に、クリスマスのラッピングがされた箱を発見する。


「何だろ、これ?  」


30cmほどの四角い箱は、どうみても大人がもらうようなプレゼントには見えない。


開けてみなくても子供のオモチャだとすぐにわかった。


遼介がこれを?


彩矢との間にできた子へのプレゼントとして買ったのだろうか。


クリスマス模様の赤い包装紙がまかれたプレゼントを、また紙袋へ戻し、元の場所へ置いた。


購入はしたけれど、あげる勇気がなかったのだろうか?


そういえばクリスマスの夜、急患の連絡が入ったと言って深夜に出かけた。


あの日、彩矢に逢いに行ったのだろうか。


彩矢にプレゼントを拒否されたってこと?



遼介は後悔している?


ーー私と結婚したことを。











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