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藤沢家の人たち
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遼介
12月25日
プロポーズは一応うまくいったと思う。有紀も来年のうちに結婚したいと言ってくれた。
これから式場を決めたり、両家に紹介したりと色々と面倒なことも多いけれど、有紀の方がそういうことはテキパキとこなしてくれるだろうな。
ふたりでそういう事をあれこれ相談するのも楽しいかも知れない。
有紀の家はこのアパートから車で5分ほどだから、いつでも行ける。
うちの実家にはまた、正月に行くことになった。
去年と違う婚約者を連れて行くことに、少しきまりの悪さを感じるけれど、彩矢ちゃんとダメになったことは、言わないでもわかっていると思う。
今年のお盆は墓参りにも帰らなかった。
母から何度か来た電話でのやり取りで、俺の状況はおおよそのところ、察していてくれたと思っている。
肺炎のことは言わずにいたけれど、体調がかなり悪いことに気づいたようで、心配をかけてしまった。
失恋のために、激ヤセしてしまった姿を見られたくなくて、様子を見に行くという母をかたくなに拒んだら、翌日は東京にいるアネキから電話が来た。
アネキはいつでも物事をストレートに聞いてくる性質だから、仕方なく彩矢ちゃんとダメになったことは伝えておいた。
有紀はあんな性格だから、うちの家族ともうまくやってくれるだろう。
有紀の家族はどんなかな?
俺のことを気に入ってくれるだろうか?
そっちの方がかなり心配だな。
両親は中学校の先生と言っていたけれど。厳格な父親なのかも知れない。
昨日も結局、キス以上のことは出来なかった。
有紀がイヤなら無理にしたいとは思わない。彩矢ちゃんの時みたいに、熱に浮かされたような衝動はさほど起こらない。
有紀に色気がないというより、すぐにはぐらかされて気をそがれるから。
有紀とはケンカになることも多いけれど、いつも冷静でいられる。
安心感から来るのだろうか?
有紀にはすべてを任せておいて大丈夫な気がして。
一生有紀の尻に敷かれていたい。
早く一緒に暮らしたいな。有紀と俺たちの子どもがいて、いつも明るくてにきやかで楽しいだろうな。
有紀
12月31日
今日は大晦日だけれど、病棟勤務の私は仕事だった。明日の元日は夜勤になっている。
仕事が終わると、30日から1月3日までお休みになっている佐野さんが迎えに来てくれた。
佐野さんのアパートへ行くつもりだったけれど、お料理を買ったり作ったりすることを考えると、このまま自宅へ行った方が簡単な気がした。
佐野さんが室蘭の実家には、私と一緒にお正月に帰ると言うので、今日はうちに来ない? と誘ってみた。
ひとりぼっちで大晦日を過ごすなんて寂しいと思うし、私はアパートへは泊まれないから。
「大晦日はふつう家族で過ごすものだろう。悪いよ、突然行ったりしたら」
佐野さん遠慮しているのかな? それとも煩わしいのかな?
「そんなことないよ。うちは妹や弟の友達がしょっちゅう泊まりに来てるもん。私たちが外泊することには厳しいけど、泊めてあげるのは大丈夫なんだ。でも私の部屋じゃなくて、弟の部屋で寝ることになるけど」
「そんなこと当たり前だろう。有紀の部屋で一緒に寝てたりしたら、お父さんに殺されるだろ。でも弟は俺が一緒で平気なのか?」
「駿太なら大丈夫だよ。とっても馴れ馴れしい子だから、佐野さんが大変だと思うけど」
「そうか、じゃあ、行ってみようかな。有紀の家族とも仲良くしておきたいからな」
「わぁ、よかった。一緒に紅白が見られるね」
ひとつだけ問題があった。
妹の遥香には以前、佐野さんのことを結婚している人だと言っていたのだった。
まぁ、いいか、いずれ家族には紹介しなければいけないんだから。
遼介
12月31日
大晦日だというのに急遽、有紀の家に行くことになった。
俺の車を停めるスペースはないと言うので、アパートの駐車場に車をおき、タクシーを呼んで有紀の家に向かった。
「ただいま~」
いつものような感じで有紀は玄関のドアを開ける。
事前に俺が行くことを伝えたのかとタクシーの中で、聞いたら、何も言ってないという。
本当に大晦日に訪問なんかして大丈夫なのかな?
非常識な奴だと思われないだろうか。どんな顔で挨拶していいものか、段々と不安になって来た。
有紀がリビングのドアを開けて、中に入った。
「ただいま、お友達連れて来た」
有紀の後ろから、自信のないきまりの悪いようすで顔を出した。
「あ、こんばんは。こんな日に突然すみません。佐野と言います。はじめまして」
キッチンで食事の用意をしていたお母さんが顔をあげて微笑んだ。
「あら、いらっしゃい」
中学校の先生だけあって、人の扱いに慣れている様子がすぐにうかがえた。
一度会ったことがある妹が、ソファに座ったまま、ぽかんと口を開けて俺を見ている。
床にあぐらをかいて猫背の姿勢でスマホゲームをしている弟は、チラと俺を見てから、またゲームに没頭した。
お父さんは部屋にでもいるのか姿が見えない。
「佐野さん、適当に空いてるとこ座って」
有紀にうながされ、妹が座っているL字型ソファに離れて座った。
対面キッチンを含めると20畳くらいはありそうなリビングダイニングだ。
自分の家とあまり変わりがない、ごく一般的な家庭に感じられた。
特に散らかってはいないし、清潔感はあるけれど、所々目につく日用雑貨が生活感を漂わせていた。
「部屋着に着替えて来るね」
有紀はそう言って2階へ上がっていった。
驚いた顔で俺を凝視している妹と、無関心にゲームをしている弟のリビングに取り残された。
「あ、前に一度会ったことがあるよね。覚えてないかな?」
沈黙しているのも苦しいので、妹に話しかけてみた。
「はぁ」
反応が悪く、怪訝なようすで不快な顔をされた。
こんな日に訪問したことを早くも後悔する。
今日は挨拶だけにして1時間くらいで退散したほうがよさそうだ。
話が続けられず、仕方なくスマホを取りだす。
「同じ病院の方?」
エプロン姿のお母さんが、コーヒーを持って来てくれた。
「あ、ありがとうございます。今は違う病院にいて、有紀とはその前の病院で。すみません、忙しい時にお邪魔してしまって」
「あら、いいのよ、うちは。賑やかなほうが楽しいじゃない。でも、お客さん扱いはあまりできないから、その辺は許してね」
「その方が気楽で助かります」
「そう、よかった。すぐ食事だから、もうちょっと待っててね。遥香、お料理とかお皿出すの手伝って」
2階から有紀が降りて来て、食事の準備を手伝った。こんな時、男は何をすればいいのだろう。
「名前なんてったっけ?」
ゲームをしていた弟が顔をあげて話しかけてきた。
「えっ? あぁ、佐野遼介だけど。君は駿太くんだよね?」
「あんた、姉ちゃんの彼氏なのか?」
ストレートにタメ口で聞いてくる弟にちょっと面食らいながらも、話しかけられてホッとする。
「そうだな、まぁ、そういうことになるかな」
「なんか急に激やせなんかしてさ、変だなとは思ってたけどな。やっと男ができたんだ、姉ちゃんにも」
涼しげな優しい目元が有紀と似ていた。
無愛想に見えていたけれど、有紀から聞いていた通り、馴れ馴れしいというか、気さくで話しやすい。
「姉ちゃんの彼氏にしては意外とまともだな。もっとダサくて、ヤバイのしか連れてこないと思ってたけど。ハハハッ」
「それはありがとう。こんな日に来たりして、変人と思われないかなって心配してたからな」
弟とはなんとなくウマが合いそうで安心した。
有紀と妹がキッチンでなにか揉めていた。
「だから、違うんだってば」
「なにが違うのよ、じゃあ嘘ついてたってこと? 何のために?」
妹の遥香ちゃんの、キツい口調が気にかかる。
「あとで説明するから。とにかく略奪とかではないからね、変なこと言わないで」
「わ~、キモい。最低!」
遥香ちゃんが有紀に放った言葉が気にかかる。
キモいって俺のことかな?
「ちょっと、やめなさいよ。今年最後の日ぐらい仲良くできないの。駿太、準備できたからお父さん呼んで来て」
呆れた顔で娘たちの仲裁に入ったお母さんが、駿太くんに言いつけた。
「はぁ~、時間になったら勝手に降りてこいよな。面倒くせ~」
ゲームを閉じて重い腰をあげると、階段を駆けあがった。
「オヤジー、飯だぞ! 飯!」
弟の後ろから中肉中背の白髪混じりのお父さんが降りてきた。
少し緊張してソファから立ちあがる。
「お邪魔してます。有紀さんの友人で佐野といいます。こんな日に突然お邪魔してすみません」
笑顔も言葉もなく、まじまじと無遠慮に見つめられた。値踏みでもされているような気がして萎縮し、視線を反らせたくなる。
国語か社会科が専門かな? お堅い文系の教師という感じがした。
「お父さん、この人ね、前にうちの病院で一緒だった佐野さん。放射線技師してるの。ねぇ、突っ立ってないでみんな早く座って。佐野さん、こっち」
指定された有紀の隣に腰をおろした。
大晦日だけあって、テーブルにはたくさんのご馳走が並べられていた。お刺身に毛蟹、オードブルや、伊勢海老などが入っているおせちの重箱などなど。
「じゃあ、好きな飲み物を注いで。一応、乾杯でもしようか。今年一年、無事に年を越せそうだから」
お母さんがそう言って、ご主人のコップにビールを注いだ。
「佐野さんもビールでいい?」
「あ、はい、ありがとうございます」
お母さんにそう聞かれてうなずき、コップを差し出す。
横長テーブルの真向かいにお父さんが座って、その横が妹とお母さん。弟は有紀の隣に座った。
視線のやり場に困ってうつむき加減になるが、暗い印象を持たれるのも嫌でまた、お父さんに顔を向けた。
お母さんの合図でカンパーイ! とコップを持ち上げた。
有紀が俺のコップにカチンとぶつけて微笑んだ。
「有紀とはいつ頃からの付き合いなのかな?」
お父さんから静かな口調で尋ねられた。
「あ、えーと、・・・」
「同じ病院だったときからよ、時々お食事奢ってもらってたんだもん。ねっ」
有紀が先に口を出して、俺を見つめた。
「佐野くんに聞いてるんだ」
お父さんが不機嫌に有紀をたしなめた。
「あ、個人的なおつきあいを始めるようになったのは今月に入ってからです」
事実と思うことをそのまま伝えた。
「そりゃそうだよね~」
突然、隣の妹がしらけたように言葉を発した。
12月25日
プロポーズは一応うまくいったと思う。有紀も来年のうちに結婚したいと言ってくれた。
これから式場を決めたり、両家に紹介したりと色々と面倒なことも多いけれど、有紀の方がそういうことはテキパキとこなしてくれるだろうな。
ふたりでそういう事をあれこれ相談するのも楽しいかも知れない。
有紀の家はこのアパートから車で5分ほどだから、いつでも行ける。
うちの実家にはまた、正月に行くことになった。
去年と違う婚約者を連れて行くことに、少しきまりの悪さを感じるけれど、彩矢ちゃんとダメになったことは、言わないでもわかっていると思う。
今年のお盆は墓参りにも帰らなかった。
母から何度か来た電話でのやり取りで、俺の状況はおおよそのところ、察していてくれたと思っている。
肺炎のことは言わずにいたけれど、体調がかなり悪いことに気づいたようで、心配をかけてしまった。
失恋のために、激ヤセしてしまった姿を見られたくなくて、様子を見に行くという母をかたくなに拒んだら、翌日は東京にいるアネキから電話が来た。
アネキはいつでも物事をストレートに聞いてくる性質だから、仕方なく彩矢ちゃんとダメになったことは伝えておいた。
有紀はあんな性格だから、うちの家族ともうまくやってくれるだろう。
有紀の家族はどんなかな?
俺のことを気に入ってくれるだろうか?
そっちの方がかなり心配だな。
両親は中学校の先生と言っていたけれど。厳格な父親なのかも知れない。
昨日も結局、キス以上のことは出来なかった。
有紀がイヤなら無理にしたいとは思わない。彩矢ちゃんの時みたいに、熱に浮かされたような衝動はさほど起こらない。
有紀に色気がないというより、すぐにはぐらかされて気をそがれるから。
有紀とはケンカになることも多いけれど、いつも冷静でいられる。
安心感から来るのだろうか?
有紀にはすべてを任せておいて大丈夫な気がして。
一生有紀の尻に敷かれていたい。
早く一緒に暮らしたいな。有紀と俺たちの子どもがいて、いつも明るくてにきやかで楽しいだろうな。
有紀
12月31日
今日は大晦日だけれど、病棟勤務の私は仕事だった。明日の元日は夜勤になっている。
仕事が終わると、30日から1月3日までお休みになっている佐野さんが迎えに来てくれた。
佐野さんのアパートへ行くつもりだったけれど、お料理を買ったり作ったりすることを考えると、このまま自宅へ行った方が簡単な気がした。
佐野さんが室蘭の実家には、私と一緒にお正月に帰ると言うので、今日はうちに来ない? と誘ってみた。
ひとりぼっちで大晦日を過ごすなんて寂しいと思うし、私はアパートへは泊まれないから。
「大晦日はふつう家族で過ごすものだろう。悪いよ、突然行ったりしたら」
佐野さん遠慮しているのかな? それとも煩わしいのかな?
「そんなことないよ。うちは妹や弟の友達がしょっちゅう泊まりに来てるもん。私たちが外泊することには厳しいけど、泊めてあげるのは大丈夫なんだ。でも私の部屋じゃなくて、弟の部屋で寝ることになるけど」
「そんなこと当たり前だろう。有紀の部屋で一緒に寝てたりしたら、お父さんに殺されるだろ。でも弟は俺が一緒で平気なのか?」
「駿太なら大丈夫だよ。とっても馴れ馴れしい子だから、佐野さんが大変だと思うけど」
「そうか、じゃあ、行ってみようかな。有紀の家族とも仲良くしておきたいからな」
「わぁ、よかった。一緒に紅白が見られるね」
ひとつだけ問題があった。
妹の遥香には以前、佐野さんのことを結婚している人だと言っていたのだった。
まぁ、いいか、いずれ家族には紹介しなければいけないんだから。
遼介
12月31日
大晦日だというのに急遽、有紀の家に行くことになった。
俺の車を停めるスペースはないと言うので、アパートの駐車場に車をおき、タクシーを呼んで有紀の家に向かった。
「ただいま~」
いつものような感じで有紀は玄関のドアを開ける。
事前に俺が行くことを伝えたのかとタクシーの中で、聞いたら、何も言ってないという。
本当に大晦日に訪問なんかして大丈夫なのかな?
非常識な奴だと思われないだろうか。どんな顔で挨拶していいものか、段々と不安になって来た。
有紀がリビングのドアを開けて、中に入った。
「ただいま、お友達連れて来た」
有紀の後ろから、自信のないきまりの悪いようすで顔を出した。
「あ、こんばんは。こんな日に突然すみません。佐野と言います。はじめまして」
キッチンで食事の用意をしていたお母さんが顔をあげて微笑んだ。
「あら、いらっしゃい」
中学校の先生だけあって、人の扱いに慣れている様子がすぐにうかがえた。
一度会ったことがある妹が、ソファに座ったまま、ぽかんと口を開けて俺を見ている。
床にあぐらをかいて猫背の姿勢でスマホゲームをしている弟は、チラと俺を見てから、またゲームに没頭した。
お父さんは部屋にでもいるのか姿が見えない。
「佐野さん、適当に空いてるとこ座って」
有紀にうながされ、妹が座っているL字型ソファに離れて座った。
対面キッチンを含めると20畳くらいはありそうなリビングダイニングだ。
自分の家とあまり変わりがない、ごく一般的な家庭に感じられた。
特に散らかってはいないし、清潔感はあるけれど、所々目につく日用雑貨が生活感を漂わせていた。
「部屋着に着替えて来るね」
有紀はそう言って2階へ上がっていった。
驚いた顔で俺を凝視している妹と、無関心にゲームをしている弟のリビングに取り残された。
「あ、前に一度会ったことがあるよね。覚えてないかな?」
沈黙しているのも苦しいので、妹に話しかけてみた。
「はぁ」
反応が悪く、怪訝なようすで不快な顔をされた。
こんな日に訪問したことを早くも後悔する。
今日は挨拶だけにして1時間くらいで退散したほうがよさそうだ。
話が続けられず、仕方なくスマホを取りだす。
「同じ病院の方?」
エプロン姿のお母さんが、コーヒーを持って来てくれた。
「あ、ありがとうございます。今は違う病院にいて、有紀とはその前の病院で。すみません、忙しい時にお邪魔してしまって」
「あら、いいのよ、うちは。賑やかなほうが楽しいじゃない。でも、お客さん扱いはあまりできないから、その辺は許してね」
「その方が気楽で助かります」
「そう、よかった。すぐ食事だから、もうちょっと待っててね。遥香、お料理とかお皿出すの手伝って」
2階から有紀が降りて来て、食事の準備を手伝った。こんな時、男は何をすればいいのだろう。
「名前なんてったっけ?」
ゲームをしていた弟が顔をあげて話しかけてきた。
「えっ? あぁ、佐野遼介だけど。君は駿太くんだよね?」
「あんた、姉ちゃんの彼氏なのか?」
ストレートにタメ口で聞いてくる弟にちょっと面食らいながらも、話しかけられてホッとする。
「そうだな、まぁ、そういうことになるかな」
「なんか急に激やせなんかしてさ、変だなとは思ってたけどな。やっと男ができたんだ、姉ちゃんにも」
涼しげな優しい目元が有紀と似ていた。
無愛想に見えていたけれど、有紀から聞いていた通り、馴れ馴れしいというか、気さくで話しやすい。
「姉ちゃんの彼氏にしては意外とまともだな。もっとダサくて、ヤバイのしか連れてこないと思ってたけど。ハハハッ」
「それはありがとう。こんな日に来たりして、変人と思われないかなって心配してたからな」
弟とはなんとなくウマが合いそうで安心した。
有紀と妹がキッチンでなにか揉めていた。
「だから、違うんだってば」
「なにが違うのよ、じゃあ嘘ついてたってこと? 何のために?」
妹の遥香ちゃんの、キツい口調が気にかかる。
「あとで説明するから。とにかく略奪とかではないからね、変なこと言わないで」
「わ~、キモい。最低!」
遥香ちゃんが有紀に放った言葉が気にかかる。
キモいって俺のことかな?
「ちょっと、やめなさいよ。今年最後の日ぐらい仲良くできないの。駿太、準備できたからお父さん呼んで来て」
呆れた顔で娘たちの仲裁に入ったお母さんが、駿太くんに言いつけた。
「はぁ~、時間になったら勝手に降りてこいよな。面倒くせ~」
ゲームを閉じて重い腰をあげると、階段を駆けあがった。
「オヤジー、飯だぞ! 飯!」
弟の後ろから中肉中背の白髪混じりのお父さんが降りてきた。
少し緊張してソファから立ちあがる。
「お邪魔してます。有紀さんの友人で佐野といいます。こんな日に突然お邪魔してすみません」
笑顔も言葉もなく、まじまじと無遠慮に見つめられた。値踏みでもされているような気がして萎縮し、視線を反らせたくなる。
国語か社会科が専門かな? お堅い文系の教師という感じがした。
「お父さん、この人ね、前にうちの病院で一緒だった佐野さん。放射線技師してるの。ねぇ、突っ立ってないでみんな早く座って。佐野さん、こっち」
指定された有紀の隣に腰をおろした。
大晦日だけあって、テーブルにはたくさんのご馳走が並べられていた。お刺身に毛蟹、オードブルや、伊勢海老などが入っているおせちの重箱などなど。
「じゃあ、好きな飲み物を注いで。一応、乾杯でもしようか。今年一年、無事に年を越せそうだから」
お母さんがそう言って、ご主人のコップにビールを注いだ。
「佐野さんもビールでいい?」
「あ、はい、ありがとうございます」
お母さんにそう聞かれてうなずき、コップを差し出す。
横長テーブルの真向かいにお父さんが座って、その横が妹とお母さん。弟は有紀の隣に座った。
視線のやり場に困ってうつむき加減になるが、暗い印象を持たれるのも嫌でまた、お父さんに顔を向けた。
お母さんの合図でカンパーイ! とコップを持ち上げた。
有紀が俺のコップにカチンとぶつけて微笑んだ。
「有紀とはいつ頃からの付き合いなのかな?」
お父さんから静かな口調で尋ねられた。
「あ、えーと、・・・」
「同じ病院だったときからよ、時々お食事奢ってもらってたんだもん。ねっ」
有紀が先に口を出して、俺を見つめた。
「佐野くんに聞いてるんだ」
お父さんが不機嫌に有紀をたしなめた。
「あ、個人的なおつきあいを始めるようになったのは今月に入ってからです」
事実と思うことをそのまま伝えた。
「そりゃそうだよね~」
突然、隣の妹がしらけたように言葉を発した。
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