六華 snow crystal 2

有紀への想い

 遼介
12月6日

有紀がずっと俺のことを想ってくれていたなんて夢にも思わなかったな。


鈍感！ ってなじられたけれど、そもそも誤解するようなことをはじめに言ったのは有紀だ。


好きな男ができたことは肺炎で世話になったときに聞かされた。


「佐野さんじゃないからね」とわざわざ自分から釘を刺して言ったことを忘れている。


好きな男は医者でも横田でもなくて、その後谷さんと付き合っていたことが判明したのだから、好きだったのは谷さんだと思うのが普通だろう。


元々、あの二人は仲が良かったのだから尚更だ。


それなのに、ちっとも気づいてくれないと拗ねて、人のことを鈍感だと言う。


女ってのは何を考えてるのか本当にわからないな。


まぁ、もうすんだことだから今さらどうでもいいけれど。


 ただ、突然泣き出したり、意味もわからず怒って帰ってしまった理由がやっとわかった。


そんなこととも知らずに彩矢ちゃんへの未練たらしいところばかり見せていたんだな。


 今思えば可哀想なことばかりしていた。


 この間、テレビ塔に登ったときも、必死に俺を慰めようとする有紀がいじらしくて、そんな有紀を見ていたら自分だけが悲しむ気にはなれない。


今までずっと知らずに傷つけてきた有紀に愛しさがつのる。


 あんなに好きで仕方なかった彩矢ちゃんだったけれど、この心の傷は一生癒されないまま生きていかなければいけない、そんな気がしていたけれど、今はもう、すっかり有紀に気持ちが傾いている。


自分でも驚いてしまうほどの変わりようだ。


彩矢ちゃんのことでは散々苦しんだ。もう十分だろう。


 今は有紀がこんなにも幸福と安らぎを与えてくれる。俺だってそろそろ幸せになってもいい頃だ。


彩矢ちゃんも幸せに暮らしているんだから、これで良かったんだ。これが一番幸せな結末だったように感じられる。


 有紀、俺おまえで良かったよ。


心からそう思える。おまえは信頼できる。


多分俺たちこれからずっと、うまくやっていけるよ。