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谷さんとの別れ
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11月29日
昨夜は完全に自分のミスだ。
あんなふうに夜に訪ねていったら、男の人は誰だって誤解するに決まっている。
谷さん、怒ってるだろうな。
佐野さんに会ってたことも、バレバレだった。どうして分かっちゃうんだろう。
プルルルルッ、プルル
部屋の固定電話が鳴った。
「おはよう。眠れた?」
「あ、おはようございます。・・・谷さん、昨日はごめんなさい」
「有紀ちゃんが謝ることないだろう。じゃあ、怒ってないんだね、良かった。先に帰ってしまわれたらどうしようかと思ってたよ」
「谷さんも怒ってない?」
「フフッ、怒ってないよ。朝ごはんは食べた?」
「ううん、昨日の夜もたくさん食べたし、朝は食べないようにしてるから」
「そうか、じゃあ、チェックアウトは10時で。ロビーで待ってるから」
「うん、じゃあ、後でね」
谷さんはやっぱりすごく大人なんだ。
昨日、初めてキスをした。
佐野さんだったらと思わずにはいられないけれど、不思議と後悔はない。
怖くて焦ったけれど、それほど嫌ではなかったように思う。
それだから、危険を感じながらも部屋まで行けたのだろう。
自分でも気づかないうちに、谷さんが好きになっていたのかも知れない。
浅草は外国人観光客がとても多かった。
日本人に見えた人たちも、会話を聞けば中国語だったり、ハングルだった。
外人さんに雷門の前で写真を頼まれたので、私たちも頼んで撮ってもらった。
門をくぐって中へ入ると、もっとたくさんの人がひしめき合っていた。
迷子にならないように、谷さんについて仲見世通りを歩く。
「わー、お祭りの露店みたい」
両側に並ぶお店を一軒一軒見てまわり、家族へのお土産をたくさん買った。
病院の同僚たちに谷さんとの仲は知られていたけれど、一緒に旅行に行って来るとまでは言えなかった。
午後4時40分発の便に乗り、6時過ぎに新千歳空港に着いた。
谷さんがラーメンを食べて帰りたいと言ったので、空港のレストラン街に行き、海老のだしがよく効いたラーメンを食べた。
札幌行きの列車は混んでいて、疲れたからとUシートにして、札幌駅に着いたのは7時半を過ぎていた。
タクシーで送るよ、と言ってくれたけれど、反対方向なのだし、家は地下鉄駅に近いからいいと言って断った。
「谷さん、じゃあ、ここで。すごく楽しかった。ありがとう」
そう言って手を振ったら、人混みを避けた場所へ谷さんに手を引かれた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと、こんな場所でなんだけど、かしこまった場所の方が逆に言い出せなくて」
「えっ、なあに?」
「・・・僕たち、別れようか」
「谷さん!・・・どうして、」
いくらなんでも、あまりに突然すぎる。
「なんか、僕が入り込める隙なんて全くないな。それが分かっちゃって・・・」
「谷さん、やっぱり怒ってる?」
「いや、有紀ちゃん本当に綺麗になったよ。佐野だってもう、放ってはおけないだろう」
「そんなこと・・・」
「有紀ちゃんとはこれからもずっと友達でいたいからさ。この辺で諦めておいたほうが賢明な気がするんだ。このまま行くと、友達でもいられなくなりそうで」
「ごめんなさい。わたし・・・」
「楽しかったよ。これからだってずっと楽しく出来るだろう、僕たち。一緒に旅行はもう無理かも知れないけど」
「・・・うん」
「じゃあ、また病院で。気をつけて帰って」
「谷さん、でも・・・わたし」
「えっ?」
「あ、ううん、ほんとにありがとう」
「うん、じゃあ」
そう言って手を上げると、谷さんはタクシー乗り場に向かって歩いて行った。
そんな、こんなにあっさりなの?
あんなに好きって、待ってるって言ってくれたのに、もう諦めちゃうんだ。谷さん・・・。
きっとすごく傷つけちゃったんだ。
佐野さんが私にしたように、私も谷さんの気持ちには鈍感だったかも知れない。あんなに繊細で敏感な心を持った人なのだから。
この喪失感と空虚感は何だろう。
同時に二人の男性を愛していたとでも言うのだろうか。
谷さんの浮気を責めていたけれど、わたしの方がずっと悪い。
ショックと言うよりはとても寂しい。
今までずっと甘え過ぎていたんだな。
昨夜は完全に自分のミスだ。
あんなふうに夜に訪ねていったら、男の人は誰だって誤解するに決まっている。
谷さん、怒ってるだろうな。
佐野さんに会ってたことも、バレバレだった。どうして分かっちゃうんだろう。
プルルルルッ、プルル
部屋の固定電話が鳴った。
「おはよう。眠れた?」
「あ、おはようございます。・・・谷さん、昨日はごめんなさい」
「有紀ちゃんが謝ることないだろう。じゃあ、怒ってないんだね、良かった。先に帰ってしまわれたらどうしようかと思ってたよ」
「谷さんも怒ってない?」
「フフッ、怒ってないよ。朝ごはんは食べた?」
「ううん、昨日の夜もたくさん食べたし、朝は食べないようにしてるから」
「そうか、じゃあ、チェックアウトは10時で。ロビーで待ってるから」
「うん、じゃあ、後でね」
谷さんはやっぱりすごく大人なんだ。
昨日、初めてキスをした。
佐野さんだったらと思わずにはいられないけれど、不思議と後悔はない。
怖くて焦ったけれど、それほど嫌ではなかったように思う。
それだから、危険を感じながらも部屋まで行けたのだろう。
自分でも気づかないうちに、谷さんが好きになっていたのかも知れない。
浅草は外国人観光客がとても多かった。
日本人に見えた人たちも、会話を聞けば中国語だったり、ハングルだった。
外人さんに雷門の前で写真を頼まれたので、私たちも頼んで撮ってもらった。
門をくぐって中へ入ると、もっとたくさんの人がひしめき合っていた。
迷子にならないように、谷さんについて仲見世通りを歩く。
「わー、お祭りの露店みたい」
両側に並ぶお店を一軒一軒見てまわり、家族へのお土産をたくさん買った。
病院の同僚たちに谷さんとの仲は知られていたけれど、一緒に旅行に行って来るとまでは言えなかった。
午後4時40分発の便に乗り、6時過ぎに新千歳空港に着いた。
谷さんがラーメンを食べて帰りたいと言ったので、空港のレストラン街に行き、海老のだしがよく効いたラーメンを食べた。
札幌行きの列車は混んでいて、疲れたからとUシートにして、札幌駅に着いたのは7時半を過ぎていた。
タクシーで送るよ、と言ってくれたけれど、反対方向なのだし、家は地下鉄駅に近いからいいと言って断った。
「谷さん、じゃあ、ここで。すごく楽しかった。ありがとう」
そう言って手を振ったら、人混みを避けた場所へ谷さんに手を引かれた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと、こんな場所でなんだけど、かしこまった場所の方が逆に言い出せなくて」
「えっ、なあに?」
「・・・僕たち、別れようか」
「谷さん!・・・どうして、」
いくらなんでも、あまりに突然すぎる。
「なんか、僕が入り込める隙なんて全くないな。それが分かっちゃって・・・」
「谷さん、やっぱり怒ってる?」
「いや、有紀ちゃん本当に綺麗になったよ。佐野だってもう、放ってはおけないだろう」
「そんなこと・・・」
「有紀ちゃんとはこれからもずっと友達でいたいからさ。この辺で諦めておいたほうが賢明な気がするんだ。このまま行くと、友達でもいられなくなりそうで」
「ごめんなさい。わたし・・・」
「楽しかったよ。これからだってずっと楽しく出来るだろう、僕たち。一緒に旅行はもう無理かも知れないけど」
「・・・うん」
「じゃあ、また病院で。気をつけて帰って」
「谷さん、でも・・・わたし」
「えっ?」
「あ、ううん、ほんとにありがとう」
「うん、じゃあ」
そう言って手を上げると、谷さんはタクシー乗り場に向かって歩いて行った。
そんな、こんなにあっさりなの?
あんなに好きって、待ってるって言ってくれたのに、もう諦めちゃうんだ。谷さん・・・。
きっとすごく傷つけちゃったんだ。
佐野さんが私にしたように、私も谷さんの気持ちには鈍感だったかも知れない。あんなに繊細で敏感な心を持った人なのだから。
この喪失感と空虚感は何だろう。
同時に二人の男性を愛していたとでも言うのだろうか。
谷さんの浮気を責めていたけれど、わたしの方がずっと悪い。
ショックと言うよりはとても寂しい。
今までずっと甘え過ぎていたんだな。
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