六華 snow crystal 2

なごみ

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谷さんの浮気

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遼介

9月3日

夏も終わり、早いものでもう9月だ。


もしかしたら、今月彩矢ちゃんが出産するのかも知れないと思うと、何かそわそわして落ち着かない気分になる。


一緒に暮らしていないせいもあってか、松田先生の子が産まれるような気がする。


俺と結婚できないって言ったのは、その確率が高かったからなのだろうか。


今の彩矢ちゃんにとっても、松田先生の子が産まれたほうが嬉しいだろうな。


そう思うと、俺の子が産まれてがっかりする彩矢ちゃんを想像して悲しくなる。


俺の子が産まれたとしても、もう戻っては来ないのかも知れない。


 とにかく無事に出産してくれることを祈る。


一緒にそばについていてあげたかったな。


でも、彩矢ちゃんは松田先生についていてもらいたいのだろう。


もう、俺の出る幕なんてないんだから。





9月7日

仕事帰り、スタンドで給油をしている赤のミニ・クーパーを見かけた。


運転席に谷さんが座っていて、助手席に明るい髪の女性がいた。もちろん有紀ではないし、以前にみた女性とも違っていた。


やっぱり有紀が騙されているような気がして、路肩に停車し、クーパーが出るところを待った。


 俺ってかなりのストーカーかもなと、自分でも呆れながら追跡する。


 思っていた通り、車はホテル街に進んで行った。洒落た感じのモーテルに入っていったのを見届けて、追跡をやめた。


 この事を有紀にどう伝えるべきかを悩む。


余計なお世話なのだろうか?  だけど、やはり黙っているわけにはいかない。


 伝えた後でどう決めるのかは有紀が自分で判断する事だけれど。


 LINEを開いて通話しかけて、もしかしたら夜勤かも知れないと思いトークにした。


『有紀、元気か? 突然で驚いたかも知れないけど、ちょっと谷さんのことで話がある。都合のいい日を教えてくれ』


1分もしないうちに返信が届いた。


『今、家にいますけど、話しって何ですか?』


『じゃあ、家の前に行く。多分15分で着くと思う』


 そう送信して、車のアクセルを踏みこんだ。


時計を見ると午後8時を過ぎていた。


少しだけ遅れて到着すると、有紀がTシャツに短パン姿で立っていた。


前に病院で見た時よりも、更に痩せて見えた。


随分、きれいになったもんだな。谷さんの影響は凄いなと感心する。


家の前で車を停めると、いつもとはちょっと違った、憂いを感じる有紀が顔をあげた。


「久しぶりだな。乗れよ」


 窓を開けてそう言うと、困ったようにうつむいたまま助手席のドアを開けた。


 無言で腰を下ろし、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「どうかしたのか? なんか元気ないな」


「話しってなに?  谷さんのことってどういうこと?」


「あぁ、うん。急いでるのか? すぐに帰らないとダメか?」


「そうじゃないけど」


言いよどんでいるところを見ると、早く帰りたいのだろう。


それもそうかも知れない。好きな男がいるのに、他の男の車に乗っていたら落ち着かないだろうな。


「有紀、悪かったな。俺、谷さんと付き合ってること知らなかったから、前におまえのことしつこく誘って迷惑だったろう。病気の時は本当に助かったから、お礼がしたかっただけなんだけど。でも、おまえも水臭いよな、付き合ってるなら付き合ってるって早く言えよ」


「・・・」


「あ、谷さんのことだけど・・・告げ口みたいで嫌だけど、俺もお節介な人間だからはっきり言うよ。谷さんにはおまえ以外にも女がいる。今日、谷さんのミニ・クーパーをスタンドで見かけて、隣に女がいたから、ちょっと迷ったけどついて行ってみたんだ。それで・・・モーテルに入って行くところを見たから」

「・・・」
 

「女がいたことは知ってたのか?」


「・・・なんとなく」


「そうか。じゃあ、別に知らせなくても良かったのかな。また、余計なことしたな」



「ううん、心配してくれてありがとう。彩矢の、、彩矢の赤ちゃん、もうすぐ産まれるんだよね?」


「えっ? あ、うん、そうだな」


 急にそっちの話しかよ。不意を突かれて少し動揺する。


「松田先生の子だったら彩矢のこと諦める?」


 有紀がじっと見つめて真剣なようすで聞いた。


「諦めるしかないだろう。松田先生の子が産まれて、俺のところに戻ってくるわけないんだから」


「・・・」


「なんで、そんなこと聞くんだよ。人の心配してる場合じゃないだろう。だけどおまえ随分変わったな。いったい何キロ減量したんだよ。性格までしおらしくなったんじゃないのか? ハハハッ、谷さんの力は凄いな」


 大人しくうつむいている有紀を見つめた。


本当にどうなってしまったんだよ、と言いたくなるくらい静かだ。好きな男が浮気をしていたら、元気がでないのも無理ないか。


「わざわざ呼び出したりして悪かったな。相談したいことがあったら、LINEでもくれよ。解決できるわけでもないけどな」


 有紀が突然、手で顔を覆って泣き出した。


「有紀・・・そうか、そんなに谷さんのこと好きだったのか。そうだよな、前から仲よかったもんな」


 こんな時は一体どうしたらいいのかな。


重苦しい空気に耐えきれなくなる。気がすむまで泣かせたらスッキリするのかも知れない。


 泣いていた有紀が顔をあげ、潤んだ瞳で俺を見つめた。


「私を泣かせてるのは谷さんじゃないから、谷さんじゃないよ!」


 そう言って助手席のドアを開けると、走って家へ帰ってしまった。


 な、なんだよ、なんなんだよ。


 俺のせいか? 余計なこと言ったからか。


 有紀・・・どうしたんだよ。


 最近の有紀はわからなすぎるよ。










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