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谷さんの浮気
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遼介
9月3日
夏も終わり、早いものでもう9月だ。
もしかしたら、今月彩矢ちゃんが出産するのかも知れないと思うと、何かそわそわして落ち着かない気分になる。
一緒に暮らしていないせいもあってか、松田先生の子が産まれるような気がする。
俺と結婚できないって言ったのは、その確率が高かったからなのだろうか。
今の彩矢ちゃんにとっても、松田先生の子が産まれたほうが嬉しいだろうな。
そう思うと、俺の子が産まれてがっかりする彩矢ちゃんを想像して悲しくなる。
俺の子が産まれたとしても、もう戻っては来ないのかも知れない。
とにかく無事に出産してくれることを祈る。
一緒にそばについていてあげたかったな。
でも、彩矢ちゃんは松田先生についていてもらいたいのだろう。
もう、俺の出る幕なんてないんだから。
9月7日
仕事帰り、スタンドで給油をしている赤のミニ・クーパーを見かけた。
運転席に谷さんが座っていて、助手席に明るい髪の女性がいた。もちろん有紀ではないし、以前にみた女性とも違っていた。
やっぱり有紀が騙されているような気がして、路肩に停車し、クーパーが出るところを待った。
俺ってかなりのストーカーかもなと、自分でも呆れながら追跡する。
思っていた通り、車はホテル街に進んで行った。洒落た感じのモーテルに入っていったのを見届けて、追跡をやめた。
この事を有紀にどう伝えるべきかを悩む。
余計なお世話なのだろうか? だけど、やはり黙っているわけにはいかない。
伝えた後でどう決めるのかは有紀が自分で判断する事だけれど。
LINEを開いて通話しかけて、もしかしたら夜勤かも知れないと思いトークにした。
『有紀、元気か? 突然で驚いたかも知れないけど、ちょっと谷さんのことで話がある。都合のいい日を教えてくれ』
1分もしないうちに返信が届いた。
『今、家にいますけど、話しって何ですか?』
『じゃあ、家の前に行く。多分15分で着くと思う』
そう送信して、車のアクセルを踏みこんだ。
時計を見ると午後8時を過ぎていた。
少しだけ遅れて到着すると、有紀がTシャツに短パン姿で立っていた。
前に病院で見た時よりも、更に痩せて見えた。
随分、きれいになったもんだな。谷さんの影響は凄いなと感心する。
家の前で車を停めると、いつもとはちょっと違った、憂いを感じる有紀が顔をあげた。
「久しぶりだな。乗れよ」
窓を開けてそう言うと、困ったようにうつむいたまま助手席のドアを開けた。
無言で腰を下ろし、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「どうかしたのか? なんか元気ないな」
「話しってなに? 谷さんのことってどういうこと?」
「あぁ、うん。急いでるのか? すぐに帰らないとダメか?」
「そうじゃないけど」
言いよどんでいるところを見ると、早く帰りたいのだろう。
それもそうかも知れない。好きな男がいるのに、他の男の車に乗っていたら落ち着かないだろうな。
「有紀、悪かったな。俺、谷さんと付き合ってること知らなかったから、前におまえのことしつこく誘って迷惑だったろう。病気の時は本当に助かったから、お礼がしたかっただけなんだけど。でも、おまえも水臭いよな、付き合ってるなら付き合ってるって早く言えよ」
「・・・」
「あ、谷さんのことだけど・・・告げ口みたいで嫌だけど、俺もお節介な人間だからはっきり言うよ。谷さんにはおまえ以外にも女がいる。今日、谷さんのミニ・クーパーをスタンドで見かけて、隣に女がいたから、ちょっと迷ったけどついて行ってみたんだ。それで・・・モーテルに入って行くところを見たから」
「・・・」
「女がいたことは知ってたのか?」
「・・・なんとなく」
「そうか。じゃあ、別に知らせなくても良かったのかな。また、余計なことしたな」
「ううん、心配してくれてありがとう。彩矢の、、彩矢の赤ちゃん、もうすぐ産まれるんだよね?」
「えっ? あ、うん、そうだな」
急にそっちの話しかよ。不意を突かれて少し動揺する。
「松田先生の子だったら彩矢のこと諦める?」
有紀がじっと見つめて真剣なようすで聞いた。
「諦めるしかないだろう。松田先生の子が産まれて、俺のところに戻ってくるわけないんだから」
「・・・」
「なんで、そんなこと聞くんだよ。人の心配してる場合じゃないだろう。だけどおまえ随分変わったな。いったい何キロ減量したんだよ。性格までしおらしくなったんじゃないのか? ハハハッ、谷さんの力は凄いな」
大人しくうつむいている有紀を見つめた。
本当にどうなってしまったんだよ、と言いたくなるくらい静かだ。好きな男が浮気をしていたら、元気がでないのも無理ないか。
「わざわざ呼び出したりして悪かったな。相談したいことがあったら、LINEでもくれよ。解決できるわけでもないけどな」
有紀が突然、手で顔を覆って泣き出した。
「有紀・・・そうか、そんなに谷さんのこと好きだったのか。そうだよな、前から仲よかったもんな」
こんな時は一体どうしたらいいのかな。
重苦しい空気に耐えきれなくなる。気がすむまで泣かせたらスッキリするのかも知れない。
泣いていた有紀が顔をあげ、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「私を泣かせてるのは谷さんじゃないから、谷さんじゃないよ!」
そう言って助手席のドアを開けると、走って家へ帰ってしまった。
な、なんだよ、なんなんだよ。
俺のせいか? 余計なこと言ったからか。
有紀・・・どうしたんだよ。
最近の有紀はわからなすぎるよ。
9月3日
夏も終わり、早いものでもう9月だ。
もしかしたら、今月彩矢ちゃんが出産するのかも知れないと思うと、何かそわそわして落ち着かない気分になる。
一緒に暮らしていないせいもあってか、松田先生の子が産まれるような気がする。
俺と結婚できないって言ったのは、その確率が高かったからなのだろうか。
今の彩矢ちゃんにとっても、松田先生の子が産まれたほうが嬉しいだろうな。
そう思うと、俺の子が産まれてがっかりする彩矢ちゃんを想像して悲しくなる。
俺の子が産まれたとしても、もう戻っては来ないのかも知れない。
とにかく無事に出産してくれることを祈る。
一緒にそばについていてあげたかったな。
でも、彩矢ちゃんは松田先生についていてもらいたいのだろう。
もう、俺の出る幕なんてないんだから。
9月7日
仕事帰り、スタンドで給油をしている赤のミニ・クーパーを見かけた。
運転席に谷さんが座っていて、助手席に明るい髪の女性がいた。もちろん有紀ではないし、以前にみた女性とも違っていた。
やっぱり有紀が騙されているような気がして、路肩に停車し、クーパーが出るところを待った。
俺ってかなりのストーカーかもなと、自分でも呆れながら追跡する。
思っていた通り、車はホテル街に進んで行った。洒落た感じのモーテルに入っていったのを見届けて、追跡をやめた。
この事を有紀にどう伝えるべきかを悩む。
余計なお世話なのだろうか? だけど、やはり黙っているわけにはいかない。
伝えた後でどう決めるのかは有紀が自分で判断する事だけれど。
LINEを開いて通話しかけて、もしかしたら夜勤かも知れないと思いトークにした。
『有紀、元気か? 突然で驚いたかも知れないけど、ちょっと谷さんのことで話がある。都合のいい日を教えてくれ』
1分もしないうちに返信が届いた。
『今、家にいますけど、話しって何ですか?』
『じゃあ、家の前に行く。多分15分で着くと思う』
そう送信して、車のアクセルを踏みこんだ。
時計を見ると午後8時を過ぎていた。
少しだけ遅れて到着すると、有紀がTシャツに短パン姿で立っていた。
前に病院で見た時よりも、更に痩せて見えた。
随分、きれいになったもんだな。谷さんの影響は凄いなと感心する。
家の前で車を停めると、いつもとはちょっと違った、憂いを感じる有紀が顔をあげた。
「久しぶりだな。乗れよ」
窓を開けてそう言うと、困ったようにうつむいたまま助手席のドアを開けた。
無言で腰を下ろし、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「どうかしたのか? なんか元気ないな」
「話しってなに? 谷さんのことってどういうこと?」
「あぁ、うん。急いでるのか? すぐに帰らないとダメか?」
「そうじゃないけど」
言いよどんでいるところを見ると、早く帰りたいのだろう。
それもそうかも知れない。好きな男がいるのに、他の男の車に乗っていたら落ち着かないだろうな。
「有紀、悪かったな。俺、谷さんと付き合ってること知らなかったから、前におまえのことしつこく誘って迷惑だったろう。病気の時は本当に助かったから、お礼がしたかっただけなんだけど。でも、おまえも水臭いよな、付き合ってるなら付き合ってるって早く言えよ」
「・・・」
「あ、谷さんのことだけど・・・告げ口みたいで嫌だけど、俺もお節介な人間だからはっきり言うよ。谷さんにはおまえ以外にも女がいる。今日、谷さんのミニ・クーパーをスタンドで見かけて、隣に女がいたから、ちょっと迷ったけどついて行ってみたんだ。それで・・・モーテルに入って行くところを見たから」
「・・・」
「女がいたことは知ってたのか?」
「・・・なんとなく」
「そうか。じゃあ、別に知らせなくても良かったのかな。また、余計なことしたな」
「ううん、心配してくれてありがとう。彩矢の、、彩矢の赤ちゃん、もうすぐ産まれるんだよね?」
「えっ? あ、うん、そうだな」
急にそっちの話しかよ。不意を突かれて少し動揺する。
「松田先生の子だったら彩矢のこと諦める?」
有紀がじっと見つめて真剣なようすで聞いた。
「諦めるしかないだろう。松田先生の子が産まれて、俺のところに戻ってくるわけないんだから」
「・・・」
「なんで、そんなこと聞くんだよ。人の心配してる場合じゃないだろう。だけどおまえ随分変わったな。いったい何キロ減量したんだよ。性格までしおらしくなったんじゃないのか? ハハハッ、谷さんの力は凄いな」
大人しくうつむいている有紀を見つめた。
本当にどうなってしまったんだよ、と言いたくなるくらい静かだ。好きな男が浮気をしていたら、元気がでないのも無理ないか。
「わざわざ呼び出したりして悪かったな。相談したいことがあったら、LINEでもくれよ。解決できるわけでもないけどな」
有紀が突然、手で顔を覆って泣き出した。
「有紀・・・そうか、そんなに谷さんのこと好きだったのか。そうだよな、前から仲よかったもんな」
こんな時は一体どうしたらいいのかな。
重苦しい空気に耐えきれなくなる。気がすむまで泣かせたらスッキリするのかも知れない。
泣いていた有紀が顔をあげ、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「私を泣かせてるのは谷さんじゃないから、谷さんじゃないよ!」
そう言って助手席のドアを開けると、走って家へ帰ってしまった。
な、なんだよ、なんなんだよ。
俺のせいか? 余計なこと言ったからか。
有紀・・・どうしたんだよ。
最近の有紀はわからなすぎるよ。
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