六華 snow crystal 2

なごみ

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中庭へ行くと、どういう関係の人たちなのかはまだ、紹介されてもいないからわからないけれど、14~5名の人達がすでに木陰の下に集まっていた。


谷さんのお友達なのだろうか?


 20~30代に見える若い男性も何人かいる。


もう、みんな手にお皿と箸を持って、焼けたお肉や海産物を食べていた。


「有紀ちゃん、どこに行ってたんだい?  もしかして僕のこと探してた?」


「うん、いなかったから、ついでにおトイレ行って来た」


「今日は兄夫婦も来ているし、ちょっとみんなに紹介してもいいかな?」


「え、うん、いいけど」


 じゃあ、こっちに来て。


 手を引かれて、テラスの少し高い場所に並んで立った。


「え~、皆様、本日はお暑い中、僕たちの婚約パーティーにお集まりいただきまして、ありがとうございま~す。今、同じ病院でナースをしている藤沢有紀さんです」


 えっ、な、なに? 


ちょっと、どういうこと?


「た、谷さん?  何言ってるの?  婚約なんてしてないよ」


「単なる余興だって。まさか焼肉食べながら婚約発表なんかするわけないだろう。有紀ちゃんもなにか面白いこと言って」


 そんな、なんの打ち合わせもないのに、急に言われても。


 みんなが箸を止めて私を見ている。


 いつもならすぐに浮かんでくるギャグも、何も浮かんで来なくて顔が引きつる。


とにかくなんか言わなきゃ。


「こんにちは~、肉食系女子の藤沢で~す!婚約なんて嘘ですよ~!  只今彼氏募集中で~す。今日はバーベキューを食べに来たけれど、美味しそうなイケメン男子は食べられないように気をつけてね~!!」


 なんとか、いつものノリで明るく言ったら、笑いが取れたのでホッとした。





「ハハハッ、さすがだなぁ。有紀ちゃんは頭の回転が早いなぁ」


 谷さんは悪びれた様子もなく、感心している。安心したら急に怒りが湧いてきた。


「ひどいよ、谷さん。知らない人だっているのに、めっちゃ緊張した」


「そうなのか、有紀ちゃんはいつでもそういうの簡単にできるんだと思ってたな。ごめん」


 人を笑わせることより難しいことなんて、他にないではないか。シーンと静まり返って、身の置きどころを無くしたことだって数知れないのに。


「谷家にこういうタイプがひとりいると、賑やかで盛り上がるな」


 お兄さんがいつの間にか隣にいて、二人のやり取りを聞いていたようだ。


 「だろう、有紀ちゃんみたいなキャラクターは中々見つけられないからなぁ」


「あ、あの、初めまして、藤沢です。よろしくお願いします」


野菜切りなど手伝っていたので、お兄さんご家族にはまだ、挨拶を済ませてなかった。


「こちらこそよろしく。今の病院はいい待遇なのかい? ウチにも欲しいなぁ、こんな看護師さん」


短髪でちょっと中年太りして来たお兄さんが微笑んだ。目元が谷さんとよく似ている。


「有紀ちゃんはウチの病院でも人気があるからなぁ。確かに外来患者が増えるだろうな」


「そんなことないですよ。ドジなこと沢山やってます」


「もし辞めたくなったら、いつでもウチに来てよ。今の病院よりもずっといい条件でお願いするから」


「ありがとうございます!  もしもの時はお願いします」


 隣りに赤ちゃんを抱いた奥様も来ていた。


「有紀さん、はじめまして。家内の佳奈です。どうぞよろしく」




ふんわりとした砂糖菓子のような優しい笑顔の奥様だ。折れそうな白い腕に生後8ヶ月ほどの赤ちゃんを抱いて挨拶してくれた。


 シフォンの花柄ワンピースに、細いヒールのミュールを履いていて、なんとなく危なげで見ている方が不安になる。


「こちらこそ、よろしくお願いします! あの、赤ちゃん抱っこさせてもらってもいいですか?」


 「あら、いいの?  この子とっても重いのよ」


「大丈夫です。赤ちゃん大好きだから。名前はなんていうんですか?」


「朱莉よ。わ~、助かるわ。じゃあ、今のうちに食べちゃうわね。ありがとう」


 谷さんが誇らしげな顔をして、私を見ていた。


「似合うなぁ、有紀ちゃんはいいお母さんになるだろうな。なんか、本当に早く結婚したくなってきたな」


 赤ちゃんは高級ブランドのステキなワンピースを着せられていた。人見知りもなくジッと私を見つめている。


「ふふふっ、可愛い。朱莉ちゃん」


 甘くて優しい香りがする。


プニプニと太った手足をしきりに動かしている。


 彩矢の赤ちゃんももうすぐ生まれるんだなと、ふと思い出す。


佐野さんの子だったら、やっぱり戻ってくるのかな。


 でも彩矢は結局、誰が好きだったんだろう。





赤ちゃんを連れて庭のお花を見てまわる。


 様々な色と形のバラがバランスよく咲いていた。色鮮やかなダリヤとカサブランカも美しさを競い合うように咲き乱れている。


 名前がわからない小さな花々も美しく、イングリッシュガーデンのようにステキにお手入れされている。


「ねぇ、お花きれいだね~  朱莉ちゃん」


バラのアーチをくぐって、朱莉ちゃんに笑いかけた。


 14~15名の人たちが木陰でバーベキューを食べながら、談笑している。


手入れの行き届いた芝生と庭の花々。かなり上流の人たちとの交流で少し気疲れするけれど、みんな感じの良さそうな人たちばかりだ。


こんな家族とだったら、うまくやっていけないこともないかも。やはり一般庶民にとってはちょっと憧れの光景だった。


 でも谷さんの、ゲームの相手にされるのは嫌だった。絶対に攻略なんてされないんだから。逆に谷さんを翻弄してみたい意地悪な感情が湧いてくる。


 朱莉ちゃんと日陰のテラスのベンチに座わる。朱莉ちゃんを向い合せに膝の上でお座りさせてみた。お人形のようで本当に可愛い。さくらんぽのヘアゴムで薄い髪をかわいく結んでいる。


「朱莉ちゃんはまだおなかは空かないの?」


「だった、だっち、あぶぶぅ、」


じっと見つめて、意味不明の言葉を発している。


亜美さんが来て、隣りに腰を降ろした。


どこかで嗅いだことのある香水の匂いが鼻につく。


「あなた、修ちゃんのこと別に好きじゃないんでしょう?」



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