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夢のような日々
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「くしゅん! 」
大きなくしゃみが聞こえて目ががさめた。
彩矢ちゃんは隣に寝てなくて、自分ひとりがいつの間にか、しっかりとベッドの真ん中で寝ていた。
彩矢ちゃんはコートを被ってラグのうえで寝ていたらしい。
「ごめん、風邪ひかせたかな? 俺ひとりでベッド占領しちゃったな」
「いいの、彩矢は仕事してないから、家に帰ってから寝られるから」
自分の部屋に彩矢ちゃんがいて、一緒に朝を迎えられていることに深く感動する。
彩矢ちゃんを手招きしてキスをした。
夢のような幸せに戸惑い、また失ってしまうかもしれない苦い記憶に不安を感じる。
「幸せだなぁ、結婚したいな、彩矢ちゃんと」
ため息とともに、思わず本音が出た。
「いいよ、結婚しても」
彩矢ちゃんが 恥ずかしそうにうつむいて言った。
俺のプロポーズはあまりに突拍子もなかったけれど、彩矢ちゃんの返事には信憑性がなかった。
人間性を疑っているわけではない。
ただ彩矢ちゃんは純粋すぎて、感情に支配されてしまう女の子だから。
信じられなかったけれど、せっかくのチャンスを潰したくなかった。
彩矢ちゃんの気が変わらないうちに結婚できたらなと思った。
「本当に? いつしてくれる? 来年でもいい?」
はやる気持ちでそう聞いた。
「うん・・・」
早くも頭の中で両家の顔合わせや、式場の予約のことなどで、考えがグルグルとまわっていた。
早くても4月か、6月くらいにはなりそうだ。
やっぱりジューンブライドがいいかもな。
12月21日 雪
初めから俺が気づいてラグで寝ていたらよかったのに。
今日、LINEしたらインフルエンザに感染しているという。風邪が治ったばかりだというのに。
初めてのクリスマスを一緒に過ごすことが出来なくなった。
まだ高熱が続いているのだろう。体力も戻っていないのに本当に申し訳ないことをした。
大丸のジュエリーコーナーで、彩矢ちゃんに似合いそうなネックレスを探した。クリスマスのプレゼントを宅配で届けるというのは、あまりロマンティックとは言えないけれど仕方がない。
元気になったら、ホテルのディナーにでも誘おう。そのまま、そこに泊まるのもいいな。
ーー早く会いたい。
一週間なんてあっという間のことなのに、彩矢ちゃんに会えない4~5日が異常に長く感じられる。
12月25日 晴れ
彩矢ちゃんから、もう治ったので明日会えますかと言う、嬉しいLINEが来た。
ネックレスも気に入ってくれたようだ。
年明けには実家の両親に彩矢ちゃんを紹介しよう。
婚約指輪は俺が勝手に選んでいいものだったかな? やっぱりプロポーズは少し早すぎたな。普通は婚約指輪を渡すときに言うものだもんな。
でも、まさか彩矢ちゃんが結婚してもいいよ、なんて言うと思ってなかったし、正式なプロポーズのつもりで言ったわけではなかったから。
男にとってそんな事はどうでもいい事で、本当は式なんかもあげずに今すぐにでも結婚してしまいたいくらいだけれど。
でも女の子にとっては大切なことなのだろう。ちょっと可哀想なことをしたかもな。
12月26日 雪
駅前の大型書店で彩矢ちゃんと待ち合わせる。
背中を突かれて振り向くと、悪戯っぽい目で俺を見つめる彩矢ちゃんがいた。
今日はピンクのダウンジャケットに、ピッタリのジーンズを履いている。白のニット帽がよく似合う。少しやせ気味だけれど、ジーンズ姿の彩矢ちゃんも可愛い。
俺にクリスマスのプレゼントをくれて、両手にスーパーの袋を下げている。レストランで食事でもしようと誘ったのに、アパートで食べようと、デパ地下でお惣菜を買ったと言う。
こんな風に気を遣われると松田先生との差を感じて、へこまされたような気分になる。今夜はホテルで食事をしてから、泊まりたかったのにな。
まぁ、結婚をひかえていることもあるし、無駄遣いは出来ないけれど。
見栄を張っても仕方ないか。
彩矢ちゃんがこの間の外泊がバレて、門限が10時になったと言った。
はぁ、マジかよ~。
「早く、早く~」
と急かす彩矢ちゃんをうんざりして追いかけた。
12月30日 晴れのち雪
今日から病院は正月休みに入る。
今日は彩矢ちゃんがアパートでお料理を作ってくれると言う。おせち料理かな?
午後3時に彩矢ちゃんを迎えに行き、食材を買い込むためにアパートに近いスーパーへ寄った。
小規模のスーパーだけれど、大型スーパーよりもお買い得品が多く、生鮮品も新鮮な気がする。
普段料理はしないけれど、冷凍食品などはコンビニではなくここで買うようにしている。
ただ、通路が狭く、混んでいるときはカートで買い物をしている人が邪魔で通れない。いつ来ても混んでいる。年末の今日は中々前へ進めないほどの混みようだ。
「いらっしゃいませぇっ!」
通り過ぎた男性店員から活気のある声が響く。
苺やキウイをカゴに入れ、彩矢ちゃんが陳列されているブロッコリーを手に取って品定めをしている。
いったい何人分を作るつもりなのか、バラ売りではない、袋に入ったジャガイモや玉ねぎをどんどんカゴに放り込む。
「何を作ってくれるんだい?」
「ナイショだよ~、楽しみがなくなるでしょ」
そう言っておきながら、隠しもせずにシチューのルーをカゴの中にポイっと入れるところが何となく抜けていて、彩矢ちゃんらしい。
野菜や果物などで重くなったカゴを持ってあげる。
新婚のような気分がして意外と楽しい。レジで精算してもらうと、結構な金額になった。
「俺が払うよ」
と、財布を出したけれど、
「いいから、今日は彩矢がご馳走する日だから」と言って譲らなかった。
確かに外食の時は俺が払っているけれど、年下の女の子に払ってもらうというのはどうも 気がひける。
アパートに着くと、もう4時を過ぎていた。
これから作ると、遅くても6時には食べられるだろう、と思っていたけれど、5時を過ぎても、まだ野菜の皮をむいているようで、少し心配になる。
どうやら料理は本当に得意ではなさそうだ。
「何か、手伝おうか?」
人参を切っている彩矢ちゃんのそばに立つ。
「いいから、佐野さんはテレビでも見ていて」と、追い返される。
正直いってシチューより、早く彩矢ちゃんが食べたい。
門限があるんだから、早く作ってくれよ~。
落ち着かない気持ちで、読みかけの文庫本を読む。
「ごめん、やっぱり、これ頼んでもいい?」
彩矢ちゃんが剥きかけのジャガイモをボールに入れて持って来た。
ジャガイモをピーラーで剥くあたりが初心者だよなと思いながら、包丁を持って来て皮をむく。
「わぁ~、佐野さん、上手!」
と褒められた。
ところどころ皮と芽が残っているジャガイモの皮むきは手間がかかった。
7時を過ぎた頃、やっとシチューのいい匂いがして来た。中々テーブルに運ばれてこないので、何をしているのだろうと思い、キッチンを覗いてみる。
彩矢ちゃんはグレープフルーツの皮をむき、わざわざご丁寧に房から実を取り出していた。
そんなもの包丁で切ったらいいだろう! と叫びたくなる気持ちを抑えて、まだ皮が剥かれてないキウイをつかんだ。
「これも剥くんだろ?」と言って手伝う。
苺のヘタまで取ってあげて、ロールパンとシチュー、フルーツサラダの料理がやっと完成した。
シチューは仕上げに生クリームを入れたようで、中々コクのある美味しい味に仕上がっていた。
「うん、美味しい!」
そう言って見つめると、彩矢ちゃんがはにかんでうつむいた。
本当になんて可愛いんだろうとあらためてそう思う。
「美味しいから、もう一杯食べようっと」
彩矢ちゃんは嬉しそうに自分で褒めて、立ち上がった。
「佐野さんはおかわりいらない?」
「あ、うん、じゃあ、もう一杯」
彩矢ちゃんが鍋をかき混ぜてよそっている間も、時計が気になって仕方がなかった。もう8時を過ぎている。
デザートのフルーツも食べ終えて、彩矢ちゃんが使った食器をキッチンへ下げた。
シンクの中は食器以外にもボールやまな板などの汚れ物であふれかえっていた。
腕まくりをして、スポンジに洗剤をふりかけた彩矢ちゃんを後ろから抱きしめた。
「後片付けは俺があとでするよ」
「え~ でも悪いよ。こんなにあるもの」
「いいって、いいから、もう焦らさないでくれよ」
「えっ、なにを? 焦らしてなんかないよ」
「いいから、早く」
腕をひっぱって、ベッドへ押し倒した。
これからが最高のディナーのはじまり。
大きなくしゃみが聞こえて目ががさめた。
彩矢ちゃんは隣に寝てなくて、自分ひとりがいつの間にか、しっかりとベッドの真ん中で寝ていた。
彩矢ちゃんはコートを被ってラグのうえで寝ていたらしい。
「ごめん、風邪ひかせたかな? 俺ひとりでベッド占領しちゃったな」
「いいの、彩矢は仕事してないから、家に帰ってから寝られるから」
自分の部屋に彩矢ちゃんがいて、一緒に朝を迎えられていることに深く感動する。
彩矢ちゃんを手招きしてキスをした。
夢のような幸せに戸惑い、また失ってしまうかもしれない苦い記憶に不安を感じる。
「幸せだなぁ、結婚したいな、彩矢ちゃんと」
ため息とともに、思わず本音が出た。
「いいよ、結婚しても」
彩矢ちゃんが 恥ずかしそうにうつむいて言った。
俺のプロポーズはあまりに突拍子もなかったけれど、彩矢ちゃんの返事には信憑性がなかった。
人間性を疑っているわけではない。
ただ彩矢ちゃんは純粋すぎて、感情に支配されてしまう女の子だから。
信じられなかったけれど、せっかくのチャンスを潰したくなかった。
彩矢ちゃんの気が変わらないうちに結婚できたらなと思った。
「本当に? いつしてくれる? 来年でもいい?」
はやる気持ちでそう聞いた。
「うん・・・」
早くも頭の中で両家の顔合わせや、式場の予約のことなどで、考えがグルグルとまわっていた。
早くても4月か、6月くらいにはなりそうだ。
やっぱりジューンブライドがいいかもな。
12月21日 雪
初めから俺が気づいてラグで寝ていたらよかったのに。
今日、LINEしたらインフルエンザに感染しているという。風邪が治ったばかりだというのに。
初めてのクリスマスを一緒に過ごすことが出来なくなった。
まだ高熱が続いているのだろう。体力も戻っていないのに本当に申し訳ないことをした。
大丸のジュエリーコーナーで、彩矢ちゃんに似合いそうなネックレスを探した。クリスマスのプレゼントを宅配で届けるというのは、あまりロマンティックとは言えないけれど仕方がない。
元気になったら、ホテルのディナーにでも誘おう。そのまま、そこに泊まるのもいいな。
ーー早く会いたい。
一週間なんてあっという間のことなのに、彩矢ちゃんに会えない4~5日が異常に長く感じられる。
12月25日 晴れ
彩矢ちゃんから、もう治ったので明日会えますかと言う、嬉しいLINEが来た。
ネックレスも気に入ってくれたようだ。
年明けには実家の両親に彩矢ちゃんを紹介しよう。
婚約指輪は俺が勝手に選んでいいものだったかな? やっぱりプロポーズは少し早すぎたな。普通は婚約指輪を渡すときに言うものだもんな。
でも、まさか彩矢ちゃんが結婚してもいいよ、なんて言うと思ってなかったし、正式なプロポーズのつもりで言ったわけではなかったから。
男にとってそんな事はどうでもいい事で、本当は式なんかもあげずに今すぐにでも結婚してしまいたいくらいだけれど。
でも女の子にとっては大切なことなのだろう。ちょっと可哀想なことをしたかもな。
12月26日 雪
駅前の大型書店で彩矢ちゃんと待ち合わせる。
背中を突かれて振り向くと、悪戯っぽい目で俺を見つめる彩矢ちゃんがいた。
今日はピンクのダウンジャケットに、ピッタリのジーンズを履いている。白のニット帽がよく似合う。少しやせ気味だけれど、ジーンズ姿の彩矢ちゃんも可愛い。
俺にクリスマスのプレゼントをくれて、両手にスーパーの袋を下げている。レストランで食事でもしようと誘ったのに、アパートで食べようと、デパ地下でお惣菜を買ったと言う。
こんな風に気を遣われると松田先生との差を感じて、へこまされたような気分になる。今夜はホテルで食事をしてから、泊まりたかったのにな。
まぁ、結婚をひかえていることもあるし、無駄遣いは出来ないけれど。
見栄を張っても仕方ないか。
彩矢ちゃんがこの間の外泊がバレて、門限が10時になったと言った。
はぁ、マジかよ~。
「早く、早く~」
と急かす彩矢ちゃんをうんざりして追いかけた。
12月30日 晴れのち雪
今日から病院は正月休みに入る。
今日は彩矢ちゃんがアパートでお料理を作ってくれると言う。おせち料理かな?
午後3時に彩矢ちゃんを迎えに行き、食材を買い込むためにアパートに近いスーパーへ寄った。
小規模のスーパーだけれど、大型スーパーよりもお買い得品が多く、生鮮品も新鮮な気がする。
普段料理はしないけれど、冷凍食品などはコンビニではなくここで買うようにしている。
ただ、通路が狭く、混んでいるときはカートで買い物をしている人が邪魔で通れない。いつ来ても混んでいる。年末の今日は中々前へ進めないほどの混みようだ。
「いらっしゃいませぇっ!」
通り過ぎた男性店員から活気のある声が響く。
苺やキウイをカゴに入れ、彩矢ちゃんが陳列されているブロッコリーを手に取って品定めをしている。
いったい何人分を作るつもりなのか、バラ売りではない、袋に入ったジャガイモや玉ねぎをどんどんカゴに放り込む。
「何を作ってくれるんだい?」
「ナイショだよ~、楽しみがなくなるでしょ」
そう言っておきながら、隠しもせずにシチューのルーをカゴの中にポイっと入れるところが何となく抜けていて、彩矢ちゃんらしい。
野菜や果物などで重くなったカゴを持ってあげる。
新婚のような気分がして意外と楽しい。レジで精算してもらうと、結構な金額になった。
「俺が払うよ」
と、財布を出したけれど、
「いいから、今日は彩矢がご馳走する日だから」と言って譲らなかった。
確かに外食の時は俺が払っているけれど、年下の女の子に払ってもらうというのはどうも 気がひける。
アパートに着くと、もう4時を過ぎていた。
これから作ると、遅くても6時には食べられるだろう、と思っていたけれど、5時を過ぎても、まだ野菜の皮をむいているようで、少し心配になる。
どうやら料理は本当に得意ではなさそうだ。
「何か、手伝おうか?」
人参を切っている彩矢ちゃんのそばに立つ。
「いいから、佐野さんはテレビでも見ていて」と、追い返される。
正直いってシチューより、早く彩矢ちゃんが食べたい。
門限があるんだから、早く作ってくれよ~。
落ち着かない気持ちで、読みかけの文庫本を読む。
「ごめん、やっぱり、これ頼んでもいい?」
彩矢ちゃんが剥きかけのジャガイモをボールに入れて持って来た。
ジャガイモをピーラーで剥くあたりが初心者だよなと思いながら、包丁を持って来て皮をむく。
「わぁ~、佐野さん、上手!」
と褒められた。
ところどころ皮と芽が残っているジャガイモの皮むきは手間がかかった。
7時を過ぎた頃、やっとシチューのいい匂いがして来た。中々テーブルに運ばれてこないので、何をしているのだろうと思い、キッチンを覗いてみる。
彩矢ちゃんはグレープフルーツの皮をむき、わざわざご丁寧に房から実を取り出していた。
そんなもの包丁で切ったらいいだろう! と叫びたくなる気持ちを抑えて、まだ皮が剥かれてないキウイをつかんだ。
「これも剥くんだろ?」と言って手伝う。
苺のヘタまで取ってあげて、ロールパンとシチュー、フルーツサラダの料理がやっと完成した。
シチューは仕上げに生クリームを入れたようで、中々コクのある美味しい味に仕上がっていた。
「うん、美味しい!」
そう言って見つめると、彩矢ちゃんがはにかんでうつむいた。
本当になんて可愛いんだろうとあらためてそう思う。
「美味しいから、もう一杯食べようっと」
彩矢ちゃんは嬉しそうに自分で褒めて、立ち上がった。
「佐野さんはおかわりいらない?」
「あ、うん、じゃあ、もう一杯」
彩矢ちゃんが鍋をかき混ぜてよそっている間も、時計が気になって仕方がなかった。もう8時を過ぎている。
デザートのフルーツも食べ終えて、彩矢ちゃんが使った食器をキッチンへ下げた。
シンクの中は食器以外にもボールやまな板などの汚れ物であふれかえっていた。
腕まくりをして、スポンジに洗剤をふりかけた彩矢ちゃんを後ろから抱きしめた。
「後片付けは俺があとでするよ」
「え~ でも悪いよ。こんなにあるもの」
「いいって、いいから、もう焦らさないでくれよ」
「えっ、なにを? 焦らしてなんかないよ」
「いいから、早く」
腕をひっぱって、ベッドへ押し倒した。
これからが最高のディナーのはじまり。
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