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まさかの失恋?
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7月18日 曇りのち晴れ
食堂で佳奈たちと昼食をとってからレントゲン室に行ってみた。
佐野さんが食堂にいなかったけれど、どうしたのかな?
昨日のデートはどうだったんだろ?
“ トントン ” と、レントゲン操作室のドアをノックすると、「はい」と言う返事が聞こえたのでドアを開けた。
「さ~のさん! あらま、お勉強? 」
レントゲン操作室の椅子に腰かけて、佐野さんは医療系の雑誌に目を落としていた。
「あ、有紀か」
浮かない顔で視線をそらせた。
「あらら? 元気ないなぁ~ どーしちゃったの? ……ひょっとして、またまた彩矢に号泣されちゃった~? 」
佐野さんが何も言わずに視線を床に落とした。
「佐野さん……?」
えっ、これって、マジでかなりヤバい展開?
深刻そうな佐野さんの横顔を見て、それ以上の質問が出来なくなった。
「……フラれた。多分、はじめから好きじゃなかったんだろうな。有紀にも嫌な思いさせたな。ごめん」
フラれたって、、嘘でしょう ⁈
「そんな……。彩矢ひどい!」
「いや、いいんだ、大丈夫だから。ほんとに悪かったな」
「………」
少しも大丈夫に見えない佐野さんに、なんて言っていいのかわからず、気まずさに耐えかねてレントゲン室を出た。
フラれたって、たった二度目のデートで?
確かに彩矢はそこまで乗り気ではなかったけど。でも無理強いした覚えはない。彩矢が自分から付き合ってみると言ったのだ。
そんないい加減な人とは思わなかった。今度会ったら、問い詰めてやろう。でもなにが問題だったのだろう。
あの佐野さんがはじめてのデートでがっかりさせるなんて、考えられないのだけれど。
デート初日から大泣きしてたところからして、なんかおかしい。
彩矢に何があったんだろう?
7月19日 雨のち晴
夜勤の申し送りを聞いた後、帰ろうとしていた日勤の彩矢を呼び止めた。
私の顔を見て視線をそらし、後ろめたいようすで下を向いた。
「佐野さんのことフッたんだって? どういうつもり? わたし無理強いなんてしてないよ。彩矢が付き合ってみるって自分から言ったんじゃない!」
「……ごめん。すごく悪いことしたって思ってる」
彩矢は顔もあげずにうなだれたままだ。
「最近、なんかあった? ほんとにどうしちゃったわけ?」
「……ごめんね。ほんとにごめんなさい」
「あやまってばっかりいられてもさ。佐野さんが可哀想だよ。なんとかならないの? 他に付き合いたい人でもいるの?」
「……ごめん、有紀、今日ちょっと急いでるんだ。悪いんだけど、ほんとにごめん」
悲痛な表情で、彩矢は逃げるように階段を降りていった。
あきらかにおかしい。この数日の間に何があったというのだろう。ついこの間まで、なんの悩みもなさそうな彩矢だったのに。
わたしもなんだか佐野さんに声をかけにくくなってしまった。
普通に接していた方がいいとは思うんだけど、佐野さんのショックを一番知ってるだけに、いつものようなおちゃらけた話し方だと失礼な気もするし………。
そんなこと色々考えてるとタイミングを逃して、結局、声をかけそびれてしまう。
8月5日 晴れ
日勤の仕事を終えて、最寄りの地下鉄駅に向かって歩いていると、プップッーと後ろからクラクションを鳴らされた。
佐野さんが、助手席の窓を開けて、
「有紀、乗れよ」と言って笑った。
ちょっと戸惑ったけれど、遠慮なく助手席のドアを開けて座る。
吹き出されてくるクーラーの風が心地よい。顔にかいていた汗が引いていくのを感じた。
いつ乗せてもらっても、車内はキレイだ。ムスクの香りだろうか? 芳香剤もキツくなくて、とてもいい感じ。
もしかしたら、かなりの潔癖症かも知れない。こういう人が旦那さんだと奥さんはいつもキレイでいなくちゃいけなくて大変かもね、などと自分には関係のないことをアレコレと想像している。
「後ろ姿ですぐにわかるもんな、有紀だって。ハハハッ」
佐野さんが元気な時にこれを言ったのなら、思いっきり、ど突いてやるところだけれど……。
「そんなにナイスバディだった? ナンパなんてされて困っちゃう。変な所に連れ込まないでよ!」
「フハハハ、有紀、晩飯食べにいかないか? 奢るよ、おまえには嫌な思いさせちゃったからな」
「……嫌な思いさせちゃったのは、佐野さんのせいじゃないよ」
「いや、こんなことを人に頼むのが間違ってたよ。フラれても仕方ないな」
「……… 」
それはそうかも知らないけど、でも彩矢が悪い。
「なにが食べたい? 」
「うーん、熱いものでもいい? 前に行った平岸のラーメンが食べたい!」
「ラーメンいいな。5杯食べてもいいぞ。餃子もつけてやるよ」
「やったー! 一杯でいいよ。そのかわり大盛りで」
「おまえの食欲見てたら、なんか元気になるよな」
佐野さんが、この間よりは少しだけ明るくなったので嬉しい。
私の食欲で元気になるなら、もっともっと食べてやってもいいけど。
食堂で佳奈たちと昼食をとってからレントゲン室に行ってみた。
佐野さんが食堂にいなかったけれど、どうしたのかな?
昨日のデートはどうだったんだろ?
“ トントン ” と、レントゲン操作室のドアをノックすると、「はい」と言う返事が聞こえたのでドアを開けた。
「さ~のさん! あらま、お勉強? 」
レントゲン操作室の椅子に腰かけて、佐野さんは医療系の雑誌に目を落としていた。
「あ、有紀か」
浮かない顔で視線をそらせた。
「あらら? 元気ないなぁ~ どーしちゃったの? ……ひょっとして、またまた彩矢に号泣されちゃった~? 」
佐野さんが何も言わずに視線を床に落とした。
「佐野さん……?」
えっ、これって、マジでかなりヤバい展開?
深刻そうな佐野さんの横顔を見て、それ以上の質問が出来なくなった。
「……フラれた。多分、はじめから好きじゃなかったんだろうな。有紀にも嫌な思いさせたな。ごめん」
フラれたって、、嘘でしょう ⁈
「そんな……。彩矢ひどい!」
「いや、いいんだ、大丈夫だから。ほんとに悪かったな」
「………」
少しも大丈夫に見えない佐野さんに、なんて言っていいのかわからず、気まずさに耐えかねてレントゲン室を出た。
フラれたって、たった二度目のデートで?
確かに彩矢はそこまで乗り気ではなかったけど。でも無理強いした覚えはない。彩矢が自分から付き合ってみると言ったのだ。
そんないい加減な人とは思わなかった。今度会ったら、問い詰めてやろう。でもなにが問題だったのだろう。
あの佐野さんがはじめてのデートでがっかりさせるなんて、考えられないのだけれど。
デート初日から大泣きしてたところからして、なんかおかしい。
彩矢に何があったんだろう?
7月19日 雨のち晴
夜勤の申し送りを聞いた後、帰ろうとしていた日勤の彩矢を呼び止めた。
私の顔を見て視線をそらし、後ろめたいようすで下を向いた。
「佐野さんのことフッたんだって? どういうつもり? わたし無理強いなんてしてないよ。彩矢が付き合ってみるって自分から言ったんじゃない!」
「……ごめん。すごく悪いことしたって思ってる」
彩矢は顔もあげずにうなだれたままだ。
「最近、なんかあった? ほんとにどうしちゃったわけ?」
「……ごめんね。ほんとにごめんなさい」
「あやまってばっかりいられてもさ。佐野さんが可哀想だよ。なんとかならないの? 他に付き合いたい人でもいるの?」
「……ごめん、有紀、今日ちょっと急いでるんだ。悪いんだけど、ほんとにごめん」
悲痛な表情で、彩矢は逃げるように階段を降りていった。
あきらかにおかしい。この数日の間に何があったというのだろう。ついこの間まで、なんの悩みもなさそうな彩矢だったのに。
わたしもなんだか佐野さんに声をかけにくくなってしまった。
普通に接していた方がいいとは思うんだけど、佐野さんのショックを一番知ってるだけに、いつものようなおちゃらけた話し方だと失礼な気もするし………。
そんなこと色々考えてるとタイミングを逃して、結局、声をかけそびれてしまう。
8月5日 晴れ
日勤の仕事を終えて、最寄りの地下鉄駅に向かって歩いていると、プップッーと後ろからクラクションを鳴らされた。
佐野さんが、助手席の窓を開けて、
「有紀、乗れよ」と言って笑った。
ちょっと戸惑ったけれど、遠慮なく助手席のドアを開けて座る。
吹き出されてくるクーラーの風が心地よい。顔にかいていた汗が引いていくのを感じた。
いつ乗せてもらっても、車内はキレイだ。ムスクの香りだろうか? 芳香剤もキツくなくて、とてもいい感じ。
もしかしたら、かなりの潔癖症かも知れない。こういう人が旦那さんだと奥さんはいつもキレイでいなくちゃいけなくて大変かもね、などと自分には関係のないことをアレコレと想像している。
「後ろ姿ですぐにわかるもんな、有紀だって。ハハハッ」
佐野さんが元気な時にこれを言ったのなら、思いっきり、ど突いてやるところだけれど……。
「そんなにナイスバディだった? ナンパなんてされて困っちゃう。変な所に連れ込まないでよ!」
「フハハハ、有紀、晩飯食べにいかないか? 奢るよ、おまえには嫌な思いさせちゃったからな」
「……嫌な思いさせちゃったのは、佐野さんのせいじゃないよ」
「いや、こんなことを人に頼むのが間違ってたよ。フラれても仕方ないな」
「……… 」
それはそうかも知らないけど、でも彩矢が悪い。
「なにが食べたい? 」
「うーん、熱いものでもいい? 前に行った平岸のラーメンが食べたい!」
「ラーメンいいな。5杯食べてもいいぞ。餃子もつけてやるよ」
「やったー! 一杯でいいよ。そのかわり大盛りで」
「おまえの食欲見てたら、なんか元気になるよな」
佐野さんが、この間よりは少しだけ明るくなったので嬉しい。
私の食欲で元気になるなら、もっともっと食べてやってもいいけど。
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