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修二さんとの別れ
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**有紀**
ルパンと約一時間、この閑静な住宅街を散歩した。以前、一度だけ修二さんの運転で来たことがある麗奈さんの実家、西原家の前も通った。
さっき麗奈さんを見て、すぐに直感した。
この人はまだ修二さんを愛しているのだと。
あの様子では離婚の話をしに来たのでないことはあきらかだった。
「ルパン、もう疲れた? お家に帰りたい?」
公園のベンチに座り、ルパンを抱きしめる。
多分、麗奈さんはまだ谷家にいるのだろう。
ルパンをおいたら今日はそのまま帰ろう。
修二さんは今どんな気持ち?
麗奈さんがやっと戻って来てくれて喜んでいる?
私も喜んであげなくちゃいけないんだ。
修二さんの後遺症がやっと治って、元の正常な修二さんに戻れたんだから。私の目標はそれだったんだから。
だけど、だけど……。
涙が溢れそうになり、ルパンを抱きしめて、そのフサフサの毛に顔をうずめた。
「きゅ~ん、」
私の気持ちが通じるのか、ルパンが悲しげに鳴いた。
「ごめんね、ルパン、もう帰りたいよね」
リードを引いてトボトボとルパンと谷家へ戻る。
ガレージ前の私の軽自動車の隣に、麗奈さんのポルシェが並んで停まっていた。
そこに麗奈さんと、お母様、修二さんが立っているのが見えた。
さらに重くなる足を引きずり、うつむきがちにルパンと谷家へ向かう。
「有紀ちゃん、おかえりなさい。お散歩ありがとう!」
お母様の声が聞こえて顔をあげると、麗奈さんと目が合った。
無表情ながらも挑戦的に見えた麗奈さんに怯えて目を伏せた。
「あ、あの、ルパン、とっても疲れちゃったみたいなので、休ませて来ます」
そう言って、そそくさと玄関へ向った。
修二さんは私の方を見ようともせずに、終始うつむいていた。
それで全てわかったような気持ちになった。
そうなんだ、私たちはどうしても結ばれない運命だったのね。
谷家にはいり、玄関のドアが閉まった途端に涙があふれた。
ルパンの排泄物の始末をして、洗面所で手を洗っていると、お見送りを終えたお母様と修二さんが戻って来た。
リビングはどんよりとした空気に包まれていた。
ソファに座っているお母様と修二さんは無言のまま、重苦しい表情でうつむいていた。
「あの、私、今日はこれで失礼します」
ペコリとお辞儀をして玄関へ向った。
玄関で靴を履いていると、お母様がやって来た。
「有紀ちゃん、ごめんなさい。ちょっと想定外のことになってしまって、、麗奈さん、九月に赤ちゃんが生まれるんですって。そんなことになってるなんて思ってもみなくて……」
「おめでとうございます。よかったです、麗奈さんが戻ってくれて。私のせいで、結婚をダメにしちゃったから気が咎めてたけど、これからは幸せなことが続きますよね。本当に良かったです。それじゃあ、みなさん、お元気で、いつも美味しいごはん、ありがとうございました。さようなら」
泣き出しそうな気持ちをこらえて、早口でまくしたてた。
「有紀ちゃん、、」
逃げるように玄関のドアを開けて外に出た。
裏口から外に出たのか、うなだれた修二さんが私の軽自動車の前に立っていた。
もう、放っておいて!
修二さんの顔を見ることもなく、車のロックを解除してドアをあけた。
「有紀ちゃん、ごめん。本当に、、」
「あやまらないでったら!」
高ぶった気持ちを抑えられず、感情的に叫んだ。
惨めな自分を見られたくなくて、ずっと我慢していたのに。
ボロボロ溢れる涙をぬぐって、車に乗り込んだ。
泣きたくなかった。修二さんの前で、泣き顔なんか見せたくなかった……。
修二さんには目もくれず、涙でボヤけた視界のままに、アクセルを踏みこんだ。
ルパンと約一時間、この閑静な住宅街を散歩した。以前、一度だけ修二さんの運転で来たことがある麗奈さんの実家、西原家の前も通った。
さっき麗奈さんを見て、すぐに直感した。
この人はまだ修二さんを愛しているのだと。
あの様子では離婚の話をしに来たのでないことはあきらかだった。
「ルパン、もう疲れた? お家に帰りたい?」
公園のベンチに座り、ルパンを抱きしめる。
多分、麗奈さんはまだ谷家にいるのだろう。
ルパンをおいたら今日はそのまま帰ろう。
修二さんは今どんな気持ち?
麗奈さんがやっと戻って来てくれて喜んでいる?
私も喜んであげなくちゃいけないんだ。
修二さんの後遺症がやっと治って、元の正常な修二さんに戻れたんだから。私の目標はそれだったんだから。
だけど、だけど……。
涙が溢れそうになり、ルパンを抱きしめて、そのフサフサの毛に顔をうずめた。
「きゅ~ん、」
私の気持ちが通じるのか、ルパンが悲しげに鳴いた。
「ごめんね、ルパン、もう帰りたいよね」
リードを引いてトボトボとルパンと谷家へ戻る。
ガレージ前の私の軽自動車の隣に、麗奈さんのポルシェが並んで停まっていた。
そこに麗奈さんと、お母様、修二さんが立っているのが見えた。
さらに重くなる足を引きずり、うつむきがちにルパンと谷家へ向かう。
「有紀ちゃん、おかえりなさい。お散歩ありがとう!」
お母様の声が聞こえて顔をあげると、麗奈さんと目が合った。
無表情ながらも挑戦的に見えた麗奈さんに怯えて目を伏せた。
「あ、あの、ルパン、とっても疲れちゃったみたいなので、休ませて来ます」
そう言って、そそくさと玄関へ向った。
修二さんは私の方を見ようともせずに、終始うつむいていた。
それで全てわかったような気持ちになった。
そうなんだ、私たちはどうしても結ばれない運命だったのね。
谷家にはいり、玄関のドアが閉まった途端に涙があふれた。
ルパンの排泄物の始末をして、洗面所で手を洗っていると、お見送りを終えたお母様と修二さんが戻って来た。
リビングはどんよりとした空気に包まれていた。
ソファに座っているお母様と修二さんは無言のまま、重苦しい表情でうつむいていた。
「あの、私、今日はこれで失礼します」
ペコリとお辞儀をして玄関へ向った。
玄関で靴を履いていると、お母様がやって来た。
「有紀ちゃん、ごめんなさい。ちょっと想定外のことになってしまって、、麗奈さん、九月に赤ちゃんが生まれるんですって。そんなことになってるなんて思ってもみなくて……」
「おめでとうございます。よかったです、麗奈さんが戻ってくれて。私のせいで、結婚をダメにしちゃったから気が咎めてたけど、これからは幸せなことが続きますよね。本当に良かったです。それじゃあ、みなさん、お元気で、いつも美味しいごはん、ありがとうございました。さようなら」
泣き出しそうな気持ちをこらえて、早口でまくしたてた。
「有紀ちゃん、、」
逃げるように玄関のドアを開けて外に出た。
裏口から外に出たのか、うなだれた修二さんが私の軽自動車の前に立っていた。
もう、放っておいて!
修二さんの顔を見ることもなく、車のロックを解除してドアをあけた。
「有紀ちゃん、ごめん。本当に、、」
「あやまらないでったら!」
高ぶった気持ちを抑えられず、感情的に叫んだ。
惨めな自分を見られたくなくて、ずっと我慢していたのに。
ボロボロ溢れる涙をぬぐって、車に乗り込んだ。
泣きたくなかった。修二さんの前で、泣き顔なんか見せたくなかった……。
修二さんには目もくれず、涙でボヤけた視界のままに、アクセルを踏みこんだ。
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