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結婚へのためらい
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*修二*
麗奈がパリの留学を断念して、結婚することに決めたと言った。
1月に見合いをして、会ったのはまだ7回ほどだ。大学を卒業したばかりだと言うのに本当に後悔しないのだろうか。
留学をあきらめてまで……。
自分がしたくてそうするのだから、修二さんは気にしないでと麗奈は言った。
なんの努力もせずに、多分それが良かったのだろうが、思いのほか麗奈に熱愛されて戸惑った。
僕ももう、結婚相手は麗奈で異存はなかった。
麗奈に深い恋愛感情を抱いていたわけではない。だけど、彼女とはそこそこ上手くやっていけそうな気はした。
若いながらも色々な面で、麗奈はバランスのとれた女性だった。容姿だけとっても、僕にはもったいないくらいだろう。
もっと、将来有望な相手がいくらでも現れたはずだから。
互いの両親と仲人にそんな報告をしたら、あっという間に結納だの、式の日取りだのという話になった。
トントン拍子で式場なども決まり、麗奈は披露宴の準備や、新婚旅行、新居のことなどで忙しくなった。
仕事をしていない彼女にとって、それはとても楽しい暇つぶしとなった。
結納をすませ、すっかり雪もとけた4月の中頃、7月に完成する円山のマンションのモデルルームを見に行きたいと言った。
「初めは賃貸のマンションで良くないかい? ある程度暮らしてみないと、ローンなんかの支払いのメドが立たないだろう」
僕の収入が一体いくらだと思っているのか。
「あら、マンションくらい父が買ってくれるわよ。賃貸は狭いでしょ。気に入った家具も置けないし、すぐに引越しすることを考えるくらいなら、初めから分譲マンションの方が経済的よ」
「…………」
式も新婚旅行も、すべて麗奈のしたいようにしていいと、確かに僕は言った。
だけど、麗奈が嬉々として準備を進めていく中、僕の心はどんどん重くなっていった。
披露宴の招待客は300人を超える。
そんな憂鬱な気分でいた僕を、いつも笑わせて紛らしてくれたのが有紀ちゃんだった。
彼女と休み時間のほんの短いやり取りが、押し潰されそうなプレッシャーを感じていた僕の心を暖かく癒した。
いつも明るい有紀ちゃんだったけれど、時々ふとした拍子に寂しげな表情をみせた。
言葉の端々からもなにか結婚生活に問題が生じているようで、あまり幸せには見えなかった。
以前、スタバで打ち明けてくれたことがあった。佐野に隠し子がいたということを。
そのことが尾を引いていたのかも知れない。
不幸せな有紀ちゃんの結婚生活を垣間見るたびに、僕の心は揺れた。
僕の本気とも冗談ともとれないアプローチに、有紀ちゃんが酷く動揺しているような気もして。
だけど、僕は何故そこまで有紀ちゃんに惹かれていたのだろう。
有紀ちゃんは確かに明るくて可愛い子ではあったけれど、誰が見ても麗奈の方がいい女だろう。
プレッシャーからの逃避か……。
そのあたりの気分がどうも曖昧でよく思い出せない。
なにかとても大切なことを僕は忘れているのではないのか。
麗奈がパリの留学を断念して、結婚することに決めたと言った。
1月に見合いをして、会ったのはまだ7回ほどだ。大学を卒業したばかりだと言うのに本当に後悔しないのだろうか。
留学をあきらめてまで……。
自分がしたくてそうするのだから、修二さんは気にしないでと麗奈は言った。
なんの努力もせずに、多分それが良かったのだろうが、思いのほか麗奈に熱愛されて戸惑った。
僕ももう、結婚相手は麗奈で異存はなかった。
麗奈に深い恋愛感情を抱いていたわけではない。だけど、彼女とはそこそこ上手くやっていけそうな気はした。
若いながらも色々な面で、麗奈はバランスのとれた女性だった。容姿だけとっても、僕にはもったいないくらいだろう。
もっと、将来有望な相手がいくらでも現れたはずだから。
互いの両親と仲人にそんな報告をしたら、あっという間に結納だの、式の日取りだのという話になった。
トントン拍子で式場なども決まり、麗奈は披露宴の準備や、新婚旅行、新居のことなどで忙しくなった。
仕事をしていない彼女にとって、それはとても楽しい暇つぶしとなった。
結納をすませ、すっかり雪もとけた4月の中頃、7月に完成する円山のマンションのモデルルームを見に行きたいと言った。
「初めは賃貸のマンションで良くないかい? ある程度暮らしてみないと、ローンなんかの支払いのメドが立たないだろう」
僕の収入が一体いくらだと思っているのか。
「あら、マンションくらい父が買ってくれるわよ。賃貸は狭いでしょ。気に入った家具も置けないし、すぐに引越しすることを考えるくらいなら、初めから分譲マンションの方が経済的よ」
「…………」
式も新婚旅行も、すべて麗奈のしたいようにしていいと、確かに僕は言った。
だけど、麗奈が嬉々として準備を進めていく中、僕の心はどんどん重くなっていった。
披露宴の招待客は300人を超える。
そんな憂鬱な気分でいた僕を、いつも笑わせて紛らしてくれたのが有紀ちゃんだった。
彼女と休み時間のほんの短いやり取りが、押し潰されそうなプレッシャーを感じていた僕の心を暖かく癒した。
いつも明るい有紀ちゃんだったけれど、時々ふとした拍子に寂しげな表情をみせた。
言葉の端々からもなにか結婚生活に問題が生じているようで、あまり幸せには見えなかった。
以前、スタバで打ち明けてくれたことがあった。佐野に隠し子がいたということを。
そのことが尾を引いていたのかも知れない。
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だけど、僕は何故そこまで有紀ちゃんに惹かれていたのだろう。
有紀ちゃんは確かに明るくて可愛い子ではあったけれど、誰が見ても麗奈の方がいい女だろう。
プレッシャーからの逃避か……。
そのあたりの気分がどうも曖昧でよく思い出せない。
なにかとても大切なことを僕は忘れているのではないのか。
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