98 / 98
花びらのような雪が降って
しおりを挟む
潤一さん待望の女の子が、寒波が襲った十一月はじめの明け方に産まれた。
早めの冬将軍到来で、朝方までに降り積もった積雪の影響で、交通機関に乱れが出ていた。
産院の窓からも、絶え間なく降り続くぼたん雪が見えた。
まだ十一月になったばかりなのに、こんなに雪が降るなんて。
赤ちゃんは雪になって舞い降りてきたのかな。
初産と違って二人目は、陣痛が来たと思ったら一時間ほどで産まれた。
潤一がさっきから、ずっとムービーで撮影している。
なんだ、普通のパパだったんだと少し拍子抜けした。
むくんで赤い顔をしている生まれたての娘を、飽きもせずに眺めている。
「可愛いなぁ、彩矢に似てるから美人になるな。悪い男がつかないようにしないとなぁ」
悪い男って、、悪い男が言うなと言いたい。
わかりやすい単純男は、わが子の誕生がよほど嬉しいのか、義母やうちの両親とはしゃいでいた。
悠李が産まれた時とは大違いだ。
それを責める気持ちはもちろんないけれど……。
二歳を過ぎた悠李も、おしゃべりが上手になった。
眠そうな目をこすりながら、子犬にでもふれるように頭をなでている。
「あかちゃん、かわいいね。ちいさいね」
寝てばかりいる赤ちゃんより、悠李の仕草のほうが可愛いくて、スマホで何枚も写真を取り、動画を撮影した。
悠李の写真と動画を佐野さんに送ってやりたい衝動に駆られる。
未練から来る気持ちなのだろうか。
それとも見離されたと思う復讐心でもあるのだろうか。
” もう、会いに来ないで! ”
あの日、公園で佐野さんに言った言葉は本心ではなかったのだと今ではわかる。
有紀から佐野さんを奪おうなんて思ってなかった。
でも、追いかけてきて欲しかった。
“ 三人で一緒に暮らそう ” って言って欲しかった。
嘘でいいからそう言って欲しかったのだ。
誠実な佐野さんに、そんな無責任なことなど言えるわけないのに。
だけど、そのほうがずっと未練なく別れられたような気がする。
遠くからでいいからいつも心配していてもらいたくて。
いつまでも私と悠李のことを気にかけていてもらいたくて。
有紀と暮らしていても、ずっと忘れないでいてもらいたくて。
まるで恋でもしているかのように、いつまでも娘を見ている潤一の横顔を見つめる。
仕事人間の潤一を変えることなどできるわけがない。
潤一が佐野さんのようになったら可笑しすぎるし、スーパーで妻と一緒に買い物など似合わない。
そんな潤一だからこそ好きにもなったのだと思う。
だけど……。
もう朝の八時を過ぎている。そろそろ仕事に行かないといけない時間だ。雪で道が渋滞していることを告げると、慌てて出ていった。
潤一が色々と調べて考えて、娘の名前は雪花になった。
ーー松田雪花。
産院の窓から花びらのように、ひらひらと舞い降りていたぼたん雪を思い出していた。
ーENDー
読者さまへ
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
引き続き、「六華 snow crystal 2」
も楽しんでいただけましたら幸いです。
どうぞ、よろしくお願いします。
なごみ
早めの冬将軍到来で、朝方までに降り積もった積雪の影響で、交通機関に乱れが出ていた。
産院の窓からも、絶え間なく降り続くぼたん雪が見えた。
まだ十一月になったばかりなのに、こんなに雪が降るなんて。
赤ちゃんは雪になって舞い降りてきたのかな。
初産と違って二人目は、陣痛が来たと思ったら一時間ほどで産まれた。
潤一がさっきから、ずっとムービーで撮影している。
なんだ、普通のパパだったんだと少し拍子抜けした。
むくんで赤い顔をしている生まれたての娘を、飽きもせずに眺めている。
「可愛いなぁ、彩矢に似てるから美人になるな。悪い男がつかないようにしないとなぁ」
悪い男って、、悪い男が言うなと言いたい。
わかりやすい単純男は、わが子の誕生がよほど嬉しいのか、義母やうちの両親とはしゃいでいた。
悠李が産まれた時とは大違いだ。
それを責める気持ちはもちろんないけれど……。
二歳を過ぎた悠李も、おしゃべりが上手になった。
眠そうな目をこすりながら、子犬にでもふれるように頭をなでている。
「あかちゃん、かわいいね。ちいさいね」
寝てばかりいる赤ちゃんより、悠李の仕草のほうが可愛いくて、スマホで何枚も写真を取り、動画を撮影した。
悠李の写真と動画を佐野さんに送ってやりたい衝動に駆られる。
未練から来る気持ちなのだろうか。
それとも見離されたと思う復讐心でもあるのだろうか。
” もう、会いに来ないで! ”
あの日、公園で佐野さんに言った言葉は本心ではなかったのだと今ではわかる。
有紀から佐野さんを奪おうなんて思ってなかった。
でも、追いかけてきて欲しかった。
“ 三人で一緒に暮らそう ” って言って欲しかった。
嘘でいいからそう言って欲しかったのだ。
誠実な佐野さんに、そんな無責任なことなど言えるわけないのに。
だけど、そのほうがずっと未練なく別れられたような気がする。
遠くからでいいからいつも心配していてもらいたくて。
いつまでも私と悠李のことを気にかけていてもらいたくて。
有紀と暮らしていても、ずっと忘れないでいてもらいたくて。
まるで恋でもしているかのように、いつまでも娘を見ている潤一の横顔を見つめる。
仕事人間の潤一を変えることなどできるわけがない。
潤一が佐野さんのようになったら可笑しすぎるし、スーパーで妻と一緒に買い物など似合わない。
そんな潤一だからこそ好きにもなったのだと思う。
だけど……。
もう朝の八時を過ぎている。そろそろ仕事に行かないといけない時間だ。雪で道が渋滞していることを告げると、慌てて出ていった。
潤一が色々と調べて考えて、娘の名前は雪花になった。
ーー松田雪花。
産院の窓から花びらのように、ひらひらと舞い降りていたぼたん雪を思い出していた。
ーENDー
読者さまへ
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
引き続き、「六華 snow crystal 2」
も楽しんでいただけましたら幸いです。
どうぞ、よろしくお願いします。
なごみ
0
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。
六華 snow crystal 4
なごみ
現代文学
雪の街、札幌で繰り広げられる、それぞれの愛のかたち。part 4
交通事故の後遺症に苦しむ谷の異常行動。谷のお世話を決意した有紀に、次々と襲いかかる試練。
ロサンゼルスへ研修に行っていた潤一が、急遽帰国した。その意図は? 曖昧な態度の彩矢に不安を覚える遼介。そんな遼介を諦めきれない北村は、、
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる