六華 snow crystal

スーパーで

遠慮がちに悠李を見つめる佐野さんが気の毒に思えた。


今日は平日なのに仕事はお休みなのだろうか。


有紀からもいつものような気軽なおしゃべりは聞かれず、重苦しい空気が漂った。


「お久しぶりです」


気まずさに耐えきれず、おずおずと自分から声をかけた。


「お久しぶり。彩矢、元気だった？」


有紀が作り笑いをしながら窺うようにたずねた。


「うん、有紀と佐野さんも元気？」


「……まぁ、元気かな？」

いつもの大型スーパーの食品売り場で、悠李を連れて買い物をしていたら、また佐野さんと有紀に出会った。


以前ほど動揺しなかったのは、今はそれなりに幸せということだろうか。


佐野さんと有紀のほうが申し訳なさそうに狼狽えていた。


幼児用のお買い物カートに乗せられた悠李はご機嫌だ。お菓子コーナーで選ばせたオモチャ付きのお菓子の中身が気になるようで、箱を振ったりなめたりしている。

有紀が佐野さんのほうを見ながら言葉を濁した。


佐野さんは目も合わせようとせずにうつむいたままだ。


以前、言いすぎてしまったことを後悔した。


「お幸せにね。じゃあ、また」




佐野さんへの未練などもうないと言ったら嘘になる。


でも、有紀から佐野さんを奪うことなどできないし、仮にできたとしても幸せになどなれるわけがない。


それに今はもう、潤一さんの子だって妊娠しているのだ。


スーパーにも、夫婦で一緒にお買い物をする有紀がうらやましかった。