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みじめな再会
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唯一の楽しみはやはり、悠李の成長だ。
一歳の誕生日も過ぎて、もう歩けるようになっている。
よちよちと歩く姿がなんとも可愛らしい。
日曜日悠李を連れ、母の運転で大型スーパーへ買い物に行った。
ここに併設されているキッズコーナーで、母が悠李を遊ばせてくれる。
その間に悠李の洋服などを買い、書店を覗いたり、雑貨のお店などを見てまわる。
可愛いマグカップやタオル、ミニサボテンなどが置かれている雑貨のお店にはいつも立ち寄る。
自分の部屋用にアロマでも買おうかと匂いを嗅いでいたら、
「あれ、彩矢? 彩矢じゃない」
後ろから声をかけられた。
振り向いて顔を見ても、一瞬誰だかわからなかった。
「有紀 ⁉︎」
どんなダイエットをしたのか?
有紀は別人のように綺麗になっていた。
「すっごく久しぶり~ ひとりで買い物に来たの? ご主人と悠くんは?」
有紀の後ろに佐野さんが立っていた。
約一年と八ヶ月ぶりの再会だった。
あまりの衝撃で顔が引きつり、有紀のように親しげに話すことなど出来なかった。
「あ、、今、実家の母に預けていて、あ、あの、ご結婚おめでとうございます。お祝いもあげないでごめんなさい」
ふたりに軽く頭を下げた。
佐野さんの顔など、とても見られない 。
「そんなのお互い様でしょ」
幸せいっぱいの有紀の笑顔がまぶしい。
「有紀、ずいぶん痩せたのね。誰かと思っちゃった」
「フフフッ、だって、可愛いウエディングドレスはみんな小さいんだもん。入るのが見つけられなくて、痩せるしかないから頑張りました~」
おどけて言う有紀の、なんの曇りもない笑顔に、愛されている自信を感じた。
新妻らしく、血色のいい透明感ある肌が初々しい。
メイクもせずに伸びっぱなしの髪を、後ろひとつに縛っている自分の姿が急に恥ずかしくなった。
どこから見ても、生活に疲れておしゃれする気力もない、所帯じみた主婦だった。
「じゃあ、そろそろ帰らないと……。 元気でね。お幸せに」
みじめな自分が恥ずかしく、さっさとこの場から立ち去りたい。
有紀と佐野さんに背を向け歩き出したところで、呼び止められた。
「あっ、彩矢!」
「えっ?」
「先月、里沙ちゃんが亡くなったよ」
有紀が急に沈んだ面持ちでポツリと告げた。
「里沙ちゃんが!」
里沙ちゃんのことはずっと心に引っかかっていた。
お見舞いにもう一度行きたかったけれど、妊娠してからは悪阻がひどかったし、お腹が大きくなってからはもっと行けなくなった。
悠李が産まれると、忙しいのと潤一との諍いの毎日で、気持ちがそれどころではなくなっていた。
「最後まですごく頑張ってたよ。……みんなにありがとうって」
そう言って有紀は少し涙ぐんだ。
「里沙ちゃん……」
有紀の涙を見てもらい泣きしそうになっていたら、
「あっ、悠ちゃん、ママいたよ~」
おもちゃコーナーの方から、母と手をつないだ悠李がこっちへ向かって来た。
「マンマ!」
悠李が指をさしながら、よたよたと歩いてきた。
佐野さんと有紀の顔色が変わったように感じた。
有紀は目を見開き、口に両手を当てて驚愕している。
「ごめんね、悠李。じゃあ、行こうね」
有紀と佐野さんから隠すように、そそくさと悠李の向きを変えて歩き出した。
気づかれただろうか。
佐野さんの顔は見てないけれど、有紀のあの表情からして完全に気づかれたような気がする。
「お友達? どこかで会ったことがあるような気がするんだけど」
母が記憶の糸を手繰り寄せるような顔をして、有紀を振り返った。
「有紀だよ。おなじ病院だった」
「あぁ、そうだわ、藤沢さんね。ずいぶん痩せてきれいになったのね。隣にいた人って彼氏かしら? ステキな人ねぇ。きれいになるわけだ~」
遠くからこっちを見つめて突っ立っているふたりを、母は再度振り返って見ていた。
有紀、本当にきれいになった。
誰が見ても今の私より、数倍も有紀のほうがきれいだった。
こんな姿、佐野さんに見られたくなかった。
母が下のスーパーで食材を買っていこうとしていたけれど、二人に出会いそうな気がして、「気分が悪いから早く帰りたい」と言って家路を急いだ。
一歳の誕生日も過ぎて、もう歩けるようになっている。
よちよちと歩く姿がなんとも可愛らしい。
日曜日悠李を連れ、母の運転で大型スーパーへ買い物に行った。
ここに併設されているキッズコーナーで、母が悠李を遊ばせてくれる。
その間に悠李の洋服などを買い、書店を覗いたり、雑貨のお店などを見てまわる。
可愛いマグカップやタオル、ミニサボテンなどが置かれている雑貨のお店にはいつも立ち寄る。
自分の部屋用にアロマでも買おうかと匂いを嗅いでいたら、
「あれ、彩矢? 彩矢じゃない」
後ろから声をかけられた。
振り向いて顔を見ても、一瞬誰だかわからなかった。
「有紀 ⁉︎」
どんなダイエットをしたのか?
有紀は別人のように綺麗になっていた。
「すっごく久しぶり~ ひとりで買い物に来たの? ご主人と悠くんは?」
有紀の後ろに佐野さんが立っていた。
約一年と八ヶ月ぶりの再会だった。
あまりの衝撃で顔が引きつり、有紀のように親しげに話すことなど出来なかった。
「あ、、今、実家の母に預けていて、あ、あの、ご結婚おめでとうございます。お祝いもあげないでごめんなさい」
ふたりに軽く頭を下げた。
佐野さんの顔など、とても見られない 。
「そんなのお互い様でしょ」
幸せいっぱいの有紀の笑顔がまぶしい。
「有紀、ずいぶん痩せたのね。誰かと思っちゃった」
「フフフッ、だって、可愛いウエディングドレスはみんな小さいんだもん。入るのが見つけられなくて、痩せるしかないから頑張りました~」
おどけて言う有紀の、なんの曇りもない笑顔に、愛されている自信を感じた。
新妻らしく、血色のいい透明感ある肌が初々しい。
メイクもせずに伸びっぱなしの髪を、後ろひとつに縛っている自分の姿が急に恥ずかしくなった。
どこから見ても、生活に疲れておしゃれする気力もない、所帯じみた主婦だった。
「じゃあ、そろそろ帰らないと……。 元気でね。お幸せに」
みじめな自分が恥ずかしく、さっさとこの場から立ち去りたい。
有紀と佐野さんに背を向け歩き出したところで、呼び止められた。
「あっ、彩矢!」
「えっ?」
「先月、里沙ちゃんが亡くなったよ」
有紀が急に沈んだ面持ちでポツリと告げた。
「里沙ちゃんが!」
里沙ちゃんのことはずっと心に引っかかっていた。
お見舞いにもう一度行きたかったけれど、妊娠してからは悪阻がひどかったし、お腹が大きくなってからはもっと行けなくなった。
悠李が産まれると、忙しいのと潤一との諍いの毎日で、気持ちがそれどころではなくなっていた。
「最後まですごく頑張ってたよ。……みんなにありがとうって」
そう言って有紀は少し涙ぐんだ。
「里沙ちゃん……」
有紀の涙を見てもらい泣きしそうになっていたら、
「あっ、悠ちゃん、ママいたよ~」
おもちゃコーナーの方から、母と手をつないだ悠李がこっちへ向かって来た。
「マンマ!」
悠李が指をさしながら、よたよたと歩いてきた。
佐野さんと有紀の顔色が変わったように感じた。
有紀は目を見開き、口に両手を当てて驚愕している。
「ごめんね、悠李。じゃあ、行こうね」
有紀と佐野さんから隠すように、そそくさと悠李の向きを変えて歩き出した。
気づかれただろうか。
佐野さんの顔は見てないけれど、有紀のあの表情からして完全に気づかれたような気がする。
「お友達? どこかで会ったことがあるような気がするんだけど」
母が記憶の糸を手繰り寄せるような顔をして、有紀を振り返った。
「有紀だよ。おなじ病院だった」
「あぁ、そうだわ、藤沢さんね。ずいぶん痩せてきれいになったのね。隣にいた人って彼氏かしら? ステキな人ねぇ。きれいになるわけだ~」
遠くからこっちを見つめて突っ立っているふたりを、母は再度振り返って見ていた。
有紀、本当にきれいになった。
誰が見ても今の私より、数倍も有紀のほうがきれいだった。
こんな姿、佐野さんに見られたくなかった。
母が下のスーパーで食材を買っていこうとしていたけれど、二人に出会いそうな気がして、「気分が悪いから早く帰りたい」と言って家路を急いだ。
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