六華 snow crystal

なごみ

文字の大きさ
上 下
89 / 98

みじめな再会

しおりを挟む
唯一の楽しみはやはり、悠李の成長だ。


一歳の誕生日も過ぎて、もう歩けるようになっている。


よちよちと歩く姿がなんとも可愛らしい。


日曜日悠李を連れ、母の運転で大型スーパーへ買い物に行った。


ここに併設されているキッズコーナーで、母が悠李を遊ばせてくれる。


その間に悠李の洋服などを買い、書店を覗いたり、雑貨のお店などを見てまわる。


可愛いマグカップやタオル、ミニサボテンなどが置かれている雑貨のお店にはいつも立ち寄る。


自分の部屋用にアロマでも買おうかと匂いを嗅いでいたら、

 
「あれ、彩矢? 彩矢じゃない」


後ろから声をかけられた。


振り向いて顔を見ても、一瞬誰だかわからなかった。


「有紀 ⁉︎」


どんなダイエットをしたのか?


有紀は別人のように綺麗になっていた。


「すっごく久しぶり~ ひとりで買い物に来たの? ご主人と悠くんは?」


有紀の後ろに佐野さんが立っていた。


約一年と八ヶ月ぶりの再会だった。



あまりの衝撃で顔が引きつり、有紀のように親しげに話すことなど出来なかった。


「あ、、今、実家の母に預けていて、あ、あの、ご結婚おめでとうございます。お祝いもあげないでごめんなさい」


ふたりに軽く頭を下げた。


佐野さんの顔など、とても見られない 。


「そんなのお互い様でしょ」


幸せいっぱいの有紀の笑顔がまぶしい。


「有紀、ずいぶん痩せたのね。誰かと思っちゃった」


「フフフッ、だって、可愛いウエディングドレスはみんな小さいんだもん。入るのが見つけられなくて、痩せるしかないから頑張りました~」


おどけて言う有紀の、なんの曇りもない笑顔に、愛されている自信を感じた。


新妻らしく、血色のいい透明感ある肌が初々しい。


メイクもせずに伸びっぱなしの髪を、後ろひとつに縛っている自分の姿が急に恥ずかしくなった。


どこから見ても、生活に疲れておしゃれする気力もない、所帯じみた主婦だった。


「じゃあ、そろそろ帰らないと……。 元気でね。お幸せに」


みじめな自分が恥ずかしく、さっさとこの場から立ち去りたい。


有紀と佐野さんに背を向け歩き出したところで、呼び止められた。


「あっ、彩矢!」


「えっ?」


「先月、里沙ちゃんが亡くなったよ」


有紀が急に沈んだ面持ちでポツリと告げた。


「里沙ちゃんが!」


里沙ちゃんのことはずっと心に引っかかっていた。


お見舞いにもう一度行きたかったけれど、妊娠してからは悪阻がひどかったし、お腹が大きくなってからはもっと行けなくなった。


悠李が産まれると、忙しいのと潤一との諍いの毎日で、気持ちがそれどころではなくなっていた。


「最後まですごく頑張ってたよ。……みんなにありがとうって」


そう言って有紀は少し涙ぐんだ。


「里沙ちゃん……」


有紀の涙を見てもらい泣きしそうになっていたら、


「あっ、悠ちゃん、ママいたよ~」


おもちゃコーナーの方から、母と手をつないだ悠李がこっちへ向かって来た。


「マンマ!」


悠李が指をさしながら、よたよたと歩いてきた。


佐野さんと有紀の顔色が変わったように感じた。


有紀は目を見開き、口に両手を当てて驚愕している。


「ごめんね、悠李。じゃあ、行こうね」


有紀と佐野さんから隠すように、そそくさと悠李の向きを変えて歩き出した。


気づかれただろうか。


佐野さんの顔は見てないけれど、有紀のあの表情からして完全に気づかれたような気がする。


「お友達? どこかで会ったことがあるような気がするんだけど」


母が記憶の糸を手繰り寄せるような顔をして、有紀を振り返った。


「有紀だよ。おなじ病院だった」


「あぁ、そうだわ、藤沢さんね。ずいぶん痩せてきれいになったのね。隣にいた人って彼氏かしら? ステキな人ねぇ。きれいになるわけだ~」


遠くからこっちを見つめて突っ立っているふたりを、母は再度振り返って見ていた。


有紀、本当にきれいになった。


誰が見ても今の私より、数倍も有紀のほうがきれいだった。


こんな姿、佐野さんに見られたくなかった。


母が下のスーパーで食材を買っていこうとしていたけれど、二人に出会いそうな気がして、「気分が悪いから早く帰りたい」と言って家路を急いだ。



 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ひとり

田中葵
現代文学
ちょっとここらで人生語り、とか

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

六華 snow crystal 4

なごみ
現代文学
雪の街、札幌で繰り広げられる、それぞれの愛のかたち。part 4 交通事故の後遺症に苦しむ谷の異常行動。谷のお世話を決意した有紀に、次々と襲いかかる試練。 ロサンゼルスへ研修に行っていた潤一が、急遽帰国した。その意図は? 曖昧な態度の彩矢に不安を覚える遼介。そんな遼介を諦めきれない北村は、、

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...