六華 snow crystal

シングルマザーになって

実家に出戻り、突然の離婚話で両親を仰天させ、お盆も過ぎた頃、そろそろ仕事でも始めなければと考えるようになった。


保育所も決めなければならないが、どこも待機児童でいっぱいだった。


少なくとも年内に入れる見込みはゼロとのこと。


実家の母は、そんなに焦らなくても三歳くらいまでこの家で育てたらいいと言う。


母は昔から過保護で過干渉だ。

　
ぬるま湯のような実家は快適すぎて、どっぷりと父母に甘えてしまいそうになる。


もちろん良いことばかりではない。


“ 人の家庭を壊すような者は所詮、幸せになどなれるわけがない ”


父はことあるごとに正論をぶちまけては、やり場のない怒りを発散させた。


ーーーやはりバレていたのだった。


母は何かと子育てに干渉してくる。

　
自分のほうが経験があるのだから、口を出したくなるのはわかるけれど、悠李はもっとのびのびと育てたい。


自分の娘の子育ては、完全に失敗だったと思っている母の悠李への言葉がけと躾は、私のコンプレックスと神経を逆撫でする。




　
離婚して一ヶ月ほどしてから、莉子ちゃんから実家に電話が来た。

　
潤一から固定電話の番号を聞いたのだろうか。


自分で調べたのかも知れない。


「彩矢？　私、莉子だけど……。彩矢、ごめん。 本当にそんなにあっさり離婚するなんて思ってなくて……。先生とは元々うまくいってなかったの？  それともあのババァのせい？   最悪だもんね、あのババァ」


お義母さんと莉子ちゃんでは、対立してしまうのも無理はないと思った。


「莉子ちゃん、私のことは本当に気にしなくていいですから、元気な赤ちゃん産んでください」


「彩矢ったら、また、そんなふうに言わないでよ！　……本当にごめん」


そう言って、電話は切れた。


莉子ちゃんは負けん気が強いけれど、決して性格が悪いわけではない。


彩矢の一番大好きな先輩だったのだから。





ーーー


　
九月に入り、悠李はもう、じぃじもばぁばも言えるようになった。

　
母がパートを辞めて悠李の面倒を見てくれることになったので、実家の近くで開業している内科に勤務することになった。


外来のみで、入院がないので夜勤もない。


勤続二十年のお局的看護師長が、すべての権限を持っていると言っても過言ではないような医院だった。


院長は六十代の口数の少ない陰険な小太りで、この医師に診てもらうために、わざわざ通院して来る患者がいることが不思議だった。

　
口やかましい看護師長とはなぜか波長が合うために、師長を怒らせたら最後、退職を余儀なくされる。


実家の近くで便利ということで決めてしまったけれど、看護師長のご機嫌ばかり取っている三十代のナースも、親切とは言えない人だった。

　
自分のミスは棚に上げて、いつも些細なことを取り上げては、ねちねちと説教をした。


勤務して一ヶ月を過ぎても、まったく慣れることができず、毎朝憂鬱な気分で出勤した。