六華 snow crystal

なごみ

文字の大きさ
上 下
81 / 98

離婚話

しおりを挟む
マンションに着くと義母がキッチンで食器を片づけていた。


部屋の中は雑然とはしていたけれど、思ったほど散らかってもいなかった。


「お義母さん、ただいま帰りました。留守中、ありがとうございました」


「ゆっくりできた? やっぱりご実家は気楽でいいでしょう」


なんと返答して良いものか困って、笑って誤魔化した。


「わたくしもそろそろお暇《いとま》するわ。潤一の世話で疲れちゃったの。お友達にも会いたくなったしね」


「あ、あの、お義母さん、私が前に言ったこと気にしてませんか?」


「気にしてないわよ。私は自分のしたいようにするから。また、悠ちゃんに会いたくなったら、あなたが邪魔だと思ってもちゃんと来るわよ」


こんな風にはっきりとものが言える姑が、結局は一番気楽な気がした。


午後の昼食をパンで簡単にすませてから、義母はトランクを引きずってマンションを出ていった。


帰りは上り坂なので、車で送りますと言ったけれど、悠李が寝ているからいいと言って帰って行った。



冷蔵庫の中が寂しいので、目を覚ました悠李を抱っこして、近くの生協へ買い物に行った。焼けばすぐにできる味付けされたお肉と、刻まれて袋に入れられたキャベツを買う。惣菜コーナーでカボチャのサラダときんぴらごぼうを買い、果物は重いので諦めた。


野菜ジュースとヨーグルトを買うと、結構な重さになったので、あとはパンだけにしてレジへと向かった。


夕飯の支度をしながら、最後まで美味しいものを作ってあげられなかったと思い、悲しくなる。




今日中に帰ってこいと言っておきながら、潤一さんは十時過ぎても帰ってこなかった。

 
また浮気かな? 


バカバカしくなり、悠李も寝ているので、今のうちに一緒に寝ておこうと思った。


用意した晩ご飯を冷蔵庫へ片付けると、パジャマに着替えてさっさと寝た。
 
 
 




圧迫感と息苦しさで目が覚めると、いつ帰ってたのか潤一が覆いかぶさっていた。


求められるのは何ヶ月ぶりのことだろう。

 
酔った勢いか、寝込んだときじゃないとできないのだろうか。


ひどくお酒の匂いがする。


寝たふりをしたままがいいのかどうかもわからずに身をまかせていたら、タイミング悪く悠李が泣き出した。


「ホギャ、ホギャー」


どうしようと思いながらも放っておいたら、これでもかと言わんばかりの大音響で泣きわめいた。


「ふんぎゃあー、ふんぎゃあー、ふんぎゃあー!!」


潤一が舌打ちをして離れた。


「やかましいっ! だまれ、クソガキ!!」


悠李に向かって憎々しげに怒鳴りつけると、服をつかんで部屋を出て行った。




ーーー


「早く離婚したい」


翌朝、今日も帰りが遅いかも知れないと思い、さっさと本題に取りかかった。

 
朝食を食べながら朝のニュースを見ている潤一は、どうでもいいような投げやりな態度だ。


「悠李の顔なんて見たくもないんでしょう。なのにどうして離婚してくれないの? 一緒に暮らす意味あるの? 私のことだってどうでもいいんじゃない、浮気ばっかりしているくせに」

 
今までこういった話し合いができなかったのは、姑がいたからなのだ。


「浮気ならいいだろ。おまえは本気で佐野のところへ行きたがってるんだからな」


平然とそう言いのけると、惣菜のきんぴらごぼうを口に入れた。


「佐野さんのところへなんて行かない。今さら行けるわけないでしょ、だから、お願い」


「そんなに俺が嫌いか。泣いて結婚してくれって頼んできたのはおまえなんだぞ」


ふん、と鼻を鳴らして睨みつけた。


「……結婚してくれたのはありがたいって思ってる。でも、これ以上一緒に暮らしたって憎しみあうだけじゃない。私のかわりなんていくらだっているんでしょう。佐野さんのところへは行かないから」


「おまえが行かなくても、佐野のほうから来るかも知れないだろ。それでもおまえは断れるのか? 佐野に優しいこと言われても、行かないって言えるのか?」


そ、それは、、


考えたこともなかったけど、確かに迷うかも………


「そらみろ、言えないだろ!」


飲み終えたお味噌汁の椀をテーブルに置いて、


「味噌汁しょっぱすぎだろ、ちゃんと味見しろよ!」


怒鳴って椅子から立ち上がり、洗面台のほうへ向かった。


「家政婦を雇ったらいいじゃない。いて欲しいのは便利な家政婦なんでしょ。そんなに離婚が嫌ならしてくれなくてもいいわ。勝手に出ていきますから」


歯磨きしていた手が止まった。


「もうやめろよ。これから仕事なんだぞ。帰ってからにしてくれよ」

 
うんざりしたように言って、うがいをした。


「今日は早く帰ってこられるの?」


「多分な」


そう言って時計を見ると「やべえ」と言って、慌ててコートを着て出ていった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ひとり

田中葵
現代文学
ちょっとここらで人生語り、とか

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

六華 snow crystal 4

なごみ
現代文学
雪の街、札幌で繰り広げられる、それぞれの愛のかたち。part 4 交通事故の後遺症に苦しむ谷の異常行動。谷のお世話を決意した有紀に、次々と襲いかかる試練。 ロサンゼルスへ研修に行っていた潤一が、急遽帰国した。その意図は? 曖昧な態度の彩矢に不安を覚える遼介。そんな遼介を諦めきれない北村は、、

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...