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離婚話
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マンションに着くと義母がキッチンで食器を片づけていた。
部屋の中は雑然とはしていたけれど、思ったほど散らかってもいなかった。
「お義母さん、ただいま帰りました。留守中、ありがとうございました」
「ゆっくりできた? やっぱりご実家は気楽でいいでしょう」
なんと返答して良いものか困って、笑って誤魔化した。
「わたくしもそろそろお暇《いとま》するわ。潤一の世話で疲れちゃったの。お友達にも会いたくなったしね」
「あ、あの、お義母さん、私が前に言ったこと気にしてませんか?」
「気にしてないわよ。私は自分のしたいようにするから。また、悠ちゃんに会いたくなったら、あなたが邪魔だと思ってもちゃんと来るわよ」
こんな風にはっきりとものが言える姑が、結局は一番気楽な気がした。
午後の昼食をパンで簡単にすませてから、義母はトランクを引きずってマンションを出ていった。
帰りは上り坂なので、車で送りますと言ったけれど、悠李が寝ているからいいと言って帰って行った。
冷蔵庫の中が寂しいので、目を覚ました悠李を抱っこして、近くの生協へ買い物に行った。焼けばすぐにできる味付けされたお肉と、刻まれて袋に入れられたキャベツを買う。惣菜コーナーでカボチャのサラダときんぴらごぼうを買い、果物は重いので諦めた。
野菜ジュースとヨーグルトを買うと、結構な重さになったので、あとはパンだけにしてレジへと向かった。
夕飯の支度をしながら、最後まで美味しいものを作ってあげられなかったと思い、悲しくなる。
今日中に帰ってこいと言っておきながら、潤一さんは十時過ぎても帰ってこなかった。
また浮気かな?
バカバカしくなり、悠李も寝ているので、今のうちに一緒に寝ておこうと思った。
用意した晩ご飯を冷蔵庫へ片付けると、パジャマに着替えてさっさと寝た。
圧迫感と息苦しさで目が覚めると、いつ帰ってたのか潤一が覆いかぶさっていた。
求められるのは何ヶ月ぶりのことだろう。
酔った勢いか、寝込んだときじゃないとできないのだろうか。
ひどくお酒の匂いがする。
寝たふりをしたままがいいのかどうかもわからずに身をまかせていたら、タイミング悪く悠李が泣き出した。
「ホギャ、ホギャー」
どうしようと思いながらも放っておいたら、これでもかと言わんばかりの大音響で泣きわめいた。
「ふんぎゃあー、ふんぎゃあー、ふんぎゃあー!!」
潤一が舌打ちをして離れた。
「やかましいっ! だまれ、クソガキ!!」
悠李に向かって憎々しげに怒鳴りつけると、服をつかんで部屋を出て行った。
ーーー
「早く離婚したい」
翌朝、今日も帰りが遅いかも知れないと思い、さっさと本題に取りかかった。
朝食を食べながら朝のニュースを見ている潤一は、どうでもいいような投げやりな態度だ。
「悠李の顔なんて見たくもないんでしょう。なのにどうして離婚してくれないの? 一緒に暮らす意味あるの? 私のことだってどうでもいいんじゃない、浮気ばっかりしているくせに」
今までこういった話し合いができなかったのは、姑がいたからなのだ。
「浮気ならいいだろ。おまえは本気で佐野のところへ行きたがってるんだからな」
平然とそう言いのけると、惣菜のきんぴらごぼうを口に入れた。
「佐野さんのところへなんて行かない。今さら行けるわけないでしょ、だから、お願い」
「そんなに俺が嫌いか。泣いて結婚してくれって頼んできたのはおまえなんだぞ」
ふん、と鼻を鳴らして睨みつけた。
「……結婚してくれたのはありがたいって思ってる。でも、これ以上一緒に暮らしたって憎しみあうだけじゃない。私のかわりなんていくらだっているんでしょう。佐野さんのところへは行かないから」
「おまえが行かなくても、佐野のほうから来るかも知れないだろ。それでもおまえは断れるのか? 佐野に優しいこと言われても、行かないって言えるのか?」
そ、それは、、
考えたこともなかったけど、確かに迷うかも………
「そらみろ、言えないだろ!」
飲み終えたお味噌汁の椀をテーブルに置いて、
「味噌汁しょっぱすぎだろ、ちゃんと味見しろよ!」
怒鳴って椅子から立ち上がり、洗面台のほうへ向かった。
「家政婦を雇ったらいいじゃない。いて欲しいのは便利な家政婦なんでしょ。そんなに離婚が嫌ならしてくれなくてもいいわ。勝手に出ていきますから」
歯磨きしていた手が止まった。
「もうやめろよ。これから仕事なんだぞ。帰ってからにしてくれよ」
うんざりしたように言って、うがいをした。
「今日は早く帰ってこられるの?」
「多分な」
そう言って時計を見ると「やべえ」と言って、慌ててコートを着て出ていった。
部屋の中は雑然とはしていたけれど、思ったほど散らかってもいなかった。
「お義母さん、ただいま帰りました。留守中、ありがとうございました」
「ゆっくりできた? やっぱりご実家は気楽でいいでしょう」
なんと返答して良いものか困って、笑って誤魔化した。
「わたくしもそろそろお暇《いとま》するわ。潤一の世話で疲れちゃったの。お友達にも会いたくなったしね」
「あ、あの、お義母さん、私が前に言ったこと気にしてませんか?」
「気にしてないわよ。私は自分のしたいようにするから。また、悠ちゃんに会いたくなったら、あなたが邪魔だと思ってもちゃんと来るわよ」
こんな風にはっきりとものが言える姑が、結局は一番気楽な気がした。
午後の昼食をパンで簡単にすませてから、義母はトランクを引きずってマンションを出ていった。
帰りは上り坂なので、車で送りますと言ったけれど、悠李が寝ているからいいと言って帰って行った。
冷蔵庫の中が寂しいので、目を覚ました悠李を抱っこして、近くの生協へ買い物に行った。焼けばすぐにできる味付けされたお肉と、刻まれて袋に入れられたキャベツを買う。惣菜コーナーでカボチャのサラダときんぴらごぼうを買い、果物は重いので諦めた。
野菜ジュースとヨーグルトを買うと、結構な重さになったので、あとはパンだけにしてレジへと向かった。
夕飯の支度をしながら、最後まで美味しいものを作ってあげられなかったと思い、悲しくなる。
今日中に帰ってこいと言っておきながら、潤一さんは十時過ぎても帰ってこなかった。
また浮気かな?
バカバカしくなり、悠李も寝ているので、今のうちに一緒に寝ておこうと思った。
用意した晩ご飯を冷蔵庫へ片付けると、パジャマに着替えてさっさと寝た。
圧迫感と息苦しさで目が覚めると、いつ帰ってたのか潤一が覆いかぶさっていた。
求められるのは何ヶ月ぶりのことだろう。
酔った勢いか、寝込んだときじゃないとできないのだろうか。
ひどくお酒の匂いがする。
寝たふりをしたままがいいのかどうかもわからずに身をまかせていたら、タイミング悪く悠李が泣き出した。
「ホギャ、ホギャー」
どうしようと思いながらも放っておいたら、これでもかと言わんばかりの大音響で泣きわめいた。
「ふんぎゃあー、ふんぎゃあー、ふんぎゃあー!!」
潤一が舌打ちをして離れた。
「やかましいっ! だまれ、クソガキ!!」
悠李に向かって憎々しげに怒鳴りつけると、服をつかんで部屋を出て行った。
ーーー
「早く離婚したい」
翌朝、今日も帰りが遅いかも知れないと思い、さっさと本題に取りかかった。
朝食を食べながら朝のニュースを見ている潤一は、どうでもいいような投げやりな態度だ。
「悠李の顔なんて見たくもないんでしょう。なのにどうして離婚してくれないの? 一緒に暮らす意味あるの? 私のことだってどうでもいいんじゃない、浮気ばっかりしているくせに」
今までこういった話し合いができなかったのは、姑がいたからなのだ。
「浮気ならいいだろ。おまえは本気で佐野のところへ行きたがってるんだからな」
平然とそう言いのけると、惣菜のきんぴらごぼうを口に入れた。
「佐野さんのところへなんて行かない。今さら行けるわけないでしょ、だから、お願い」
「そんなに俺が嫌いか。泣いて結婚してくれって頼んできたのはおまえなんだぞ」
ふん、と鼻を鳴らして睨みつけた。
「……結婚してくれたのはありがたいって思ってる。でも、これ以上一緒に暮らしたって憎しみあうだけじゃない。私のかわりなんていくらだっているんでしょう。佐野さんのところへは行かないから」
「おまえが行かなくても、佐野のほうから来るかも知れないだろ。それでもおまえは断れるのか? 佐野に優しいこと言われても、行かないって言えるのか?」
そ、それは、、
考えたこともなかったけど、確かに迷うかも………
「そらみろ、言えないだろ!」
飲み終えたお味噌汁の椀をテーブルに置いて、
「味噌汁しょっぱすぎだろ、ちゃんと味見しろよ!」
怒鳴って椅子から立ち上がり、洗面台のほうへ向かった。
「家政婦を雇ったらいいじゃない。いて欲しいのは便利な家政婦なんでしょ。そんなに離婚が嫌ならしてくれなくてもいいわ。勝手に出ていきますから」
歯磨きしていた手が止まった。
「もうやめろよ。これから仕事なんだぞ。帰ってからにしてくれよ」
うんざりしたように言って、うがいをした。
「今日は早く帰ってこられるの?」
「多分な」
そう言って時計を見ると「やべえ」と言って、慌ててコートを着て出ていった。
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