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義母の哀しみ
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呆気にとられて、悠李をあやすことにさえ気づけなかった。
「あなた何様のつもり? 子供を産んだくらいで思い上がらないでちょうだい。あなたがそういう態度ならわたくしも我慢なんかしないわよ。何も知らない小娘のくせに!」
目をつり上げて怒鳴った顔が潤一にそっくりだった。
そうして自分の寝室へ入ると、バシン! とドアを閉めた。
確かに見くびっていた。
さすがはあの夫を育てた母親だけのことはある。
泣きわめいている悠李に慌てておっぱいを与えた。
頬に受けたジーンとした痛みとショックで涙が出てきた。
こんなことで泣いたりして、自分が本当に何も知らない小娘に思えた。
実家の母にはLINEで今日は帰れなくなったことを伝えた。
とても楽しみにしていたのでがっかりさせてしまったけれど、姑と仲違いしたまま出かけたくはなかった。
考えてみたら潤一の子どもではないのだ。
本当の孫でもないとも知らずに可愛がっている義母を非難するなんて。
義母も最初の嫁にあの様な死に方をされて、自分なりに色々と気を使っていたのかも知れない。
潤一の外泊が増えて帰宅も遅いのだから、乳児と毎日ふたりっきりでいるのは大変だったはずだ。
義母が泣き出した悠李をあやしてくれていたことなど当たり前のように感じていたけれど、一人だったらキレていたかも知れない。
夜中に授乳しなければならないので、寝不足で疲労が溜まっていた。
だからといって、許されるわけはない。
とても失礼なことを言ってしまったんだ。
義母の寝室をノックした。
「はい」という声が聞こえたので中に入った。
空き部屋なので寝具の他は義母のトランクくらいしか置かれてなく、この部屋もとても
殺風景だった。
敷いたふとんに横になりながら雑誌を読んでいた義母が、身体を起こし、険しい顔を向けた。
「お義母さん、あの、、さっきはすみませんでした」
へりくだった気持ちで頭を下げた。
義母の顔から剣が取れて穏やかに変わった。
「いいわよ。私もぶったりして悪かったわ。カーッとしちゃったもんだから。痛かったでしょう」
「い、いえ」
「ご両親のところへ行ってらっしゃいよ。初孫なんですもの会いたいはずよね」
「えっ、いいんですか?」
思いもよらない寛大な態度に驚く。
「もちろんよ。でも気をつけて行ってね。 嫁と孫の事故はもうたくさんだから、それだけはお願いよ」
「ありがとうございます」
やはり、勝手な思い込みはいけない。優しいところもある人なのだ。
「ふふっ、わたくしだって鬼ではないのよ。それとね、潤一のことだけど、許してやって欲しいの」
「えっ?」
なんのことだろう?
義母は窓の外に目をやると、遠くに見える毛無山を見つめた。
「あの子、ちっとも可愛がらないじゃない。悠ちゃんのこと。だからあなたが不満に思うのも無理ないわ。抱っこしたところなんか見たこともないし、帰ってきたって顔も見ないんだからひどすぎるわよね。でもね、やっぱり死んだ子の事が、かなり堪えているんだと思うの。そりゃそうよ、あんな死に方されたんだもの、簡単に立ち直れるわけないわ。でも時間がたてば大丈夫よ。自分の子なんですもの可愛くならないわけないでしょ。だから、そうなるまで待っててあげて」
静かにそう言って、微笑みかけた。
義母の見当違いな憶測に、息子に対する深い愛をみた。
嘘もお世辞も嫌味もなく、ストレートしか投げて来ないこの姑が少し好きになった。
そして、ひどく罪悪感を覚えた。
「すみません、お義母さん」
「あら、あなたが謝ることないわよ。潤一は我が儘なところがあるから苦労することもあると思うわ。でもね、亡くなった孫はそれはかわいい子だったのよ。悠ちゃんほどきれいな子じゃなかったけど、潤一にそっくりな子でね、おしゃべりでひょうきんな面白い子だったの。 ……とっても会いたいわ、あの子に」
しんみりと涙目で語った。
「…………」
「あら、ごめんなさい。こんなこと言って。あなた、大丈夫? 顔が真っ青よ」
ーーどこかへ消えてしまいたい。
「……すみません。じゃあ、今日は実家へ行かせていただきます」
動揺を隠せない引きつった顔で頭を下げ、部屋を出た。
やっぱり、もう無理!
早く、一刻も早く離婚しなければいけない!
「あなた何様のつもり? 子供を産んだくらいで思い上がらないでちょうだい。あなたがそういう態度ならわたくしも我慢なんかしないわよ。何も知らない小娘のくせに!」
目をつり上げて怒鳴った顔が潤一にそっくりだった。
そうして自分の寝室へ入ると、バシン! とドアを閉めた。
確かに見くびっていた。
さすがはあの夫を育てた母親だけのことはある。
泣きわめいている悠李に慌てておっぱいを与えた。
頬に受けたジーンとした痛みとショックで涙が出てきた。
こんなことで泣いたりして、自分が本当に何も知らない小娘に思えた。
実家の母にはLINEで今日は帰れなくなったことを伝えた。
とても楽しみにしていたのでがっかりさせてしまったけれど、姑と仲違いしたまま出かけたくはなかった。
考えてみたら潤一の子どもではないのだ。
本当の孫でもないとも知らずに可愛がっている義母を非難するなんて。
義母も最初の嫁にあの様な死に方をされて、自分なりに色々と気を使っていたのかも知れない。
潤一の外泊が増えて帰宅も遅いのだから、乳児と毎日ふたりっきりでいるのは大変だったはずだ。
義母が泣き出した悠李をあやしてくれていたことなど当たり前のように感じていたけれど、一人だったらキレていたかも知れない。
夜中に授乳しなければならないので、寝不足で疲労が溜まっていた。
だからといって、許されるわけはない。
とても失礼なことを言ってしまったんだ。
義母の寝室をノックした。
「はい」という声が聞こえたので中に入った。
空き部屋なので寝具の他は義母のトランクくらいしか置かれてなく、この部屋もとても
殺風景だった。
敷いたふとんに横になりながら雑誌を読んでいた義母が、身体を起こし、険しい顔を向けた。
「お義母さん、あの、、さっきはすみませんでした」
へりくだった気持ちで頭を下げた。
義母の顔から剣が取れて穏やかに変わった。
「いいわよ。私もぶったりして悪かったわ。カーッとしちゃったもんだから。痛かったでしょう」
「い、いえ」
「ご両親のところへ行ってらっしゃいよ。初孫なんですもの会いたいはずよね」
「えっ、いいんですか?」
思いもよらない寛大な態度に驚く。
「もちろんよ。でも気をつけて行ってね。 嫁と孫の事故はもうたくさんだから、それだけはお願いよ」
「ありがとうございます」
やはり、勝手な思い込みはいけない。優しいところもある人なのだ。
「ふふっ、わたくしだって鬼ではないのよ。それとね、潤一のことだけど、許してやって欲しいの」
「えっ?」
なんのことだろう?
義母は窓の外に目をやると、遠くに見える毛無山を見つめた。
「あの子、ちっとも可愛がらないじゃない。悠ちゃんのこと。だからあなたが不満に思うのも無理ないわ。抱っこしたところなんか見たこともないし、帰ってきたって顔も見ないんだからひどすぎるわよね。でもね、やっぱり死んだ子の事が、かなり堪えているんだと思うの。そりゃそうよ、あんな死に方されたんだもの、簡単に立ち直れるわけないわ。でも時間がたてば大丈夫よ。自分の子なんですもの可愛くならないわけないでしょ。だから、そうなるまで待っててあげて」
静かにそう言って、微笑みかけた。
義母の見当違いな憶測に、息子に対する深い愛をみた。
嘘もお世辞も嫌味もなく、ストレートしか投げて来ないこの姑が少し好きになった。
そして、ひどく罪悪感を覚えた。
「すみません、お義母さん」
「あら、あなたが謝ることないわよ。潤一は我が儘なところがあるから苦労することもあると思うわ。でもね、亡くなった孫はそれはかわいい子だったのよ。悠ちゃんほどきれいな子じゃなかったけど、潤一にそっくりな子でね、おしゃべりでひょうきんな面白い子だったの。 ……とっても会いたいわ、あの子に」
しんみりと涙目で語った。
「…………」
「あら、ごめんなさい。こんなこと言って。あなた、大丈夫? 顔が真っ青よ」
ーーどこかへ消えてしまいたい。
「……すみません。じゃあ、今日は実家へ行かせていただきます」
動揺を隠せない引きつった顔で頭を下げ、部屋を出た。
やっぱり、もう無理!
早く、一刻も早く離婚しなければいけない!
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