六華 snow crystal

5cmの胎児が愛しくて

マンションから歩いて数分のところに市の公立病院があり、初めて産婦人科を受診した。

　
妊娠してもう三ヶ月に入っていると思うけれど、入籍前に受診するのは気が引けた。


 一階の広いロビーの外来受付で手続きをすませ、案内標識を見ながら産婦人科外来へ向かった。


 各診療外来と処置室などに挟まれて、広い待合所がもうけられている。

　
産婦人科外来近くの椅子に腰を降ろし、受付で渡された問診票に記入する。


 まわりには妊婦さんらしきお腹の大きな人は見あたらなかった。


中高年のおばさんと、お年寄りばかりで若い人はほとんどいない。


待っている間、スマホで妊婦の食事について調べてみた。


意外な事に、体に良いはずのレバーやマグロ、ひじきなどはよくないとのことだった。

　
電光掲示板に受付番号が表示され、看護師さんに名前を呼ばれた。


「松田彩矢さん！」






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「十週目に入ってますね」


四十代前半に見える女医が、パソコンの画面を見ながら説明した。

　
予定日は今年の九月二十三日とのことだ。

　
今度来るときは役所から母子手帳をもらってくるように言われ、プリントしたエコー画像を渡された。


すでに手足も確認できるほどに成長した愛らしい胎児が写っている。


お腹の子を実際に画像で目にして実感が湧く。


まだ五㎝ほどしかないこの胎児が愛しい。
　


悪阻がひどいので食事の支度が一番つらい。

 　
潤一さんの子かどうかわからないという負い目があって、つい無理をしてしまう。


具合が悪くて寝ていてもなにか落ち着かなくて。



新鮮で美味しい魚が売っているからと言われて、今日は市場まで足を運んだ。


スーパーと違って対面で買うことに少し抵抗を感じたけれど、鮮魚の他にも美味しそうなお総菜がたくさん売られている。


「お姉さん、ほら食べて。作るよりも安いよ」

　
愛嬌のあるおばさんが、親しみを込めて試食を薦めてくれた。

　
スーパーのお総菜よりも手作り感のある、やさしい味付けだ。

　
値段もそれほど高くない。デパ地下とは比べものにならないほどの安さだ。

　
揚げ物と煮物、野菜の炒め物の他に、魚の切り身とお刺身を買った。


とても良い市場を見つけられたことが嬉しい。

　
これで食事の悩みからは、かなり解放されそうだ。

　
徒歩での買い物はきついだろうと、潤一さんがコンパクトカーを買ってくれたので、買い物も楽になった。