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驚きの新婚生活
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潤一さんとの小樽での生活が始まった。
ひとり暮らしをするには広すぎる3LDKのマンションは、病院が転勤者ために用意してくれている分譲マンションだった。
はじめてマンションを訪れたときの衝撃は、今も忘れられない。
もちろん、佐野さんの部屋のようにきちんと片付けられているとは思わなかったけど、こうまでひどいとは思わなかった。
引っ越しの荷物がまだ段ボールのまま積み上げられているのはいいとして、脱いだ衣服やゴミなどで埋め尽くされているリビングは、生ゴミやら何やらのすえた臭いが充満していた。
脱いだ靴下がソファーの下から何足も発見され、いつ食べたのかわからないカップ麺や、弁当のカラが割り箸が刺さったまま流し台にいくつも放置されていた。
悪阻のせいで、いつもの何倍も匂いには敏感なだけに、その悪臭に耐えきれず、トイレへ駆け込んだ。
トイレも汚すぎて、そこで吐くことがはばかられ、仕方なく洗面台でゲェーゲェーと吐く。
「悪阻かよ、汚ったねぇなぁ」
自分のことを棚に上げて言う潤一さんに腹が立つ。
妊婦に対する思いやりがない。
この家をひとりで片付けなければならないのかと思うだけで、早くも実家に帰りたくなった。
日曜の午後なのに、潤一さんは病院へ行って来ると言って出かけてしまった。
とりあえず水回りから掃除することにしたけれど、トイレ洗剤もブラシもなかった。
引っ越してまだ二ヶ月ほどでこんな状態なら、一年後はどうなっていたのだろうと、想像するだけで恐ろしくなる。
***
「飯!」
夕方、帰宅した潤一さんが帰って来るなりそう言った。
洗濯物やゴミと格闘していたので、晩ご飯のことまで気がまわらなかった。
「えっ、ご飯って? なに食べるの? 彩矢知らないよ」
「はぁ~? おまえ今まで何してたんだよ。普通、晩飯の用意くらいするだろ」
「だって、ずっとお掃除してたんだもん。こんな汚いところで食事したくないし」
「臨機応変にやれよ。掃除なんて明日だってできるだろ。疲れて帰ってきてるのに飯もできてないってありえないだろ」
「………」
少しはきれいになった部屋を褒めてくれるかと思ったのに。
結局、近くのパッとしないラーメン屋さんに入った。
「せっかく結婚したのに、また外食だもんなぁ、意味ねぇ」
ブツブツ呟きながら、インスタントと変わりばえのない、あっさりしすぎのラーメンをすすっている。
この人は本当に私と結婚したかったのだろうか? 家政婦が必要なだけではないだろうか? という疑念が湧いた。
やっとゴミの分別も済み、リビングにたまったゴミ袋を外のベランダへ積み重ねて置いた。
フローリングの雑巾がけをしていたら、
「いつまで掃除してんだよ、もう寝るぞ」
ビールを飲みながらテレビを見ていた潤一さんが、大きな欠伸をして立ち上がった。
時計を見るともう十一時を過ぎていた。
「もう少しで終わるから、ここ拭いちゃうね」
「明日にしろよ、どうせ毎日ヒマだろ」
「全然、ヒマじゃないもん。病院より忙しいもん!」
プリプリしながら答えた。
「いいから、早く来いよ」
腕をつかまれて、寝室へと引っ張られた。
「ちょっと待ってよ、手ぐらい洗わせてよ~」
軽く鼾をかいて寝ている潤一さんの隣で寝られることに、なんとも言えない幸せを感じた。
これからは時計を気にすることもなく、ずっと朝までいっしょにいられるんだ。
わたしたち夫婦なんだ。
幸せを噛みしめる間もなく、不意に亡くなった奥さんと子供のことを思い出した。
……結局、結婚してしまいました。
ごめんなさい。
奥さんと子供の亡霊に見つめられているような気がして怖くなり、眠っている潤一さんの腕にしがみついた。
ひとり暮らしをするには広すぎる3LDKのマンションは、病院が転勤者ために用意してくれている分譲マンションだった。
はじめてマンションを訪れたときの衝撃は、今も忘れられない。
もちろん、佐野さんの部屋のようにきちんと片付けられているとは思わなかったけど、こうまでひどいとは思わなかった。
引っ越しの荷物がまだ段ボールのまま積み上げられているのはいいとして、脱いだ衣服やゴミなどで埋め尽くされているリビングは、生ゴミやら何やらのすえた臭いが充満していた。
脱いだ靴下がソファーの下から何足も発見され、いつ食べたのかわからないカップ麺や、弁当のカラが割り箸が刺さったまま流し台にいくつも放置されていた。
悪阻のせいで、いつもの何倍も匂いには敏感なだけに、その悪臭に耐えきれず、トイレへ駆け込んだ。
トイレも汚すぎて、そこで吐くことがはばかられ、仕方なく洗面台でゲェーゲェーと吐く。
「悪阻かよ、汚ったねぇなぁ」
自分のことを棚に上げて言う潤一さんに腹が立つ。
妊婦に対する思いやりがない。
この家をひとりで片付けなければならないのかと思うだけで、早くも実家に帰りたくなった。
日曜の午後なのに、潤一さんは病院へ行って来ると言って出かけてしまった。
とりあえず水回りから掃除することにしたけれど、トイレ洗剤もブラシもなかった。
引っ越してまだ二ヶ月ほどでこんな状態なら、一年後はどうなっていたのだろうと、想像するだけで恐ろしくなる。
***
「飯!」
夕方、帰宅した潤一さんが帰って来るなりそう言った。
洗濯物やゴミと格闘していたので、晩ご飯のことまで気がまわらなかった。
「えっ、ご飯って? なに食べるの? 彩矢知らないよ」
「はぁ~? おまえ今まで何してたんだよ。普通、晩飯の用意くらいするだろ」
「だって、ずっとお掃除してたんだもん。こんな汚いところで食事したくないし」
「臨機応変にやれよ。掃除なんて明日だってできるだろ。疲れて帰ってきてるのに飯もできてないってありえないだろ」
「………」
少しはきれいになった部屋を褒めてくれるかと思ったのに。
結局、近くのパッとしないラーメン屋さんに入った。
「せっかく結婚したのに、また外食だもんなぁ、意味ねぇ」
ブツブツ呟きながら、インスタントと変わりばえのない、あっさりしすぎのラーメンをすすっている。
この人は本当に私と結婚したかったのだろうか? 家政婦が必要なだけではないだろうか? という疑念が湧いた。
やっとゴミの分別も済み、リビングにたまったゴミ袋を外のベランダへ積み重ねて置いた。
フローリングの雑巾がけをしていたら、
「いつまで掃除してんだよ、もう寝るぞ」
ビールを飲みながらテレビを見ていた潤一さんが、大きな欠伸をして立ち上がった。
時計を見るともう十一時を過ぎていた。
「もう少しで終わるから、ここ拭いちゃうね」
「明日にしろよ、どうせ毎日ヒマだろ」
「全然、ヒマじゃないもん。病院より忙しいもん!」
プリプリしながら答えた。
「いいから、早く来いよ」
腕をつかまれて、寝室へと引っ張られた。
「ちょっと待ってよ、手ぐらい洗わせてよ~」
軽く鼾をかいて寝ている潤一さんの隣で寝られることに、なんとも言えない幸せを感じた。
これからは時計を気にすることもなく、ずっと朝までいっしょにいられるんだ。
わたしたち夫婦なんだ。
幸せを噛みしめる間もなく、不意に亡くなった奥さんと子供のことを思い出した。
……結局、結婚してしまいました。
ごめんなさい。
奥さんと子供の亡霊に見つめられているような気がして怖くなり、眠っている潤一さんの腕にしがみついた。
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