六華 snow crystal

結婚へのためらい

佐野さんのご家族に紹介されたのだから、佐野さんを招いて、うちの家族にも紹介しなければと思う。


だけど、先月先生との外泊を両親に知られているだけに、もう少し先へ延ばしたかった。


彩矢ちゃんのご両親に早く挨拶したいんだけど、と言う佐野さんになんて断っていいのかわからず、返答に窮していたら、


「本当に結婚したいのかい？」

　
と疑いの目で見られた。


佐野さんに秘密ばかり持っていることに疲れてきて、もうすべてを打ち明けてしまいたい気もしてくる。

　
私は佐野さんを裏切ったわけではない。

　
正直に言うと、先生のプロポーズをあんなに冷たく断りたくはなかった。

　
すべて佐野さんとの約束を守るために自分なりに精一杯、誠意を持って抵抗したつもりだ。


結果的には、あんなことになってしまったけれど。


やはり許されないことなのだろうか。


どっちにしろ、佐野さんがショックを受けることだけは確実なのだ。



 「今月中に婚約指輪を買いに行こうよ。彩矢ちゃん自分で選びたいだろ？　それとも俺が選んで渡したほうがいいのかな？」

　
佐野さんに昨日そう言われ、本来なら人生で最高に嬉しく、晴れがましいことのはずなのにとても気が重い。

　
こんな気持ちでいることが、最大の裏切りなのかも知れない。

　
でも、どうしても佐野さんにはっきり伝えることができなかった。
　
　
そろそろ復職したいことを告げ、忙しさを装って家族への紹介と、指輪の購入は先送りすることができた。


働く気持ちが全くないわけではなかったから、本格的に探し、今日もひとつ面接に行ってきた。この条件でよければ来週からでもすぐに来て欲しいと言われた。

　
自分の家から通勤しやすい地下鉄乗り場の近い病院にしてみたけれど、結婚したら住所が変わるということに帰り際になって思い出した。