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新年のご挨拶
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「お正月にうちの家族に紹介してもいいかな、彩矢ちゃんのこと。実家は室蘭なんだけど、いっしょに行ってくれる?」
狭いシングルベッドで向き合い、髪に唇を当てながら佐野さんがささやいた。
「……うん、いいよ」
佐野さんの胸に顔をうずめて、うなずいた。
「もう、九時半かぁ、早いな~ このまま朝まで一緒にいたいなぁ」
佐野さんは名残惜しそうに強く抱きしめた。
「そうだった、もう、帰らないと閉め出されちゃう」
あわてて起きて、服を着た。
「そうだ、『宮本武蔵』の続きを借りてもいい?」
「いいよ、へぇ~ 気に入ったんだ」
「うん、意外とおもしろかった」
残りの六巻を紙袋に入れてくれた。
佐野さんが車のエンジンをかけて、うっすらと降りかかった雪をスノーブラシで振り払った。そして、フロントガラスにまだらに凍り付いた雪を、ゴムべらのほうでガリガリとこそげ落とした。
車のヒーターは最大にしてもすぐには暖かくならず、かじかんだ手に息を吹きかけていたら、佐野さんのご家族に会う約束を思い出して、気が重くなった。
結婚に向けて話が進んでいくことに、いまだ踏ん切りがつかない自分がもどかしかった。
お正月、佐野さんに連れられて、ご実家へご挨拶に伺う。
バーゲンセールで見つけたZARAのベビーピンクのワンピースに、ファーのついた白のハーフコート。
サマンサの濃いピンク色のバッグは、少し派手すぎたかも知れない……。
佐野さんにプレゼントされたハートのネックレスもつけてきた。
「どう? 似合う? 可愛い?」
佐野さんに襟元のネックレスを見せた。
「う、うん、可愛い……」
照れて返事をしてくれた、佐野さんのほうが可愛い。
空は快晴で道もすいていたけれど、室蘭は思いのほか遠くて、札幌から二時間以上もかかって到着した。
車から降りると、吹き付ける風のあまりの強さに飛ばされそうになる。
太平洋に面した室蘭は、日本海側の札幌と違って、雪が少ないわりに風が強く、とても寒く感じられた。
佐野さんが自宅の玄関フードを開け、しめ飾りが飾られたドアの横のブザーを押した。
「はーい!」
よく通るきれいな声が聞こえて、玄関のドアが開けられた。
お母さんだろうと思われる、佐野さんと同じ目をした女性が出た。
「おかえり!」
「ただいま。風がめちゃくちゃ強くて寒いなぁ。彩矢ちゃん、早く中に入って」
「あ、あの、はじめまして、平川彩矢です。お邪魔します」
ドギマギしながら挨拶をした。
「よくいらしてくださったわぁ~ とっても楽しみにしてたのよ。さぁ、どうぞ」
想像どおりの優しい感じのお母さんで少し緊張がとけた。
リビングに入ると、お父さんと二歳年上のお姉さんが、少しかしこまった顔をしてソファーに座っていた。
「新年、おめでとう。あ、この人が以前おなじ病院だった平川彩矢さん」
佐野さんがかなり照れたようすで紹介してくれた。
「はじめまして、あ、、あの、平川彩矢です。明けましておめでとうございます」
オドオドせずに堂々とご挨拶ができる大人に早くなりたい。
狭いシングルベッドで向き合い、髪に唇を当てながら佐野さんがささやいた。
「……うん、いいよ」
佐野さんの胸に顔をうずめて、うなずいた。
「もう、九時半かぁ、早いな~ このまま朝まで一緒にいたいなぁ」
佐野さんは名残惜しそうに強く抱きしめた。
「そうだった、もう、帰らないと閉め出されちゃう」
あわてて起きて、服を着た。
「そうだ、『宮本武蔵』の続きを借りてもいい?」
「いいよ、へぇ~ 気に入ったんだ」
「うん、意外とおもしろかった」
残りの六巻を紙袋に入れてくれた。
佐野さんが車のエンジンをかけて、うっすらと降りかかった雪をスノーブラシで振り払った。そして、フロントガラスにまだらに凍り付いた雪を、ゴムべらのほうでガリガリとこそげ落とした。
車のヒーターは最大にしてもすぐには暖かくならず、かじかんだ手に息を吹きかけていたら、佐野さんのご家族に会う約束を思い出して、気が重くなった。
結婚に向けて話が進んでいくことに、いまだ踏ん切りがつかない自分がもどかしかった。
お正月、佐野さんに連れられて、ご実家へご挨拶に伺う。
バーゲンセールで見つけたZARAのベビーピンクのワンピースに、ファーのついた白のハーフコート。
サマンサの濃いピンク色のバッグは、少し派手すぎたかも知れない……。
佐野さんにプレゼントされたハートのネックレスもつけてきた。
「どう? 似合う? 可愛い?」
佐野さんに襟元のネックレスを見せた。
「う、うん、可愛い……」
照れて返事をしてくれた、佐野さんのほうが可愛い。
空は快晴で道もすいていたけれど、室蘭は思いのほか遠くて、札幌から二時間以上もかかって到着した。
車から降りると、吹き付ける風のあまりの強さに飛ばされそうになる。
太平洋に面した室蘭は、日本海側の札幌と違って、雪が少ないわりに風が強く、とても寒く感じられた。
佐野さんが自宅の玄関フードを開け、しめ飾りが飾られたドアの横のブザーを押した。
「はーい!」
よく通るきれいな声が聞こえて、玄関のドアが開けられた。
お母さんだろうと思われる、佐野さんと同じ目をした女性が出た。
「おかえり!」
「ただいま。風がめちゃくちゃ強くて寒いなぁ。彩矢ちゃん、早く中に入って」
「あ、あの、はじめまして、平川彩矢です。お邪魔します」
ドギマギしながら挨拶をした。
「よくいらしてくださったわぁ~ とっても楽しみにしてたのよ。さぁ、どうぞ」
想像どおりの優しい感じのお母さんで少し緊張がとけた。
リビングに入ると、お父さんと二歳年上のお姉さんが、少しかしこまった顔をしてソファーに座っていた。
「新年、おめでとう。あ、この人が以前おなじ病院だった平川彩矢さん」
佐野さんがかなり照れたようすで紹介してくれた。
「はじめまして、あ、、あの、平川彩矢です。明けましておめでとうございます」
オドオドせずに堂々とご挨拶ができる大人に早くなりたい。
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