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里沙ちゃんのクリスマス
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去年のクリスマスは病院の人達と食事をした後、カラオケに行ったりしていた。
有紀もいたし、たしか佐野さんもいた。
莉子ちゃんは宏樹さんとクリスマスを過ごしたはずだからいなかったと思う。
恋人と一緒ではなくても、平和で楽しかったクリスマスがなつかしい。
先生はどんなクリスマスを過ごしていたのだろう。
まさかサンタの格好をして子どもを喜ばせるような子煩悩には見えないけれど……。
でも、一緒に楽しくケーキを食べるくらいはしていたんだろうな。
その光景を思い浮かべて胸が締めつけられる。
今年はひとりで引っ越しの準備をしなければならないのだから。
色んな事が立て続けにあって、里沙ちゃんのことを忘れていた。
クリスマスプレゼントをしてあげたいと思っていたのだった。
年末に一時退院と言っていたから、まだ病院にいると思う。
起き上がり、急いで着替えた。
クリスマスイブの当日でもファンシーショップはプレゼントを求める客であふれていた。パステルカラーの可愛らしい小物に目移りしながらも、今流行のクマさんのぬいぐるみを選んでラッピングしてもらう。
病院の職員には見つかりたくなくて、午後三時頃の見舞い客の多い時間帯をめがけて病院を訪れた。ニット帽をまぶかに被り、ナースステーションには寄らずにまっすぐ二○五号室へ入った。
「こんにちは」
三人部屋の病室にたくさんの見舞客がいた。一斉に注目を浴びて一瞬たじろいだ。
「あっ、彩矢さんだ~」
里沙ちゃんは前に見舞ったときより、ずいぶん元気に見えた。
「まぁ、平川さん」
里沙ちゃんのお母さんが弱々しく微笑みながら頭をさげた。
「里沙ちゃん、メリークリスマス!」
持ってきたクマのぬいぐるみを里沙ちゃんに渡した。
「わ~ ありがとう!」
すでにテーブルやベッドの上にはたくさんのプレゼントが置かれてあった。
「以前、お世話になった看護師さんの平川さんです。親切で、とってもよくしていただいて」
両家の祖父母に紹介された。
まだ六十歳にもなっていないように見える若い四人の祖父母が彩矢に頭を下げた。
他に里沙ちゃんと同じくらいの女の子が二人と、男の子が一人、それぞれの母親と興味深げに彩矢を見つめていた。
「里沙ちゃん、この間よりずっと元気になったね」
「うん、里沙ね、もうすぐ退院するんだよ。おうちに帰れるんだ!」
「よかったね~! すごく頑張ったものね」
また、すぐに戻って来なければならないけれど……。
「里沙ちゃん、おうちに帰ったら、一番なにがしたいの?」
「うん、お友達といっぱい遊ぶよ。かるたしたり、トランプしたり、里紗、かるた得意なんだよ」
「そうなの? 彩矢は遅いから、あまり取れなかったよ」
「あと、リカちゃんの着せ替えして遊ぶ。パパがリカちゃんのハンバーガーショップを買ってくれたの」
「すごーい、いいなぁ、彩矢も小さいとき欲しかったなぁ、そういうの」
親しい身内の中に、いつまでも居座るのも気がひけて、早々に退室することにする。
「じゃあ、里沙ちゃん、おうちでお正月楽しんでね。お友達とたくさん遊んでね」
「優花お姉ちゃんもさっき来てくれたんだよ。元気だったよ」
「本当? 優花ちゃん元気でよかった。優花ちゃんは里沙ちゃんのおかげで元気になれたって言ってたよ」
「え~ 里沙、なにもしてないのに」
「ううん、彩矢だって里沙ちゃんに元気にしてもらったんだよ。本当にありがとう」
「そうなの? 里沙、役に立てて嬉しいな。彩矢さん、ありがとう」
「じゃあ、里沙ちゃん、またね! 元気でね!」
、
有紀もいたし、たしか佐野さんもいた。
莉子ちゃんは宏樹さんとクリスマスを過ごしたはずだからいなかったと思う。
恋人と一緒ではなくても、平和で楽しかったクリスマスがなつかしい。
先生はどんなクリスマスを過ごしていたのだろう。
まさかサンタの格好をして子どもを喜ばせるような子煩悩には見えないけれど……。
でも、一緒に楽しくケーキを食べるくらいはしていたんだろうな。
その光景を思い浮かべて胸が締めつけられる。
今年はひとりで引っ越しの準備をしなければならないのだから。
色んな事が立て続けにあって、里沙ちゃんのことを忘れていた。
クリスマスプレゼントをしてあげたいと思っていたのだった。
年末に一時退院と言っていたから、まだ病院にいると思う。
起き上がり、急いで着替えた。
クリスマスイブの当日でもファンシーショップはプレゼントを求める客であふれていた。パステルカラーの可愛らしい小物に目移りしながらも、今流行のクマさんのぬいぐるみを選んでラッピングしてもらう。
病院の職員には見つかりたくなくて、午後三時頃の見舞い客の多い時間帯をめがけて病院を訪れた。ニット帽をまぶかに被り、ナースステーションには寄らずにまっすぐ二○五号室へ入った。
「こんにちは」
三人部屋の病室にたくさんの見舞客がいた。一斉に注目を浴びて一瞬たじろいだ。
「あっ、彩矢さんだ~」
里沙ちゃんは前に見舞ったときより、ずいぶん元気に見えた。
「まぁ、平川さん」
里沙ちゃんのお母さんが弱々しく微笑みながら頭をさげた。
「里沙ちゃん、メリークリスマス!」
持ってきたクマのぬいぐるみを里沙ちゃんに渡した。
「わ~ ありがとう!」
すでにテーブルやベッドの上にはたくさんのプレゼントが置かれてあった。
「以前、お世話になった看護師さんの平川さんです。親切で、とってもよくしていただいて」
両家の祖父母に紹介された。
まだ六十歳にもなっていないように見える若い四人の祖父母が彩矢に頭を下げた。
他に里沙ちゃんと同じくらいの女の子が二人と、男の子が一人、それぞれの母親と興味深げに彩矢を見つめていた。
「里沙ちゃん、この間よりずっと元気になったね」
「うん、里沙ね、もうすぐ退院するんだよ。おうちに帰れるんだ!」
「よかったね~! すごく頑張ったものね」
また、すぐに戻って来なければならないけれど……。
「里沙ちゃん、おうちに帰ったら、一番なにがしたいの?」
「うん、お友達といっぱい遊ぶよ。かるたしたり、トランプしたり、里紗、かるた得意なんだよ」
「そうなの? 彩矢は遅いから、あまり取れなかったよ」
「あと、リカちゃんの着せ替えして遊ぶ。パパがリカちゃんのハンバーガーショップを買ってくれたの」
「すごーい、いいなぁ、彩矢も小さいとき欲しかったなぁ、そういうの」
親しい身内の中に、いつまでも居座るのも気がひけて、早々に退室することにする。
「じゃあ、里沙ちゃん、おうちでお正月楽しんでね。お友達とたくさん遊んでね」
「優花お姉ちゃんもさっき来てくれたんだよ。元気だったよ」
「本当? 優花ちゃん元気でよかった。優花ちゃんは里沙ちゃんのおかげで元気になれたって言ってたよ」
「え~ 里沙、なにもしてないのに」
「ううん、彩矢だって里沙ちゃんに元気にしてもらったんだよ。本当にありがとう」
「そうなの? 里沙、役に立てて嬉しいな。彩矢さん、ありがとう」
「じゃあ、里沙ちゃん、またね! 元気でね!」
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