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思いがけないプロポーズ
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「莉子ちゃんと結婚するって聞きました」
「はぁ? 誰がそんなことを言ったんだ?」
「莉子ちゃんが言ってました。今の病院辞めて先生と小樽の病院に行くって」
誰にでもいい顔をして、
ーーもう騙されたりしないから。
「何言ってるんだよ。結婚するなんて誰にも言ってないよ。それに莉子には男がいるだろう」
「男の人がいるって知ってて行ったんですか?」
「酔ってたんだよ。行ったことは認める。俺だって淋しかったんだよ、彩矢が会ってくれなかったからだぞ!」
「会えるわけないわ! あんな事があったのに」
つい気持ちが高ぶり、感情的な物言いになる。
「すんだことはいいじゃないか。もう反省したよ。俺たちには幸せになる権利もないのか?」
ボーイがデザートを運んできた。
ブッシュドノエルの可愛らしいケーキとコーヒーが置かれた。
先生が少し照れたようにポケットから小さな箱を出して私の前に置いた。
有名な宝石店のものだった。
「いらない、もらえないわ」
小箱を先生の前に押し戻した。
「おまえ、本当に面白くない女だな!」
怒り心頭の顔つきで小箱をつかむと、白いリボンをほどいて中を開けた。
エンゲージリングだった。
「彩矢と結婚したい。一緒に小樽で暮らそう。結婚式はすぐってわけにいかないけど、一年たったら、一周忌が終わったら籍入れて、それから式あげよう、なっ?」
はじめて見るような真剣な眼差しに胸がときめく。
そんな、……莉子ちゃんと結婚するんじゃなかったの?
「九号サイズで大丈夫かな? 合わなかったら変えられるって言ってたけどな。ちょっとはめてみろよ」
そう言って左手をつかんだ。
「できない、ごめんなさい!」
手を振り払って、立ち上がった。
「結婚はできないし、もう会うこともありません。ごめんなさい、さよなら」
ぺこりとお辞儀をして逃げようとしたけれど、そんなに簡単にはいかなかった。
「ちょっと、待てよ。なに言ってんだよ」
腕をつかまれて、また椅子に引き戻された。
「どうしたんだよ、急に。おかしいぞ」
なにも答えられずにうつむいた。
「莉子になにか言われたのか? 莉子のことは気にするな。俺ももう会わないから。約束する」
どう言ったら、わかってもらえるのだろう。
「もう、遅い……」
「遅いって、なにが? なにが遅いんだ?」
「佐野さんと、佐野さんと婚約したの。だから……」
「なんだって! 今なんて言った?」
先生の青ざめた顔を見て、言ってはいけない名前だったと後悔した。
「佐野と婚約した? 嘘だろ?」
「本当なの。ごめんなさい」
「なにがごめんなさいだよっ、そんなのすぐに解消しろ! 出来るだろ? 彩矢」
「出来ない! 出来るわけない。佐野さんをもう裏切りたくないから」
レストランでこんな会話したくなかった。声をひそめて話していても、異様な雰囲気が伝わるのか、隣のテーブルのご婦人と目が合った。
「佐野をフッて俺のところへ来たんじゃなかったのか? じゃあ、なんで好きだなんて言ってきたんだよ!」
「………」
「俺のことは裏切ってもいいのか? そんなに佐野が好きなのか。二股掛けてないなんてうそだろう!」
「ごめんなさい。本当に先生が好きだったの。それは嘘じゃない」
どうしてこんなことになってしまうの。
莉子ちゃん、ひどい。
「……好きだった、か。もう過去形なんだな。そういえば、もう飽きちゃったのって前に言ってたもんな。最初から遊びだったって」
「違う! 違うわ、あの時はただ悔しかったから」
「俺だってそう思ったよ。強がり言ってる彩矢がいじらしくて、可愛くて。なのになんだよ、たった二ヶ月会わなかっただけで他の男と婚約するって」
「だって莉子ちゃんと結婚するって聞いたから……」
「だからさっきから莉子とはもう会わないって言ってるだろう! なぁ、彩矢、まだ俺のこと好きだろう? 俺と結婚してくれよ、頼むから」
先生が好き。
……だけど……だけど、
「はぁ? 誰がそんなことを言ったんだ?」
「莉子ちゃんが言ってました。今の病院辞めて先生と小樽の病院に行くって」
誰にでもいい顔をして、
ーーもう騙されたりしないから。
「何言ってるんだよ。結婚するなんて誰にも言ってないよ。それに莉子には男がいるだろう」
「男の人がいるって知ってて行ったんですか?」
「酔ってたんだよ。行ったことは認める。俺だって淋しかったんだよ、彩矢が会ってくれなかったからだぞ!」
「会えるわけないわ! あんな事があったのに」
つい気持ちが高ぶり、感情的な物言いになる。
「すんだことはいいじゃないか。もう反省したよ。俺たちには幸せになる権利もないのか?」
ボーイがデザートを運んできた。
ブッシュドノエルの可愛らしいケーキとコーヒーが置かれた。
先生が少し照れたようにポケットから小さな箱を出して私の前に置いた。
有名な宝石店のものだった。
「いらない、もらえないわ」
小箱を先生の前に押し戻した。
「おまえ、本当に面白くない女だな!」
怒り心頭の顔つきで小箱をつかむと、白いリボンをほどいて中を開けた。
エンゲージリングだった。
「彩矢と結婚したい。一緒に小樽で暮らそう。結婚式はすぐってわけにいかないけど、一年たったら、一周忌が終わったら籍入れて、それから式あげよう、なっ?」
はじめて見るような真剣な眼差しに胸がときめく。
そんな、……莉子ちゃんと結婚するんじゃなかったの?
「九号サイズで大丈夫かな? 合わなかったら変えられるって言ってたけどな。ちょっとはめてみろよ」
そう言って左手をつかんだ。
「できない、ごめんなさい!」
手を振り払って、立ち上がった。
「結婚はできないし、もう会うこともありません。ごめんなさい、さよなら」
ぺこりとお辞儀をして逃げようとしたけれど、そんなに簡単にはいかなかった。
「ちょっと、待てよ。なに言ってんだよ」
腕をつかまれて、また椅子に引き戻された。
「どうしたんだよ、急に。おかしいぞ」
なにも答えられずにうつむいた。
「莉子になにか言われたのか? 莉子のことは気にするな。俺ももう会わないから。約束する」
どう言ったら、わかってもらえるのだろう。
「もう、遅い……」
「遅いって、なにが? なにが遅いんだ?」
「佐野さんと、佐野さんと婚約したの。だから……」
「なんだって! 今なんて言った?」
先生の青ざめた顔を見て、言ってはいけない名前だったと後悔した。
「佐野と婚約した? 嘘だろ?」
「本当なの。ごめんなさい」
「なにがごめんなさいだよっ、そんなのすぐに解消しろ! 出来るだろ? 彩矢」
「出来ない! 出来るわけない。佐野さんをもう裏切りたくないから」
レストランでこんな会話したくなかった。声をひそめて話していても、異様な雰囲気が伝わるのか、隣のテーブルのご婦人と目が合った。
「佐野をフッて俺のところへ来たんじゃなかったのか? じゃあ、なんで好きだなんて言ってきたんだよ!」
「………」
「俺のことは裏切ってもいいのか? そんなに佐野が好きなのか。二股掛けてないなんてうそだろう!」
「ごめんなさい。本当に先生が好きだったの。それは嘘じゃない」
どうしてこんなことになってしまうの。
莉子ちゃん、ひどい。
「……好きだった、か。もう過去形なんだな。そういえば、もう飽きちゃったのって前に言ってたもんな。最初から遊びだったって」
「違う! 違うわ、あの時はただ悔しかったから」
「俺だってそう思ったよ。強がり言ってる彩矢がいじらしくて、可愛くて。なのになんだよ、たった二ヶ月会わなかっただけで他の男と婚約するって」
「だって莉子ちゃんと結婚するって聞いたから……」
「だからさっきから莉子とはもう会わないって言ってるだろう! なぁ、彩矢、まだ俺のこと好きだろう? 俺と結婚してくれよ、頼むから」
先生が好き。
……だけど……だけど、
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