六華 snow crystal

なごみ

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佐野さんに逢いたくて

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昨日、有紀が帰ってから、ずっと佐野さんのことばかり考えている。


先生と莉子ちゃんのことを思い出したくないので、余計に佐野さんへ逃げているのだと思う。


我慢できずにLINEを開き、切羽詰まった気持ちで送信した。


『佐野さんに会いたい』


返信は昼過ぎに届いた。


『本当に? じゃあ、六時半に家まで迎えに行ってもいいかな?』


胸が躍るというのではないけれど、こんなふうに待ち遠しく時間を過ごすのは久しぶりのことだ。


クローゼットを開けて、着ていく洋服を探した。


膝丈で黒いベロアのフレアースカートと、モヘアのまっ赤なタートルを選んだ。


鏡を見て髪が伸びすぎてることに気づき、慌てて近所の美容室に予約を入れた。


髪がきれいにセットされて、少し華やいだような気分になる。


メイクをするのも二ヶ月ぶりのことだ。


時計を見ると六時二十分を過ぎたので、黒のPコートをはおり、アンゴラの黒いベレーを被った。


母にはさっき、出かける旨を伝えた。


玄関でアンクルブーツを履いて外に出ると、 頬に乾いた冷たい空気をピリッと感じた。


佐野さんのレクサスはすでに玄関前に停まっていた。


佐野さんの顔をまともに見られず、恥ずかしいような、申し訳ないような、複雑な気持ちで助手席に座った。


「どこか行きたいところってあるかい?」


佐野さんはいつもと変わらない調子で微笑みかけてくれた。


「LINEなんかしてごめんなさい」


握った手を口に当てながら、うつむいた。


「LINEもらえるなんて思ってもみなかったよ。   ……色々大変だったね。身体の方は本当に大丈夫なのかい?」



「うん」


「夕飯はまだだろ? 何が食べたい?」


「じゃあ、お好み焼きがいい」


「B級グルメが好きって言ってたもんな。俺もちょうど食べたいと思ってた」


札幌駅に近い駐車場に車を入れて、デパート最上階のレストラン街にあるお好み焼き屋に入った。


お好み焼きは有紀が好きで、よくいっしょに食べにきた。


店内は家族連れや、カップルなどで少し混雑していた。


テーブルの真ん中が鉄板になっていて、頼んだお好み焼きを店員が目の前で焼いてくれる。


お子様用の小さいものを頼んだけれど、食べきれず、残した半分を佐野さんに食べてもらった。


「なんだ、全然食べてないじゃない。ほんとにお好み焼きが食べたかったの?」


「ごめんなさい。本当はまだ、あまり食べられなくて」


「そうか、食欲もないのに付き合わせて悪かったな」


「ううん、少しは食べるようにしてるから。久しぶりにお好み焼き食べて美味しかった。ご馳走さま」



お好み焼き屋では話ができそうにないと感じたのか、食べ終わるとすぐに席を立った。


「じゃあ、ここはもう出ようか」


十二月半ばに入った駅前広場には、青白いLEDライトで美しく飾られたツリーがそびえ立ち、流れる音楽も飾り付けも街中がクリスマスムードで高まっていた。


すれ違う多くの人達のウキウキソワソワとしたそぶりに、師走らしい忙しさと賑わいが感じられた。



街路樹にも電飾が飾られ、この時期は札幌観光のメインにもなっているホワイトイルミネーションを見ながら、 大通り公園に向かって歩くことにした。








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