六華 snow crystal

なごみ

文字の大きさ
上 下
47 / 98

有紀のお見舞い

しおりを挟む
寒い夜に歩きまわったせいか、風邪を引いた。


翌朝は咽が痛く、悪寒がしたあと熱を測ると39・6℃もあった。


身体が燃えるように熱い。


母が解熱剤とアイスノンを持ってきてくれた。

 
心配して病院へ連れていこうとしたけれど、寝ていたいと言って断った。


このまま死んでしまえたなら、どんなにか楽で嬉しいことだろう。


こじらせて肺炎にでもなりたいくらいだ。


親だって自殺などされるよりは、病死のほうがまだマシであろう。

 
でも、病院などに行かなくても、風邪は三日でほぼ症状が消えた。 


治らないのは鬱傾向だけだ。


気づけば死ぬことばかり考えている。


前向きになど、どうしたらなれるというのだろう。



夕方、スマホを覗いてみると、有紀からLINEが届いていた。

 

佐野さんのことで無視され続けていたけれど、退職してからは時々心配して連絡をくれるようになった。


有紀はなんだかんだと言っても、結局は面倒見がよくて優しい。


朗らかで、いつでもまわりに明るさと笑いを提供することが大好きな女の子だ。


『風邪の方はよくなった? 薬局の谷さんから風邪薬を出してもらったから、これから届けに行くよ~ 』とのこと。


『もう治ったから、大丈夫。心配してくれてありがとう』

と、返信する。


『え~っ!! もう治ったの? 回復はやっ!』


今は有紀の明るさについていけない。


その明るさがうらやましく、ネガティブな性格の自分に嫌気がさす。


私は人に心配ばかりかけている。




ウトウトしていると階下から、ピンポーンと玄関のチャイムの音が聞こえた。



ドアをノックする音がして、母が部屋に入ってきた。


「彩矢、藤沢さんがお見舞いに来てくださったわよ」



もう治ったって言ったのに、有紀は相変わらずお節介だなぁ。


ルームウェアのまま降りていくと、ニコニコした有紀が玄関に立っていた。


「あっ、ほんとに治ってる~ 元気そうじゃん! ねぇ、ちょっとだけ外に出られない?」


「無理。ほんとにごめん」


煩わしく思って降りてきたけれど、ほがらかな有紀の笑顔になんとなく癒された。


「そっかぁ、残念。じゃあ、もう少し元気になった頃に来るから、それまでにちゃんと治しておいてよ」



「うん、ありがとう。ごめんね、わざわざバスで来てくれたの?」


「ううん、……佐野さんに乗せてきてもらったの」


有紀は少し戸惑ったようすで、遠慮がちに答えた。


「佐野さんに? そうなんだ。デート中に悪かったね」


「デートなんかじゃないよ。佐野さん……まだ彩矢が忘れられないみたい」

 
まるで私の気持ちを窺うかのように、上目遣いで見つめた。


「そ、そんなの嘘」


佐野さんは、忠告を聞かなかった私に呆れているはずだ。


「嘘じゃないよ、会って確かめたら。でも今日は無理なんでしょ。佐野さんにはまた出直して来いって言っておくね。ふふふっ」


「………」


「あっと、忘れてた。薬局でもらった風邪薬。それとコンビニで買ったデザートのおまけ付き!  じゃあ、またね!」


おどけた顔をして、手を振りながら有紀は出ていった。


佐野さんが……。 


佐野さんに会いたかった。


あの慈しむような目で見つめられたら、どんなに癒されることだろう。


あんなふうに傷つけておきながら、まだ頼ろうだなんて。


でも、会いたい。


佐野さんに……。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ひとり

田中葵
現代文学
ちょっとここらで人生語り、とか

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

六華 snow crystal 4

なごみ
現代文学
雪の街、札幌で繰り広げられる、それぞれの愛のかたち。part 4 交通事故の後遺症に苦しむ谷の異常行動。谷のお世話を決意した有紀に、次々と襲いかかる試練。 ロサンゼルスへ研修に行っていた潤一が、急遽帰国した。その意図は? 曖昧な態度の彩矢に不安を覚える遼介。そんな遼介を諦めきれない北村は、、

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...