六華 snow crystal

哀しい再会

首にネックカラーを巻いていた。


4ヶ月ほど前の夜勤の日に、心肺停止状態で救急搬送されてきた患者だった。

　
ここまで回復できたのだと思い、何とも言えない喜びを感じた。

　
術後の傷跡も、頭髪が伸びて目立たなくなっていた。歩けていると言うことは、頸椎の損傷はそれほどひどくなかったのだろう。

　
まっすぐに前を向いてわたしの横を通り過ぎていった。
　　
　
患者を振り返ってその後ろ姿を見つめた。
　
　
またナースとして働いてみたい気持ちが少しだけ芽生えてきた。



やっぱり、お見舞いに来てよかった。





階段で一階まで降り、正面玄関から出るはずのところを、ぼんやりと考え事をしているうちに、いつもの癖で職員通用口に向かって歩いていた。




思えば、この廊下を走って先生に告白した。

　
この非常灯の下で抱きしめられ、はじめてキスをした。

　
切ない思いで胸が締めつけられた。
 


「彩矢！」


不意に呼ばれて身体が硬直していくのを感じた。


　
静かに振り返ると二ヶ月ぶりに見る先生がいた。



痩せたようには見えないけれど、少しやつれたように感じた。



「病棟の師長から見舞いに来てるって聞いて」



「…………」



「おまえ……　痩せたな」



「ごめんなさい、先生」


　
申し訳なさ過ぎて顔を上げることが出来なかった。



「彩矢のせいじゃない。そんなに自分を責めるのはやめろよ」


「…………」



「彩矢、頼む。また会って……」



悲愴感を漂わせた先生に手を握られた。

　

強く首を振って手をふりほどこうとしたけれど、放しててくれなかった。



「彩矢、頼むから」



「ふたりで幸せになれる？ そんなことどうして出来るの？　許されるわけないわ！」



泣きながら握られていた手を振りほどき、走りだす。


　
別れることは当然としても、いまだに好きでいたことに気づかされる。



これでもう、二度と会うこともないのだろうか。

　

どうせならもっと、ましな別れ方がしたかった。



振り切って逃げてきたにもかかわらず、未練がましい思いを引きずりながら、病院を後にした。