六華 snow crystal

なごみ

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検査室で

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最近、莉子ちゃんの態度がなぜかよそよそしい。

 
この間、話しかけたら「今、忙しいから」と素っ気なく言われ、今朝は「おはよう!」の挨拶が完全に無視された。

 
気に障るようなことをした覚えはない。

 
もしかして先生とのことがすでに、情報通の莉子ちゃんの耳に入ったのだろうか。

 
曲がったことの嫌いな莉子ちゃんなら怒るかも知れない。


でも、いったい誰からどうやって? 

 
佐野さんをフッてしまった事で有紀からも避けられている。

 
寂しい……。


今日は午後から受け持ち患者の脳血管造影検査がある。
 
 
看護師は医師の介助や患者のようす観察などを行う。

 
X線撮影を兼ねた検査なので、佐野さんとも顔を合わせなければいけなくて、気が重い。


検査は午後一時三十分からだ。


「それじゃあ、山田さん、これから検査に行きますね。気分が悪いときはすぐに知らせてくださいね」 


バイタルを測定し、午前中に確保した点滴のルートから前処置薬を投入した。

 
ストレッチャーに移動してもらった山田さんを押して、エレベーターに乗り、一階のボタンを押す。

 
アンギオ室の前まで来ると佐野さんが扉を開けて待っていてくれた。

 
佐野さんに合わせる顔がなくてうつむく。


「患者さん入ります。よろしくお願いします」

 
下を向いたまま小声で呟いた。

 
  
山田さんに心電図モニターと自動血圧計を装着したところで、松田先生が入って来た。


  
術用手袋をはめたので先生の背後にまわって術衣の紐を受け取り、首の後ろで結ぶ。術衣の裾を内側からピンっと引っ張ってたるみのないようにした。

  
摂子で穿刺セットを開き、先生が注射器を向けたので麻酔薬のキシロカインを吸い込みやすいように傾けた。イソジンに浸した綿球をわたす。

  
先生が患者の穿刺部位を消毒して丸く穴のあいた布で覆うと、穿刺部位にキシロカインを注射した。

 
太ももの付け根の鼠径動脈に太い穿刺針を刺し、そこからカテーテルを進めていく。


部屋が薄暗くなり、上部に設置されている画像モニターが映し出された。



「彩矢ちゃん、これ着けて」
 

佐野さんが放射線から身を守る重いプロテクターを肩にかけ、後ろのマジックテープを留めてくれた。


「ありがとう……佐野さん」

 

佐野さんの優しさが心苦しい。


 
先生が操作の手を止めて、憮然とした顔でこちらを見ていた。

 
カテーテルが足の付け根の鼠径部から体幹部を通り、脳動脈に向かって進んでいく。



バイタルは今のところ特に問題ない。


「山田さん、大丈夫ですか? 気分は悪くないですか?」

 
患者のようすをよく観察して、異変を感じたときにはすぐに知らせなければならない。

 
脳血管に造影剤が注入され、頭蓋内の脳血管が細かく枝分かれして映し出された。

 
写真撮影をするので患者だけをアンギオ室へ残し、操作をする部屋に待避した。



「あ~や」


 
先生がなれなれしく肩に腕をまわしてきた。



すぐに手を払いのけたけれど、佐野さんに気づかれただろうか。





特に問題もなく、検査は終了した。


針を抜いた鼠経部を十分ほど手で押さえて止血し、砂袋の重しをして固定バンドで圧迫した。


「山田さん、大丈夫ですか? 終わりましたよ。それじゃあ、お部屋に戻りますね」



患者をまたストレッチャーで病室まではこんだ。



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