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初めての夜
しおりを挟む背後から抱きしめられ、うなじに熱いキスをされた。
「彩矢……好きだ」
甘くささやかれ、抱きあげられる。
ベッドへ降ろされ、長いキスを交わしているうちに、動悸と緊張はしだいにうすれていった。
「先にシャワー浴びて来いよ」
先生は冷蔵庫を開けてコップにミネラルウォーターを注いだ。
そしてテレビのリモコンをつかんで電源を入れると、ダブルベッドにどさりと腰を降ろした。
何かが違うような気がした。
こんなところにノコノコとついて来た自分の愚かさを後悔する。
パウダールームに入り、ブラウスのボタンをはずすと涙が出てきた。
なにを期待してこんなところまで来たのか、自分でもよく分からなかった。
シャワーの後も迷いの気持ちが抜けきらず、洋服をまた着なおすべきかバスローブにするかで迷う。
仕方なくバスローブに決めてから、時間をかけて歯を磨いた。
ドライヤーで髪を乾かし、グズグズとブラッシングしてセミロングの髪を整えると、もうすることがなくなった。
いつまでもここにいるわけにもいかず、仕方なくパウダールームのドアをそっと開けた。
「遅い!」
いきなり怒鳴られた。
ムッとした先生が入れ替わりにバスルームへ消えた。
先生が見ていたお笑い番組など見る気にもなれず、電源を切った。
大きすぎるダブルベッドが生々しく見えて、逃げ出したくなる。
窓から眼下に大通り公園を一帯とした夜景が広がっていた。
数日前に佐野さんと藻岩山の山頂にあるレストランから、このあたりの夜景を見下ろしていたのだった。
別れの理由を問う佐野さんの困惑した顔を思い出す。
つかまれた手を振り切って、結局こんなところに逃げてきたけれど……。
本当にこれでよかったのだろうか。
後戻りできないところまで来ていながら、まだ迷いが消えなかった。
部屋のあかりが急に消えて、夜景がさらにくっきりと鮮明に輝きを増した。
バスローブ姿の先生が、まだ乾ききっていない髪をかき上げながら近づいてきた。
オペされる前の患者のような気分になり、動悸がして緊張で身体が硬くなる。
背後から抱きしめられ、うなじに熱い唇が当てられ、更に緊張で身がすくむ。
「彩矢……好きだ」
甘くささやいて抱きあげると、ベッドへ降ろされた。
長いキスを交わしているうちに、動悸と緊張はしだいにうすれていった。
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