六華 snow crystal

なごみ

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佐野さんとの別れ

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店内を見まわした佐野さんが、笑顔で近づいてきた。


「ファミレスに気に入ったメニューでもあるのかい?」


そう聞きながら佐野さ向い側のイスに腰を降ろした。


「そうじゃないけど、ちょっと話があって……」


うつむきがちに視線を泳がせた。


「話し?」


「……… 」


佐野さんの笑顔が曇って神妙なムードになった。


「なにかな? なんかあまり聞きたくない気がするな~」


うつむきがちな私のようすに、佐野さんもただならぬものを感じたようで、一気に空気が重くなった。


先ほどのウェートレスがまたメニューを持ってやって来た。


 佐野さんもメニューを見ずに、「コーヒー」と言った。


「まさか別れ話とかじゃないよね?」


「……… 」


「やっぱりそうなの?」


「……… 」


顔をあげることができず、うつむいたまま固まっていた。


「……彩矢ちゃんさ、あまり考え過ぎなくてもいいと思うな。はじめは友達ってことでさ」


「ごめんなさい」


「彩矢ちゃん。……俺、なにか気に障るようなこと言ったりしたりしたのかな?」


大きく首を振って否定した。


「じゃあ、どうして?」


「……… 」


下唇をかんでうつむくことしかできない。


佐野さんのコーヒーが運ばれてきて、静まりかえっているふたりをウェートレスが不思議そうにながめていった。


「俺さ、今まで彩矢ちゃんのことは、ただ可愛いだけの女の子としか見てなかったんだ。だけどこの間、泣いてる彩矢ちゃん見て、色んなことで悩みながら頑張ってる彩矢ちゃんの一面を見て、なんか、うん、、なんていうのかな、うまく言えないんだけど、そう……ノックアウトだな。俺って女の涙に弱いタイプかもな。今はほんとに彩矢ちゃんのこと……好きなんだ」


一途に哀願するような目で見つめた。


「…さ、佐野さんには彩矢なんかより、もっとステキな人のほうが似合ってる」


失礼な言い分である事は百も承知しているけれど、他になんて言っていいのかわからなかった。


「そんな言い方ってないだろう! どうしたんだよ、他に好きな奴でもいるのか? だったらなんで俺とつき合うなんて言ったの?」


「ごめんなさい」


一刻も早くこの場から立ち去りたかった。


バッグのファスナーを開けて、お財布からジュース代を取り出してテーブルの上に置いた。


「いいよ、お金なんて。とにかく、ここは出よう」


佐野さんは伝票をつかむと、立って会計のほうへ向かった。


ファミレスを出て、佐野さんの車まで来たところで立ち止まる。


「今日は母の車できたの。だから、、じゃあ、これで」


軽くお辞儀をして歩き出した。


「ちょっと待てよ!」


佐野さんに手首をつかまれた。


「まだ話は終わってないよ。納得できない。ごめんなさいしか言えないのかよ!」


怒った佐野さんの顔をはじめて見た。


「ごめんなさい、許して」


あふれそうに盛り上がった涙目で佐野さんを見つめた。


「彩矢ちゃん……」


佐野さんの手が力を失って手首から離れた。


母に借りたコンパクトカーに乗り込み、すぐにアクセルを踏み込んだ。

 


 
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