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言い訳が見つからなくて
しおりを挟む佐野さんには、なんて言って断ればいいのだろう。
自室のベッドに寝転び、天井を見つめて考える。
抑え込むにはあまりに苦しくて、あふれ出す想いを止めることができなかった。
転落への第一歩を踏み出してしまった自分に呆れ、こんな大胆なことができた自分に心底驚きもしている。
罪悪感に責められながらも、人生ではじめて味わった甘い陶酔と高揚に、心はすっかり支配されていた。
佐野さんは今日、仕事が終わってから六時半に家まで迎えに来てくれることになっている。
おつき合いしてみると言っておきながら、たった一度のデートで別れ話をするというのはずいぶん失礼な話だ。
わざわざ家まで迎えに来てもらうわけにはいかない。
『病院そばのファミレスで待ってます』
佐野さんのLINEに送信した。
ファミレスより、もっと静かなところがよかったかも知れないけれど。
部屋を出て下へ降りると母がキッチンでジャガイモの皮をむいていた。
「お母さん、ちょっと出かけたいんだけど車借りてもいい?」
「いいけど、これから? 遅くなるの? 晩ご飯は?」
「うーん、そんなに遅くはならない」
「そう、じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい」
母が料理を中断して、玄関まで見送りに来てくれた。
少し過干渉なこの母親をも自分は裏切ろうとしている。
母から借りた白のコンパクトカーに乗り、ファミレスには十分ほどで到着した。
時計を見るとまだ五時半だった。
夕食には早い時間のせいか店内にはす三組ほどの客しかおらず、店内は静かだった。
若いウェートレスが大きな重いメニューを携えてやって来た。メニューを見ずにオレンジジュースを頼んだ。
スマホを取り出して見ると、佐野さんから返信が届いていた。
『どうしてファミレス?』
なんと答えていいものかわからず、そのまま閉じた。
ひとりぼっちのテーブルに夕暮れの西日が射していた。
窓から見える国道の走る車の流れをぼんやりと見ていたら、佐野さんのグレーのレクサスが駐車場に入ってくるのが見えた。
素早くきっちりと、白線の駐車スペースに車を納めた佐野さんがドアを開けて降りた。
おしゃれ過ぎず、ほどよくトレンドを取り入れたセンスのいい服装をしている。
爽やかでスマートな佐野さんにとてもよく似合っていた。
佐野さんには彩矢なんかより、もっとステキな女性のほうが似合う。
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