六華 snow crystal

夜景のみえるレストランで

藻岩山の山頂にある、市街からは少し離れた肩の凝らないフレンチレストラン。


札幌の夜景が一望できる。

　
おなかなんてちっとも空いてないのに、佐野さんはフルコースのディナーを頼んでいた。


BGMにジャズのピアノ曲が流れている。


ずっと泣いていたので、佐野さんもどうして良いのかわからないみたいだった。


「彩矢ちゃん、もしかして俺とつきあうの嫌だったんじゃない？」


佐野さんが窺うように私を見つめた。


いくらなんでも ” はい、そうです ” とは言えず、首を振った。


「ごめんなさい。今日ちょっと嫌なことがあって、思い出しちゃって……」


「そうかぁ、だよなぁ。ナースの仕事はきついもんな。人間関係も複雑だし。俺でよかったら相談に乗るけど……。俺って頼りないかな？」


心配だけれど、プライベートまでは詮索しないと言いたげにたずねた。


「……うん、頼りない。ふふふっ」


はっきりとそう言えて、やっと少し笑顔になれた。


「マジか～　俺、人生相談とか結構むいてると思ってたんだけどな」


おもむろにがっかりしたようすで微笑んだ。


「佐野さんには悩みってないんですか？」


「悩みのない人間なんかいるかよ。今だって悩んでる。どうしたら彩矢ちゃん元気になれるかなって」


佐野さんにとても悪いことした気がしてきた。


「ありがとう。だいぶ元気でてきた」


「そう？　やった！　じゃあ、残さずに食えよ。フルコースにしたんだからな」


「いいのに、そんなに奮発しなくても。私、もしかしたらラーメンとかB級グルメのほうが好きかも？」


「だな～　でも、たまにはいいだろ？　こういうところも」


佐野さんはにんまりと笑って、慈しむような目で見つめた。


本当にいい人だなって思った。


佐野さんともっと早くお付き合いしていたらよかったのに。


オードブルの前菜が運ばれてきた。


遠く札幌の街が、宝石箱をひっくり返したようにきらめいて見えた。