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容疑者は14歳の少年
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夜遅く、貴之が帰って来た。
暗く悲痛な表情からして、健太の釈放は難しいのだろうと予測した。
ずっと車椅子のまま待っていたので、私もかなり疲れた。
「ダメだ。健太は自白した。もう無実には出来ない」
そう言って、貴之はガックリと肩を落とした。
自白!!
そんな、どうして、自白なんか、やってもいないことを!
取り調べがきついかったのではないのか?
脅されて、してもいないことを無理やり言わされたのではないのか?
『健太はどんな理由で和樹を殺したと言ったの?』
メモを貴之に見せた。
「くだらない理由だよ。働いた分のバイト代を払ってくれなかったんだとさ。そんなはした金で」
………。
「まったく、あんな流行らないラーメン屋なんか手伝ってバカじゃないのか。初めからタダで使うつもりだったんだよ、和樹は」
『ごめんなさい。和樹を殺したの実は私なの。私を警察へ連れて行って!』
そう書いたメモを貴之に渡した。
「馬鹿か? そんな阿呆らしい証言を警察が信じるわけがないだろう」
『和樹のスマホを持ってるの。コートのポケットに入れておいたはずなの』
そう書きなぐって貴之に見せる。
「お、おまえ、まさか本気で言ってないよな? なんだよ、和樹のスマホってどういうことだよ? なんでおまえがそんなものを持ってるんだ?」
刺すような貴之の視線に脅える。
『…お金を貸してって言われて、お袋を殺したのはおまえだろうって言われて』
「清美! ……ふざけるなよ、じゃあ、姉貴も事故じゃなくて、おまえが殺したって言うのか?」
わなわなと震える声で怒鳴る貴之の顔を、正視できなかった。
なぜ、なぜ、あの事故で死ねなかったのだろう。
翌朝、テレビで、和樹が殺されたニュースが流れていた。
犯人は札幌市内の14歳の中学生。
動機の解明を急いでいるとのこと。
半年前の事件と言うせいもあって幾分、緊迫感には欠けていたものの、犯人が14歳の少年というだけに、地方都市ではセンセーショナルな事件だ。
パトカーが今朝から何台も家の前に停まり、段ボールに詰めた荷物が、健太の部屋からいくつも運び出された。
もうご近所にも知れ渡ってしまったことだろう。
東京に住んでいる日菜もひどくショックを受けていた。
「私もう、実家には絶対に帰らないからね」
そう言って泣いていた。
日菜にメールで私が交通事故にあった日、コートのポケットに入れていたスマホをしらないかと聞いてみた。
『あ、看護師さんから渡されたお母さんの持ち物に、お母さんの携帯と誰かの壊れたスマホがあったけど、アレって誰の?』
誰のと聞かれて躊躇する。
いずれバレるとしても、ひどくショックを受けている日菜に、母親まで殺人犯とは言えなかった。
『リサイクルショップで中古を買ったの。お母さんもスマホにしたくて』
『そうだったんだ。メチャクチャに壊れてたよ。でも、健太が欲しいっていうからあげたけど。修理なんてできるような壊れ方じゃないのに』
健太が?
和樹のスマホだということを知っていたのだろうか?
そのスマホをどこへやってしまったのだろう。
まだ捨てずに持っていたのだとしたら、健太の部屋の荷物を押収していった、警察の手に渡ったかもしれない。
早く健太の面会に行きたい。
そして、あやまりたい。出来ることなら一日も早く代わってあげたい。
だって、健太はやってないのだから。
いてもたってもいられずに、手近にあったA5のコピー用紙に、左手で健太に手紙を書く。
健太へ
健太、何故、こんなことになってしまったのでしょう。
事故に遭ってこんな身体になってしまった以上につらく、やりきれない思いでいます。
どうして自白などしたのですか?
あなたは和樹を殺してなどいません。
それは私がやったのです。
こんな母で本当にごめんなさい。
いくら謝ったところで許されることではありませんし、許してもらおうなどとも思ってません。だけど、自分が罰を受けるよりもつらい毎日です。あなたが無実であることをなんとしても証明し、一日も早くそこから出られるようにしたいと思います。
母より
左手で書いた手紙はどんなに頑張っても美しくは見えないが仕方がない。
夫の貴之も今は会社に行けず、有給をとって家にいる。
この先、行けるようになるのだろうか。
誰も知らない土地に引っ越すしかないかも知れない。
暗く悲痛な表情からして、健太の釈放は難しいのだろうと予測した。
ずっと車椅子のまま待っていたので、私もかなり疲れた。
「ダメだ。健太は自白した。もう無実には出来ない」
そう言って、貴之はガックリと肩を落とした。
自白!!
そんな、どうして、自白なんか、やってもいないことを!
取り調べがきついかったのではないのか?
脅されて、してもいないことを無理やり言わされたのではないのか?
『健太はどんな理由で和樹を殺したと言ったの?』
メモを貴之に見せた。
「くだらない理由だよ。働いた分のバイト代を払ってくれなかったんだとさ。そんなはした金で」
………。
「まったく、あんな流行らないラーメン屋なんか手伝ってバカじゃないのか。初めからタダで使うつもりだったんだよ、和樹は」
『ごめんなさい。和樹を殺したの実は私なの。私を警察へ連れて行って!』
そう書いたメモを貴之に渡した。
「馬鹿か? そんな阿呆らしい証言を警察が信じるわけがないだろう」
『和樹のスマホを持ってるの。コートのポケットに入れておいたはずなの』
そう書きなぐって貴之に見せる。
「お、おまえ、まさか本気で言ってないよな? なんだよ、和樹のスマホってどういうことだよ? なんでおまえがそんなものを持ってるんだ?」
刺すような貴之の視線に脅える。
『…お金を貸してって言われて、お袋を殺したのはおまえだろうって言われて』
「清美! ……ふざけるなよ、じゃあ、姉貴も事故じゃなくて、おまえが殺したって言うのか?」
わなわなと震える声で怒鳴る貴之の顔を、正視できなかった。
なぜ、なぜ、あの事故で死ねなかったのだろう。
翌朝、テレビで、和樹が殺されたニュースが流れていた。
犯人は札幌市内の14歳の中学生。
動機の解明を急いでいるとのこと。
半年前の事件と言うせいもあって幾分、緊迫感には欠けていたものの、犯人が14歳の少年というだけに、地方都市ではセンセーショナルな事件だ。
パトカーが今朝から何台も家の前に停まり、段ボールに詰めた荷物が、健太の部屋からいくつも運び出された。
もうご近所にも知れ渡ってしまったことだろう。
東京に住んでいる日菜もひどくショックを受けていた。
「私もう、実家には絶対に帰らないからね」
そう言って泣いていた。
日菜にメールで私が交通事故にあった日、コートのポケットに入れていたスマホをしらないかと聞いてみた。
『あ、看護師さんから渡されたお母さんの持ち物に、お母さんの携帯と誰かの壊れたスマホがあったけど、アレって誰の?』
誰のと聞かれて躊躇する。
いずれバレるとしても、ひどくショックを受けている日菜に、母親まで殺人犯とは言えなかった。
『リサイクルショップで中古を買ったの。お母さんもスマホにしたくて』
『そうだったんだ。メチャクチャに壊れてたよ。でも、健太が欲しいっていうからあげたけど。修理なんてできるような壊れ方じゃないのに』
健太が?
和樹のスマホだということを知っていたのだろうか?
そのスマホをどこへやってしまったのだろう。
まだ捨てずに持っていたのだとしたら、健太の部屋の荷物を押収していった、警察の手に渡ったかもしれない。
早く健太の面会に行きたい。
そして、あやまりたい。出来ることなら一日も早く代わってあげたい。
だって、健太はやってないのだから。
いてもたってもいられずに、手近にあったA5のコピー用紙に、左手で健太に手紙を書く。
健太へ
健太、何故、こんなことになってしまったのでしょう。
事故に遭ってこんな身体になってしまった以上につらく、やりきれない思いでいます。
どうして自白などしたのですか?
あなたは和樹を殺してなどいません。
それは私がやったのです。
こんな母で本当にごめんなさい。
いくら謝ったところで許されることではありませんし、許してもらおうなどとも思ってません。だけど、自分が罰を受けるよりもつらい毎日です。あなたが無実であることをなんとしても証明し、一日も早くそこから出られるようにしたいと思います。
母より
左手で書いた手紙はどんなに頑張っても美しくは見えないが仕方がない。
夫の貴之も今は会社に行けず、有給をとって家にいる。
この先、行けるようになるのだろうか。
誰も知らない土地に引っ越すしかないかも知れない。
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