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お寿司屋さんで
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翌朝、頭痛と肩こりに悩まされながらも、夫と子供たちの弁当を作り、学校へ送り出した。
洗い物と洗濯、掃除をすませると、午前10時をすぎていた。
午前中に買い物もすませて、午後は少し横になろうと出かける身支度をしていると、玄関のブザーが鳴った。
インターホンのモニターを見ると、義姉の和歌子だった。
居留守を使いたかったが、ただの押し売りや勧誘とは違う。
問題を先送りしたところで解決にはならない。
仕方なく玄関のドアを開ける。
「おはよう! いいお天気ね。あら、これからお出かけ?」
和歌子は素敵なキャメルのガウンコートを着ていた。
「スーパーへ行こうと思っていたところです。なにか?」
「ううん、特に用事はないの。そういえば清美さんに何もお礼をしてなかったなって思ってね。ねえ、ランチにでも行かない? 紅葉は終わっちゃったけど、ドライブでもどうかなって思ったものだから」
お礼などする余裕があるなら、一万円でもいいから返してもらいたい。
何か別の魂胆があるに違いない。
義姉とランチなど憂鬱以外のなにものでもないが、言われるままにベンツに乗り込んだ。
「清美さん、何が食べたい? あなたに合わせるわよ、洋食? 中華? やっぱり和食がいいかしらね?」
「なにか大事なお話があるんじゃないんですか?」
自分に贅沢をさせることは大好きでも、他人のためには一円だって使いたくない人なのだ。お礼がしたくてランチを奢るなどありえない。
母の葬儀の時だって花も香典さえもなかった。
“ 突然だったから、持ち合わせがないのよ。お給料が出たら必ずあげるわね ”
などと調子のいいことを言って、何もくれないどころか搾り取ろうとするばかりだ。
「あら、せっかちね。 食べながらゆっくり話しましょうよ。どうせ暇でしょ」
あなたとランチしているほど暇ではないと言ってやりたかった。
家でお茶漬けでも食べていた方がどれだけ幸せかしれない。
「じゃあ、小樽でお寿司でも食べない? なんかくどいものは食べたくない気分なのよね。お寿司にしましょう」
ここは小樽に近い札幌の外れだから、車だと20分ほどで小樽市街には着けるだろう。
道路は空いているのに高速道路に入った。
高速料金など義姉にとっては、節約するような対象にならないのだろう。
ベンツが静かに加速していく。
素敵なコートを着て、ベンツを運転している義姉が誰よりも幸せに見えた。
そして、ユニクロのダウンコートを着た自分が、どうしょうもなく間抜けに思えた。
「ここのお寿司がやっぱり一番美味しいわよ。先月家族で本店のある積丹まで行ってね、そこで食べたウニがもう最高だったの」
奥の座敷に案内される。
大きな窓から小さな池が見えた。
人工の池のようだが水車に水が流れ、趣きのある風情に仕上げられている。
最後に家族でお寿司を食べに行ったのはいつだっただろう?
お寿司と言っても我が家の場合は、一皿120円の回転寿司だ。
それでも食べ盛りの健太がすごい勢いで食べまくっていたから、かなりの出費になった。
新鮮とは言えないマグロやサーモンが握られもせず、型で作られたシャリの上にポンと乗っけられただけのお寿司。
そんなお寿司でも我が家ではご馳走なのだった……。
目の前に置かれた特選の極上寿司を見る。
豪華なすし桶の中に、芸術的とも言えるほど光り輝いた新鮮なお寿司が並べられていた。
「わ~、美味しそう! どれから食べようかいつも迷っちゃうのよね。ホッキ貝から食べようっと」
この高価なお寿司を奢られて、義姉に一体いくら請求されるのかと思うと食欲も失せてくる。
一番大好きなアワビを口に入れた。
ほどよい歯ごたえがあり、新鮮な磯の香りが口の中で広がった。
最後にいくらの軍艦巻きを口に入れようとしたところで、今まで楽しそうにおしゃべりをしていた義姉の口調が変わった。
「息子の和樹がねぇ、ほら、ラーメン屋を始めたって前に言ったでしょ。それがねぇ、この間、不渡りを出しちゃったらしくて」
「…………だから、だからなんだって言うんです? まさか息子の不始末まで私に面倒を見ろってことですか?」
想像していた以上の衝撃を受けた。
「あら、いやねぇ、まだ潰れたわけでもないのに。だけど今度またそんなことになったら本当にアウトだわ。だから今回だけ助けてくれないかしら? 商売はうまくいってるのよ。ちょっと高額の機材を買っちゃったらしくてね、そのせいなのよ。だから、すぐに返せるんですって」
そんな話は全く信用できない。
和樹はこれまでにも色々なことを始めていたが、全て失敗をしている。
リサイクルショップや、ハウスクリーニングなどのなんでも屋、クレープのお店まで出したことがある。
義姉だけでもお手上げだと思っていたのに、その息子の面倒までなんて。
無理だ。こんな人に脅され続けていたら、どんなに頑張って働いて節約したところでどうにもならない。
殺すか、私が死ぬかどっちかだ。
いや、私が死んだ後に母を殺したことなどを誰かに話さないとも限らない。
秘密というのは人に話したくなるものなのだ。
やっぱり、やっぱり殺すしかない。
洗い物と洗濯、掃除をすませると、午前10時をすぎていた。
午前中に買い物もすませて、午後は少し横になろうと出かける身支度をしていると、玄関のブザーが鳴った。
インターホンのモニターを見ると、義姉の和歌子だった。
居留守を使いたかったが、ただの押し売りや勧誘とは違う。
問題を先送りしたところで解決にはならない。
仕方なく玄関のドアを開ける。
「おはよう! いいお天気ね。あら、これからお出かけ?」
和歌子は素敵なキャメルのガウンコートを着ていた。
「スーパーへ行こうと思っていたところです。なにか?」
「ううん、特に用事はないの。そういえば清美さんに何もお礼をしてなかったなって思ってね。ねえ、ランチにでも行かない? 紅葉は終わっちゃったけど、ドライブでもどうかなって思ったものだから」
お礼などする余裕があるなら、一万円でもいいから返してもらいたい。
何か別の魂胆があるに違いない。
義姉とランチなど憂鬱以外のなにものでもないが、言われるままにベンツに乗り込んだ。
「清美さん、何が食べたい? あなたに合わせるわよ、洋食? 中華? やっぱり和食がいいかしらね?」
「なにか大事なお話があるんじゃないんですか?」
自分に贅沢をさせることは大好きでも、他人のためには一円だって使いたくない人なのだ。お礼がしたくてランチを奢るなどありえない。
母の葬儀の時だって花も香典さえもなかった。
“ 突然だったから、持ち合わせがないのよ。お給料が出たら必ずあげるわね ”
などと調子のいいことを言って、何もくれないどころか搾り取ろうとするばかりだ。
「あら、せっかちね。 食べながらゆっくり話しましょうよ。どうせ暇でしょ」
あなたとランチしているほど暇ではないと言ってやりたかった。
家でお茶漬けでも食べていた方がどれだけ幸せかしれない。
「じゃあ、小樽でお寿司でも食べない? なんかくどいものは食べたくない気分なのよね。お寿司にしましょう」
ここは小樽に近い札幌の外れだから、車だと20分ほどで小樽市街には着けるだろう。
道路は空いているのに高速道路に入った。
高速料金など義姉にとっては、節約するような対象にならないのだろう。
ベンツが静かに加速していく。
素敵なコートを着て、ベンツを運転している義姉が誰よりも幸せに見えた。
そして、ユニクロのダウンコートを着た自分が、どうしょうもなく間抜けに思えた。
「ここのお寿司がやっぱり一番美味しいわよ。先月家族で本店のある積丹まで行ってね、そこで食べたウニがもう最高だったの」
奥の座敷に案内される。
大きな窓から小さな池が見えた。
人工の池のようだが水車に水が流れ、趣きのある風情に仕上げられている。
最後に家族でお寿司を食べに行ったのはいつだっただろう?
お寿司と言っても我が家の場合は、一皿120円の回転寿司だ。
それでも食べ盛りの健太がすごい勢いで食べまくっていたから、かなりの出費になった。
新鮮とは言えないマグロやサーモンが握られもせず、型で作られたシャリの上にポンと乗っけられただけのお寿司。
そんなお寿司でも我が家ではご馳走なのだった……。
目の前に置かれた特選の極上寿司を見る。
豪華なすし桶の中に、芸術的とも言えるほど光り輝いた新鮮なお寿司が並べられていた。
「わ~、美味しそう! どれから食べようかいつも迷っちゃうのよね。ホッキ貝から食べようっと」
この高価なお寿司を奢られて、義姉に一体いくら請求されるのかと思うと食欲も失せてくる。
一番大好きなアワビを口に入れた。
ほどよい歯ごたえがあり、新鮮な磯の香りが口の中で広がった。
最後にいくらの軍艦巻きを口に入れようとしたところで、今まで楽しそうにおしゃべりをしていた義姉の口調が変わった。
「息子の和樹がねぇ、ほら、ラーメン屋を始めたって前に言ったでしょ。それがねぇ、この間、不渡りを出しちゃったらしくて」
「…………だから、だからなんだって言うんです? まさか息子の不始末まで私に面倒を見ろってことですか?」
想像していた以上の衝撃を受けた。
「あら、いやねぇ、まだ潰れたわけでもないのに。だけど今度またそんなことになったら本当にアウトだわ。だから今回だけ助けてくれないかしら? 商売はうまくいってるのよ。ちょっと高額の機材を買っちゃったらしくてね、そのせいなのよ。だから、すぐに返せるんですって」
そんな話は全く信用できない。
和樹はこれまでにも色々なことを始めていたが、全て失敗をしている。
リサイクルショップや、ハウスクリーニングなどのなんでも屋、クレープのお店まで出したことがある。
義姉だけでもお手上げだと思っていたのに、その息子の面倒までなんて。
無理だ。こんな人に脅され続けていたら、どんなに頑張って働いて節約したところでどうにもならない。
殺すか、私が死ぬかどっちかだ。
いや、私が死んだ後に母を殺したことなどを誰かに話さないとも限らない。
秘密というのは人に話したくなるものなのだ。
やっぱり、やっぱり殺すしかない。
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